労働条件の明示とは?労働基準法15条が義務付けた明示事項・法改正による明示ルールの変更内容
賃金や労働時間・休日のように、労働者が働く上で重要な要素となる労働条件は、採用時に必ず明示しなければいけません。なかでも、賃金のように特に重要とされる項目は、書類など形に残る方法で明らかにする必要があります。
この記事では、採用時に明かすべき労働条件と、有期雇用労働者を採用するときの注意点、労働条件通知書の電子化について解説します。
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従業員を雇い入れる際は、雇用(労働)契約を締結し、労働条件通知書を交付する必要があります。
このとき、労働条件通知書に記載しなければならない事項が法律によって決まっています。
また、労働条件通知書などの書面による交付は義務付けられていなくとも、口頭で通知すべき事項も定められているため、注意しましょう。
きちんと案内して、労使間で納得できていなかった場合、後々トラブルとなりかねません。
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目次
1. 労働条件の明示とは企業に課された義務
労働条件の明示義務とは、労働基準法第15条1項に基づき、使用者が労働者と労働契約を締結する際に賃金や労働時間などの労働条件を明確に伝える義務のことです。この義務は正社員だけでなく、パート・アルバイトなどの非正規雇用者を含む全ての労働者に適用されます。
[注1]労働基準法|e-Gov法令検索
例えば、多くの企業は労働条件通知書を交付したり、雇用契約書を作成したりして、この明示義務に対応しています。これにより、労働者は自分の権利を理解し、トラブルを未然に防ぐことができます。
1-1. 労働基準法15条とは
労働基準法第15条とは、企業が労働契約を締結する際に、労働者に対して必ず労働条件を明示する義務を課す条文です。
① 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
③ 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。引用:労働基準法第15条
この法律を遵守することで、従業員とのトラブルを未然に防ぐことができます。
1-2. 労働基準法第15条に違反した場合の罰則
労働基準法第15条に違反した場合、企業や使用者には具体的な罰則が科せられます。労働基準法第15条では、使用者が労働条件を明示する義務があります。
この義務に違反し、労働条件を明示しない、または法令で定められた方法で明示しない場合、労働基準法第120条第1号に基づき30万円以下の罰金が科せられます。(労働基準法第120条第1号)。この罰則は、労働者の権利保護と公正な労働環境の維持を目的としています。
参考:労働基準法|e-GOV法令検索
1-3. 原則口頭ではなく書面で明示する
労働条件の明示について、法的には原則として口頭での説明ではなく、書面で行う必要があります。
これは労働基準法に定められた要件であり、労働者の権利を保護するための重要な取り組みです。具体的には、労働条件通知書や契約書などの形式で、賃金、労働時間、休日などの主要な労働条件を明示することが求められます。
これにより、労働者は自身の労働条件を明確に理解し、後のトラブルや誤解を防ぐ手助けとなります。
ただし、口頭説明に代わる方法として、例外的に労働者の希望があれば、メールやFAXを用いて労働条件を明示することも可能です。
この場合も、労働基準法施行規則第5条第4項但し書きに従い、労働者の意向を尊重した形で情報を提供することが重要です。これにより、適切なコミュニケーション手段を用いて労働条件を明示することができ、法的義務を果たすことができます。
参考:労働基準法施行規則|e-GOV法令検索
就業規則のコピーによる労働条件の明示も可能
労働条件の明示に関する法的義務を遂行する方法として、就業規則のコピーの交付が認められています。
これは、労働条件通知書や雇用契約書を用いることと同様に、労働条件の明示義務を果たす手段の一つです。ただし、この方法を採用する際には、就業規則の中からその労働者に適用される部分を明確に切り分けて交付する必要があります。
参考:厚生労働省「労働基準法の一部を改正する法律の施行について(◆平成11年01月29日基発第45号) 」の通達の第二の四参照
一方で、就業規則のコピーだけでは賃金の具体的な額など詳細な労働条件を把握することは困難であり、明示義務を完全に果たすとはいえません。このため、多くの企業では個別に労働条件通知書や雇用契約書を作成することが一般的です。
2. 採用時に明示すべき労働条件の明示事項【最新版】
