労使協定方式とは?均等均衡方式との違いや派遣労働者の賃金水準を解説
更新日: 2025.8.25 公開日: 2022.2.5 jinjer Blog 編集部

同一労働同一賃金を実現する「労使協定方式」とは、派遣元企業が適正に選出した労働者代表と労使協定を締結し、その内容に基づいて派遣労働者の待遇を決定する方式です。
労働者派遣法では、不合理な待遇差をなくすため、派遣元企業は「労使協定方式」または「派遣先均等・均衡方式」のいずれかを選択し、適切に運用することが義務付けられています。
本記事では、労使協定方式の仕組みや協定のポイント、メリット・デメリット、賃金水準の設定方法についてわかりやすく解説します。
関連記事:労使協定とは?種類や労働協約・就業規則との違い、届出義務に違反した場合を解説
目次
意図せず不合理な待遇差を放置してしまうと、思わぬ労使トラブルに発展する可能性があります。
企業の信頼性を守るためにも、客観的な視点での定期的な見直しが不可欠です。
◆押さえておくべき法的ポイント
- 「均衡待遇」と「均等待遇」の判断基準
- 企業に課される「待遇に関する説明義務」の範囲
- 万が一の紛争解決手続き「行政ADR」の概要
最新の法令に対応した盤石な体制を構築するために参考になりますので、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. 同一労働同一賃金における労使協定方式とは?


派遣労働者の待遇については、「同一労働同一賃金」の原則に基づき、派遣元事業主が「労使協定方式」または「派遣先均等・均衡方式」のいずれかを選択し、明確に定めることが労働者派遣法により義務付けられています。
いずれの方式も、同一労働同一賃金を実現するための法令に基づく正式な取り決めであり、どちらの方式も選ばないということはできません。ここからは、労使協定方式とはどのような仕組みなのか、派遣先均等・均衡方式との違いも踏まえて詳しく紹介します。
1-1. 労使協定に基づいて派遣労働者の待遇を決める仕組み
労使協定方式とは、労働者派遣法第30条の4に基づき、派遣元企業が自社の労使間で締結した協定に基づいて、派遣労働者の賃金などの待遇を決定する方式です。この方式では、派遣先の待遇に左右されず、派遣元の協定に従って公平に待遇が決定される点が特徴です。
労使協定の締結にあたっては、派遣元の全労働者の過半数を代表する者、または労働組合と使用者との間で書面による協定を交わす必要があります。なお、協定内容に不備がある、または法的要件を満たしていない場合、その協定は無効とされ、労使協定方式は適用できません。その場合は、もう一方の「派遣先均等・均衡方式」によって、派遣先の通常の労働者との待遇比較に基づいて処遇が決定されることになります。
参考:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(労働者派遣法)第30条の4|e-Gov法令検索
1-2. 派遣先均等・均衡方式との違いとは?
派遣先均等・均衡方式とは、労働者派遣法第30条の3に基づき、派遣先企業で働く通常の労働者(正社員など)の待遇を基準にして、派遣社員の賃金などの待遇を決定する方式です。なお「均等」は、同じ業務内容・責任範囲などであれば、差別的な取扱いをせず、同じ待遇を受けられるべきことを意味し、「均衡」は、業務内容や責任に違いがある場合でも、不合理な待遇差がないようにすることを意味します。
労使協定方式が派遣元との協定で待遇を決定するのに対し、派遣先均等・均衡方式では派遣先企業の実態を基に処遇が決まるという大きな違いがあります。なお、どちらの方式を採用する場合でも、派遣先企業は自社の通常の労働者の待遇情報(賃金、賞与、手当、昇給制度など)を派遣元企業に提供しなければなりません。加えて、派遣元企業は派遣労働者に対し、待遇の内容や待遇差の理由などを個別に説明することが法令で義務付けられています。
参考:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(労働者派遣法)第30条の3|e-Gov法令検索
2. 労使協定方式のメリット・デメリット


