従業員が異動希望を出す理由は、キャリアアップの実現や家庭の事情などさまざまです。会社は異動理由を正確に把握して、異動を通すか判断しなくてはなりません。

本記事では、異動希望を従業員が出す理由や希望を通しやすい人の特徴、希望を通す重要性を解説します。異動希望を出された際の対応方法や通さない場合の注意点も解説しているため、人事担当の方は、ぜひ参考にしてください。

1. 異動希望を従業員が出す理由とは？

異動希望を従業員が出す理由として、以下が挙げられます。

• キャリアアップを目指したいから
• 業務内容に不満があるから
• 人間関係にトラブルを抱えているから
• 家庭の事情で働き方を変えたいから

それぞれの理由について見ていきましょう。

1-1. キャリアアップを目指したいから

従業員が異動希望を出す理由の一つは、キャリアアップを目指したいからです。自身のキャリアプランにもとづいて、新しいスキルや知識を習得できる部署への異動を希望します。

現在の部署では経験できない業務に挑戦したい、マネジメントスキルを磨きたいなどの理由が考えられるでしょう。

1-2. 業務内容に不満があるから

従業員が異動希望を出す理由として、現在の業務内容に不満があるケースも少なくありません。業務内容が自身のスキルや興味と合わない、業務量が多すぎるなどの理由が考えられるでしょう。

同じ業務を数年間続けていることで仕事に飽きて、バーンアウト（燃え尽き症候群）に陥っている可能性もあります。

1-3. 人間関係にトラブルを抱えているから

従業員が異動希望を出す理由として、人間関係のトラブルも挙げられます。上司や同僚と相性が悪い、ハラスメントを受けているなどが原因で従業員がストレスを感じ、異動を希望することがあるからです。

人間関係に大きなトラブルがなくても、部署内で自分の意見が通らないことで孤立感を抱えている場合もあります

1-4. 家庭の事情で働き方を変えたいから

家庭の事情で働き方を変えたいことも従業員が異動希望を出す理由です。育児や介護などが原因で、勤務時間や勤務場所の変更を希望する場合があります。

近年、働き方改革やワークライフバランスが注目されていることもあり、家庭と仕事の両立を理由に異動を希望する従業員が増える可能性があるでしょう。

2. 人事が「通しやすい」と感じる異動希望者の特徴

従業員のやる気や意思を尊重することは大切ですが、異動が会社にとって不利益とならないよう、人事担当者は慎重に判断しなくてはいけません。ここでは、異動希望を通すか判断するにあたり、人事担当者が見るべきポイントをご紹介します。

2-1. 異動後にどう貢献できるかが明確

異動希望を通しやすい人とは、「異動先で自分がどう貢献できるか」を具体的に示せる人です。単なる希望や気持ちだけでなく、スキルや経験をどのように活かせるか、業務との関連性を踏まえて語れることが重要です。

異動先の業務を正しく理解しており、即戦力としての期待を持たせられる人は、現場でも歓迎されやすくなるでしょう。

2-2. 評価・実績が安定しており信頼できる

異動希望者の評価や実績が社内で一定の水準に達していることは、人事としても安心材料の一つです。過去の勤務態度や成果に対する信頼があれば、異動先でも安定して力を発揮してくれると見込めます。

また、既存の部署でもしっかり取り組んできたという実績は、異動が単なる逃げや気分転換ではないことを示す裏付けにもなるでしょう。

2-3. 高いコミュニケーション能力や柔軟性がある

異動後の環境では、新しい人間関係や業務への適応が求められるため、コミュニケーション力や柔軟性は重要な評価ポイントです。異動先でスムーズに関係構築できる人は、組織に早くなじみ、成果にもつながりやすくなります。

また、変化に前向きで、自分の役割を柔軟に捉えられる人材は、部署をまたいだ柔軟な人事配置にも適した人材として評価されやすい傾向があります。

3. 異動希望を通すメリットや重要性

異動希望は「従業員の甘えやわがまま」として捉えられがちですが、建設的に捉えることで企業の成長につながったり、リスクを回避したりできるメリットがあります。

具体的に従業員の異動希望を通すメリットや重要性は、以下のとおりです。

• 従業員のキャリア形成を支援できる
• 従業員のモチベーションが向上する
• 従業員のストレスを軽減できる
• 従業員の離職防止につながる

それぞれ詳しく説明します。

3-1. 従業員のキャリア形成を支援できる

異動希望を叶えることは、従業員のキャリア形成を支援するうえで重要です。従業員が自身のキャリアプランにもとづいて異動を希望している場合は、長期的なキャリア目標に向かって努力できます。

部署異動により新しい経験やスキルの取得ができれば、従業員の成長の幅が広がるでしょう。

従業員のキャリア形成を支援することは組織の成長にもつながるため、会社にとってのメリットも大きいといえます。

3-2. 従業員のモチベーションが向上する

異動希望を通すことは、従業員のモチベーション向上につながります。従業員が希望した部署で新しい仕事に挑戦できるため、仕事への意欲を高められるからです。

異動を通じて新しいスキルや知識を習得できれば、従業員は自身の能力に対する自信を深められるでしょう。

従業員のモチベーションを高めることで、組織全体のパフォーマンスを向上させる効果が期待できます。

3-3. 従業員のストレスを軽減できる

異動希望を受け入れることで、従業員のストレスを軽減できる可能性があります。上司と相性が悪かったり仕事内容に不満を持っていたりする従業員にとって、異動は環境を変える絶好の機会です。

