年末調整で前職の源泉徴収票の提出が必要な理由とは?未提出時の対処法も解説
転職してきた従業員の年末調整では、前職の源泉徴収票を従業員に提出してもらう必要があります。
そのため従業員は年末調整の業務が始まる前に、前の会社から源泉徴収票を受け取り提出しなくてはなりません。
そこで今回は、年末調整で前職の源泉徴収票の提出が必要な理由や必要なこと、万が一前職の源泉徴収票を提出できない時の対応などについて網羅的に解説していきます。従業員の提出忘れがないように、しっかりと把握しておきましょう。
目次
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1. そもそも年末調整とは
会社など給与の支払者は、役員又は従業員に対して給与を支払う際に所得税及び復興特別所得税の源泉徴収をおこなっています。しかし、その年1年間に給与から源泉徴収をした所得税及び復興特別所得税の合計額は、必ずしもその人が1年間に納めるべき税額とは限りません。このため、1年間に源泉徴収をした所得税及び復興特別所得税の合計額と、1年間に納めるべき所得税及び復興特別所得税額を一致させる必要があります。そしてこれらを一致させた後、会社は従業員に源泉徴収票を発行します。この手続を年末調整といいます。
1-1. 源泉徴収票とは
源泉徴収票とは、年末調整を計算するために必要な書類であり、企業が従業員に支払った給与や所得税額をまとめた法定調書の一種です。この書類には、年間の収入や納付した税額、控除額が記載されており、年末の税務手続きや確定申告の際に重要な役割を果たします。
源泉徴収票:その年1年間に会社から支払われた給与等の金額と自分が支払った所得税の金額が記載された書類のこと。
特に、年末調整においては、従業員が前年の収入状況を正確に把握するために必要不可欠な書類となります。
2. 年末調整で前職の源泉徴収票の提出が必要な理由
新しく雇用した従業員に前職がある場合は、年末調整をする際に前職の年末調整が必要になります。その理由を正しく理解しておきましょう。
2-1. 転職先で年末調整をするに源泉徴収票が必要だから
年末調整は言葉の通り年末におこなうものであるため、年の途中で退職した場合は年末にその企業で年末調整を受けられなくなります。そのために源泉徴収票を転職先に提出するわけです。年の途中で退職して転職先で年末調整を行う際には、前職の源泉徴収票を提出することで、全体の収入や税額を正しく把握できます。これにより、適切な控除が適用され、余分な税金を支払うリスクを避けることができます。
仮にある年に退職し最後の給与が同じ年に支給され、それ以後は賞与等の支払いも一切受けていないという場合であれば、新しい会社に前職の源泉徴収票を提出する必要はありません。原則として、自分自身で確定申告をすることになります。
2-2. 再就職をしていない場合は確定申告に必要だから
再就職をしていない場合、企業が実施する年末調整を受けられなくなります。その場合、従業員は自分で確定申告をして調整をしなければなりません。前職からの源泉徴収票は、所得の証明として不可欠であり、正確な税額を算出するために重要な役割を果たします。この書類がなければ、予期しない税金の過不足が生じる恐れがあります。
このように、自分で確定申告をする場合も新しく入社した企業で年末調整をおこなう場合でも、前職の源泉徴収票がなければ手続きができません。そのため前職の源泉徴収票を用意する必要があります。
3. 確定申告を経て受けられる控除の種類
確定申告を経て受けられる控除には複数の種類があります。年末調整をせず、確定申告もしなかった場合はこれらの控除を受けられません。
3-1. 雑損控除
災害、盗難、横領によって、資産に損害を受けた場合等には、一定の金額の所得控除を受けることができます。これを雑損控除といいます。
雑損控除の対象になる条件や損害の原因を確認しておきましょう。
雑損控除の対象になる資産の要件
雑損控除の対象になる資産の要件は損害を受けた資産が1.2.のどちらにも当てはまることです。
- 資産の所有者が納税者、又は、納税者と同じ生計で暮らしている配偶者やその他の親族で、かつ、その年の総所得金額等が48万円以下の人
- 棚卸資産、事業用固定資産等、「生活に通常必要でない資産」のどれにも該当しない資産であること
「生活に通常必要でない資産」とは、例えば以下の物です。
- 別荘など趣味、娯楽、保養、鑑賞の目的で保有する不動産
- 趣味、娯楽、保養、鑑賞の目的で保有する不動産以外のゴルフ会員権などの資産
- 貴金属、書画、骨董など1個又は1組の価額が30万円超のもの
雑損控除の対象になる損害の原因
次のいずれかの場合のみ、雑損控除の対象になります。
- 震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変による災害
- 火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害
- 害虫などの生物による異常な災害
- 盗難
- 横領
3-2. 医療費控除
その年の1月1日から12月31日までの間に自分又は自分と同じ生計で暮らしている配偶者やその他の親族のために医療費を支払った場合に、その支払った医療費が一定額を超えるときは、その医療費の額を基に計算される金額の所得控除を受けることができます。これを医療費控除といいます。
医療費として認められる要件や控除の対象になる金額は以下の通りです。
医療費控除の対象となる医療費の要件
以下のa.とb.の両方を満たす医療費が医療費控除の対象となります。
- 納税者が自分又は自分と同じ生計で暮らしている配偶者やその他の親族のために支払った医療費であること
- その年の1月1日から12月31日までの間に支払った医療費であること
