2026年、労働基準法が40年ぶりに大改正へ!重要ポイントと企業が備えるべき対応
更新日: 2025.12.15 公開日: 2025.12.15 jinjer Blog 編集部
労働基準法の大規模な見直しが、1987年の大改正以来となる40年ぶりに進んでいます。労働時間の管理など、企業の実務に直結する多数の事項が審議されています。
政府からは労働時間規制の緩和の提案も出ており、最終的な法案は今後の審議で最終決定となります。しかし、2027年前後の施行となる見込みのため、実務上どのような影響があるか早めに確認が必要です。
本記事は、労働基準法の「何が変わるのか」「いつから変わるのか」「自社は何をおこなうべきか」を短時間で理解できるように、スケジュール、主要論点、対応策までを整理します。
人事担当者であれば、労働基準法の知識は必須です。しかし、その内容は多岐にわたり、複雑なため、全てを正確に把握するのは簡単ではありません。
◆労働基準法のポイント
- 労働時間:36協定で定める残業の上限時間は?
- 年次有給休暇:年5日の取得義務の対象者は?
- 賃金:守るべき「賃金支払いの5原則」とは?
- 就業規則:作成・変更時に必要な手続きは?
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1. 改正の背景と目的


労働基準法の大幅な見直しは1987年の改正以来約40年ぶりです。
元々、2018年に成立し、2019年から順次施行された働き方改革関連法(正式名称:「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」)において、労働基準法などの改正内容について施行後「概ね5年を目途」に検討・見直しをおこなう旨が附則に明記されていました。
昨今、産業構造の変化や働き方の多様化、デジタル技術の急速な発展があり、現行法では想定しない働き方も増えています。特に近年はコロナ禍を契機にテレワークが普及し、副業・兼業も解禁の流れで増加するなど、企業環境や働き方が大きく変化しました。
これらの背景から、解釈の変更では追いつかない法律に対して、抜本的な改正が必要と判断され、2024年に有識者による「労働基準関係法制研究会」が設置されました。同研究会は働き方改革関連法の施行状況や、将来を見据えた論点整理をおこなっています。
2025年1月には、労働時間や休日制度だけでなく、労働者の範囲や労使コミュニケーションの在り方まで含む包括的な改正案が報告書としてまとめられました。企業が対応すべき範囲が多岐に渡ることから、「40年に1度の大改正」と注目されています。
40年前と比べた現代の大きな相違点として、デジタル化による勤怠管理システム・給与計算システムの高度化が挙げられます。さらに近年は、タレントマネジメントシステムの普及やAI技術の進展によって、人事・労務領域で扱える情報の質と量が飛躍的に向上しています。
これらの技術は、従来は不可能だった複雑な処理の自動化を実現し、従業員一人ひとりに紐づいたパーソナルでリッチなデータの蓄積・活用を可能にしました。
日本が深刻な労働人口減少に直面するなか、政府にとっては、多様な事情を抱える人々が能力を発揮できる社会システムの構築や、人材の流動化・交流を促進し、結果としてイノベーションを生み出す環境づくりが急務です。一方、企業には従業員の働き方やコンディションをきめ細かく把握し、適切に運用する体制が強く求められています。
こうした背景のもとで進む労働基準法改正や制度変更は負荷が高い側面を持ちながらも、裏を返せばデジタル技術の活用を前提とした人事制度改革とも捉えられます。勤怠・給与・人材データを統合し、AIも含めたテクノロジーを戦略的に取り入れることが、これからの労務管理と人材活用の鍵になるでしょう。
2. 改正法案の施行時期とスケジュール


現在(2025年11月時点)では、労働基準法改正の法案は、まだ国会に提出・成立していません。2025年内に労働政策審議会での議論を経て、早ければ2026年の通常国会で法案提出、2027年前後の施行が見込まれています。
一方で、政界の動きとして2025年10月には新政権の高市早苗氏が「心身の健康維持と従業員の選択を前提にした労働時間規制の緩和」を厚労大臣に指示したことが報じられました。
労働時間上限規制の在り方について、政府内でも労働時間の上限緩和と健康確保のバランスを探る議論が進む可能性があります。法案審議では、こうした政治的スタンスも踏まえつつ、研究会報告書の提言をどこまで取り入れるか、スケジュールを遅延させるのかどうかが焦点となるでしょう。
3. 改正が実現するとどうなる?企業が影響を受ける重要改正ポイント


