人材版伊藤レポート2.0とは?3つの視点と5つの共通要素から人的資本経営を実現しよう - ジンジャー(jinjer)|クラウド型人事労務システム

人材版伊藤レポート2.0とは?3つの視点と5つの共通要素から人的資本経営を実現しよう - ジンジャー(jinjer)|クラウド型人事労務システム

人材版伊藤レポート2.0とは?3つの視点と5つの共通要素から人的資本経営を実現しよう - ジンジャー(jinjer)|クラウド型人事労務システム

人材版伊藤レポート2.0とは?3つの視点と5つの共通要素から人的資本経営を実現しよう

書類を見ている男性

人材版伊藤レポート2.0とは、経済産業省の「人的資本経営の実現に向けた検討会」によってまとめられた報告書で、企業経営における人的資本(人材)重視の最新指針を示すものです。本記事では、人的資本経営の推進に役立つ人材版伊藤レポート2.0の考え方や重要ポイントをわかりやすく要約するとともに、最新の伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)の内容についても紹介します。

人的資本経営って結局なにをすべき? 企業の対応状況や取り組みが知りたい方へ

人的資本の情報開示が義務化されたことで人的資本経営への注目が高まっており、今後はより一層、人的資本への投資が必要になるでしょう。
こういった背景の一方で、「人的資本投資にはどんな効果があるのかわからない」「実際に人的資本経営を取り入れるために何をしたらいいの?」とお悩みの方も、多くいらっしゃるのが事実です。

そのような方に向けて、当サイトでは人的資本経営に関する実際調査の調査レポートを無料配布しています。
資料では、実際に人事担当者にインタビューした現状の人的資本経営のための取り組みから、現在抱えている課題までわかりやすくレポートしています。
自社運用の参考にしたいという方は、ぜひこちらから資料をダウンロードの上、お役立てください。

1. 人的資本経営とは

はてなマーク

人的資本経営では、人材を資本のひとつとみなします。長期的な企業価値向上を目標として、人材価値を最大限活かす戦略を策定・実施することが特徴です。

1-1. 人的資本経営が注目されている理由

人的資本経営が注目されている背景には、主に次のような理由があります。

まず、人材の重要性について認識が高まっています。現代社会では労働人口の減少や市場競争の激化が進行しており、企業の競争力向上と成長には、優れた人材の確保と育成が不可欠です。従業員はもはや「資源=コストの対象」ではなく、「資本=未来への投資の対象」として位置づけられています。この新たな視点により、従業員が事業の成功に直接的な影響を持つ存在とみなされるようになりました。

次に、ESG投資が拡大している点が重要です。国内外の投資家は持続的な企業価値向上のために環境、社会、ガバナンス(ESG)要因を重視する流れが高まっています。とくに「社会」面では、従業員の権利や安全、人権の尊重が注目されており、ESG経営に取り組む企業の増加とともに、人的資本経営も重要視されるようになっています。

加えて、2023年3月期からは、有価証券報告書を提出する大手企業約4,000社に対して、人的資本に関する情報開示が義務化されました。人的資本情報の開示は、企業が中期的な成長を図るうえでの指針となるだけでなく、ステークホルダーとの協働を促進するためにも欠かせないものです。

これらの背景から、企業経営者や人事担当者は、人的資本経営と伊藤レポートの具体的な情報と事例を理解し、実践する必要性がますます高まっています。

関連記事:人的資本開示とは?情報開示が義務化された19項目や対象企業への指針を解説

2. 2014年経済産業省公表の「伊藤レポート」とは

パソコンをたたく様子

伊藤レポートとは、2014年に経済産業省が公表したプロジェクト「持続的成長への競争力とインセンティブ〜企業と投資家の望ましい関係構築〜」の報告書です。

一橋大学大学院商学研究科教授(2014年当時)・会計学者の伊藤邦雄氏がプロジェクトの座長を勤めたことが、名称の由来です。

レポートでは、持続的な低収益性が長期投資家不足をまねき、長期投資家不足が中長期的な成長を阻むという悪循環を指摘しています。

関連記事:なぜ人的資本経営が注目されているのか?注目されている背景をわかりやすく解説!