労使協定方式にはさまざまなメリット・デメリットがあります。ここからは、派遣社員・派遣先・派遣元企業に分けて、メリット・デメリットを解説します。
2-1. 派遣社員のメリット・デメリット
メリット
派遣社員の立場からすると、労使協定方式、派遣先均等・均衡方式どちらもメリットの方が大きいのがポイントです。労使協定方式では一定水準以上の賃金を確保できるうえに、労使協定で定めたルールが適用されるため、よりよい労働環境で働ける可能性があります。一方で派遣先均等・均衡方式でも、派遣先の社員と同じ待遇で働けるほか、派遣元企業の労使協定で定められるよりもさらに高い賃金を確保できる可能性もあります。
デメリット
労使協定方式では、一度定められた待遇が協定の有効期間中は原則として固定されることになります。そのため、協定の内容が最低水準にとどまるような場合、派遣労働者にとって不利な条件が長期間続く恐れがあるのです。また、同じ業務を担当している派遣先企業の正社員と派遣労働者との間に賃金格差が生じるケースもあり、それが心理的な不公平感や職場全体のパフォーマンスに影響を与えるリスクも指摘されています。
2-2. 派遣先企業のメリット・デメリット
メリット
派遣先企業にとっては、労使協定方式を選択している場合、派遣元が労働者代表と労使協定を締結することで派遣労働者の待遇を決定するため、派遣元への情報開示の負担が少なくてすむというメリットがあります。
一方、派遣先均等・均衡方式では、派遣元が派遣社員の待遇を決定するにあたり、派遣先の通常の労働者(比較対象労働者)の待遇情報を基準としなければなりません。そのため、派遣先企業は比較対象労働者を選定したうえで、その詳細な待遇情報を派遣元に提供しなければならず、管理・対応の負担が大きくなる可能性があります。
デメリット
派遣先企業にとっては、労使協定方式を選択した場合、協定内容が自社のニーズに必ずしも合致しないことがあり、業務に必要なスキルや経験を持つ人材の確保が難しくなることがあります。派遣元との情報共有や調整が不十分であれば、ミスマッチが生じ、業務に支障をきたす可能性も考えられるでしょう。また、派遣労働者の評価や処遇が派遣元の基準に依存するため、派遣先企業としては自社の評価を直接反映させにくく、外部要因に左右されやすいという側面もあります。
2-3. 派遣元企業のメリット・デメリット
メリット
派遣元企業のメリットは、労使協定方式を採用することで、厚生労働省が公表する職種・地域別の賃金統計に基づき、一定の基準を満たしたうえで自社の裁量により待遇を決定することが可能な点です。派遣先企業の個別の待遇情報に依存せずに制度設計できるため、運用の柔軟性が高まるという利点があります。ただし、派遣先企業によっては通常の労働者の待遇が高水準な場合もあり、労使協定方式を選択すると、派遣先均等・均衡方式と比べて派遣労働者の待遇が低くなるケースもあるので、慎重な判断が求められます。
デメリット
労使協定方式では、一度決めた待遇は協定の有効期間中、基本的に変更ができないため、派遣労働者一人ひとりの事情や職場環境の変化に柔軟に対応しにくい側面があります。その結果、派遣労働者に不満が生じやすくなり、定着率の低下や意欲の減退につながる恐れがあります。最終的には、企業にとっても生産性の低下やコスト増といった不利益を招く可能性があるでしょう。
また、労使協定方式を採用する場合、協定内容を定期的に見直し、改定する必要があるため、企業には一定の時間と労力が求められます。また、協定の締結にあたっては、労働者の意見を反映する必要があり、労使の意見が対立すれば協議が長期化し、企業活動に影響が出ることもあるでしょう。加えて、協定を適切に運用するには、高度な労務管理能力や法令理解が求められ、労働者への説明や合意形成においても手間がかかります。
このように、労働条件や環境を明確に定められる労使協定方式には、派遣労働者・派遣先企業・派遣元企業それぞれにとってメリットとデメリットの両面があります。
3. 労使協定に定めるべき事項


労使協定方式を採用する場合において、労使協定に定めるべき主要な事項は次の通りです。
- 派遣労働者の範囲
- 賃金の決定方法
- 労使協定の対象とならない待遇と賃金を除く待遇の決定方法
- 教育訓練の実施について
- 有効期間等
ここからは、それぞれの記載事項について詳しく紹介します。
3-1. 派遣労働者の範囲
労使協定方式を採用する際には、その適用対象となる派遣労働者の範囲を定める必要があります。例えば、営業職とシステムエンジニア職の派遣労働者に限定して協定を締結した場合、それ以外の職種(例:一般事務職など)には労使協定方式は適用されず、派遣先均等・均衡方式が適用されることになります。なお、労使協定の対象となる派遣労働者の範囲を一部に限定する場合はその理由なども明示しなければなりません。
3-2. 賃金の決定方法
賃金の決定方法を具体的に定める必要があります。その際、下記の条件を満たす必要があります。
②賃金の決定方法(次のア及びイに該当するものに限る。)
ア 派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金の額と同等以上の賃金額となるもの
イ 派遣労働者の職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等の向上があった場合に賃金が改善されるもの
※イについては、職務の内容に密接に関連して支払われる賃金以外の賃金(例えば、通勤手当、家族手当、住宅手当、別居手当、子女教育手当)を除く。
③派遣労働者の職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等を公正に評価して賃金を決定すること
3-3. 労使協定の対象とならない待遇と賃金を除く待遇の決定方法
労使協定の対象とならない待遇(労働者派遣法第40条で定められる教育訓練および福利厚生施設)と賃金を除く待遇の決定方法についても具体的に定める必要があります。なお、派遣元に雇用されている通常の労働者(派遣労働者を除く)との間で不合理な相違がないようにすることが求められます。
3-4. 教育訓練の実施について
労使協定方式を採用する場合、派遣労働者の能力向上や長期的なキャリア形成を支援することを目的として、段階的かつ体系的な教育訓練の実施内容を協定に定める必要があります。
3-5. 有効期間等
労使協定の有効期間(目安として2年以内が望ましい)を定めなければなりません。そのほか、特段の事情がない限り、一の労働契約期間中に派遣先の変更を理由として、その労働者を協定の対象から除外しない旨も定める必要があります。
参考:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(労働者派遣法)第30条の4|e-Gov法令検索
参考:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行規則(労働者派遣法施行規則)第25条の10|e-Gov法令検索
4. 労使協定方式による一般賃金の算出方法


