人的資本経営とは?必要とされる理由やメリットをわかりやすく紹介
更新日: 2024.10.25
公開日: 2024.2.29
OHSUGI
「人的資本経営とは具体的にどういう経営方法?」
「人的資本経営のメリットは?」
「人的資本経営を実践するためには?」
上記の疑問をお持ちではありませんか。
人的資本経営は「世界的なサステナビリティへの関心の高まり」「労働人口の減少や働き方の多様化」に対応できる戦略です。生産性をアップするだけでなく、企業価値を高めるためにも必要でしょう。
この記事では、人的資本経営の基礎知識やメリット、実践する際に必要な要素と流れについて解説します。経営者や人事担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
昨今では、少子高齢化による労働人口の減少が年々激化しており、今後の採用・人材確保はますます難しくなるばかりです。
そんな中で、従業員の定着率をいかに上げるのかという課題が企業各社を悩ませる問題になっており、従業員の待遇改善のため、ボーナスや給与のベースアップを試みたとしても、
「そもそも物価高騰も進む中で、会社にもそんなに余裕はないし、単純な賃上げでは持続性がない...」
「支給額の分だけ税負担が増えるため、従業員の手取りは増えずに、思ったよりも効果が出ない」このように、会社の負担額は増える一方なのに、従業員満足度は上がらないという結果に陥りやすいのが現状です。
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1. 人的資本経営とは
人的資本経営とは、「人材は資本」と考える経営のあり方です。具体的には、人間が持つ知識・経験・資質などを資本として考えます。人材の確保は投資であり、一人ひとりの能力を引き出し、最大限に活用することで生産性のアップを目指す考え方です。
人材を有効に活用するためには、スキル・実績・人柄などの情報を一元管理する必要があります。各従業員の能力を最大限に引き出すための育成や配置をおこなうことも、戦略のひとつです。
世界的に取り組まれているSDGsの観点でも後押しされている経営手段で、成功すれば企業としての価値も向上するでしょう。
日本で注目されたのは、経済産業省が開催した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」の報告書「人材版伊藤レポート」がきっかけです。
2. 人的資本経営が必要とされる理由
近年、人的資本経営が必要とされている理由は以下になります。
- 人手不足と働き方の多様化
- サスティナビリティの動向の高まり
- 技術の進歩による市場の成熟
それぞれの理由を詳しく解説していきます。
2-1. 人手不足と働き方の多様化
近年では、人手不足と働き方の多様化が進んでいます。少子高齢化により労働人口が減少し、働き手が慢性的に不足している企業は多いです。とくに優秀な人材の確保は難しくなっています。
求人によって人材を確保するだけでは、人手不足を解消することは難しいでしょう。
働き方の多様化も進み、オフィスや現場で働くだけでなくテレワークが増加したのも人的資本経営が必要となった理由のひとつです。
人的資本経営は、人材育成に力を注ぎます。能力が発揮できていない既存の従業員のスキルを上げ最大限に活用することで、人手不足の緩和が期待できるでしょう。
多様な働き手・多様な働き方に対応するためにも、徹底した人材の情報管理をおこなうことで、一人ひとりに合わせた環境や体制が整えられます。
2-2. サスティナビリティの動向の高まり
近年では、世界中でサステナビリティへの関心が高まっています。SDGsの目標8は「働きがいも経済成長も」となっており、多様な人々が働ける職場づくりが課題です。人的資本経営は、世界の動きに合致しているといえるでしょう。
クライアントや株主、行政機関など企業との利害関係者であるステークホルダーが注目しているのも企業の持続可能性です。企業を評価するための情報として、情報開示を求める傾向が進んでいます。
2-3. 技術の進歩による市場の成熟
技術が進歩したことで、多くの企業でAIなどのテクノロジーが導入されています。そのため、企業は競合他社と技術だけで差別化を図るのが難しくなっています。このような背景において重要になるのは革新的なアイディアを思いつく人的資本の活用です。自社の人的資本を最大限に活かすための手段として人的資本経営が注目されています。