2-1. 伊藤レポートが公表された背景

伊藤レポートが公表された背景には、日本企業が技術力や革新的な価値創出には優れている一方で、欧米企業と比べて恒常的な収益性が低い傾向があることが挙げられます。

具体的には、過去20年ほどの推移を見ると、日本企業のROE(自己資本利益率)やROS(売上高営業利益率)は、欧米企業に比べて一貫して低い傾向が確認されています。

参考:「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト(伊藤レポート) 最終報告書|経済産業省

2-2. 伊藤レポートが公表された目的

日本企業の恒久的な低収益性を向上させるために、長期投資家の獲得が急務であると示しています。長期投資家の獲得のためには、恒久的な収益性アップが必要です。恒久的な収益性が向上すれば、結果長期的な企業価値向上につながります。これが伊藤レポートの目的です。

日本企業の恒久的な低収益性が、投資家からの中長期的な資金獲得を難しくしている現状を広く知らせるねらいもあったでしょう。

伊藤レポートには、日本企業の恒久的な低収益性の改善や、人的資本経営の策定・実施に役立つ具体的な指標が示されました。

参考:「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト(伊藤レポート) 最終報告書|経済産業省

2-3. 伊藤レポートに記載された基本メッセージ

なお、伊藤レポートの基本メッセージは次のとおりです。

  • 持続的成長の障害となる慣習やレガシーとの決別を
  • イノベーション創出と高収益性を同時実現するモデル国家を
  • 企業と投資家の「協創」による持続的価値創造を
  • 資本コストを上回るROEを、そして資本効率革命を
  • 企業と投資家による「高質の対話」を追求する「対話先進国」へ
  • 全体最適に立ったインベストメント・チェーン変革を

引用:「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト(伊藤レポート) 最終報告書|経済産業省

上記の取り組みにより前述の悪循環を改善し、恒久的な企業成長が期待できると示しています。日本企業の恒久的に低い収益性の改善につながる指標や、アドバイスがまとめられました。

2-4. 伊藤レポートはROE8%以上を推奨

伊藤レポートが推奨するROE(自己資本利益率)の理想値は8%以上です。ROEとは収益性の指標のひとつで、元手の株主資本に対して、企業の利益がどれほど効率的に利用されたのかを示します。

人的資本経営の実施における最低限の目標として、前述の理想値を目指すことが掲げられました。目標達成により企業としての収益力のみならず、次のような付加価値の向上が期待できると提言しています。

  • 海外投資者の増加
  • 給与・人材投資の増加
  • 研究開発・設備投資の原資確保
  • 株式市場における年金運用の改善
  • 企業資金調達の多様化

伊藤レポートにてROEの理想値を示すことにより、日本企業全体の持続的な収益性アップや企業成長を促すねらいがあります。

参考:「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト(伊藤レポート) 最終報告書|経済産業省

2-5. 全部で5つのレポートが発表されている

伊藤レポートは経済産業省のプロジェクト単位で報告書として発表されており、これまでの合計で5つのレポートが公開されています。

発表された日付 レポート名 経済産業省のプロジェクト名
2014年8月 伊藤レポート 「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト
2017年10月 伊藤レポート2.0 持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資) 研究会
2020年9月 人材版伊藤レポート 持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会
2022年5月 人材版伊藤レポート2.0 人的資本経営の実現に向けた検討会
2022年8月 伊藤レポート3.0 サステナブルな企業価値創造のための長期経営・ 長期投資に資する対話研究会(SX 研究会)

この中でも人材版伊藤レポート2.0を主に解説します。

3. 2022年経済産業省公表の「人材版伊藤レポート2.0」とは

データをみながら会議する

人材版伊藤レポート2.0は、人材版伊藤レポートの改定版として2022年に経済産業省が公表した報告書です。

人材版伊藤レポートの内容を振り返りつつ、さらに深掘り・高度化し、「3つの視点・5つの共通要素」の枠組みに沿って、実行すべき取り組みの内容、その重要性、効果を高める工夫を示すことで、人的資本経営を具体的に実践するための施策や考え方が明確に提示されています

なお、人的資本経営における人材戦略の策定・実施にも役立つ取組事例も掲載されています。

参考:「人材版伊藤レポート2.0」を取りまとめました|経済産業省

3-1. 伊藤レポートと人材版伊藤レポートとの違いは?