それでは実際に法改正に対応した労働条件の明示項目の内容について解説していきます。
2-1. 【絶対的明示事項】書面などで明示する必要がある内容
賃金や労働時間など、労働者が働く上で特に重要とされる内容は、書面などにより明示しなければいけません。(昇給に関する事柄は口頭でもよい)
以下の項目は、雇用形態にかかわらず、採用時は労働者に明らかにして伝える必要があります。
(1)労働契約の期間に関する事項
(2)期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
(3)就業の場所及び従業すべき業務に関する事項(複数拠点あるときは住所まで具体的に。また、業務内容も「経理」など明確に記載)
(4)始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時点転換に関する事項
(5)賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く。)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期に関する事項
(6)退職に関する事項(解雇の事由を含む。)(2)については期間の定めのある労働契約であって当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合がある者の締結に限り、明示する必要があります。
引用:採用時に労働条件を明示しなければならないと聞きました。具体的には何を明示すればよいのでしょうか。|厚生労働省
また、パート・有期労働者は上記の事項に加えて下記の事項を書面等により明示する必要があります。
- 昇給の有無
- 賞与の有無
- 退職金の有無
- 相談窓口
2-2. 【相対的明示事項】定めがある場合、口頭などで明示が必要な内容
次の内容は会社で取り扱いがある場合に限り、労働者に明かす必要があります。なお、書面ではなくても問題ありません。
(7)退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに退職手当の支払いの時期に関する事項
(8)臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及びこれらに準ずる賃金並びに最低賃金額に関する事項
(9)労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
(10)安全及び衛生に関する事項
(11)職業訓練に関する事項
(12)災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
(13)表彰及び制裁に関する事項
(14)休職に関する事項
ただし、採用時は誤解を招かないためにも、書面で明示する方が安全です。
3. 2024年4月「労働条件明示のルール」が改正された背景(令和6年)
ここまで労働条件の明示事項について説明してきましたが、この明示事項は2024年4月の法改正により変更されたものです。改正前と改正後の明示事項の違いを正しく理解しておくためにも、まずは労働条件の明示ルールが改正された背景を説明します。
労働条件明示のルールが改正された背景として、大きな目的は、労働者の権利をより保護し、企業と労働者の信頼関係を強化することです。
新しい法改正により、労働条件の透明性が一層求められるようになり、企業は詳細な労働条件通知を義務づけられました。具体的には要素を分解して解説します。
3-1. 有期契約労働者の無期転換への対応強化
有期契約労働者の無期転換への対応強化は、企業にとって重要な課題です。
無期転換とは、有期労働契約が5年を超えて更新された場合、有期契約労働者が申込みを行うことで、期間の定めのない無期労働契約に転換される制度のことです。この無期転換ルールは2013年の改正労働契約法で規定されましたが、実際には無期転換申込権を行使する労働者の割合は低迷しています。
2021年に行われた実態調査では、無期転換申込権が生じたにもかかわらず、申込む権利を行使した人の割合は3割未満でした。特に企業規模が1,000人以上の大企業でも、無期転換を申込む人の割合は約4割に留まっています。この現状は、無期転換ルールに対する認知と理解が不足しているためと考えられます。
参考:無期転換ルールに関する参考資料|厚生労働省
今回の改正には無期転換制度の詳細を従業員に周知し、その適用を促進させる目的があります。
3-2. 雇用ルールの明確化
昨今、働き方の多様化により、「勤務地限定」や「職務限定」といった契約形態を採用する企業が増えています。