3. 人的資本経営と従来の経営方法の違い
従来の経営方法との違いは、従来の経営方法では人材が「資源」と考えることに対し、人的資本経営では人材が「資本」であるところです。
双方の主な違いを以下の表にまとめました。
人的資本経営 | 人的資源経営(従来型) | |
人材とは | 資本(投資対象)
リターンが得られるもの |
資源(コスト)
消費するもの |
人材マネジメントの目的 | 人材の価値を上げるため | 費用対効果を高めるため |
人事を担当する部署 | 経営層 | 人事部 |
雇用の特徴 | 企業と人材は選び選ばれる関係 | 企業が終身雇用により人材を囲い込む |
外部への情報発信 | 人材へ投資している状況を積極的に発信する | とくに積極的ではない |
従来の人的資源経営には、「人材にかかる費用を最小限にする」考え方があります。具体例は、人材が必要であれば確保し、必要でなくなれば人材を減らす方法です。
一方で人的資本経営では人材の確保を投資と考えます。人材に育成資金をかけ、価値を上げてリターンを得る考え方です。企業は人材の育成を重視し、能力を引き出すことに注力します。
また、人的資本経営は企業のイメージを良く見せるのに役立つため、外部への情報発信を積極的におこなうのも大きな特徴です。
4. 人的資本経営に関する国内・海外での動き
人的資本経営は、日本だけでなく世界的にも注目されています。欧米では、日本よりも早い時期から人的資本経営が広がりました。以下では、人的資本経営に関する国内・海外での動きを紹介します。
4-1. 国内での動き
日本では、2020年の経済産業省が公開した「人材版伊藤レポート」により、人的資本経営に注目が集まりました。
2021年に東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コード(上場企業がおこなう政治統治においてガイドラインとして参照すべき原則・指針を示したもの)に、人的資本に関する情報の開示を追加したのも大きな動きのひとつです。
2023年には、上場企業・一部非上場企業を対象に、有価証券報告書への人的資本情報記載が義務化されました。今後日本でもますます人的資本経営は広がっていくでしょう。
関連記事:人的資本経営における人材版伊藤レポートとは?考え方や概要を要約してわかりやすく解説
4-2. 海外での動き
人的資本経営は世界各国で注目されています。とくに欧米では、人的資本経営を重視している企業が多いです。
ヨーロッパでは2014年に、経営方針や従業員のスキル・能力をはじめとした非財務情報の開示を一部企業に義務化しました。対象企業は今後拡大される予定です。
アメリカでは、米国証券取引委員会により、2020年に上場企業に対して人的資本に関する情報開示が義務化されました。
世界的に認められる企業を目指すなら人的資本経営を取り入れ、積極的な人材情報の開示をおこなう必要があるでしょう。
5. 人的資本経営の主な3つのメリット
人的資本経営のメリットは、以下になります。
- 人材を有効に活用できる
- 社会的信用を得られる
- 従業員エンゲージメントの向上
それぞれを詳しく解説します。
5-1. 人材を有効に活用できる
人材資本経営のメリットの一つは、現在企業に所属している人材を有効に活用できることです。経済産業省の「未来人材ビジョン」では、技術革新により必要となるスキルと、現在の従業員のスキルの間にギャップを感じている企業が43%を占めます。
しかし多くの企業は人材の育成に投資をせず、従業員個人もスキルアップのための学習をおこなっていません。
企業が人材を資本と捉え各人材の知識やスキルを把握し投資をおこなえば、各人材は能力を十分に発揮できるようになるでしょう。投資された従業員のモチベーションアップも期待できます。
モデル化された作業はAIやロボットに任せ、人間は問題発見能力や革新性などを身に着けていくことが理想の形です。
5-2. 社会的信用を得られる
人的資本経営をおこなっている企業は、社会的信用を得やすいでしょう。利益のみを重視している企業に比べて価値があるとされ、投資対象としても選ばれやすくなります。
企業イメージがアップすればクライアントにも注目されやすくなり、求人では人材が集まりやすくなるかもしれません。
投資家やクライアントなどのステークホルダーは、人的資本に関する情報も企業の将来性を予測する材料として注目しています。メリットを得るには、人的資本経営に取り組むだけでなく、積極的かつ適切な情報開示が必要となるでしょう。
