労働条件変更同意書の記載事項や記入のポイントについて
更新日: 2025.9.29 公開日: 2022.1.23 jinjer Blog 編集部

労働条件を変更するには、原則、労働者一人ひとりの同意が必要であり、「労働条件変更同意書」は労働者から了解を得た証拠として機能する書類です。
そのため、労働者が変更点を十分に理解し、自らの意思で了承したことが客観的に証明できる内容でなくてはいけません。
この記事では、労働条件変更同意書の記載事項や記入のポイント、注意が必要な対応を解説します。
目次
従業員を雇い入れる際は、雇用(労働)契約を締結し、労働条件通知書を交付する必要がありますが、法規定に沿って正しく進めなくてはなりません。
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1. 労働条件変更同意書とは

労働条件の変更方法は以下の方法が一般的です。
- 労働者に個別に同意を得る
- 就業規則を変更する
また、労働条件は使用者が一方的に変更できるものではなく、変更の際は原則として、労働者との合意を得る必要があります。(労働契約法8条)
労働条件変更同意書は上記のうち、1による変更の際に用いる書類で、特に、労働者が少ない会社などでは使いやすい方法でしょう。
同意といっても口頭による同意は労使紛争となった際、証拠として機能する可能性は低いです。
そのため、書面により労働者個別の同意を得ることが求められます。
1-1. 労働条件通知書との違い
労働条件変更同意書と労働条件通知書は、どちらも労働条件に関する書類ですが、その目的、発行のタイミングなどが異なります。
労働条件変更同意書は既に締結されている労働契約を変更する際に発行します。一方、労働条件通知書は労働契約を締結する際に、使用者(会社)が労働者に対して、労働基準法で定められた主要な労働条件を明示するために発行する書類です。労働条件通知書は、労働者が会社に入社する際、もしくは労働契約を締結する際に、書面で交付することが労働基準法で義務付けられています。
2. 労働条件通知書の変更例

労働条件通知書を従業員に通知したものの、労働条件に変更があり、労働条件変更同意書を発行する例として以下が挙げられます。
- 賃金の変更
- 雇用形態の変更
- 勤務時間の変更
- 就業場所の変更
2-1. 賃金の変更
労働条件通知書を変更するケースとして挙げられるのが、賃金の変更です。具体的には次のような状況で賃金が変更されます。
- 定期昇給、降給
- 役職手当の付与・廃止
- インセンティブ制度の導入・変更
- 基本給の増減
2-2. 雇用形態の変更
正社員から契約社員へ、またはパート・アルバイトから正社員へなど、雇用形態を変更する際も労働条件通知書の変更が必要です。
労働条件変更同意書を提示したうえで、該当の従業員から同意を得ましょう。
2-3. 勤務時間の変更
始業・終業時刻、休憩時間、所定労働時間、残業の有無など、勤務時間に関する変更があった場合、労働条件変更同意書の締結が必要です。
具体的には次のようなケースが挙げられます。
- フレックスタイム制の導入
- シフト制の変更
- 残業規制の変更
- 休憩時間の変更
- 短時間勤務制度の導入・変更
2-4. 就業場所の変更
転勤や事業所の移転などにより、労働者が働く場所が変更になるケースも労働条件の変更にあたります。以下のような場合は、労働条件変更同意書を締結しましょう。
- 他支店への転勤
- 事業所の移転
- 在宅勤務(リモートワーク)の導入や廃止
3. 労働条件変更同意書の記載事項
労働条件の変更に同意を得る際には、「労働者の自由な意思に基づいて(同意)されたものと認めるに足りる、合理的な理由が客観的に存在する」ことが求められます。
そのため、ただ単に同意書を渡し、署名捺印をしてもらえばよいものではありません。
なお、労働条件同意書に決まった様式はないため、上記の点を踏まえた上で作成する必要があります。
具体的には、以下の内容を網羅するとよいでしょう。
- 労働条件変更理由
- 労働条件変更日
- 変更内容詳細
- 同意書の作成日
- 事業者・代表者職氏名・捺印
- 同意年月日
- 労働者住所・氏名・捺印
さらに、賃金や手当などに変更が生じる場合は、別添として労働者個別に現在と比べ、どの程度の不利益が生じるのかを書面で示し合意を得ると、客観的証拠として効力が高まります。
なおインターネットにはWord(ワード)で利用できる雛形が提供されているため、利用を検討してみましょう。
4. 労働条件変更同意書の記入ポイントを解説

