労働保険の年度更新とは?提出期限や電子申請手続きのやり方をわかりやすく解説!
更新日: 2025.5.30
公開日: 2021.11.12
jinjer Blog 編集部
企業は前年度の労働保険料を確定し、当年度の労働保険料を概算で申告・納付するため、毎年度1回、労働保険の年度更新をおこなわなければなりません。正しく年度更新を実施するためには、手続きのやり方をしっかり押さえておく必要があります。
本記事では、労働保険の年度更新手続きの方法とその流れ、注意点についてわかりやすく解説します。労働保険の年度更新の手続きで不安を抱えている方は、ぜひ最後までご覧ください。
社会保険の更新・改定マニュアル完全解説版
年度更新や定時決定、随時改定と、労務担当者は給与の改定と並行して、年間業務として保険料の更新に関わる業務を行う必要があります。
一方でこのような手続きは、実際に従業員の給与から控除する社会保険料の金額にダイレクトに紐づくため、書類の記入内容や提出はミスなく確実に処理しなければなりません。しかし、書類の記入欄は項目が多く複雑で、さらに申請書や届出にはそれぞれ期限があり、提出が遅れた場合にはペナルティが課せられるケースもあります。
当サイトでは社会保険の手続きをミスなく確実に完了させたい方に向け、「各種保険料の更新・改定業務のマニュアル」を無料配布しております。
ガイドブックでは、年度更新の申請書から定時決定における算定基礎届、随時改定時の月額変更届、さらには賞与を支給した場合の支払報告書の書き方から、記入例、提出方法までまでを網羅的にわかりやすくまとめているため、「社会保険の更新・改定業務のマニュアルがほしい」という方は、こちらから資料をダウンロードしてご覧ください。
目次
1. 労働保険の年度更新とは?
労働保険の年度更新とは、年に1度従業員に支払った給与をもとに、雇用保険料と労災保険料を算定し、前年度の保険料の過不足を調整したうえで、次年度の保険料を会社が前払いすることです。
1-1. 年度更新の目的
労働保険の年度更新の主な目的は、過去1年間の賃金総額に基づいて労働保険料を再計算し、適切に納付することです。これにより、労働保険制度の財政が安定し、労働者を継続的に保護するための資金が確保されます。具体的には、年度更新がおこなわれることで、労働保険料の不均衡を防ぎ、企業に適切な額を納付するよう促します。
1-2. 年度更新の計算対象期間
労働保険料は例年4月1日から翌年3月31日までを1年間として計算します。事業主が労働保険に加入した年の労働保険料は加入したときに納付しますが、それ以降の労働保険料は1年の見込み給料を基に毎年納付する必要があるのです。つまり、労働保険に加入している間は、年度更新の手続きを毎年おこなう必要があります。
ただし、労働保険料の確定額は賃金総額によって変化するので、定められた期間を過ぎなければ納付額は定まりません。そのため、年度更新の際に、前年度分の過不足額を調整する必要もあります。
1-3. 年度更新の手続きはいつ対応する?
年度更新に対応する手続き期間は、例年6月1日から7月10日までの間です。年度更新手続きが遅れてしまうと、確定保険料に応じて10%の追徴金が発生することもあるため、期限に間に合うよう早めに手続きをおこないましょう。
関連記事:賃金総額とは?含まれるもの・含まれないものや計算方法を解説
1-4. 年度更新の申告・納付先
労働保険の年度更新の申告と納付は、所在地を管轄する労働基準監督署やハローワークに対しておこないます。
2. そもそも労働保険とは
労働保険は、原則企業が1人でも従業員を雇用している場合、加入が法律で義務付けられています。ここでは、そもそも労働保険とは何かについて詳しく紹介します。
2-1. 労災保険と雇用保険を総称したもの
労働保険とは、労災保険と雇用保険を総称したものです。
労災保険とは、従業員が業務関係上で怪我や病気になったときのために加入する保険のことです。会社の業務や通勤によって怪我や病気になった場合、治療や生活に必要な金額が給付されます。
一方、雇用保険とは、失業保険とよばれることもあり、労働者が失業したときや働けなくなったときのために加入する保険です。労働者が失業・休業したときの状況に応じて給付金を受け取ることができます。
関連記事:雇用保険とは?パート・アルバイトの適用や給付内容についてわかりやすく解説
2-2. 労災保険と雇用保険で保険料率は異なる