労働基準法の改正議論では、規制強化や多様な働き方への対応など、これまでの実務を大きく変える論点が数多く挙げられています。
ここでは、数多くの検討項目の中から企業の労務管理や制度設計に直接的な影響を与える特に重要な改正ポイントに絞って解説します。
3-1. 労働時間の情報開示義務
企業が自社の時間外労働や有給取得状況など労働時間の実態を、正確に把握・公表することを義務化する方向です。従業員・求職者が各企業の労働時間や休暇取得状況を容易に比較できるようにし、長時間労働の是正を促す狙いがあります。
現状でも女性活躍推進法などに基づく情報開示制度はありますが、社内での開示形式が項目ごとにばらつき、わかりにくくなる可能性もあります。そのため、今から形式をそろえるなど準備を進めて、法改正後にスムーズな開示ができることが望まれています。
3-2. 副業・兼業時の労働時間通算ルール見直し
一人の従業員が複数の企業で働く場合の労働時間管理と割増賃金算定ルールが見直される予定です。現行では、複数雇用先の労働時間を通算して、時間外労働の割増賃金を計算する方法が示されていますが、計算が非常に複雑でした。
報告書では健康確保のための労働時間通算は維持しつつも、割増賃金の支払いについては通算不要とする制度改正を提言しています。これにより企業間での割増賃金精算の煩雑さが解消され、副業を許容する企業側の負担も軽減される見込みです。
関連記事:副業の労働時間通算ルールはいつから見直される?改正の最新動向
3-3. 13日超の連続勤務禁止
現行の制度では変形休日制(4週4日以上の休日)により理論上最大48日連続勤務が可能です。しかし、長期間の連続勤務は健康リスクが高いことが問題視されてきました。
提案では「13日を超える連続勤務をさせてはならない」旨を規定し、変形休日制の特例を2週2日に見直すことが検討されています。これにより13日を超える連続勤務が法律で禁止され、定期的な休日確保が強化されます。
関連記事:連勤は何日まで可能?上限の12日や法律上違反になる場合も解説
3-4. 部分的なフレックスタイム制の導入
現行のフレックスタイム制は、一部の日だけ適用するといった部分的運用が認められておらず、テレワーク日と通常の出社日が混在する場合に活用しづらいことが課題でした。
そこで、特定の日(コアデイ)は通常の始業・就業時刻で勤務しつつ、ほかの日はフレックスを使える「部分フレックス制度」を導入できるような法整備が提言されています。
3-5. 勤務間インターバル制度の義務化
終業から次の始業まで一定時間の休息を確保する勤務間インターバル制度について、導入の努力義務から義務化へ法規制強化を検討しています。欧州では11時間以上のインターバルが義務付けられており、日本でも原則11時間程度の休息確保を求める方向で議論が進んでいます。
業種や勤務形態による例外や段階的実施も議論されており、中長期的に義務化へ移行する見通しです。
関連記事:勤務間インターバル制度の義務化はいつから?労働基準法改正の最新動向と企業への影響
3-6. 過半数代表の選出方法見直し
36協定などを締結する労働者代表(過半数代表)の選出プロセスを厳格化する改正です。現在、法律上明確な選出方法は定められておらず、現場では企業の指名に近い形で選ばれるケースもあります。
今後は「企業の意向による選出は禁止」といった通達を施行規則に格上げし、投票や挙手など、民主的手続きを経て選出することを義務付ける方向です。
また代表者の複数選出や任期制、代表者への情報提供義務、不利益取扱いの禁止といった支援策も検討されています。これにより労使協定締結の透明性・適正性を高め、労使コミュニケーションの強化につなげる狙いです。