このような状況に伴い、労働条件の明確化が一層重要になっています。労働条件を明示する法的義務は企業にとって不可欠であり、これにより労働者との認識違いや説明不足によるトラブルを未然に防ぐことができます。特に、最新の法改正情報を常に把握し、労働条件を明確に文書化することが求められます。このような取り組みは企業の信頼性向上にも寄与し、人材の定着率向上させる目的があります。
参考:パートタイム・有期雇用労働法とは|厚生労働省
3-3. 同一労働同一賃金の明確化
同一労働同一賃金は、無期労働契約の従業員と有期労働契約の従業員の間で基本給や賞与などで不合理な待遇差を設けることを禁止する(パートタイム・有期雇用労働法第8・9条)法律で、2021年以降全ての企業に適用されています。
参考:パートタイム・有期雇用労働法の概要|厚生労働省
これに基づき、従業員に対して有期労働契約と無期労働契約の違いを適切に説明することが求められます。
また、無期転換ルールを促進するためには、労働者が無期転換後の労働条件に対する理解を深めることが重要です。賃金や各種手当てだけでなく福利厚生や教育・キャリアプランも同一労働同一賃金の範囲に含まれるため、将来のキャリアプラン等を踏まえた労働条件の明示が目的です。
4. 法改正によって追加された労働条件の明示項目
労働条件の明示に関して、労働基準法施行規則は「全ての労働者」を対象としています。
これは、正社員だけでなく、パートやアルバイトなどの非正規雇用者も同様に含まれることを意味します。企業の人事担当者や経営者にとって、この法的義務を理解し、適切に対応することは非常に重要です。
特に最近の法改正では、非正規雇用者への対応が厳格化されています。このため、パートやアルバイトにも正社員と同等に労働条件を明示することが重要です。企業がこの点に注意を払い、労働基準法施行規則を遵守することで、トラブルを未然に防ぎ、公正な労働環境を維持することが可能です。この2024年4月に施行された労働基準法施行規則(労基則)の改正と同時に、「有期労働契約の締結、更新及び雇い止めに関する基準」も改正されます。これに伴い、労働条件の明示項目に新たな項目が追加されます。この改正の背景には、昨今の多様化する雇用ルールに対応する目的と、働き方改革の推進があります。新たな労働条件明示のルールに対応するため、人事担当者や経営者は早急な準備が求められます。
新たに追加された以下の3項目について詳しくみていきましょう。
4-1. 就業場所・業務の変更の範囲の明示
労働条件の明示に関する法的義務は、企業にとって非常に重要です。
2024年度以降、労働条件の明示項目として「就業場所・業務の変更の範囲」が新たに追加されます。この改正により、従来の就業場所や業務の内容だけでなく、今後の変更の範囲についても具体的に明示する必要があります。例えば、配置転換や在籍型出向が命じられた場合の就業場所や業務内容、その際に配置転換先や在籍型出向先がどこになるかといった詳細までを明記することが求められます。
4-2. 更新上限の有無と内容の明示
改正により追加される労働条件の明示項目として、更新上限の有無とその内容の明示が重要です。
有期労働契約の締結時や契約更新時には、更新上限があるかどうかを明確に示す義務があります。この上限が存在する場合、例えば「契約期間は通算4年を上限とする」や「契約の更新回数は3回まで」といった具体的な内容を記載する必要があります。
また、これらの事項はパート・アルバイト、契約社員、派遣労働者、定年後の再雇用労働者など、幅広い有期契約労働者が対象となります。
更新上限を定めるにもかかわらず、書面による明示が行われない場合は労働基準法15条違反となるため、企業は注意を払う必要があります。さらに、更新上限の新設や短縮を行う場合、その変更理由を労働者に説明することも求められます。
4-3. 無期転換申込機会・無期転換後の労働条件の明示
労働契約法の改正により、無期転換後の労働条件に関する明示がさらに重要となります。
特に、今回の改正では「更新上限の有無と内容の明示」が新たに追加されました。これにより、企業は無期転換申込機会の際に、更新上限がある場合はその具体的な内容を明確に提示する義務を負います。無期転換申込機会が発生するたびに、対象となる有期労働者に対して無期転換申込権の存在と共に、無期転換後の労働条件を明示する必要があります。
この労働条件の明示には、更新上限の有無とその詳細も含まれます。具体的には、最大勤務年数や契約更新回数が制限されるのか、またその制限内容がどういったものであるかを労働者に示さなければなりません。
さらに、無期転換後の労働条件が無期雇用フルタイム労働者や正社員と比較して均衡が取れているかも説明する必要があります。無期転換後の労働条件が以前と同じ場合は、前回の明示内容と同一であることを明示することが認められています。
