労働保険の加入手続き方法を徹底解説!加入条件や計算方法まで
更新日: 2025.5.30
公開日: 2021.10.22
jinjer Blog 編集部
労働保険は労災保険と雇用保険から成り立っています。労働者にもしものことが起こった場合、生活が維持できるようにサポートするための制度です。1人でも労働者を雇っている事業所であれば、原則加入しなければなりません。
本記事では、労働保険の加入手続き方法や労働保険料の計算方法についてわかりやすく解説します。
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社会保険料は従業員の給与から控除するため、ミスなく対応しなければなりません。
しかし、一定の加入条件があったり、従業員が入退社するたびに行う手続きには、申請期限や必要書類が細かく指示されており、大変複雑で漏れやミスが発生しやすい業務です。
さらに昨今では法改正によって適用範囲が変更されている背景もあり、対応に追われている労務担当者の方も多いのではないでしょうか。
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1. 労働保険とは?
労働保険とは、労働者災害補償保険とよばれる労災保険と雇用保険を総称したものです。労働保険において、労働者とは「事業に使用される者」のことを指します。職業の種類は関係なく、すべての事業で労働の対価として賃金が支払われていれば「労働者」です。ここでは労働保険の加入義務について説明します。
1-1. 労災保険と雇用保険の概要
労働保険は、労災保険と雇用保険から構成されますが、それぞれ次のような目的・役割があり異なる制度です。
- 労災保険:労働者の業務中・通勤中の災害による傷病や障害に対して保険給付をおこなう保険制度
- 雇用保険:雇用の継続が困難になった被保険者に対して保険給付をおこなう保険制度
なお、労働保険(労災保険・雇用保険)は、健康保険・介護保険・厚生年金保険とあわせて、社会保険とよばれるケースもあるので覚えておきましょう。
関連記事:社会保険とは?国民健康保険との違いや加入条件、適用拡大について解説
1-2. 労働保険の加入義務とは
正社員・パート・アルバイトなどの雇用形態に関わらず、原則1人でも労働者を雇っている事業所には、労働保険への加入義務が発生します。事業主が成立手続きをおこない、労働保険料を納付しなければなりません。
ただし、暫定任意適用事業(農林水産業のうち一定の要件を満たす事業)に該当する場合、労働保険に加入するかどうかは、事業主と雇用されている労働者の意思に委ねられるため、あらかじめ留意しておきましょう。
2. 労働保険の加入手続き方法と必要書類
労働保険の加入義務がある企業などは、速やかに加入手続きをおこなわなければなりません。ここでは、労働保険の加入手続きの方法と必要となる書類について詳しく紹介します。
2-1. 労働保険の適用事業の種類
労働保険の適用事業には「一元適用事業」と「二元適用事業」の2種類があります。一元適用事業とは、労災保険と雇用保険を一つの労働保険としてまとめて取り扱い、保険料の申告や納付などを一括でおこなう事業のことです。
一方、二元適用事業とは、労災保険と雇用保険の保険関係を別個のものとして取り扱い、保険料の申告や納付なども別々でおこなう事業を指します。
二元適用事業に該当する事業は、都道府県・市町村がおこなう事業や農林水産業、建設業など、特定されています。二元適用事業に該当しない事業は、一元適用事業に該当することになるでしょう。
一元適用事業と二元適用事業で、労働保険の加入手続きの方法は異なるので注意しましょう。なお、この記事では、多くの企業があてはまる一元適用事業を前提に、労働保険の加入手続きについて解説していきます。
2-2. 労働保険の保険関係成立届と概算保険料申告書を提出する
労働保険の適用事業に該当することとなったら、まず労働保険の保険関係成立届を事業所の所在地を管轄する労働基準監督署に提出する必要があります。保険関係成立届の提出期限は、保険関係が成立した日の翌日から10日以内です。履歴事項全部証明書(法人の場合)や賃貸借契約書(謄本の住所と実際の勤務地が異なる場合)などの添付書類も必要となるため準備しておきましょう。
それと同時もしくは、その後に、労働保険料を申告・納付するための書類である、概算保険料申告書を「労働基準監督署(所轄)」「都道府県労働局(所轄)」「日本銀行」のいずれかに提出します。概算保険料申告書の提出期限は、保険関係が成立した日の翌日から50日以内です。ただし、概算保険料の納付も同じく50日以内であり、書類に不備があると納付が遅れてしまうため、書類は10日以内に提出し、実際の納付は50日以内におこなう、という流れをおすすめします。
2-3. 雇用保険適用事業所設置届を提出する
保険関係成立届と概算保険料申告書の手続きが完了し、労働保険番号の交付を受けたら、新しく雇用保険の適用を受けるため、雇用保険適用事業所設置届と雇用保険被保険者資格取得届(加入する従業員分)を事業所の所在地を管轄するハローワーク(公共職業安定所)に提出する必要があります。
雇用保険適用事業所設置届の提出期限は、設置の日の翌日から10日以内、雇用保険被保険者資格取得届の提出期限は、資格取得の事実があった日の翌月10日までと定められています。保険関係設立届や概算保険料申告書の控え、履歴事項全部証明書(法人の場合)、労働者名簿、出勤簿などの添付書類も必要なので、きちんと準備しておきましょう。
これで、労働保険の加入手続きは完了です。その後、雇用保険の加入条件を満たす労働者が生じたら、雇用保険被保険者資格取得届を用いて、その都度手続きをおこなう必要があります。
3. 労災保険の加入条件(従業員)
企業として加入義務のある労働保険ですが、労災保険・雇用保険でそれぞれ従業員の加入条件が異なります。ここでは、従業員の労働保険の加入条件について詳しく紹介します。
3-1. 労災保険の加入条件
正社員やパート・アルバイトなどに関係なく、労働の対価とする賃金を受けるすべての労働者は、原則、労災保険の加入条件を満たします。ただし、船員保険の被保険者には適用されません。
また、法人の役員や、事業主と同居する親族なども、基本的に労災保険の適用対象外です。ただし、法人の役員などでも、指揮命令を受けて労働に従事し、ほかの一般労働者と同様の条件で賃金を受ける場合は、労災保険に加入させなければならないケースもあるので注意しましょう。
3-1-1. 労災保険で中小事業主が利用できる特別加入制度とは?
