育児休業等終了時報酬月額変更届とは?提出方法やデメリットをわかりやすく紹介
更新日: 2025.10.9 公開日: 2022.9.12 jinjer Blog 編集部

育児休業後、時短勤務に切り替えることで、一般的に給与は減ってしまうことが多いでしょう。減額された給与に応じて社会保険料も下がれば良いのですが、そのためには月額変更届を提出しなければなりません。
この記事では、育休明けの従業員が活用できる「育児休業等終了時報酬月額変更届」についてわかりやすく詳しく解説しています。通常の月額変更届とどう違うのか、いつ出すのか、デメリットや手続き方法も紹介しているので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
育児・介護休業に関する法改正が2025年4月と10月の2段階で施行されました。特に、育休取得率の公表義務拡大など、担当者が押さえておくべきポイントは多岐にわたります。
本資料では、最新の法改正にスムーズに対応するための実務ポイントを網羅的に解説します。
◆この資料でわかること
- 育児・介護休業法の基本と最新の法改正について
- 給付金・社会保険料の申請手続きと注意点
- 法律で義務付けられた従業員への個別周知・意向確認の進め方
- 子の看護休暇や時短勤務など、各種両立支援制度の概要
2025年10月施行の改正内容も詳しく解説しています。「このケース、どう対応すれば?」といった実務のお悩みをお持ちの方は、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. 育児休業等終了時報酬月額変更届とは?


育児休業から復職した後に、短時間勤務へと切り替える人は少なくないでしょう。この際、勤務時間の短縮に伴って給与も減少することが多いため、以前と同じ社会保険料を支払い続けると、手取り額が大きく減ってしまう可能性があります。
一般的には、給与が下がると社会保険料も見直されるので、「月額変更届」を提出し、随時改定をおこなうのが一般的です。ただし、この届出には一定の条件があるため、時短勤務に切り替えた場合でも要件を満たさず、変更が認められないケースもあります。
そのような場合に活用できるのが、「育児休業等終了時報酬月額変更届」という制度です。この届出をすることで、育休復帰後の時短勤務により減少した3ヵ月間の給与の平均額に基づき、標準報酬月額を改定することが可能です。
なお、標準報酬月額は実際の給与額に応じて等級で区分されており、健康保険では1~50等級、厚生年金では1~32等級に分けられています。手続きの漏れがないよう、復職時には早めの確認と対応を心がけましょう。
1-1. 月額変更届(随時改定)との違い
通常、社会保険料のもとになる「標準報酬月額」は、定時決定(算定基礎届)により、毎年7月にその年の4月~6月の給与平均額から決定され、その年の9月から翌年8月までの各月に適用されます。しかし、昇給や降給などで給与に変動があった場合は、「月額変更届」を提出して随時改定をおこない、実際の報酬に見合った保険料を支払う必要があります。この随時改定が適用されるのは、以下のすべての条件を満たす場合です。
- 昇給・降給などにより固定的賃金の変動があったこと
- 変動した月から3ヵ月間の平均報酬額(残業代などの非固定的賃金も含める)が、現在の標準報酬月額と比べて2等級以上の差があったこと
- 上記3ヵ月それぞれの基礎日数が17日(特定適用事業所で働く短時間労働者は11日)以上あること
随時改定が適用される場合、変更後の報酬を初めて受け取った月から数えて4ヵ月目の標準報酬月額から改定されます。例えば、2月に給与が変動した場合は、2月~4月の報酬をもとに算定し、5月から標準報酬月額が変更されます。このように、要件に該当すれば従業員の希望や時期に関係なく、事業主は随時改定の手続きをおこなわなければなりません。
一方、「育児休業等終了時報酬月額変更届」を提出するための条件の一つは「復帰後の報酬と従前の標準報酬月額に1等級以上の差がある」ことです。そのため、育休明けに短時間勤務に切り替えた結果、随時改定の条件を満たさない場合でも、育児休業等終了時報酬月額変更届によって保険料の見直しができる可能性があります。
関連記事:社会保険の随時改定とは?標準報酬月額を改定する条件や月額変更届の手続きを解説
2. 育児休業等終了時報酬月額変更届が提出できる条件