労災保険と雇用保険の保険料率はそれぞれ異なります。まず労災保険の保険料率(令和7年度)は次の通りです。
労災保険料率は、事業の種類ごとに労働災害の発生リスクが違うため、業種によって大きく異なります。また、労災保険料は全額事業主が負担するので、労使で按分計算をおこなう必要はありません。なお、一般の労災保険料率表のほかに、特別加入保険料率表もあるため、自社がどれにあてはまるかきちんとチェックしましょう。
次に雇用保険の保険料率(令和7年度)は、以下の通りです。
雇用保険料率も事業の種類によって変わりますが、労災保険料率ほどは区分されていません。雇用保険料は、事業主と労働者双方で負担し合います。そのため、労働者に支払う給与から負担すべき雇用保険料を徴収する必要があるので注意しましょう。
なお、令和7年度(2025年度)の労災保険料率は、令和6年度(2024年度)から変更ありません。一方、令和7年度の雇用保険料率は、令和6年度から引き下げられています。毎年度保険料率については見直しがおこなわれるため、最新の保険料率を確認し、正しく労働保険料の計算をすることが大切です。
関連記事:労災保険料とは?計算方法や保険料率、注意点などを解説
2-3. 労働保険の加入手続き
労働保険への加入手続き(企業)は、新たに事業を開始した際や初めて労働者を雇用した際におこないます。労災保険は労働基準監督署で、雇用保険はハローワークで手続きします。
加入時にはその年度分の概算保険料の納付が必要です。一元適用事業(農林漁業・建設業以外)は労働保険料を一括で申告・納付しますが、二元適用事業(農林漁業・建設業)は労災保険料と雇用保険料を別々に申告し、それぞれ納付する必要があります。
関連記事:労働保険の加入手続き方法を徹底解説!加入条件や計算方法まで
3. 労働保険の年度更新の手続きの流れ・手順
続いて、労働保険の年度更新における手続き方法をみていきましょう。労働保険の年度更新は大きく4つのステップで手続きを進めていきます。
3-1. 申告関係書類を確認する
まずは申告関係書類を確認しましょう。例年5月下旬ごろ、労働局から事業所宛に下記の申告関係書類が届きます。
- 労働保険概算・確定保険料/石綿健康被害救済法一般拠出金申告書
- 確定保険料・一般拠出金算定基礎賃金集計表
- 申告書の書き方
- 保険料率表
申告関係書類が手元に届いたら、印字されている会社名などが間違っていないか確認しましょう。
3-2. 算定基礎賃金集計表を作成する
申告関係書類を確認したら、賃金集計表を作成していきます。賃金集計表は、保険料計算の基礎となる賃金総額の集計で使用します。
賃金集計表は提出不要ですが、大事な書類であるためしっかり保管しておきましょう。
なお、賃金集計表は厚生労働省が提供している「年度更新申告書計算支援ツール」を用いるとスムーズに作成できます。
Excelによる自動計算であるため、自身で計算する手間が省けます。
3-3. 申告書に記入する
賃金集計表を作成し終わったら、申告書に記入していきましょう。
申告書には賃金集計表を基にして、従業員に支払う見込みの賃金総額のほか、労災保険と雇用保険それぞれの対象賃金を記入します。
なお、労災保険と雇用保険の被保険者の対象は異なるため、それぞれの金額を分けて算出する必要があります。
3-4. 申告書の提出と労働保険料を納付する
書類に必要事項をすべて記入したら、申告書の提出と保険料を納付しましょう。手続き方法は主に「窓口持参」「郵送」「電子申請」の3種類があります。
原則、保険料の納付は一括ですが、概算保険料が40万円(労災保険と雇用保険のどちらか一方のみ保険関係の成立をしている場合は20万円)以上の場合、もしくは労働保険事務組合に事務を委託している場合は3回に分割して納付することもできます。
また、申告書の提出と保険料の納付は、銀行や郵便局などの金融機関、都道府県労働局、労働基準監督署でおこなえます。社会保険・労働保険徴収事務センターでは申告書の提出のみ可能です。
参考:労働保険料の申告・納付|厚生労働省
参考:労働保険の年度更新とは|厚生労働省
4. 労働保険の年度更新における注意点
労働保険の年度更新には、さまざまな気を付けるべき点があります。ここでは、労働保険の年度更新における注意点について詳しく紹介します。
4-1. 年度更新には期限が定められている
年度更新の期限は、原則、毎年6月1日から7月10日までです。6月1日や7月10日が土日・祝日にあたる場合は、期限がずれることもあります。また、労働保険料を分割納付(延納)する場合も、納期限が明確に定められているので注意しましょう。
