電子契約に関する判例は既にある?|今から準備できることを徹底解説
契約を締結したのちにトラブルが発生した場合、裁判によって解決を試みることがあります。その際、証拠として機能するのが契約書です。しかし、近年は徐々に電子契約が普及しており、紙の契約書がないことも珍しくありません。
この記事では過去の判例を踏まえ、電子契約の法的な効力について解説します。万が一のトラブルに備え、今から準備すべきことも紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
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1.電子契約とは
電子契約とは、紙の契約書に代わってPDFなどのデータ形式で作成された電子契約書を用いる契約方式のことです。電子データは編集が容易であるため、「タイムスタンプ」と「電子署名」という2つの技術的な仕組みによって完全性を担保しています。
関連記事:電子契約とは?|メリットとデメリット、おすすめサービスを解説 | jinjerBlog
1-1.タイムスタンプ
タイムスタンプとは、その電子契約書の作成が完了した日時と、それ以降に編集が加えられていないことを証明するための仕組みのことです。仮に契約締結後に文書の改ざんが疑われたとしても、タイムスタンプに記録された情報と照らし合わせることでデータ編集の有無を確認できます。
電子契約書の非改ざんを証明する際に用いるのはタイムスタンプに記録された文書データのハッシュ値です。ハッシュ値とは関数によって付与されるその電子データ固有の数値であり、少しでもデータの改ざんがあれば値が変化します。
1-2.電子署名
電子署名とは、その名の通り電子契約書に付与する電子的な署名のことです。大きく分けると「当事者型」と「立会人型」の2種類があります。
当事者型は契約者本人の操作により電子証明書に基づく署名を付与する電子署名です。一方、立会人型は電子署名事業者がメール認証等を用いて本人確認をした後、当事者に代わって電子署名を付与します。
詳しい比較内容についてはこちらの記事をご確認ください。
関連記事:電子契約の立会人型、当事者型とは?メリット・デメリット、選び方を解説|jinjerBlog
2.電子データ・電子契約書の裁判における証拠力
電子データ・電子契約書の裁判における証拠力について解説します。紙や電子データなど媒体に関わらず、真正性が認められない契約書は民事訴訟の証拠として機能しません。
2-1.紙媒体と電子データのいずれも民事訴訟の証拠として有効性に差はない
現状、紙媒体と電子データいずれの形式であっても、民事訴訟の証拠としての有効性に差はないと考えられています。そもそも、契約において契約書の作成を義務付ける法律はなく、民事訴訟においても証拠として提出する契約書の媒体に関する規定はありません。
ビジネスにおけるペーパーレス化・非対面化ニーズの高まりを受け、現在では一部の契約(定期賃貸借契約など)を除いて全面的に電子契約が認められています。電子契約の普及に伴い、民事訴訟においても電子契約書が証拠として扱われる事例も増えていくことでしょう。
2-2.民事訴訟における契約書の「二段の推定」
民事訴訟の証拠として提出される契約書は「二段の推定」によって真正性が認められます。二段の推定とは、契約書の署名・押印に本人の意思があるかどうかの立証が事実上困難であることから、経験則に基づいて契約の真正性を推定することです。
民事訴訟法で「二段の推定」が認められる条件は「当事者型」と「立会人型」の2つがあり、基本的な考え方は以下のようになります。
当事者本人の印章によって顕出された印影があるときは、その印影は本人の意思によって顕出されたものとする(一段目の推定)
当人による署名・押印があるときは、その契約が真正に成立したものとする(二段目の推定)
この推定は「一般的に第三者が実印を持ち出して使用することはない」という経験則に基づいています。なお、法律における推定とは「反証がない限りその事象を事実として判断する」ことです。
つまり「実印が盗難にあっていた」「実印を第三者と共有していた」などの反証がない限り、署名・押印は本人の意思によるものと判断されます。これにより契約の真正性が証明され、契約書の証拠力が立証されるのです。
2-3.電子契約書で「二段の推定」が認められる条件
電子契約においても二段の推定の考え方は有効です。電子署名法第3条には「本人による電子署名がおこなわれているときは、真正に成立したものと推定する」と明記されています。
ただし、電子署名の場合はその署名が本人によっておこなわれたものであることを担保しなければなりません。例えば以下のような方法が挙げられます。
● 認証局による電子証明書を発行する
● 契約者本人が署名鍵を管理している
● 電子署名付与時に本人しか知り得ないパスワードを用いる
なお、立会人型の場合は第三者である電子署名事業者が署名を付与するため、条文との矛盾が生じてしまいます。この点について経済産業省では「本人の意思に基づいておこなわれたものであれば、本人による電子署名に該当する」と規定しており、現状の解釈では立会人型電子署名でも当事者型電子署名と同等の訴訟の証拠としなります。[注1]
[注1]利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等をおこなう電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法3条に関するQ&A)|経済産業省
関連記事:電子契約に関する法律を徹底解説|電子契約導入を検討している方向け
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3.電子契約に関する判例
