労働基準法23条に定められた「金品の返還」の意味や違反した場合の罰則を詳しく紹介
労働基準法23条には「金品の返還」として、労働者に権利がある金品は請求があった日から7日以内に返還しなければならない、と定められています。金品とは賃金の他にも、社員から預かった積立金や保証金も含まれます。
今回は労働基準法23条に関して、内容を詳しく解説します。金品に含まれる物、法律の対象者、罰則に加え、実際に協議された裁判の判例も紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
▼そもそも労働基準法とは?という方はこちらの記事をまずはご覧ください。
労働基準法とは?雇用者が押さえるべき6つのポイントを解説
目次
労働基準法総まとめBOOK
1. 労働基準法23条に定められた「金品の返還」とは?
労働基準法23条には、労働者と使用者の間に発生する「金品」の返還に関して定められています。
まずは金品の返還にはどんな物が当てはまるのか、異議がある場合はどうすべきか、などを詳しく解説します。
1-1. 労働基準法23条に定めれらた「金品」が指すもの
労働基準法23条「金品の返還」では、労働者の退職や死亡時において、賃金、積立金、保証金、貯蓄金などを労働者に返還しなければならないと記されています。
ただし賃金、積立金、保証金、貯蓄金以外にも、労働者に権利が発生する金品は、名称を問わず全て返還しなければなりません。
1-2. 賃金や金品に双方の合意が得られない場合
場合によっては使用者と労働者の間で、賃金やその他金品に関して合意が得られないことがあります。
その場合、まずは使用者の異議がない金品を7日以内に返還し、異議がある金品は話し合いや裁判を通して解決しなければなりません。記事後半で実際に起こった金品の返還に関する裁判の判例を紹介しています。こちらもあわせてご覧ください。
2. 労働基準法23条による「金品の返還」の期限
労働基準法に定められている金品の返還には、「請求から7日以内」という期限が明記されています。請求を無視した場合は労働基準法違反となり、罰金30万円を支払わなければなりません。
ここでは期限の内容を詳しく解説していきます。
2-1. 支払期限は請求日から7日以内
労働者に金品を支払う期日は、請求があった日から7日以内です。
労働者が退職または死亡した日ではなく、労働者(もしくは権利者)から請求があった日から7日以内なので注意が必要です。
例えば、退職した労働者から賃金の請求があった場合、請求を無視して、毎月の賃金支払い日どおりに賃金を支給すると違法になる可能性があります。
ただし退職金に関しては、事前に締結した労働契約書や就業規則に「〇カ月以内」の決まりがあれば、その期日までに支払えば問題ありません。
2-2. 労働基準法23条「金品の返還」に期日が定められている理由
労働基準法23条で、金品の範囲や支払期日など決められているのは、労働者の生活を守るためです。
期日が定められていないと、中には支払を先延ばしにする使用者がいたり、金品が適切に返還されなかったり、結果的に金品が支払われなかったりなどして、労働者の生活を追い詰めてしまいます。
使用者の不当な対応によって労働者が不利益を被らないようするため、支払期日を7日以内と定めて、労働者の生活を守っているのです。
3. 労働基準法23条「金品の返還」の期日に遅れた場合の罰則・対処
労働基準法23条「金品の返還」を守らなかった場合の罰則として、「30万円以下の罰金」が適用されます。また、労働基準監督署の是正指導や、労働者から損害賠償を請求をされる恐れもあるため注意が必要です。
労働基準法の遵守は、企業にとってその信頼性や社会的責任にも関わる重要な問題です。また、適切な金品の返還を行うことで、労働者との信頼関係を築くことが可能となり、良好な労働環境を維持するためにも欠かせない要素ですので必ず正しく理解しておきましょう。
3-1. 労働基準法23条を「金品の返還」を無視し続けた場合
労働者の請求を無視し続けた場合は罰金刑だけでなく、その後5年間に渡って請求され続ける可能性があります。
労働者には未払賃金を請求できる権利があり、使用者から支払われない賃金は正当に回収できるようになっています。
また2020年4月1日より労働基準法の一部が改正され、「賃金請求権の消滅時効期間」が2年から5年に延長されました。(※当分の間は3年)
時効期間延長の対象になるものには、労働基準法23条「金品の返還」が含まれており、賃金の請求に限り請求可能です。これにより、労働者は未払い賃金を請求できる期間が長くなり、より強力に自らの権利を主張できるようになりました。
この改正は、労働者の権利保護を強化し、適切な賃金の支払いを促進することを目的としています。使用者はこの法律を遵守しなければならず、違反した場合は法的な制裁を受けるリスクが高まります。法の理解と遵守は、労働環境を守るためにも重要です。
参照:労働者の皆さま 未払賃金が請求できる期間などが延長されます|厚生労働省
4. 労働基準法23条「金品の返還」に関する裁判の判例
金品の返還に関する裁判の判例として、以下のような例があります。
- 期限を定めていない退職金の支払い
- 退職後の看護婦免許証の取り扱い
実際にどんな争議になったか、詳しくご紹介します。
4-1. 期限を定めていない退職金の支払い
1985年に土木工事会社で発生した、退職金の請求事件です。
訴えを起こした労働者が勤めていた会社は退職金の支払期日に関する取り決めがなく、退職金が支払われなかったため、退職金を請求しました。
退職金も労働者に権利がある金品なので、支払期日が決まっていない場合には、他の金品と同じく請求から7日以内に支払う必要があります。
参照:退職金等請求事件|公益社団法人全国労働基準関係団体連合会
4-2. 退職後の看護婦免許証の取り扱い
1993年に医療法人で発生した、看護婦免許証の返還事件です。
退職した看護婦に看護婦免許証が返されず、訴えを起こしました。労働基準法23条は、雇用主が労働者を雇用し続ける「足留策」を防止するための法律でもあります。
そのため病院側には、免許証を返さないことで看護婦の転職を阻止する意図があったとされ、請求から7日以内に返還するように命じられました。
この判例のように、お金だけでなく労働者から預かっており権利が労働者にある物は、全て返還請求から7日以内に返さなければなりません。
参照:免許証返還等反訴請求事件|公益社団法人全国労働基準関係団体連合会
5. 労働者から金品の請求があった場合は第23条に則り早急に対応しよう
本記事では労働基準法23条「金品の返還」を詳しく解説しました。
この法律は労働者が退職しても生活を維持できるようにするために定められた法律です。労働の対価として支払う賃金はもちろん、判例にあった通り、退職金や免許証の取り扱いにも注意が必要です。
もし請求に対して異論がある場合は、それ以外の金品を7日以内に支払い、異論のある金品は話し合いによって解決します。思わぬ点で労働基準法を違反しないよう、事前に知識と理解を深めておくことをおすすめします。
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