労使協定方式を採用する場合、派遣社員の賃金は一般賃金の同等以上の賃金を設定しなくてはいけません。そのため、派遣社員の賃金を決定する前に、一般賃金を算出しておく必要があります。
ここでは、3つの一般賃金「基本給や賞与等」「通勤費」「退職金」の計算方法の概要をそれぞれ解説します。
4-1. 基本給や賞与等の算出方法
基本給や賞与等は、「基準値 × 能力・経験調整指数 × 地域指数」の計算式を用いて金額を求めます。それぞれの指標の概要については以下の通りです。
|
指標 |
概要 |
|
基準値 |
厚生労働省が公表している「賃金構造基本統計調査」または「職業安定業務統計」を使って基準値を求めます。資料の使い分けに関しては、派遣社員が実際に従事する職種により近い方を選択するのがポイントです。 |
|
能力・経験調整指数 |
基準値に能力や経験値を加味した指標です。「賃金構造基本統計調査」または「職業安定業務統計」上において、基準値に能力・経験調整指数を乗じて算出した金額が掲載されているので、所定の年数に応じた金額を選択します。 年数を選択する際は、派遣社員の能力や経験が一般の労働者の勤続何年目に相当するかに配慮して選択しなくてはなりません。能力・経験調整指数の年数は、単純に勤続年数を表すものではない点に注意が必要です。 |
|
地域指数 |
派遣先の所在地を含む「都道府県別の指数」または「ハローワーク管轄地域別の指数」いずれかを選択することができます。ただし、どちらの指数は使うかは、労使間の協議によって決めなくてはいけません。 |
4-2. 通勤費の算出方法
実費支給であれば、支給した金額を一般通勤手当と同等以上としてみなすことが可能です。
もし、上限を設けている場合には、通勤手当の最低額以上を支給しなくてはならず、労働1時間あたり71円と同等以上に設定する必要があります。なお、通勤手当の最低額は毎年変動するため、上限を設ける際には注意しましょう。
4-3. 退職金の算出方法
退職金に関しては、次の表にある3つの方法から選択することが可能です。
|
退職金の算出方法 |
概要 |
|
退職金前払いの方法 |
基本給・賞与等の6%以上に相当する額を、退職金として毎月の給与に上乗せして前払いする方法です。この6%という値は局長通達で決められており、これを下回ることはできません。 |
|
中小企業退職金共済制度に加入する方法 |
基本給・賞与等の6%以上に相当する額を毎月掛金として積み立てていき、派遣社員が退職した際に中小企業退職金共済から退職金が支払われるシステムです。国による非課税適用などのメリットが得られます。 |
|
退職制度の方法 |
派遣元であらかじめ設定している退職制度を派遣社員にも適用させる方法です。この場合は、局長通達で公表されている一般退職金に関する資料等を用い、最低勤続年数及び支給月数の相場と照らし合わせて、基準が上回っているようであれば適用させることができます。 |
4-4. 賃金テーブルの設定
労使協定方式を採用した場合は、以上の手順に従って派遣社員の賃金を設定していきましょう。派遣元企業は派遣社員からの求めに応じて、賃金に関する説明をおこなう義務を負っています。そのため、いつでも説明がおこなえるように、賃金テーブルも合せて用意しておくのが望ましいでしょう。
5. 労使協定方式におけて派遣元企業が対応すべきポイント