5-3. 従業員エンゲージメントの向上
人的資本経営に取り組むことで従業員エンゲージメント向上につなげられます。従業員は人的資本経営に取り組んでいる自社に対して、成長に投資を惜しまないという印象を抱いてくれます。自分たちの成長に投資していることが分かれば、従業員の自社へのエンゲージメントが高まるでしょう。
6. 人的資本経営に必要な要素
「人材版伊藤レポート」に記載されている、人材戦略を立てる際に欠かせないものは「3つの視点」と「5つの要素」です。以下では、「3つの視点」と「5つの要素」それぞれを簡単に説明します。
6-1. 3つの視点
人材版伊藤レポートにおける3つの視点は以下になります。
- 経営戦略と人材戦略は連動しているか
- 目標としているビジネスモデルと現時点でのギャップを把握しているか
- 人材戦略が企業文化として定着しているか
人的資本経営をおこなう際には、3つの視点を持ち人材戦略や経営戦略を俯瞰して見る必要があります。
参照:人材版伊藤レポート
6-2. 5つの要素
人材版伊藤レポートに記載されている、人材戦略の5つの要素を簡単に説明すると、以下のようになります。
- 多様な人材が活躍できるポートフォリオを構築する
- 人材の多様性を企業の戦略のなかにうまく取り込む
- 学ぶ環境を整え、従業員への教育をおこなう
- 従業員がやりがいを感じられる職場を目指す
- 時間や場所にとらわれずに働ける環境を整備する
1〜5の要素を取り入れることで、人的資本経営が実現しやすくなるでしょう。
参照:人材版伊藤レポート
7. 人的資本経営を実践するときの流れ
人的資本経営を実践する際には、次の流れを意識しておこないましょう。
- 目指すべき目標を設定する
- 目標達成のための具体的な施策を考案する
- 取り組みにおける効果を分析し改善に繋げていく
人的資本経営の実践は長期間に渡ります。計画・実行・評価・改善を繰り替えすPDCAサイクルを回し、目標の達成を目指しましょう。
また、企業が人的資本経営を進めるためのサポートや、より効果的な非財務情報の開示を検討する組織への加入を検討してもよいでしょう。
関連記事:人的資本経営コンソーシアムとは?基本情報と入会方法を紹介
7-1. 目指すべき目標を設定する
人的資本経営において目標としてKPIを設定する際は、注目すべきなのは自社の従業員の成長だけではありません。投資家、ステークホルダーといった外部の視点も意識しましょう。ステークホルダーからの印象を意識した目標を設定するのであれば、他社との明確な差別化を示しましょう。
7-2. 目標達成のための具体的な施策を考案する
目標達成のためには具体的な施策を考案しましょう。例えば人材ポートフォリオの構築やダイバーシティの促進、経営課題の共有などが挙げられます。経営課題を共有することで現場だけが把握する課題や解決策の収集が可能です。
7-3. 取り組みにおける効果を分析し改善に繋げていく
施策を考案したとしても効果を分析しなければ、人的資本経営の実現につながりません。そのため、取り組んだ施策の効果を分析して改善につなげていきましょう。例えばPDCAサイクルを回していくことで施策の精度を高められます。
8. 人的資本経営を実践し人材を有効活用しよう
人的資本経営は、人材を企業の「資本」と捉える経営方法です。人的資本経営をおこなうことにより人材不足に対処できるだけでなく、企業全体の生産性のアップが期待できるでしょう。
人的資本経営は企業のイメージアップにもなり、新たな優秀な人材の確保や投資額の増加にもつながります。
「人材版伊藤レポート」に記載された「3つの視点」と「5つの要素」を意識しながら、人的資本経営の実現を進めていきましょう。
昨今では、少子高齢化による労働人口の減少が年々激化しており、今後の採用・人材確保はますます難しくなるばかりです。
そんな中で、従業員の定着率をいかに上げるのかという課題が企業各社を悩ませる問題になっており、従業員の待遇改善のため、ボーナスや給与のベースアップを試みたとしても、
「そもそも物価高騰も進む中で、会社にもそんなに余裕はないし、単純な賃上げでは持続性がない...」
「支給額の分だけ税負担が増えるため、従業員の手取りは増えずに、思ったよりも効果が出ない」このように、会社の負担額は増える一方なのに、従業員満足度は上がらないという結果に陥りやすいのが現状です。
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