従来の伊藤レポートは、主に企業と投資家の協創について提言し、資本効率の最大化に重点を置いていました。一方、人材版伊藤レポートは、人的資本の最大化にフォーカスし、人材戦略に特化した提言をまとめています。これらの異なるアプローチにもかかわらず、両者に共通する点は、日本企業が持続的な成長を遂げるために必要な方策が示されていることです。

企業経営者や人事担当者は、これらのレポートを参考にしながら、資本効率と人的資本の双方を最大化する戦略を策定することが求められます。

3-2. 3つの視点

「人材版伊藤レポート2.0」の基礎となる「人材版伊藤レポート」では、経営戦略と連動した人材戦略を整理するために、3つの視点(Perspectives)と5つの共通要素(Common Factors)が示されました。この「3P・5Fモデル」は、現代の人的資本経営の基本的な枠組みとして活用されています。

「人材版伊藤レポート2.0」では、この枠組みを踏まえ、各視点や共通要素を人的資本経営の実践に落とし込む際に必要な具体的な取り組みや、その進め方のポイント、有効な工夫が提示されています。

ここからは、まず以下の3つの視点の中身について見ていきましょう。

  1. 経営戦略と人材戦略の連動
  2. As is‐To beギャップの定量把握
  3. 企業文化への定着

参考:人的資本経営の実現に向けた検討会報告書 ~ 人材版伊藤レポート2.0~|経済産業省

経営戦略と人材戦略の連動

経営環境が急速に変化する中で企業価値を持続的に向上させるには、経営戦略と連動した人材戦略を経営陣が主導で策定・実行し、重要な人材課題に対して具体的なアクションやKPIを設定することが不可欠だと解説しています。人材伊藤レポート2.0において、この取り組みでは具体的なアクションとして次の7項目を挙げています。

  1. CHROの設置
  2. 全社的経営課題の抽出
  3. KPIの設定、背景・理由の説明
  4. 人事と事業の両部門の役割分担の検証、人事部門のケイパビリティ向上
  5. サクセッションプランの具体的プログラム化
  6. 指名委員会委員長への社外取締役の登用
  7. 役員報酬への人材に関するKPIの反映

「3. KPIの設定、背景・理由の説明」を進めるうえで有効な工夫のひとつとして、「他社動向・トレンドにとらわれないKPI設定」を挙げています。CEO・CHROは従業員や投資家が企業価値向上のストーリーを理解しやすくするため、自社固有のKPIを設定し、他社のKPI開示はあくまで参考情報として活用することを説明しています。

As is‐To beギャップの定量把握

経営戦略を実現するには、障害となる人材課題を特定し、経営戦略と人材戦略がしっかりかみ合っている必要があります。そのためには、KPIで目指すべき姿(To be)と現在の姿(As is)のギャップを定量的に把握することが重要です。人材伊藤レポート2.0において、具体的なアクションとして次の3項目を挙げています。

  1. 人事情報基盤の整備
  2. 動的な人材ポートフォリオ計画を踏まえた目標や達成までの期間の設定
  3. 定量把握する項目の一覧化

このうち、「1. 人事情報基盤の整備」を進めるうえで有効な工夫のひとつに、人事情報の収集対象とする社員の範囲を段階的に拡大することを挙げています。理想は全従業員のデータを収集できることでも、コストや現場の負担などを考えると現実的に難しいケースが多いです。そのため、情報を集める社員の範囲を優先順位に応じて段階的に拡大していくことを解説しています。

企業文化への定着

持続的な企業価値向上につながる企業文化の策定・定着のため、人材戦略の策定段階から取り組むことが大事だと解説しています。人材伊藤レポート2.0において、この取り組みでは具体的なアクションとして次の3項目を挙げています。

  1. 企業理念、企業の存在意義、企業文化の定義
  2. 社員の具体的な行動や姿勢への紐付け
  3. CEO・CHROと社員の対話の場の設定

「2. 社員の具体的な行動や姿勢への紐付け」を進めるうえで有効な工夫のひとつとして、「企業文化が職場で重視されているか定点観測すること」を挙げています。従業員が企業文化に共感し、実際の行動に反映しているかを把握するため、経営陣だけでなく従業員一人ひとりの言動や業務態度が企業文化に沿っているかを、サーベイやヒアリングなどの手法で定期的に確認することが重要とのことです。

3-3. 5つの共通要素

次に、以下の5つの共通要素について確認していきましょう。

  • 動的な人材ポートフォリオ
  • 知と経験のD&I
  • リスキル・学び直し
  • 従業員エンゲージメント
  • 時間・場所にとらわれない働き方
動的な人材ポートフォリオ

経営戦略を実現するには、将来の目標から逆算して必要な人材要件を定め、採用・配置・育成を戦略的に進めることが必要だと説明しています。人材伊藤レポート2.0において、この取り組みでは具体的なアクションとして次の4項目を挙げています。