ここまでで労使協定方式の基礎知識を解説してきました。ここからは、実際に労使協定方式を導入する際に、派遣元企業が把握しておくべき重要なポイントについて解説していきます。
5-1. 派遣社員の賃金を確認する
派遣元企業が最初におこなうべきことは、派遣社員の賃金水準を正確に確認することです。労使協定方式を採用する場合は、職業安定業務統計などを参考にして「一般賃金(職種別の平均的賃金水準)」以上となるように賃金を設定しなければなりません。
また、労働者代表との書面協定を通じて、スキル・経験・職務内容なども考慮し、公正かつ透明性のある方法で賃金を決定します。なお、基本給だけでなく、通勤手当や各種手当などの支給内容も含めて確認し、派遣社員に適切で公平な待遇を提供することが求められます。
5-2. 労使協定案を作成する
労使協定案とは、派遣元企業が「適切に選出された労働者代表」と締結する労使協定の草案(下書き)を指します。この協定には、派遣労働者の賃金水準や待遇条件などが明記されます。厚生労働省が公表している協定書の雛形を活用すれば、必要項目の漏れを防ぎ、効率的に作成できるでしょう。正式に協定を締結し運用することで、派遣労働者に対して公正な賃金や待遇の確保が図られます。
記載事項が網羅されていることを確認する
労使協定方式を採用する際、協定書に法定の記載事項がすべて網羅されていることを確認することが重要です。労使協定の対象となる派遣労働者の範囲、賃金や待遇の決定方法、評価方法、有効期間などは、労働者派遣法およびその施行規則で定められており、適切に記載されていない場合には協定が無効とみなされる恐れがあります。派遣労働者とのトラブルを未然に防ぐとともに、行政指導を受けるリスクを避けるためにも、これらの事項を正確かつわかりやすく記載することが求められます。
派遣先企業に待遇の内容を確認する
労使協定方式において派遣元企業が対応すべき重要なポイントの一つが、派遣先企業における待遇内容の確認です。派遣先が提供している福利厚生施設や教育訓練の内容を把握することで、派遣労働者に対して不合理な待遇差が生じないように労使協定に反映させましょう。
特に福利厚生施設の利用や教育訓練の内容については、派遣先と同等またはそれに相当する内容を派遣元で提供することが望ましく、協定書にもその具体的な内容を記載する必要があります。適切な待遇を整備すれば、派遣労働者の就業満足度や定着率の向上にもつながり、安定的な派遣就業環境の構築に寄与するでしょう。
5-3. 過半数代表者を選出する
労使協定方式を採用する際、派遣元企業において従業員の過半数を組織する労働組合が存在しない場合には、派遣元に雇用されている労働者の中から、適正な手続きにより過半数代表者を選出する必要があります。
この過半数代表者は、労使協定の締結を目的とすることを明らかにしたうえで、投票や挙手などの民主的な方法で選出されなければなりません。なお、労働基準法上の管理監督者を、過半数代表者に選出することはできないので注意しましょう。
参考:派遣労働者の「同一労働同一賃金」過半数代表者の適切な選出手続きを~選出するにあたっての5つのポイントをご紹介します~|厚生労働省
5-4. 労使協定を締結・周知する
選出された労働者代表と派遣元企業の間で協議をおこない、法令に定められた内容に基づく労使協定を結びます。締結された労使協定は、正しく労働者に周知する必要があります。
書面交付やイントラネット掲載、説明会などを通じてわかりやすく伝えましょう。これにより、派遣労働者が自身の待遇を正しく理解し、安心して働ける職場環境の構築につながります。
5-5. 行政機関への報告(提出・届出)
労使協定の締結後、派遣元企業は毎年度提出すべき事業報告書にこの労使協定を添付して届出をする必要があります。また、労使協定方式の対象となる派遣労働者の職種ごとの人数および賃金額の平均額を報告しなければなりません。
6. 労使協定方式において派遣先企業が対応すべきポイント