電子契約の真正性が焦点となった実際の判例を2件紹介します。日本の民事訴訟において電子契約の真正性が問われた判例は少なく、また真正性が認められなかった事例もありません。しかし、電子契約の普及が進むにつれ訴訟の事例も増え、新たな解釈が生まれる可能性は十分に考えられます。
3-1.東京地裁令和1年7月10日貸金返還等請求事件判決
始めに紹介する判例が令和1年7月10日貸金返還請求事件判決です。この裁判では原告であるA社と被告であるB社双方が電子署名で締結した相互極度貸付契約の真正性が問われました。
事件の発端は債務者であるB社による貸付金の利息未払いです。債権者であるA社が支払いを求める訴訟を起こしたものの、B社は相互極度貸付契約の電子署名はA社が無断でおこなったものと主張。電子署名で締結された契約の真正性を裁判所が判断する形となりました。
裁判所はB社が貸付金の存在を前提とした事業活動を展開していたことを指摘し、相互極度貸付契約にはB社の同意があったものと認定しました。この判例では電子証明書の検証がおこなわれておらず、事実関係のみで裁判所が電子契約の真正性を認めたという点がポイントとなります。
3-2.東京地裁平成25年2月28日業務委託請求事件判決
続いて紹介する事例は平成25年2月28日業務委託請求事件判決です。この判例では通常の電子メールであっても契約成立の証拠になることを示しています。
広告業者であるC社は、得意先であるD社より電子メールで広告発注の依頼を受けました。しかし、D者はメールの内容は偽造であり、広告の発注はしていないと主張。C社を原告、D社を被告とし、電子メールによる業務委託契約の真正性を問う訴訟が起こされました。
裁判所は、該当の電子メールに偽造の痕跡が認められないことを理由に契約の成立は真正であると判断。この判例は電子契約書と比べて改ざん・偽造が容易な電子メールでも裁判所が契約の証拠として認めたことがポイントです。
3-3.電子契約書の証拠力が認められない可能性あり
電子契約書の証拠力は今後の判例次第で解釈が大きく変わる可能性もあります。ここで紹介した2件の判例だけ見ると、電子契約書の証拠力は極めて高いように思えるかもしれません。しかし、電子契約に関連する訴訟自体がそもそも少ないということも事実です。
今後、電子契約の普及に伴いより多くの事件やそれに対する判例が発生することが予想されます。電子契約書の証拠力が認められないという判例もいずれ出てくることでしょう。当然ながら自身がトラブルに巻き込まれる可能性もあるのです。
現時点での判例がないからと言って、現行の電子契約書の証拠力を全面的に信頼してはなりません。電子契約を導入するのであれば簡易的なものではなく電子証明書に基づいた本人性の高いサービスを利用しましょう。また、電子契約に関連する事件や判例の情報を収集することも大切です。
4.トラブル時に適切に対処する手段
万が一に備え、電子契約に関連するトラブルが発生した場合の対処方法を押さえておきましょう。基本的な対応は必要な情報を集めて契約書の証拠力を高めること、裁判官に自社で採用している電子契約の仕組みを理解してもらうことです。
4-1.相手の主張を把握
自社が関わる電子契約でトラブルが発生した際は、まずは相手方の主張を把握することが大切です。電子契約書の内容について不満や疑いを持たれているのであれば、具体的にどの部分を問題としているのかを確認しましょう。問題の該当箇所を明らかにすることで以降の対策も立てやすくなります。
4-2.証拠となるデータを電子媒体で用意
裁判所に提出する電子データは電子媒体にコピーして用意しましょう。例えば電子契約書であれば紙にプリントアウトするのではなく、データ形式で記録媒体に保存します。その際、データの改ざんを疑われないためハッシュ値を取得しておくことも忘れないようにしましょう。
4-3.裁判官に正しく主張を伝える
裁判を有利に進めるためには裁判官に自身の主張を正しく伝えることが重要です。しかし、電子契約のような比較的新しいIT技術が関連する訴訟では、裁判官がその仕組みを理解していない場合に合理的な判断を下してもらえない可能性も考えられます。
そのため、自社で導入している電子契約サービスの概要や、タイムスタンプなどの技術的側面を説明する資料は必須です。いざという時に備え、予めマニュアルを作成しておくようにしましょう。
4-4.認証局や電子署名事業者による陳述書の手配
自身の主張や電子契約のマニュアルだけでは十分な証拠力を立証できない場合、電子証明書を発行する認証局やサーバーを管理する電子署名事業者による陳述書が必要となるケースも考えられます。事業者によってはサービスの一環としてトラブルサポートの提供を実施していることもあるので、それも踏まえて導入する電子契約を選定しましょう。
また当然ですが、本章ではトラブルが起きた後の適切な対応について解説しましたが、リスクを事前に防ぐことが最も重要になります。
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5.トラブル対策のうえ、信頼性の高い電子契約サービスを導入しましょう
電子契約に関するトラブルの判例はいまだ少なく、現状確認できる判例のみを参考に電子契約のトラブル対策を制定するのは得策ではありません。今後電子契約が普及するにつれ、さまざまなトラブル、新たな法解釈が生まれることもあります。
今企業ができることは、少しでも信頼性の高い電子契約サービスを導入すること、そして国内外から電子契約に関するトラブルの事例を収集し、有効な対策を練ることです。
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