  1. 将来の事業構想を踏まえた中期的な人材ポートフォリオのギャップ分析
  2. ギャップを踏まえた、平時からの人材の再配置、外部からの獲得
  3. 学生の採用・選考戦略の開示
  4. 博士人材等の専門人材の積極的な採用

「4. 博士人材等の専門人材の積極的な採用」を進めるうえで有効な工夫のひとつとして、「研究開発部門にとらわれない博士人材の登用」が挙げられています。企業は博士人材の高度な専門性や深い思考力、課題解決の構想力を研究部門に限らず経営企画部門などでも活かし、将来の事業構造の転換や新規事業開拓に役立てられることを説いています。

知と経験のD&I

中長期的な企業価値向上には、多様な知識・経験・価値観を持つ人材の掛け合わせによる非連続的イノベーションが重要で、社内外の協働の見直しや全従業員へのダイバーシティ&インクルージョンの推進が必要だと解説しています。人材伊藤レポート2.0において、この取り組みでは具体的なアクションとして次の2項目を挙げています。

  1. キャリア採用や外国人の比率・定着・能力発揮のモニタリング
  2. 課長やマネージャーによるマネジメント方針の共有

「1. キャリア採用や外国人の比率・定着・能力発揮のモニタリング」を進めるうえで有効な工夫のひとつとして、「多様性を発揮するための属性ごとの課題の特定と克服」を挙げています。多様な人材の獲得だけでなく、既存従業員の能力発揮できる環境整備が重要であり、性別・年齢・国籍など属性ごとの課題を特定して対処することについて紹介しています。

リスキル・学び直し

経営環境の急速な変化に対応するには、従業員のリスキルと自律的なキャリア形成を支援する学び直しを促しつつ、一人ひとりの経験・スキル・意向・学習意欲を踏まえた学習領域を理解し、企業がそのプロセスを支援することが重要だと紹介しています。人材伊藤レポート2.0において、この取り組みでは具体的なアクションとして次の5項目を挙げています。

  1. 組織として不足しているスキル・専門性の特定
  2. 社内外からのキーパーソンの登用、当該キーパーソンによる
  3. リスキルと処遇や報酬の連動
  4. 社外での学習機会の戦略的提供(サバティカル休暇、留学等)
  5. 社内起業・出向起業等の支援

「3. リスキルと処遇や報酬の連動」を進めるうえで有効な工夫のひとつとして、「スキル・専門性ギャップの社内外への発信・対話」を挙げています。スキル・専門性のギャップについては、リスキル施策や改善状況を定量的に従業員・投資家に発信し、同時に外部の必要人材へのアピールにも活用することを紹介しています。

従業員エンゲージメント

経営戦略の実現には、従業員がやりがいや働きがいを感じ主体的に取り組める環境を整え、企業文化やダイバーシティの達成状況を踏まえつつ取組と検証を繰り返し、多様なキャリア機会を提供して企業と個人の成長の方向性を一致させることが求められると解説しています。人材伊藤レポート2.0において、この取り組みでは具体的なアクションとして次の5項目を挙げています。

  1. 社員のエンゲージメントレベルの把握
  2. エンゲージメントレベルに応じたストレッチアサインメント
  3. 社内のできるだけ広いポジションの公募制化
  4. 副業・兼業等の多様な働き方の推進
  5. 健康経営への投資とWell-beingの視点の取り込み

「4. 副業・兼業等の多様な働き方の推進」を進めるうえで有効な工夫のひとつとして、「副業・兼業を認める範囲の見直し」を挙げています。業務時間外の過ごし方は基本的に従業員の自由であるため副業・兼業は原則認めますが、機密漏洩や競業による利益侵害の懸念がある場合は制限しつつ、可能な限り容認し、寛容な風土を醸成しながら従業員と企業双方が納得できるよう十分にコミュニケーションをおこなうことについて説いています。

時間・場所にとらわれない働き方

いつでもどこでも働ける環境の整備は事業継続の観点から重要である一方、働き方の多様化に対応するため、組織はマネジメントや業務プロセスの見直しを含めた対応が求められていると解説しています。人材伊藤レポート2.0において、この取り組みでは具体的なアクションとして次の2項目を挙げています。

  1. リモートワークを円滑化するための、業務のデジタル化の推進
  2. リアルワークの意義の再定義と、リモートワークとの組み合わせ

「2. リアルワークの意義の再定義と、リモートワークとの組み合わせ」を進めるうえで有効な工夫のひとつとして、「リアルワークで行う必然性のある職務の特定」を挙げています。