これまでの労働者代表の選出は、形式上は違法でなくとも、企業側の意向によって恣意的に決められやすいという課題がありました。
しかし40年前とは労働環境が大きく異なります。当時は、フルタイム勤務・出社・残業を前提に働ける男性を中心とした人員構成が一般的でした。一方、現代の企業にとって重要なのは、性別や年齢、働き方、家庭事情など多様な背景を持つ人材が活躍し、定着できる仕組みづくりです。
労働者代表制度を単なる手続きとして扱うのではなく、従業員の“生の声”を継続的に吸い上げ、制度や職場運営に反映するための土台と捉え、仕組みを整えることが、これからの人材戦略と組織づくりの基礎となるでしょう。
3-7. テレワーク時の新たな「みなし労働時間制」
在宅テレワークについて、実労働時間にとらわれず業務遂行できる、新たなみなし労働時間制度の導入可否が議論されています。現行の事業場外みなし労働制や裁量労働制は要件が厳しく、テレワークでは労働時間の把握とプライバシー保護の両立が課題です。
現在、従業員の健康確保措置や本人同意を条件に在宅勤務に限定した選択制のみなし労働時間制度を設けることが提起されています。長時間労働の温床になりかねないとの懸念も強く、慎重な継続検討課題とされています。
3-8. 法定労働時間週44時間の特例廃止
小規模事業場(常時従業員10人未満)かつ特定業種では、法定労働時間を週44時間まで緩和できる現行特例があります。この制度の対象となる事業所の約87%が特例を利用していない実態から「制度の役割を終えた」と指摘されています。
このため週44時間特例措置を撤廃し、一律週40時間制に統一する改正が提案されています。
3-9. 法定休日の特定義務
現行法では「毎週少なくとも1日」の休日付与義務はありますが、どの曜日を法定休日とするかの指定義務はありません。週休2日制が普及した今、法定休日と所定休日が混在して従業員にわかりにくい状況を問題視し、法定休日をあらかじめ就業規則などで特定することを法律上義務付けるべきと提言されています。
法定休日が特定されることで、労働時間管理の正確性が増し法令遵守に寄与するほか、割増賃金や振替休日の運用も明確になります。法改正が実現すれば、未払い賃金リスクを逓減しやすくなるでしょう。
3-10. 年次有給休暇取得時の賃金算定方法の変更
有給休暇取得時の賃金について、「通常働いた場合の賃金」で支払う方式を原則にする方向で検討が進んでいます。現行法では①平均賃金、②通常の賃金、③標準報酬日額の3方式のいずれかで計算しますが、平均賃金や標準報酬日額方式では日給制・時給制従業員に不利となる場合があることが論点です。
改正により通常の賃金方式が原則化されれば、有給休暇中も働いたときと同じ賃金を受け取れることとなり、従業員は安心して有給休暇を取得できるでしょう。
関連記事:年次有給休暇の基本をわかりやすく解説!付与日数や取得時期も紹介
3-11. 「つながらない権利」の明確化
勤務時間外や休日に仕事の連絡への対応を拒否できる「つながらない権利」についても議論されています。欧州では勤務時間外の連絡禁止や権利行使による不利益禁止などの制度例があり、日本で導入するなら労使で社内ルールを検討すべき、という議論がされています。
現時点では、当面は法律による義務化ではなくガイドライン策定などで労使の話合いを促す方向性が提言されています。
従業員のプライベートな時間を尊重し、緊急連絡の範囲や対応可否を明文化する取り組みが求められるでしょう。
4. 改正の確度が高いポイント