ちなみに、未払いの医療費は、現実に支払った年の医療費控除の対象となります。
医療費控除の対象となる金額
医療費控除の金額は、次の式で計算した金額ですが、最高で200万円までという制限があります。
(実際に支払った医療費の合計額-保険金などで補てんされる金額) – 10万円(その年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%)
保険金などで補てんされる金額とは、例えば、生命保険などで支給される入院費給付金や健康保険などで支給される高額療養費・家族療養費・出産育児一時金などの金額です。
ただし、保険金などで補てんされる金額は、その給付の目的となった医療費の金額を限度として差し引きます。そのため、引ききれない金額が生じた場合であっても他の医療費からは差し引くことはありません。
3-3. 寄附金控除
納税者が国・地方公共団体・特定公益増進法人などに対し、「特定寄附金」を支出した場合には、所得控除を受けることができます。これを寄附金控除といいます。
なお、政治活動に関する寄附金・認定NPO法人等に対する寄附金・公益社団法人等に対する寄附金のうち一定のものについては、所得控除に代えて、税額控除を選択することができます。
4. 前職の源泉徴収票を手に入れる方法
それでは退職後の源泉徴収票はどのようにして手に入れるものなのでしょうか。うっかりもらい忘れてしまったということにならないよう、ポイントを押さえておきましょう。
4-1. 退職日から1ヵ月以内に発行される
源泉徴収票に記載されるのは、該当年の1月1日から12月31日までに支払われた給与額や徴収された所得税額です。そのため、源泉徴収票は、通常、12月の給与や賞与の額が確定し、年末調整も終了したタイミングで交付されます。
ただし、年の途中で退職した場合は、その時点で辞めた企業からの支給額および控除額が確定します。また、原則としてその会社での年末調整はおこなわれません。そのため、最後の給与額が算出された時点で、源泉徴収票の発行が可能です。通常、退職者に対する源泉徴収票は、最後の給与支払い日の前後で交付されることになります。
なお、所得税法第226条では、年末まで勤めた場合は該当年の翌年の1月31日まで、中途退職者については退職日から1ヵ月以内に源泉徴収票を交付しなければならないと定められています。こうした理由から、企業が退職者に対して源泉徴収票を自主的に発行するケースも少なくありません。発行されなかった場合でも、従業員が前職の担当者に依頼すれば源泉徴収票を受け取れることがほとんどでしょう。
5. 年末調整時に前職の源泉徴収票が準備できない場合・未提出時の対処法
前の職場が源泉徴収票を発行してくれなかったり、紛失してしまったりしている場合など、従業員に依頼しても源泉徴収票が準備できないことがあります。そのような場合は以下のような対応をとりましょう。
5-1. 源泉徴収票不交付の届出書を提出する
先述の通り、退職者の源泉徴収票は企業が発行しなければならないものです。法律によって定められているものの、前職の会社から源泉徴収票が送られてこないといったトラブルが起こり、年末調整で前職の源泉徴収票を提出できない時もあります。
自分から前職の会社に頼んでも源泉徴収票を交付してもらえない場合、税務署や労働基準監督署に相談する旨を伝えると、すぐに対応してくれるケースもあります。それでも交付されない場合は、所轄の税務署(住民票がある市町村)に相談し、「源泉徴収票不交付の届出書」を提出します。
税務署から税務指導が入って源泉徴収票が交付されたら、改めて確定申告をおこないましょう。
また、前職の会社が倒産した場合など、一切連絡がとれないといった事情がある場合も、「源泉徴収票不交付の届出書」を税務署に提出することになります。このような場合は、前職でもらった給与明細書等が支払額の証明になるため、給与明細書は大切に保管しておきましょう。
5-2. 前職の源泉徴収票をなくした場合
前の職場から貰った源泉徴収票をなくしてしまい提出が難しい場合もあります。
前職の源泉徴収票をなくした時は、なくした旨を前の職場に伝えて再発行の依頼をするようにしましょう。
源泉徴収票は勤めていた職場が発行する必要があり、税務署や役所に相談しても再発行や個別の対応はしてくれません。
企業は源泉徴収票の作成と保管が義務付けられているため(国税通則法)、基本的には依頼した後に発行の対応をしてもらえます。
5-3. 会社が倒産してしまった場合
前の職場が倒産していたり、源泉徴収票の発行をしてくれなかったり、さまざまな理由で源泉徴収票を受け取れないケースがあります。
そのような場合は該当する従業員の年末調整業務ができません。
企業側が年末調整をできない場合は、従業員が自分で確定申告をおこなう必要があります。また、源泉徴収票がないまま年末調整をした場合も従業員が確定申告をしなくてはなりません。
もしも年末調整ができず、さらに従業員が確定申告をせずに放置してしまった場合は従業員に不利益が発生します。源泉所得税を払いすぎていた場合は還付や控除を受けられず、足りない場合は延滞税や追徴課税を従業員が受けることになる可能性があります。
6. 年末調整で前職の源泉徴収票の提出が必要なときはしっかりと対応しよう
年末調整は所得税を正しく納めて、還付や控除を受けたり、足りない場合は追加で納税したりするために必要な業務です。
それに必要な源泉徴収票は、転職者は前の職場から受け取らなければなりません。源泉徴収票がない場合は企業側は年末調整ができず、従業員が自分で確定申告をすることになります。従業員には余裕をもってその旨を伝えるようにしましょう。
関連記事:年末調整で退職者がやるべき手続きを分かりやすく解説
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