派遣元が労使協定方式を採用していた場合、派遣先にとっては情報開示する項目が少ないというメリットがあるものの、いくつか留意しなくてはいけないポイントがあります。
ここでは、派遣先が特に押さえておくべきポイントについてご紹介します。
6-1. 派遣料金交渉への配慮
派遣先企業は、同一労働同一賃金に基づく待遇が確保できるように、派遣料金に関して配慮することが労働者派遣法第26条第11項によって義務付けられています。
そのため、派遣元から派遣料金に関する改善の求めを受けた際に、これに応じないことは行政指導の対象となる可能性があります。特に一般賃金が改訂された際は、労使協定方式では一般賃金の同等額以上の賃金を支給する必要があることから、派遣料金の見直し依頼に対して誠実に対応する必要があるでしょう。
参考:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(労働者派遣法)第26条|e-Gov法令検索
6-2. 派遣元への待遇情報の提供
労使協定方式、派遣先均等・均衡方式のどちらを採用していたとしても、派遣元への情報開示は必要です。労使協定方式では福利厚生施設や教育訓練に関する情報、派遣先均等・均衡方式では職務内容や配置変更の範囲など待遇に関する情報を、派遣元が採用している方式に合わせて情報開示をおこないましょう。
6-3. 業務遂行に必要な能力を養うための教育訓練
労使協定方式を適用する場合、賃金以外の待遇は派遣先の通常の労働者と均等・均衡な待遇を確保しなければなりません。これに伴い、派遣先企業は派遣元に「教育訓練」と「福利厚生施設」の情報を提供する必要があります。
労働者派遣法第40条に基づき教育訓練のうち、派遣労働者に対して業務遂行に必要な能力を付与するための訓練については、派遣元から求めがあったときは、派遣元が実施可能な場合などを除き、派遣先が派遣労働者に対して必要な措置を取らなければなりません。
参考:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(労働者派遣法)第40条|e-Gov法令検索
6-4. 福利厚生施設の利用機会の提供
労働者派遣法第40条に基づき、以下に該当する福利厚生施設について、派遣先は派遣労働者にも通常の労働者と同様に利用の機会を与えなければなりません。
- 給食施設(食堂)
- 休憩室
- 更衣室(ロッカールーム)
また、派遣先が設置・運営し、通常の労働者が利用している物品販売所、娯楽室、保養施設などについても、派遣労働者が利用できるよう便宜を図るように配慮することが望まれます。
参考:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(労働者派遣法)第40条|e-Gov法令検索
7. 労使協定方式を正しく理解して働きやすい環境をつくろう


労使協定方式とは、派遣元企業が適正に選出された労働者代表と締結する労使協定に基づいて、派遣労働者の待遇を決定する方式です。一方、派遣先均等・均衡方式は、派遣先企業の通常の労働者と比較し、職務内容・責任の程度・成果などに応じて待遇の均等・均衡を確保する方式です。労働者派遣法では、派遣元企業はこれらいずれかの方式を選択して適切に運用することが義務付けられています。
労使協定方式は、職種別の一般賃金をもとに賃金を設定することで、派遣労働者間の待遇に一定の基準が設けられるという利点があります。ただし、協定が法令で定められた記載事項を満たさない場合や、適正な手続きが踏まれていない場合は、その労使協定は無効とされ、派遣先均等・均衡方式により待遇を決定しなければならなくなる可能性があるので注意しましょう。



意図せず不合理な待遇差を放置してしまうと、思わぬ労使トラブルに発展する可能性があります。
企業の信頼性を守るためにも、客観的な視点での定期的な見直しが不可欠です。
◆押さえておくべき法的ポイント
- 「均衡待遇」と「均等待遇」の判断基準
- 企業に課される「待遇に関する説明義務」の範囲
- 万が一の紛争解決手続き「行政ADR」の概要
最新の法令に対応した盤石な体制を構築するために参考になりますので、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
人事・労務管理のピックアップ
-


【採用担当者必読】入社手続きのフロー完全マニュアルを公開
人事・労務管理公開日:2020.12.09更新日:2025.10.17
-


人事総務担当がおこなう退職手続きの流れや注意すべきトラブルとは
人事・労務管理公開日:2022.03.12更新日:2025.09.25
-


雇用契約を更新しない場合の正当な理由とは?伝え方・通知方法も紹介!
人事・労務管理公開日:2020.11.18更新日:2025.10.09
-


社会保険適用拡大とは?2024年10月の法改正や今後の動向、50人以下の企業の対応を解説
人事・労務管理公開日:2022.04.14更新日:2025.10.09
-


健康保険厚生年金保険被保険者資格取得届とは?手続きの流れや注意点
人事・労務管理公開日:2022.01.17更新日:2025.11.21
-


同一労働同一賃金で中小企業が受ける影響や対応しない場合のリスクを解説
人事・労務管理公開日:2022.01.22更新日:2025.08.26
同一労働同一賃金の関連記事
-


同一労働同一賃金で業務における責任の程度はどう変化する?
人事・労務管理公開日:2022.02.04更新日:2025.08.26
-


同一労働同一賃金における60歳以上の定年後再雇用の扱いとは
人事・労務管理公開日:2022.02.03更新日:2025.09.10
-


同一労働同一賃金での慶弔見舞金の扱いとは?考え方も解説
人事・労務管理公開日:2022.02.02更新日:2024.07.31