リアルワークとリモートワークの主軸は各社が判断するが、リモート希望の従業員にリアルワークを依頼する際は必然性や期待効果を丁寧に説明し、例えば共同作業の日程を集中的に設けるなど生産性を高めつつ、それ以外の日は多様な働き方を選べるようメリハリをつけることについて解説しています。

3-4. 人材版伊藤レポート2.0の要約・ポイント

人材版伊藤レポート2.0が示す、人的資本経営の実現における最重要点は「経営戦略と人材戦略の連動のための取り組み」です。とくに以下が両戦略の連動において最も重要であるとしています。

  • CHROの設置
  • 全社的経営課題の抽出

なお、事業内容や環境は企業ごとに異なるため、形式的な適用は必ずしも有効でないことから、レポートに示されるすべての項目の実施を求めるものではないとしています。人材版伊藤レポート2.0はあくまでも人的資本経営を具体的に実践するための参考として、経営陣が重点課題を特定し取り組む際のアイデアを提供することを主眼としている点がポイントです。

参考:人的資本経営の実現に向けた検討会報告書 ~ 人材版伊藤レポート2.0~|経済産業省

4. 伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)の要約

オフィスで同僚と会話する

伊藤レポート3.0は、経済産業省が2022年に公表した「サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会」の報告書です。SX研究会ともよばれることから、伊藤レポート3.0はSX版伊藤レポートとも称されます。

伊藤レポート3.0は、企業の持続的な価値創造(SX)における重要ポイントや関連要素を整理した「理論編」と位置づけられています。本レポートを基盤としつつ、「実践編」にあたる「価値協創ガイダンス2.0」「人材版伊藤レポート2.0」「人的資本可視化指針」と併せて参照し、各レポートやフレームワークを一体的かつ整合的に活用することを推奨すると説明されています。

4-1. 伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)のポイント

SXとはサステナビリティ・トランスフォーメーション(Sustainability Transformation)の略です。企業がビジネスの安定と以下のESGへの配慮を両立しながら、持続可能な発展を目指す企業経営をおこなうことを意味します。

  • 環境(Environment)
  • 社会(Social)
  • 企業統治(Governance)

伊藤レポート3.0において示されている、長期的・持続的な企業価値向上における経営戦略の根幹要素はサステナビリティへの対応です。要約を以下にまとめました。

SXの前提となる価値の捉え方
  • ・競争優位性のある事業活動によって、ステークホルダーの抱える課題の解決で収益を得られる
  • ・それを「利益分配と更なる課題解決に向けた再投資に振り向けながら長期的かつ持続的に企業価値を向上させていく」という、循環的な捉え方
SX実現に向けた課題と方向性 <課題>

  • ・具体的に何にどのように取り組めばよいか、企業に迷いが生じる
  • ・長期目線でイノベーションに取り組み、事業としてスケールさせることが困難
  • ・各企業の行動が共通化し、独自性を発揮しづらくなることによって、利益の取り合い(レッドオーシャン)に陥る危険性が高い

<方向性>

  • ・自社固有の長期的かつ持続的な価値創造ストーリーに基づく経営
  • ・自社が長期的に目指す姿を設定する
  • ・投資家等と長期目線の建設的な対話を行いつつ、主体的に自社ならではの価値創造ストーリーを構築する
  • ・グローバルな投資の呼び込みへとつなげられ、イノベーションの取り組みをはじめとする長期の成長投資を一層加速することが重要
SX実現のための重要な取り組み
  • ・社会のサステナビリティを踏まえた目指す姿の明確化
  • ・目指す姿に基づく長期価値創造を実現するための戦略の構築
  • ・長期価値創造を実効的に推進するための KPI・ガバナンスと、実質的な対話を通じた更なる磨き上げ

参考:伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)|経済産業省

5. 人的資本経営の実現に向けた企業の事例

タブレットを見る男性

それでは実際に、伊藤レポートの考え方を取り入れながら、独自で人的資本経営を実現するために企業が取り組んだ事例を紹介します。

5-1. 製造販売業のK社の事例

製造販売業のK社は、従業員の健康と働きやすさを重視した健康経営を推進するだけでなく、人的資本経営にも力を入れています。従来のKPIに基づく目標管理・評価制度から、2021年にはOKRを導入しました。OKRは「ありたい姿や理想に近づくための高く挑戦的な目標」と定義され、従業員が挑戦を通じて成長し、結果として企業や社会に貢献することが目的です。