4-2. 賃金の該当種類を間違えないようにする
労働保険料は賃金総額をベースにして算出しますが、この賃金には含まれるものと含まれないものがあります。例えば、給与や手当、賞与といった労働に対して支払われる報酬は賃金に含まれます。
しかし、役員報酬や災害見舞金、出張旅費などは賃金に含まれません。とくに、所得税の計算において通勤手当は一定額までであれば非課税ですが、労働保険料の計算においてはすべて含めなければならないので注意しましょう。
4-3. 郵送する場合は返信用封筒(切手付き)を同封する
労働保険の年度更新手続きでは、直接窓口に赴く方法だけでなく、郵送の方法も利用できます。郵送であれば、窓口に行く手間を減らし、受付時間を気にすることなく手続きが可能です。
郵送で手続きする場合は、管轄の労働局宛てとします。また、受付印が必要な場合は、申告書(事業主控え)と切手が貼り付けられた返信用封筒も同封しなければなりません。
不備があると手続きに時間を要し、期限に間に合わない事態が発生する恐れもあります。早めに手続きを進めるとともに、書類がきちんと到着したか確認できるよう、追跡可能な方法で郵送することが大切です。
4-4. 65歳以上の高年齢者における手続きに注意する
以前までは、65歳以上の高年齢者には雇用保険が適用されませんでした。また、2017年からは65歳以上の従業員も雇用保険の適用対象となるものの、2020年3月31日までは雇用保険料が免除されていました。
しかし、この高年齢者の雇用保険料免除の期間は終了し、2020年4月1日からは高年齢者の従業員でも雇用保険料の納付が必要となっています。そのため、労働保険の年度更新をおこなうときは、65歳以上の従業員も雇用保険の対象として実施しましょう。
なお、65歳以上の従業員で通常の雇用保険の加入条件を満たさない場合でも、マルチジョブホルダー制度を利用し、複数の事業所で一定の要件を満たせば、マルチ高年齢被保険者として雇用保険に加入できる可能性があります。マルチ高年齢被保険者の雇用保険料の計算方法は、一般被保険者とほとんど変わりませんが、自社で支払う賃金のみを対象として雇用保険料を計算する必要があるので気を付けましょう。
関連記事:マルチジョブホルダー制度とは?対象要件や手続きの流れについて
4-5. 手続きが遅れると追徴金を課される場合がある
労働保険の年度更新は、原則として毎年6月1日から7月10日までの期間におこなう必要があります。しかし、時期を逃して手続きをしなかった場合、事業主には予期せぬ負担が発生します。
具体的には、政府が保険料・拠出金を決定し、確定保険料に対して10%の追徴金が請求される可能性があります。無駄なコストの負担を避けるためにも、手続きのやり方や期限を正しく理解し、早めに申告・納付をおこなうことが大切です。
5. 労働保険の年度更新は電子申請も可能
労働保険の年度更新は、窓口・郵送以外に、インターネットを用いた電子申請でもおこなえます。これから電子申請をおこないたいという方のためにも、ここでは電子申請のメリットややり方について詳しく紹介します。
5-1. 電子申請のメリット
電子申請のメリットは、インターネット上で手続きが完結できることです。
近年働き方改革に伴い、リモートワークなどが普及し多様な働き方が推進されています。電子申請であれば、わざわざ金融機関や労働基準監督署に出向く必要がなく、24時間365日どこからでも申請をおこなえるという大きなメリットがあります。また、郵送にかかる費用などのコストも削減できます。
5-2. 電子申請に必要なもの
労働保険の年度更新について、電子申請で手続きするには、パソコンなどの端末とインターネット環境が必要です。また、アカウント・電子証明書の取得や、ブラウザ・アプリケーションの設定など、事前準備も必要になります。年度更新手続きを電子申請に切り替えようと考えている場合、早めに準備をおこないましょう。
5-3. 電子申請手続きのやり方
労働保険の年度更新の電子申請による手続きの方法とその流れは次の通りです。
- 事前に取得したアカウントを用いてマイページ(e-Gov)にログインする
- e-Gov電子申請手続検索で「労働保険年度更新申告」を検索する
- 労働保険番号・アクセスコードを入力して申告書入力画面を表示する