ここでは、労働条件変更同意書に記載する各項目ごとに、書き方のポイントを解説します。記載の不備や不足が原因で、後に従業員とトラブルにならないよう、労働条件変更同意書を適切に作成できるようにしておきましょう。
4-1. 労働条件変更理由
労働条件の変更が必要である理由を明記します。
主に、理由として挙げられるケースには次のようなものがあります。
- 従業員本人の希望
- 会社都合
- その他(社会情勢など)
会社都合の場合、変更する理由はできるだけ具体的に、労働者の理解を得られるよう記載しましょう。
4-2. 労働条件変更日
労働条件を実際に変更し、運用を開始する日を記載します。
なお、変更内容が大きい場合は、段階的に変更していくのも方法の1つです。
4-3. 変更内容詳細
就業場所や従事する業務の内容、労働条件や賃金、休日など、具体的に記載します。
もし、同意書のみで足りないときは、別添なども利用し、労働者の理解が得られるように詳細に記載しましょう。
また、具体的な変更条件だけでなく、変更により付随して生じる不利益なども、網羅しておくことがポイントです。
例えば、就業場所を会社から自宅に変更し、テレワーク勤務の導入が必要である場合は以下の点を明確にする必要があります。
- 通信費、水道光熱費などの支給はあるのか
- 交通費の扱い
- 始業・終業の確認方法、休憩・休暇の取得方法
- パソコンは会社のものを使えるか
- インターネット環境のない労働者の扱い
変更により、どのようなことが生じるかを具体的に記載し、説明しましょう。
ただし、就業規則に定める労働条件より下回ることは、合意を得ていても認められないので注意が必要です。
4-4. 同意書の作成日
使用者が同意書を作成した日時を記載します。
4-5. 事業者・代表者職氏名・捺印
事業者名(会社名)は省略せず、正式名称を記載しましょう。
また、代表者の役職名と名前を記載し捺印します。
4-6. 同意年月日
労働者から合意を得られたときは、同意年月日に日付を記載してもらいます。なお、無理に同意を得た場合、過去の判例上、同意とはみなされないため注意しましょう。
4-7. 労働者住所・氏名・捺印
労働者本人に住所・氏名を記載してもらい、捺印してもらいます。
なお、同意について客観的証拠を強めるためにも、「私は上記内容について説明を受け、不利益の程度なども理解した上で同意します。」などと一筆書いてもらうとよりよいでしょう。
5. 従業員数が多い場合の労働条件の変更方法

労働条件変更同意書を作成し個別同意を得る方法以外にも、労働組合との労働協約締結によって労働条件を変更する方法も認められています。
従業員数が多い企業であれば、こちらの方が労働条件変更の合意を得るために費やす時間や労力の削減の効果が期待できるでしょう。
ただし、労働条件変更の効力が及ぶ範囲は原則として組合員に限られているため、非組合員に対しては個別で同意を取らなくてはいけません。
また、一部の組合員に対し度を超えた不利益が生じる場合は、労働条件の変更が却下される可能性もあります。
労働組合との労働協約によって労働条件の変更をおこなう際は、上記の点に注意が必要です。
6. 労働条件を変更する際の注意点