5. 労働条件の明示はいつ必要?法律に則って明示するタイミング
労働条件の明示が義務付けられるタイミングは、労働基準法第15条1項に従い、「労働契約の締結」の際です。
具体的には、従業員に採用の内定を出した時点で労働契約の締結と見なされ、内定時に労働条件の明示義務が発生します。内定の段階で労働条件を明示することは、入社後ではなく事前に従業員との間で明確な合意を形成し、将来的なトラブル防止に役立ちます。
参考:労働基準法の基礎地域
参考:採用内定時に労働契約が成立する場合の労働条件明示について|厚生労働省
5-1. 有期雇用契約を更新する場合
有期雇用契約を更新する際には、労働基準法15条1項に基づき、使用者には明確な義務があります。
それは、新規雇用と同様に、労働条件の明示を行うことです。労働条件の明示は、賃金、労働時間、勤務場所、その他の重要な条件を含め、従業員に対して透明性を持って伝えることが求められます。特に、契約更新の際には、従業員に対する労働条件の明示が再度必要となります。これにより、従業員が適切な判断を下せるようにするとともに、労働争議の予防にもつながります。
5-2. 定年後の再雇用をする場合
労働基準法15条1項には「労働契約の締結に際し」という規定があり、これには正社員として雇用していた従業員が定年に達した後、再雇用する場合も含まれます。つまり、定年後再雇用の際にも、使用者は従業員に対して労働条件を明示する必要があります。
この明示義務には、給与や勤務時間、職務内容などの基本条件だけでなく、再雇用後の試用期間や解雇条件についても含まれます。
また、最新の法改正情報を踏まえて、企業の人事担当者や経営者は適切なタイミングで労働条件を再確認し、従業員に明確に伝えることが重要です。再雇用契約を円滑に進めるためにも、事前にこれらの条件を従業員に説明し、合意を得ることが求められます。
5-3. 在籍出向の場合
在籍出向の場合、企業は従業員を自社に在籍させたまま他社に出向させることが一般的です。
このようなケースでは、出向先と出向者の間でも新たな労働契約が成立するため、出向先は労働基準法15条1項に基づいて労働条件の明示を行う義務があります。具体的には、通常と同じく出向開始前に賃金、労働時間、休憩時間、休日、業務内容、労働契約の期間などの詳細な労働条件を出向者に対して明示しなければなりません。
6. 労働条件明示ルール改正に対応した労働条件通知書の書き方
労働条件通知書は、労働条件明示ルール改正に伴い、その内容と記載方法が重要性を増しています。この通知書は、労働条件を明確に記載しなければならないと定められており、形式は問われません。特に、厚生労働省のホームページには、最新の法改正に対応した労働条件通知書のモデル様式が公開されています。このモデル様式を参考にすれば、全ての明示事項を漏れなく記載することができ、法的なリスクを回避することができます。
参考: モデル労働条件通知書|厚生労働省
6-1. 労働条件通知書のモデル様式例
2024年度の法改正により、労働条件通知書に追加された3つの明示事項は「契約期間」「就業の場所」「業務の内容」です。これらを記載する際の注意点を以下に説明します。
契約期間
労働条件の明示に関する法的義務には、契約期間に関する詳細な情報の提供が求められています。
特に「期間の定めあり」とする場合、更新上限の有無を明確に記載する必要があります。例えば、「契約期間は通算4年を上限とする」や「契約5回まで(1回目/5回目)」などと具体的に記載することで、労働者に対する情報提供が充実します。
さらに、無期転換申込権が労働者によって行使されなければ、更新のたびに明示が必要となります。そのため、モデル労働条件通知書に倣い、無期転換申込機会の明示をあらかじめフォーマット化するのが望ましいでしょう。
就業の場所・業務の内容
労働条件の明示に関する最新の法改正により、労働条件通知書の内容が一層明確になる必要があります。その中でも「就業の場所・業務の内容」については、変更の範囲を具体的に指定することが重要です。
例えば、「●●営業所」「○○県内」「会社の定める○○」といった範囲を明示することで、労働者との認識を共有しやすくなります。
特に就業場所や業務内容に限定がない場合には、国内外すべての可能性について包括的に記載する必要がありますが、この際、労働者から具体性を求められることも考慮し、可能な限り詳細に記述することが求められます。
加えて、テレワークの可能性がある場合や、明らかに変更がないと想定される場合も、その旨を明記することで、労働者とのトラブルを未然に防ぐことができます。
具体例として、雇入れ直後の就業場所を「仙台営業所」とし、「変更の範囲」を「会社の定める営業所」とすることや、業務内容を「広告営業」として「社内でのすべての業務」へ変更可能であることを明記することなどが考えられます。