育児休業から復職し、時短勤務へと切り替える場合、給与が下がっても「随時改定」の条件を満たさないケースがあります。そのような場合でも、「育児休業等終了時報酬月額変更届」を提出することで、実際の給与に応じて標準報酬月額を見直せる可能性があります。
ここでは、「育児休業等終了時報酬月額変更届」を提出できる要件や注意点について詳しくご紹介します。
2-1. 対象者に該当する
育児休業等終了時報酬月額変更届を提出するためには、以下のすべての要件を満たす必要があります。
- 育児・介護休業法に基づく育児休業等終了日に3歳未満の子を養育していること
- 従前の標準報酬月額と、変更後の標準報酬月額の間に1等級以上の差が生じること
- 育児休業終了日の翌日が属する月以後3ヵ月のうち、少なくとも1ヵ月で支払基礎日数が17日以上(短時間労働者は11日以上)あること
この要件をすべて満たす場合は、随時改定の条件に該当しなくても、3ヵ月間の報酬平均額に基づいて、4ヵ月目の標準報酬月額から改定されます。
2-2. 本人からの申し出が必要
随時改定の場合、要件を満たしていれば従業員の意思にかかわらず、事業主に届出義務が生じます。一方、育児休業等終了時報酬月額変更届は、本人の希望があってはじめて提出できる任意の制度です。
そのため、従業員が制度を知らないままに手続きされず、結果として不利益を被る可能性もあります。このような事態を防ぐためにも、会社側は制度の内容や手続きのメリットをわかりやすく説明し、従業員の希望の有無を丁寧に確認することが重要です。
3. 育児休業等終了時報酬月額変更届のデメリットはある?