最後に労働条件を不利益に変更する際、注意すべき内容を解説します。
特に、労働条件同意書による変更は、労働者の自由な意思による本当の同意が得られているか否かが、労働裁判に発展した際の争点となります。
6-1. 労働者に対し同意を強要しない
労働条件の変更には、労働者の自由な意思による同意が必要であり、そうでなければ「同意したもの」と言うことができません。
そのため、内容を説明し終えると同時に、その場でサインを求めるのではなく、考える時間を用意した方がよいでしょう。
その上で、後日同意できるかどうか確認し、サインをしてもらいましょう。
6-2. 「同意できなければ解雇する」などの脅迫は違法となる
また、「同意できなければ整理解雇する」など、脅迫と取れる言動によりサインをさせることは、人事権の乱用などに当たります。
悪質な場合は労働裁判に発展しかねません。
あくまでも、労働者が同意できるように説明を続けることが大切です。
6-3. 労働条件の変更に虚偽があった場合、同意を取り消すことができる
民法96条に基づき、虚偽の理由を提示して同意書にサインさせた場合、労働者はその同意を取り消すことができます。
そのため、労働条件変更の理由や変更内容には間違いや嘘が無いよう、正しく説明しましょう。
6-4. 同意を得られない場合は就業規則の変更により対応可能
中には、労働条件変更同意書により労働条件を変更しようとしても、一部の労働者から反発され、サインを貰えないケースもあります。
その場合は、就業規則自体を変えれば、同意していない労働者に対しても、変更後の労働条件を適用することが可能となります。
しかし、就業規則を不利益に変更するためには、下記の内容に照らして合理性を個別に判断する必要があります。
- 労働者が受ける不利益の程度
- 不利益変更の必要性(程度や内容)
- 変更後の就業規則の妥当性
- 労働組合等との交渉状況
- 不利益に対する代償措置の有無
- 同業他社や社会情勢などその他の事情
これらの内容から判断し、妥当と認められる場合に限り不利益変更が可能です。
また、不利益変更の中でも、福利厚生の一部廃止などは比較的認められやすく、賃金の減額などは厳しく判断される傾向にあります。
変更が妥当で合理的と判断できる場合は、次の手順により、実際に就業規則の変更をおこないましょう。
- 変更内容を元に就業規則を新に作成する
- 「就業規則変更届」を作成する
- 労働者代表に意見を聴取し「意見書」を作成する
- 「就業規則」「変更届」「意見書」を労働基準監督署へ届け出る
- 変更後の就業規則を社内に周知する
なお、就業規則は周知して初めて効力を発揮するため、そもそも周知されていない就業規則では変更しても無効となります。
6-5. 労働条件を明示しないと罰則が科せられる
労働基準法では、使用者が労働者に対して労働条件を明示することが義務付けられています。この義務を怠った場合、使用者には罰則が科せられる可能性があるので注意しましょう。
労働条件の明示に関する罰則は、労働基準法第120条の規定により30万円以下の罰金と定められています。
賃金や労働時間など、重要な事項については書面で明示して、労使間のトラブルを防止いましょう。
7. 労働条件同意書は労働者が変更内容や不利益を理解できるよう作成しよう

労働条件変更同意書は、ただサインを貰えばよい書類ではありません。
あくまでも労働者の自由な意思による真の同意が必要であり、かつ、そのことが客観的に証明できる必要もあります。
企業が従業員を雇用する場合、労働条件通知書を提示するものの賃金や雇用形態、勤務時間、就業場所などに変更があった場合、労働条件変更同意書を従業員に提示して同意を得なければなりません。変更内容は労働者一人ひとりの状況に合わせて作成し、理解を得るまでしっかりと説明することが大切です。
労働条件について従業員に明示しない場合、自社に罰則が科せられかねません。さらに、労働条件の変更に虚偽があった場合、同意が取り消されるため、しっかりとした手続きを踏んで従業員の同意を得ましょう。
従業員を雇い入れる際は、雇用(労働)契約を締結し、労働条件通知書を交付する必要がありますが、法規定に沿って正しく進めなくてはなりません。
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