6-2. 雇用契約書との違い
また労働条件通知書の書き方を解説してきましたが、雇用契約書の違いも理解しておきましょう。
いくつかの重要な違いがありますが、大きな違いは労働条件通知書は法律で作成および交付が義務づけられており、労働者に対して一定の労働条件を明示するために使用されます。これは、労働基準法第15条に基づいて労働者に対する基本的な権利を守るためのもので、企業側が一方的に作成する書類です。
一方、雇用契約書は、労働者と企業の双方が合意した契約を明文化した書類であり、双方の同意が必要です。このため、労働条件通知書とは異なり、法律上の義務ではなく、企業の内部ルールや労働者との合意に基づいて作成されます。
結果として、雇用契約書は双方の合意が反映されやすい一方、労働条件通知書は企業から労働者への一方的な通知となります。これらの違いを理解することは、人事担当者や企業経営者が法的義務を遵守し、適切な労働環境を整えるために非常に重要です。
7. その他の法改正に関連するモデル労働条件通知書の変更点
ここまでは2024年に施行された労働基準法施行規則の改正による労働条件通知書の書き方を説明してきましたが、厚生労働省が公開しているモデル労働条件通知書は、働き方改革や最新の法改正に対応しています。そのため、基本的には明示事項を満たしていれば問題ありませんが、その他の法令へも対応するために追加できるのであれば確認しておくと良いポイントを紹介します。
7-1. 賃金に関する追加事項
労働条件の変更に関する法改正は、特に賃金に関わる追加事項について企業にとって重要な影響を及ぼします。
具体的には、パートタイム・有期雇用労働法の改正により、短時間労働者や有期雇用労働者に対して「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」を明示することが法的に求められています。例えば、昇給がある場合はその基準や条件、賞与が支給される場合はその計算方法や支給時期、退職手当がある場合はその詳細を具体的に記載しましょう。
7-2. 創業支援等措置による追加事項
2021年に施行された改正高年齢者雇用安定法に関連し、労働条件通知書には「賃金に関する追加事項」が新たに含まれる必要があります。この法改正によって、企業は70歳までの就業機会確保を努力義務とし、その一環として高年齢者の創業支援等措置を導入することが推奨されています。そのため、モデル労働条件通知書も最新の法改正に適応する形で、賃金に関する明示事項を更新する必要があります。
具体的には、退職に関する事項として、新たに創業支援等措置に関する情報を明示することが求められます。これは高年齢者が70歳まで働くことが可能となるための措置であり、将来的には義務化される可能性があるため、今の段階で対応しておくことが推奨されます。
7-3. 中小企業退職金共済制度・企業年金制度による追加事項
中小企業退職金共済制度や企業年金制度(企業型確定拠出年金制度・確定給付企業年金制度)を利用した退職金制度がある場合、労働条件として口頭または書面で明示する義務があります。これに伴い、モデル労働条件通知書にも中小企業退職金共済制度、企業年金制度に関する事項が追加されました。明示する書面は、「労働契約書、労働条件通知書又はこれに準ずるもの」とされています。そのため、必ずしも労働条件通知書での明示が必要ではないものの、労働条件通知書にこれらの事項を追加することで、複数の書面での明示を避けることができます。
7-4. 就業規則を確認出来る場所や方法の追加
就業規則の周知方法については労働基準法で義務付けられているものの、必ずしも労働条件通知書に具体的に記載する必要はないとされています。それでも、労働者に対する周知の重要性を踏まえ、企業としては分かりやすく明確に就業規則の場所を示すことが望ましいです。
8. 【有期労働契約】労働契約を更新する基準や注意点
有期労働契約の労働者を雇用する際は以下の3点を明確にすることがトラブル防止のためにも大切です。[注2]
- 契約期間はいつまでか
- 契約更新があるかないか
- 更新条件は何か
[注2]有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準について|厚生労働省
8-1. 労働契約期間(終了日)を記載する
有期労働契約は期間に終わりのある契約のため、必ず終了日が記載されているか確認しましょう。また、労働契約の上限は労働基準法14条で原則3年とされています。
ただし、高度の専門的知識を有する公認会計士や医師などの労働者では、上限を5年まで延長できます。
8-2. 契約更新の有無を明確にする
契約更新があるかないかは、間違いのないよう記しましょう。