育児休業等終了時報酬月額変更届は、時短勤務になって給与が減ってしまった従業員にとっては社会保険料の負担を軽減できる嬉しい制度ですが、何かデメリットはあるのでしょうか。
ここでは、育児休業等終了時報酬月額変更届を提出することによって生じる可能性のあるデメリットについて紹介します。
3-1. 受け取る年金額が少なくなる
育児休業等終了時報酬月額変更届を提出すると、標準報酬月額が変更されるため、月々の社会保険料支払い額が減ります。
社会保険料が減額されれば手取り額が増えますが、厚生年金保険料の支払額が減ったことになるので、将来受け取るはずの年金額が減ってしまうでしょう。
しかし、「養育期間標準報酬月額特例」を利用すれば、この問題は解決できます。
養育期間標準報酬月額特例とは、厚生年金保険料の支払額が減っても、減る前の額を納付したとみなして年金額を計算してくれる制度です。
育児休業等終了時報酬月額変更届を提出することによるデメリットは、別の特例制度によってカバーされています。ただし、子どもが3歳になるまでの限定的な制度であることを覚えておきましょう。
この制度は3歳未満の子どもを養育している人であれば男性でも利用可能です。また、時短勤務をせずに復職した人でも、残業をしなくなったなどにより標準報酬月額が下がった場合は対象となります。
関連記事:養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置とは?申請期間や必要書類を解説
3-2. 出産手当金・傷病手当金の額が少なくなる
出産手当金や傷病手当金は、標準報酬月額を基に支給額が計算されます。例えば、第二子の出産を予定している場合など、再び出産手当金の受給が見込まれるケースでは、「育児休業等終了時報酬月額変更届」の提出によって標準報酬月額が下がると、給付額も減ってしまう可能性があります。
厚生年金保険については「養育期間標準報酬月額特例」を利用すれば、将来の年金額が減らないように配慮されていますが、健康保険(出産手当金・傷病手当金)についてはこのような特例措置がありません。
健康保険から支給される給付は将来ではなく比較的近い時期に影響が出るため、とくに出産や病気・ケガによる休職の可能性がある方にとっては、見落とせないデメリットとなります。
なお、こうした事情を踏まえて「育児休業等終了時報酬月額変更届」の提出を見送ったとしても注意が必要です。随時改定の条件にあてはまれば、従業員の意思とは無関係に自動的に標準報酬月額が変更されます。給付額に影響するタイミングや制度の仕組みをしっかり理解したうえで、将来のライフイベントも踏まえた判断が重要です。
参考:出産手当金について|全国健康保険協会
参考:傷病手当金について|全国健康保険協会
4. 育児休業等終了時報酬月額変更届の書き方・記入例
ここでは、育児休業等終了時報酬月額変更届の取得方法と記載例について解説します。
4-1. 育児休業等終了時報酬月額変更届の取得方法
育児休業等終了時報酬月額変更届は、日本年金機構のホームページからダウンロードできます。なお、健康保険組合によっては、独自の様式を用意していることもあるので、事前に取得方法やフォーマットを確認しておきましょう。
4-2. 育児休業等終了時報酬月額変更届の具体的な記載例
育児休業等終了時報酬月額変更届の具体的な書き方・記入例は、以下の通りです。
|
記載事項 |
記載例 |
|
提出日 |
実際に提出する日を記入する。 |
|
事業所整理番号 |
新規適用時または名称・所在地変更時に付与された記号を記入する。 |
|
事業所情報 |
事業所の所在地・名称・氏名・電話番号を記入する。 |
|
申出者欄 |
被保険者の氏名・住所を記入する。 意思確認のため、被保険者本人によるチェックボックスへの記入が必要。 被保険者が事業主に提出した日付も記入する。 |
|
被保険者整理番号 |
資格取得時に払い出された被保険者整理番号を記入する。 |
|
個人番号(基礎年金番号) |
本人確認をおこなったうえで、個人番号(マイナンバー)もしくは基礎年金番号を記入する。 |
|
被保険者氏名 |
住民票に登録されている氏名を記入する。 フリガナもカタカナで記入する。 |
|
被保険者生年月日 |
該当する年号の番号を丸で囲み、生年月日を記入する。 |
|
育児休業等終了年月日 |
育児休業等を終了した日付を記入する。 |
|
給与支給月及び報酬月額 |
育児休業等終了日の翌日の属する月から3ヵ月における基礎日数と報酬月額を記入する。 |
|
総計 |
3ヵ間の報酬(「合計」欄)の合計額を記入する(原則17日未満の月がある場合は除く)。 |
|
平均額 |
総計額を原則17日以上の月数で割った額について1円未満切り捨てで記入する。 |
|
修正平均額 |
昇給が遡ったため対象月中に差額分が含まれる場合は、差額分を除いた平均額を記入する。 |
|
従前標準報酬月額 |
従前の標準報酬月額を記入する。 |
|
昇給降給 |
昇給または降給のあった月を記入し、該当区分を丸で囲む。 |
|
遡及支払額 |
遡及分の支払いがあった月に支払われた遡及差額分を記入する。 |
|
改定年月 |
「給与支給月及び報酬月額」に記入した3ヵ月目の翌月の年月を記入する。 |
|
給与締切日・支払日 |
給与計算の締切日と支払日を記入する。 |
|
備考 |
「70歳以上被用者」「二以上勤務被保険者」「短時間労働者」「パート」などに該当する場合は、その旨を記入する。 |
|
月変該当の確認 |
育児休業等を終了した日の翌日に引き続いて産前産後休業を開始していないことを 確認したうえで、チェックボックスに記入する。 |
参考:健康保険・厚生年金保険 育児休業等終了時報酬月額変更届/厚生年金保険 70歳以上被用者育児休業等終了時報酬月額相当額変更届|日本年金機構
5. 育児休業等終了時報酬月額変更届を出す場合の手順