中小事業主や一人親方が利用できる特別加入制度は、自身の業務中の怪我や病気に対して補償を受けるための重要な制度です。本来、労災保険は現場で働く労働者を対象としていますが、中小事業主はこの特別加入制度を利用することで労災保険に加入できます。この制度により、リスクの高い業種に従事している中小事業主も安心して業務に従事できます。
労災保険でいう中小事業主は、労働者数が50人以下の金融業、保険業、不動産業、小売業を指します。さらに、卸売業やサービス業であれば100人以下、それ以外の業種では300人以下であれば中小事業主として認められます。特別加入を希望する場合、労働保険事務組合に事務手続きを委託しているといった手続きが必要となります。
3-2. 雇用保険の加入条件
雇用保険の原則的な加入条件(従業員)は、次の通りです。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 31日以上継続して雇用されることが見込まれる
いずれもの要件を満たしている労働者は、基本的に雇用保険に加入させなければなりません。かつて65歳以上の労働者は雇用保険の加入対象外でしたが、現在は同様の加入条件が適用されています。ただし、「一般被保険者」ではなく、「高年齢被保険者」の扱いになるので注意しましょう。
なお、昼間学生や国・地方公共団体の事業に雇用される者など、雇用保険法の適用除外に該当する労働者は、上記の条件を満たしていても、雇用保険の加入対象外となります。また、日雇い労働者や季節的に雇用される短期雇用者なども、雇用保険の適用除外の対象ですが、「日雇労働被保険者」や「短期雇用特例被保険者」として雇用保険の加入対象となるケースもあるので、正しく加入条件を理解しておきましょう。
関連記事:雇用保険とは?パート・アルバイトの適用や給付内容についてわかりやすく解説
4. 労働保険料の計算方法と支払方法
労働保険料とは、労災保険料と雇用保険料の総称です。ここでは、労災保険料と雇用保険料それぞれの計算方法と、労働保険料の納付手続きについて詳しく紹介します。
関連記事:賃金総額とは?含まれるもの・含まれないものや計算方法を解説
4-1. 労災保険料の保険料率と計算方法
労災保険料の計算式は次の通りです。
労災保険料 = 労災保険の対象となる賃金総額 × 労災保険率
なお、賃金総額とは、従業員に労働の対償として支払われるすべての賃金を指します。基本給だけでなく、通勤手当や家族手当などの諸手当も含まれます。ただし、結婚祝金や災害見舞金などの任意的・恩恵的なもの、出張旅費や宿泊費などの実費弁償的なものは、計算の対象に含めないので注意しましょう。
令和7年度(2025年度)の労災保険率は、令和6年度(2024年度)と同様で、次の表の通りです。
労災保険料は、全額事業主が負担します。例えば、従業員の賃金総額が5,000万円で、食料品製造業(労災保険率:5.5/1,000)に分類される場合、事業主が負担すべき労災保険料の計算式は以下の通りです。
事業主が負担すべき労災保険料:5,000万円 × 0.55% = 27万5,000円
労災保険率は、労災リスクに応じて業種ごとに大きく異なるので、正しい保険率を適用し、労災保険料を計算することが大切です。
4-2. 雇用保険料の保険料率と計算方法
雇用保険料の計算式は次の通りです。
雇用保険料 = 雇用保険の対象となる賃金総額 × 雇用保険料率
なお、賃金総額の定義は、労災保険料の計算のときと同様です。しかし、計算に使用する保険料率は異なります。
令和7年度の雇用保険料率は、次の表の通りで、令和6年度から引き下げられています。
雇用保険料は、事業主と従業員で按分して納める必要があります。例えば、従業員の賃金総額が3,000万円で、一般事業に該当する場合、事業主と従業員それぞれが負担すべき雇用保険料の計算式は以下の通りです。
- 事業主が負担すべき雇用保険料:3,000万円 × 0.9% = 27万円
- 従業員が負担すべき雇用保険料:3,000万円 × 0.55% = 16万5,000円
このように、労災保険料と雇用保険料の計算方法には違いがあります。雇用保険料は事業主だけでなく、従業員も負担しなければならないため、従業員に支払う給与などから天引きして納める必要があります。
関連記事:雇用保険料の計算方法は?保険加入後の計算時期や計算するときの注意点