また、更新がある場合は方法も具体的に記載します。
- 自動更新とする
- 更新する場合がありうる
- 契約の更新はしない
なお、1の場合、労働者は次回も更新するものと期待するため、有期雇用契約といえ、雇止めが禁止されるケースもあるため特に注意しましょう。
8-3. 労働契約の更新基準
労働契約を更新する判断基準の記載例は以下のようになります。
- 契約満了時の業務量による
- 労働者の勤務態度や能力などを元に判断する
- 会社の経営状況などにより判断する
- 担当する業務の状況により判断する
他にも考えられる理由は全て明確にしましょう。
8-4. 雇止めの事前予告
下記の条件に該当する有期労働契約に対し、次回の更新をしない場合(雇止め)、契約期間満了の30日よりも前に予告が必要です。
- 契約更新を3回以上している
- 1年以上、継続雇用している
- 1年を超える(3年など)労働契約を結んでいる
また、雇止めを行う理由を労働者から聞かれた場合、「契約期間の満了」とは別に雇止めを行うにあたり具体的な理由を説明することが求められます。
8-5. 雇止めの厳格化
さらに、有期労働契約であっても、下記の条件に該当する場合、更新を期待させてしまうこともあるため、雇止めが認められないケースもあります。
- 契約回数が多い、雇用期間が長い
- 雇用契約の更新手続きがずさん(自動更新など)
- 使用者より雇用を継続すると取れる発言があった
そのため、有期労働契約者に労働条件を示す際は、雇止めなど後々のトラブルにつながらないように、内容に十分留意しましょう。
9. EメールやSNSなどで労働条件を明示できる条件を解説
従来書面による明示のみとされていた労働条件通知書ですが、労働基準法の改正により、2019年4月1日よりEメールやSNSでも明示できようになりました。
ただし、明示には注意点もあるため詳細を解説します。
9-1. 労働者に明示すべき内容に変更はない
労働条件通知書の電子化が可能となったものの、明らかにすべき内容に変更はありません。
そのため、内容を省略して送付するなどの行為は労働基準関係法令違反となるため注意しましょう。
9-2. 書面を原則として希望があった場合のみ電子化が可能
また、労働条件の明示はあくまでも書面を原則とし、労働者本人から希望があった場合のみ電子化が可能です。
そのため、書面でも電子化でも対応できることを案内し、どちらの方法がよいか確認を取らなければいけません。
9-3. FAX・Eメール・SNSなどが利用できる
電子化が推奨されている方法としては、FAX・Eメール・SNSなど、出力して書面を作成できるものがあげられています。なお、文字数制限がありファイルが添付できないような方法(SMSなど)は適切ではありません。
また、ブログなど、第三者に閲覧させることを目的とした媒体を用いての明示も認められていません。
9-4. 本文に記載するのでなく添付ファイルで送信する
Eメール・SNSで明示する際は本文内に書き込むのはやめましょう。
理由としては、印刷した際、文字が見切れる可能性があるためです。
そのため、添付ファイル形式で送信し、明示日時・担当者名・事業所名まで記載することが推奨されています。
9-5. 送付後は労働者に電子データの到着を確認する
労働条件通知書の送付後は、労働者にデータが到着しているかを確認しましょう。不着の場合は、再度送信するなどの対応が必要です。
また到着したデータは早めに印刷し、保管するように案内しましょう。
なお、これらの注意点を満たして労働条件通知書の交付を電子化する際は、システムを活用するのがおすすめです。
労働条件通知書の交付を電子化できるシステムでは、法律の要件に対応しているのはもちろんのこと、入職者が通知書を見たか確認できるうえ、対象者に一括で書類を送付することができます。
実際に雇用契約を電子化できるシステムがどのようなものか気になる方は、労働条件通知書の交付を電子化できるシステム「ジンジャー人事労務」のサービス紹介ページを以下のリンクよりご覧ください。
▶クラウド型人事管理システム「ジンジャー人事労務」の雇用契約サービスの紹介ページを見る
10. 労働条件をめぐるトラブルを避けるため正しい明示義務の遵守を
労働者を採用する際は労働条件の明示が必須となります。
中でも賃金のように重要な内容は、手元に残せる方法で明示しなければいけません。
また、労働条件通知書は、2019年4月1日より書面だけでなく、電子化での対応も可能となりました。
書類の印刷など事務手続きが軽減できるようになったものの、労働者から同意を得る必要があるなど、注意点も存在します。概要を理解したうえで、上手に活用しましょう。
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