育児休業等終了時報酬月額変更届の手続きは、事前に流れを理解しておくことでスムーズに進められます。提出先や必要書類、タイミングを把握しておけば、復職後の忙しい時期でも慌てることなく対応できるでしょう。
ここでは、育児休業等終了時報酬月額変更届の手続きのやり方について詳しく紹介します。
5-1. 提出先
育児休業等終了時報酬月額変更届は、全国健康保険協会(協会けんぽ)と健康保険組合(組合健保)のどちらに加入しているかで提出先が変わってきます。
協会けんぽに加入している場合、提出先は「日本年金機構(年金事務所)」です。一方、組合健保に加入している場合、「日本年金機構」と「各健康保険組合」の両方に提出が必要になります。
5-2. 提出期限
育児休業等終了時報酬月額変更届の提出期限は、法律上「速やかに」と定められています。
明確な提出期限日は設定されていませんが、標準報酬月額の改定は提出された変更届に基づいておこなわれます。そのため、標準報酬月額の改定が給与(保険料控除)に反映されるタイミングに間に合うように、余裕を持って手続きを進めることが大切です。
参考:厚生年金保険法施行規則第19条の2|e-Gov法令検索
参考:健康保険法施行規則第26条の2|e-Gov法令検索
5-3. 提出方法
育児休業等終了時報酬月額変更届の提出方法は「窓口持参」「郵送」「電子申請」の3種類から選択できます。電子申請であれば、パソコンやインターネット環境があれば、時間・場所を問わず手続きが可能です。また、窓口への来訪や郵送費用といった負担も削減できます。
ただし、健康保険組合によっては、電子申請に対応していないケースや、独自の提出方法(専用Webフォームなど)を採用しているケースもあります。そのため、手続きを進める前に、提出先ごとの対応状況を確認し、適切な提出方法を選択することが大切です。
関連記事:社会保険手続きの電子申請義務の対象や申請方法について解説
5-4. 添付書類
育児休業等終了時報酬月額変更届に添付書類は原則不要です。ただし、申請者以外の人が電子申請をおこなう場合、基本的に申請者と代理人双方の電子署名が必要となります。
なお、一定の条件を満たせば、申請者の電子署名の添付を省略できるケースもあります。手続き方法に不明点がある場合や個別の事情に応じた対応を確認したい場合は、日本年金機構や加入している健康保険組合に事前に相談することをおすすめします。
6. 育児休業等終了時報酬月額変更届を提出して負担額を減らそう


育児休業等終了時報酬月額変更届とは、育児休業から職場復帰した従業員のために設けられた、特例的な標準報酬月額の改定制度です。通常の随時改定(いわゆる月額変更届)と比べて、対象期間や判定基準が緩和されており、一定の要件を満たすことで利用できる可能性が高い制度です。
ただし、標準報酬月額が1等級以上変動していることや、復職後3ヵ月間のうち一定の支払基礎日数を満たすことなどの条件があるため、従業員から申し出があった場合には、対象となるかどうかを丁寧に確認することが必要です。この届出により標準報酬月額が下がると、出産手当金や傷病手当金の支給額に影響する点には注意が必要ですが、厚生年金保険については「養育期間標準報酬月額特例」により、将来の年金額が不利にならないよう配慮されています。
制度の特性や従業員のライフプランに応じて、提出するかどうかを検討することが望まれます。企業としては、申出があった際には速やかに手続きをおこなうことが重要です。



育児・介護休業に関する法改正が2025年4月と10月の2段階で施行されました。特に、育休取得率の公表義務拡大など、担当者が押さえておくべきポイントは多岐にわたります。
本資料では、最新の法改正にスムーズに対応するための実務ポイントを網羅的に解説します。
◆この資料でわかること
- 育児・介護休業法の基本と最新の法改正について
- 給付金・社会保険料の申請手続きと注意点
- 法律で義務付けられた従業員への個別周知・意向確認の進め方
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