従業員は中長期的な理想を描き、目標を設定します。これらのOKRはグループ全体で共有され、部門を超えた連携を促進します。さらに、従業員同士が対話を通じて目標をブラッシュアップし、組織全体への貢献を考える文化が奨励されています。これは人的資本経営の観点からも重要で、従業員の成長と企業全体の持続的な発展を支えています。

5-2. 小売業のM社の事例

小売業のM社は、人的資本経営の先進的な事例として注目されています。同社では、イノベーションの創出を促すために、10年以上かけて従業員の自主性を重視した組織文化を構築してきました。例えば、スタートアップへの出向や新規事業への参加はすべて従業員の自主性に基づく手挙げ方式を採用し、4500名以上の従業員が成長の機会に自らの意思で携わってきました。

さらに、心理的安全性の高い職場づくりにも注力しています。対話のルールを設定し、対話の際は安全な場所宣言から始まり、目的を設けない、結論を求めない、人の意見を否定しないなどの基本ルールが浸透しています。これにより、従業員は自由に意見を出し合い、新たなアイディアや改善策が生まれやすい環境が整えられています。

多様な人材が活躍できる環境作りにも力を入れており、女性の管理職比率向上や障がい者雇用の拡大にも成功しています。これらの取り組みにより、多様性を尊重しながらも組織全体のパフォーマンス向上を実現しています。

5-3. 製造販売業のR社の事例

製造販売業のR社は、人的資本経営に積極的に取り組んでいます。従業員一人ひとりの成長とエンゲージメントを重視し、様々な制度を整備しています。例えば、社外チャレンジワーク(複業)や社内ダブルジョブ(兼務)、社内起業家支援プロジェクト明日ニハなどがあります。これらの制度により、従業員は所属部署にいながらも興味のある部署の業務を経験し、自律的なキャリア構築や目標の実現に役立っています。

さらに、R社は転職や留学などで退職し、外部で経験を積んだ人材が再入社することを歓迎しています。また、高度専門人財の採用を強化し、新規事業の推進を図っています。R&D分野では外国籍人財の積極的な採用や大学院との共同研究、フリーランスのデジタル人財登用も行っています。これにより、組織全体の競争力を高め、さらなる成長を目指しています。

以上のように、R社は従業員のキャリア開発とエンゲージメントを重視し、多様な取り組みを展開することで、人的資本経営の模範的な事例を提供しています。

参考:人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書~人材版伊藤レポート2.0~実践事例集|経済産業省

6. 人材版伊藤レポート2.0を参考に人的資本経営を実現させよう

データを見比べる

人材を資本とみなす人的資本経営の実現において、人材戦略の策定や実施の際、経済産業省公表の報告書である伊藤レポートを参考にするのもひとつの方法です。

人材版伊藤レポートの改定版である「人材版伊藤レポート2.0」では、3P・5Fモデルの枠組みをもとに、各視点や共通要素を人的資本経営に活かすための具体的な取り組みや、その進め方のポイント、有効な工夫が示されています。さらに、最新の「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」と併せて活用することで、自社の長期的成長につなげるヒントとなるでしょう。

なぜ人的資本経営は注目されている? 人材に投資すべき理由を経営者目線で解説

企業価値を持続的に向上させるため、いま経営者はじめ多くの企業から注目されている「人的資本経営」。
今後より一層、人的資本への投資が必要になることが想定される一方で、「そもそもなぜ人的資本経営が注目されているのか、その背景が知りたい」「人的資本投資でどんな効果が得られるのか知りたい」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向けて、当サイトでは「人的資本経営はなぜ経営者から注目を集めるのか?」というテーマで、人的資本経営が注目を集める理由を解説した資料を無料配布しています。

資料では、欧州欧米の動向や企業価値を高める観点から、人的資本経営が注目される理由を簡単に解説しています。「人的資本経営への理解を深めたい」という方は、ぜひこちらから資料をダウンロードの上、お役立てください。

jinjer Blog 編集部

jinjer Blog 編集部

jinjer Blogはバックオフィス担当者様を支援するため、勤怠管理・給与計算・人事労務管理・経費管理・契約業務・帳票管理などの基本的な業務の進め方から、最新のトレンド情報まで、バックオフィス業務に役立つ情報をお届けします。

人事・労務管理のピックアップ

新着記事