新しい環境で仕事に挑戦することで、ストレスから解放されることがあります。心身の健康状態が改善され、従業員が仕事に集中できるようになるため、生産性の向上にも貢献するでしょう。

3-4. 従業員の離職防止につながる

異動希望を実現させることで、従業員の離職防止につながります。従業員が職場に不満を感じて退職するリスクが抑えられるからです。

自身のキャリアプランや成長の機会が会社で提供されないと感じた場合、従業員が転職を検討する可能性があります。

従業員の希望を尊重することで、会社への信頼感や帰属意識が高まり、離職率の低下につながるでしょう。

4. 異動希望を出された際の対応方法

従業員の異動希望を出された際の対応方法は、以下のとおりです。

• 異動希望の理由を正確に把握する
• 事情を考慮して柔軟に対応する
• 代替案を提示する

それぞれ詳しく説明します。

4-1. 異動希望の理由を正確に把握する

従業員に異動希望を出された場合、まずは理由を正確に把握することが重要です。従業員は、キャリアアップや人間関係のトラブルなど、さまざまな理由で異動を希望します。

理由を正確に把握しなければ適切な対応ができず、従業員の不満や不安を解消できません。従業員との面談を実施して、異動希望の具体的な理由を丁寧に聞き取りましょう。従業員が話しやすい雰囲気を作り、本音を引き出すことが大切です。

また、従業員が抱える問題点を客観的に把握するために、周囲の同僚や上司にヒアリングをおこないましょう。ヒアリングの際は、従業員の相談内容がほかの従業員に漏れないよう注意する必要があります。

4-2. 事情を考慮して柔軟に対応する

異動希望の理由を正確に把握したら、従業員の事情を考慮して柔軟に対応しましょう。基本的には本人の希望を優先することが大切です。

従業員の異動希望は、会社の都合と一致するとは限りません。しかし、従業員の事情を無視して一方的に判断すると、従業員のモチベーションが低下し離職につながる可能性があります。

従業員の成長やモチベーション向上などが期待できる場合は、異動希望が実現できるように各部署に働きかけましょう。異動を希望する理由が不明瞭、不適切な場合は、異動希望を通さない判断をすることも必要です。

従業員のフォロー体制を整えて、異動希望を通さない場合も適切に対処しましょう。

4-3. 代替案を提示する

異動希望の理由によっては、代替案を提示しましょう。部署を異動するのではなく別の手段を検討したほうがよい場面もあるからです。

例えば、家庭の事情により異動を希望している場合、テレワークや時短勤務などを活用することで従業員の悩みを解決できる可能性があります。

従業員が過剰なストレスを抱えているならば、部署異動ではなく病気休暇や休職を進めたほうが、従業員のメンタルヘルスケアにつながる場合もあるでしょう。

場合によっては、会社にある制度を利用して従業員の悩みを解消することも必要になります。

5. 異動希望を通さない場合の注意点

異動希望を通さない場合、以下の点に注意しましょう。

• 従業員が納得できる説明をする
• メンタルヘルス不調に注意する

それぞれの注意点について詳しく説明します。

5-1. 従業員が納得できる説明をする

異動希望を通さない場合は、従業員が納得できる説明をすることが大切です。一方的に異動希望を却下すると、従業員が不満や不信感を抱き、モチベーション低下や離職につながる可能性があります。

フォロー面談を実施して、異動先の部署に空きがない、従業員のスキルや経験が異動先の業務に合わないなど具体的な理由を丁寧に説明しましょう。

将来的な異動の可能性や現在の部署でキャリアアップできる道筋を提示すると、従業員が納得しやすくなります。

5-2. メンタルヘルス不調に注意する

従業員のメンタルヘルス不調に注意することも重要です。異動希望の理由が業務内容や人間関係のストレスである場合、従業員の心身が悪化する可能性があります。

面談やアンケート調査を実施して、従業員の健康状態を確認しましょう。相談窓口を設置したり、産業医やカウンセラーとの連携を強化したりすることも大切です。

メンタルヘルス不調は、従業員の健康状態を悪化させ、休職や退職につながる可能性もあります。従業員の健康を守るためにも、適切な対応を心がけましょう。

6. 異動希望の理由を把握して従業員に適切な対応をしよう

従業員が異動希望を出す理由は人間関係のトラブルや業務内容の不満などが挙げられます。適切に対応するには、理由を正確に把握することが重要です。

異動希望を通すことは、従業員だけでなく会社にもメリットがあります。従業員のモチベーション向上や離職防止により、会社の成長が期待できるでしょう。

異動希望を通さない場合は、従業員のフォローをすることが大切です。従業員に悪影響を与えないよう適切に対処しましょう。