4-3. 労働保険料の納付方法とその手順
労働保険料は、年度初めに概算で申告・納付し、翌年度初めに確定申告して精算をおこないます。この手続きを「年度更新」といいます。年度更新の期限は、原則として6月1日から7月10日までです。
労働保険料に係る申告書の提出や保険料の納付方法には、「現金納付」「口座振替納付」「電子納付」といった方法があります。保険料の納付方法によって申告書の提出方法も変わってくるので注意しましょう。例えば、電子納付する場合は、原則として電子申請により申告書を提出しなければなりません。
また、労働保険料は、一定の要件を満たせば、延納(分割納付)もできるので、あらかじめチェックしてきましょう。なお、年度途中で初めて雇用した場合や、従業員が退職して1人も従業員がいなくなった場合、保険関係の成立もしくは消滅から50日以内に申告をおこなう義務があります。
関連記事:労働保険の年度更新とは?計算や申請書作成・電子申請から納付のやり方までわかりやすく解説
5. 労働保険の加入手続きに関するよくある質問
労働保険の加入条件や手続きについて説明してきましたが、ここでは手続きに伴い関連してよく発生する質問をまとめました。回答を参考にスムーズに手続きを進めましょう。
5-1. 加入手続きに電子申請は可能?
労働保険の加入手続きは、電子申請でも可能です。労災保険や雇用保険の手続きをオンラインでおこないたい場合は、電子政府のポータルサイト「e-Gov」を活用できます。ただし、電子申請を利用するためには事前に利用者登録が必要なので、必ず準備を済ませてから手続きを進めてください。
5-2. はじめて労働保険に加入する場合の手続きは?
初めて労働保険に加入する場合、まず所轄の労働基準監督署で保険関係成立届と概算保険料申告書の提出が必要です。保険関係成立届は保険成立翌日から10日以内に、概算保険料申告書は同じ日から50日以内に提出します。これらを同時に提出することで手続きがスムーズになります。
次に、労働保険番号を受領し、この控えを使ってハローワークで雇用保険適用事業所設置届と雇用保険被保険者資格取得届を手続きします。雇用保険適用事業所設置届は、事業所設置日の翌日から10日以内に、雇用保険被保険者資格取得届は資格を取得した日の翌月10日までに提出する必要があります。
各手続きでの必要書類を事前に確認し、期限内に漏れなく提出することが重要です。これにより、円滑に労働保険の加入手続きを完了できます。
5-3. 雇用保険に未加入の場合の罰則はある?
雇用保険に未加入の場合、事業主に対して罰則が適用されることがあります。具体的には、雇用保険法に基づき、雇用している従業員が要件を満たしているにもかかわらず、雇用保険に加入させなかった場合、事業主には最大で6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。さらに、雇用保険料の追徴金や延滞金が徴収されることもあります。
このような罰則や金銭的なペナルティだけでなく、未加入による社会的信用の低下や従業員からの信頼喪失など、経営に悪影響を及ぼすリスクも伴います。従業員を雇う際には、雇用保険の加入条件を確認し、必要な手続きを忘れずにおこなうことが重要です。
関連記事:雇用保険法とは?制度の基本や改正内容、適用範囲を分かりやすく解説
6. 労災・雇用保険それぞれの手続きを正しく理解して労働保険へ加入しよう
労働保険は、労働者の雇用や生活を守るために、国が定めた制度です。労災保険は業務上の病気やケガによって働けなくなってしまった労働者やその家族の生活を守るための保険制度です。一方、雇用保険は失業や育児・介護で休業した場合に、再就職支援や収入の減少に対する支援をおこなうのを目的とする保険制度です。
どちらも、労働者にもしものことが起こった際、サポートするためにあります。働く人々を守るために、事業所が責任をもって加入手続きをしましょう。また、パートやアルバイト、派遣労働者などを新たに雇い入れた際、その労働者が雇用保険加入の条件を満たす場合は、手続きを忘れずにおこなってください。
関連記事:労働保険の年度更新とは?手続き方法や注意点を詳しく解説
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