現時点(2025年11月)において法改正で実現する可能性が高い重要な項目は次のとおりです。
- 副業・兼業時の労働時間通算ルール見直し
- テレワーク時の新たな「みなし労働時間制」
- 13日超の連続勤務禁止
- 法定労働時間週44時間の特例廃止
- 法定休日の特定義務
その他の項目は、改正内容が小規模であったり、段階的な措置にとどまったりすることから、ガイドライン策定で対応する見込みです。また、引き続き検討が必要なものは、今回の改正法案には盛り込まれない見通しとなっています。
5. 法改正前に企業が準備しておくべき実務対応ポイント


大改正に備えて、早めに社内規程や人事制度の見直しの準備を進めるとよいでしょう。主な実務対応の観点を整理し、解説します。
5-1. 就業規則や36協定などの見直し
法改正後は就業規則が法律に反する内容を含めないよう迅速に修正する必要があります。例えば、「連続勤務の上限」「法定休日の指定方法」「勤務間インターバル条項」「年休中の賃金計算方法」「副業時の労働時間管理」「週44時間特例の扱い」などは、該当条項の改定が必要となる可能性が高いです。
36協定(時間外・休日労働に関する労使協定)は、時間外労働や休日労働の上限を定める重要書類であり、今回の改正に伴い内容の再点検が必要です。とくに変形休日制を導入している企業では、36協定の見直しも必須となるでしょう。
改正内容に応じて労働条件通知書(もしくは雇用契約書)の記載変更も検討しましょう。
5-2. 従業員への周知
改正内容に基づく労働時間管理ルールの変更点を従業員に周知し、新ルール遵守の協力を得ることが重要です。例えば「〇連勤は禁止」など、新たなルールや権利義務をわかりやすく伝える説明会や研修を実施するとよいでしょう。既存の社内周知文書も改定漏れがないか、細かく確認しましょう。
とくに現場のライン管理職に対しては、部下の有休取得促進策や勤務間インターバル確保の指導など、労務マネジメント面の教育も必要です。
5-3. 勤怠・給与計算システムの改修
勤務間インターバルの管理や法定休日の設定、有給取得時の賃金計算方法変更など、システム面のアップデートも必要です。自社で導入しているシステムが法改正に対応されるか、どのようなタイミングでどんな設定が必要かの検討や確認をおこないます。システム改修は別途予算や改修期間が必要な場合もありますので、早めの確認がおすすめです。
もし勤怠・給与計算システムを導入しておらず、法改正で手作業での計算が複雑になるようであればこれを機に導入を検討するとよいでしょう。
関連記事:法改正による勤怠管理システムへの影響は?労働基準法に対応するポイント
5-4. 社会保険労務士など専門家への相談
法改正にあわせて就業規則や運用ルールなどを変更したものの、その内容が基準を満たしているか不安な場合や、具体的な条文の書き方に迷う場合は、社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。
専門家のアドバイスを受けることで、法的なリスクを回避し、自社の実情に合った適切な制度設計が可能になります。
5-5. 自社の人事ポリシーの策定
これは必須ではありませんが、個別の法改正に場当たり的に対応する前に、まずは「自社ではどのような人材を採用し、定着させ、育成し、処遇し、活躍してもらいたいのか」という人事ポリシーを明確にしておくことが望ましいでしょう。
このポリシーを経営層と人事部門の間で合意し、言語化しておけば、法改正への対応方針を決める際や、人事制度を見直す際の重要な判断軸になります。ポイントは、現在の人員構成だけを前提にするのではなく、将来の「あるべき姿」から逆算して設計することです。
そのためには、経営戦略を描く経営層や経営企画部門とも密に連携し、今後の事業成長に必要なケイパビリティ(能力・専門性・行動特性)を明確にする必要があります。そして、自社が求める人材にとって、どのような人事制度であれば魅力的に映り、採用や定着につながるのかを具体的にイメージすることが大切です。
場合によっては、法改正で求められる最低基準を満たすだけでなく、法律を上回る水準で制度を整備する、あるいは法改正とは直接関係なく人事制度を改定する、といった判断も起こり得ます。
早い段階から労働基準法の大改正に向けた検討に着手すれば、時間をかけて丁寧に議論し、ポリシーを練り上げられる点も大きなメリットです。
6. 労働基準法の大改正に備えよう


労働基準法の大改正は、企業にとって対応すべき論点や実務負荷が大きい一方で、従業員が安心して力を発揮できる環境を整え、組織の競争力を高めるための戦略的な転機でもあります。法改正の議論はなお継続していますが、最新動向を注視しつつ、早期から計画的に備えることが重要です。
今回の見直しは単なるルール変更にとどまらず、「働き方改革第2章」ともいえる制度転換と言えるでしょう。連続勤務の上限、法定休日の指定義務、副業の時間通算見直し、勤務間インターバル義務化、週44時間特例の廃止、年休賃金の変更、「つながらない権利」の明確化など、人事・労務の根幹に関わる改正が広範に含まれているためです。
だからこそ、目の前の改正項目に受け身で対応するのではなく、「自社はどんな人材に選ばれ、どう活躍・定着してもらいたいか」という人事ポリシーや経営戦略と結びつけて制度を再設計する視点が欠かせません。また、法改正は働き方を柔軟にする一方で、「働きがい」そのものを作り上げる機能はなく、これは企業の経営者・人事部門・部門のキーマン達が考えデザインするものですので、人事ポリシーの策定はその点でも有効です。
勤怠・給与・人材データの整備やシステム改修、就業規則の見直し、従業員への教育など多くのタスクが発生しますが、これを“コスト”ではなく、働き方の質を高め、採用力・定着率・生産性を底上げする投資として捉えることが、改正をチャンスに変える鍵になります。
本記事で整理した「改正される確度の高いポイント」などを踏まえながら、制度対応と組織づくりを一体で進め、将来のあるべき姿から逆算した準備を着実に進めていきましょう。



人事担当者であれば、労働基準法の知識は必須です。しかし、その内容は多岐にわたり、複雑なため、全てを正確に把握するのは簡単ではありません。
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