- 申請画面の必要事項をすべて入力したうえで電子証明書を添付して申請する
- インターネットバンキングで労働保険料を納付する
なお、特定の法人(資本金1億円超えなど)については、労働保険の年度更新手続き(年度更新に関する申告書、増加概算保険料申告書)の電子化が義務付けられています。特定の法人に該当する場合、電子申請が困難だと認められる場合などを除き、窓口・郵送でなく、電子申請により手続きをしなければならないので注意しましょう。
参考:2020年4月から特定の法人について電子申請が義務化されます|厚生労働省
5-4. 近年電子申請システムも普及
近年ではテクノロジーの発展や働き方改革の影響も受け、クラウド技術とデジタルツールの導入が進み、労働保険の申告業務が簡略化されています。e-Govの外部連携APIに対応した市販の電子申請ソフトや労務管理システムを活用することで、クラウドベースの電子申請が可能となり、中小企業の経営者や労務担当者にとって、効率的でスムーズな手続きを実現できます。このようなツールを導入することで、手続きの増加に対応しながらも業務効率を大幅に向上させることが可能です。
関連記事:社会保険手続きの電子申請義務の対象や申請方法について解説
6. 労働保険の年度更新を正しく理解して期間内におこなおう
本記事では、労働保険の年度更新における手続き方法や注意点を解説しました。年度更新では、前年度の労働保険料を確定させ、当年度の労働保険料を見込みで申告・納付します。
年度更新の期間は例年6月1日から7月10日までの間であり、期間を過ぎるとペナルティが課せられるため注意が必要です。
ぜひ本記事の内容を参考にし、年度更新の必要書類と申請場所を確認し、漏れがないよう慎重に手続きをおこないましょう。
社会保険の更新・改定マニュアル完全解説版
年度更新や定時決定、随時改定と、労務担当者は給与の改定と並行して、年間業務として保険料の更新に関わる業務を行う必要があります。
一方でこのような手続きは、実際に従業員の給与から控除する社会保険料の金額にダイレクトに紐づくため、書類の記入内容や提出はミスなく確実に処理しなければなりません。しかし、書類の記入欄は項目が多く複雑で、さらに申請書や届出にはそれぞれ期限があり、提出が遅れた場合にはペナルティが課せられるケースもあります。
当サイトでは社会保険の手続きをミスなく確実に完了させたい方に向け、「各種保険料の更新・改定業務のマニュアル」を無料配布しております。
ガイドブックでは、年度更新の申請書から定時決定における算定基礎届、随時改定時の月額変更届、さらには賞与を支給した場合の支払報告書の書き方から、記入例、提出方法までまでを網羅的にわかりやすくまとめているため、「社会保険の更新・改定業務のマニュアルがほしい」という方は、こちらから資料をダウンロードしてご覧ください。
人事・労務管理のピックアップ
-
【採用担当者必読】入社手続きのフロー完全マニュアルを公開
人事・労務管理公開日:2020.12.09更新日:2024.03.08
-
人事総務担当が行う退職手続きの流れや注意すべきトラブルとは
人事・労務管理公開日:2022.03.12更新日:2024.07.31
-
雇用契約を更新しない場合の正当な理由とは?伝え方・通知方法も紹介!
人事・労務管理公開日:2020.11.18更新日:2025.05.30
-
法改正による社会保険適用拡大とは?対象や対応方法をわかりやすく解説
人事・労務管理公開日:2022.04.14更新日:2025.05.16
-
健康保険厚生年金保険被保険者資格取得届とは?手続きの流れや注意点
人事・労務管理公開日:2022.01.17更新日:2025.05.12
-
同一労働同一賃金で中小企業が受ける影響や対応しない場合のリスクを解説
人事・労務管理公開日:2022.01.22更新日:2025.04.23
社会保険の関連記事
-
養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置とは?申請期間や必要書類を解説
人事・労務管理公開日:2023.10.13更新日:2025.02.14
-
社会保険で70歳以上の労働者を雇用するケースでの必要な手続きや注意点
人事・労務管理公開日:2022.04.16更新日:2025.03.28
-
社員退職時の社会保険喪失手続きとは?退職日ごとの社会保険料の違いも解説
人事・労務管理公開日:2022.04.15更新日:2025.06.10