労働基準法に定められた災害補償が適用される労働災害と補償額
労働基準法8章には「災害補償」に関して、あらゆる事態を想定した災害の補償の取り決めがあります。労働災害として認められた場合は企業の責任になり、補償しなければならないとするのが災害補償です。ここからは災害補償に関して適用される災害や、補償額、審査などを詳しく解説していきます。
▼そもそも労働基準法とは?という方はこちらの記事をまずはご覧ください。
労働基準法とは?雇用者が押さえるべき6つのポイントを解説
目次
労働基準法総まとめBOOK
1. 労働基準法における労働災害の補償対象となる災害
労働基準法では労働災害時の補償について第8章の災害補償で規定されています。75条から88条までの13条に渡って細かく定められ、法令化されています。
端的にいうと、労働者が業務関連で怪我や病気に罹った場合、休業補償や療養補償、障害が残った場合は障害補償、亡くなった場合は遺族補償と葬祭料などを支給しなければいけない取り決めです。
災害補償に関しては企業が詳しく設定できるものではありません。法律で明確に定められており、支払義務が生じた場合は必ず支払わなければいけません。
本章では労働基準法で災害補償が適用される労働災害の事例を詳しく紹介します。
1-1. 労働基準法の災害補償が適用される災害の種類
労働基準法における「災害」とは業務上の事故に限ったものではありません。通勤中や勤務時間中に外出した際に発生した事故により、労働者が病気や怪我を負った場合のことを指します。
業務時間外の通勤による事故も、会社に勤めるために外出しているため、労災と認定される点がポイントです。
労働災害というと不慮の事故を想像しますが、過労による過労死や、職場環境のストレスから精神や肉体関連の疾病を発症した場合も、災害として認められる可能性があります。
1-2. 休憩中の事故は労災になる?
休憩時間の事故に関しては、事故が発生した場所が認定の重要なポイントです。
例えば社員が社外の店舗で転倒し骨折した場合、これは労災に認定されません。しかし社内で休憩をとっていた社員が階段から落ちて骨折した場合、こちらは労災として認定されます。
休憩時間は企業の拘束がない自由な時間であるため、怪我は自己責任ということになります。しかし社内で起きた事故や、社外での営業活動をしつつ休憩をとっていた場合は労災として認められる可能性があります。
1-3. 出張中の事故は労災として認められる?
出張中の災害は、社員が手配された交通手段を利用し、通常通り業務を行い、宿泊する場合は会社から指定された宿泊施設に寝泊まりしていれば、ほとんどの場合で労働災害と認定されます。
一方労働災害として認められないのは、社員が完全に業務から逸脱していたときです。例えば業務を行わずに観光していた場合や、泥酔していた場合、指定された交通機関・宿泊施設を利用していない場合は認められません。
真面目に予定通りの業務をおこなっていれば、多くの場合で労働災害と認定されると考えて問題ないでしょう。
2. 労働基準法における災害補償の対象外になるケース
先ほど解説した災害補償に該当するケースに対して、労災に該当しない条件や事例も知っておきましょう。
業務遂行性や業務起因性など、答えのわかりづらい内容が多く出てくるため、あなたの会社で起きたことのある災害補償のケースなども併せて理解してくのがおすすめです。本章では具体例をもとにわかりやすく取り上げていきます。
2-1. 業務遂行性と業務起因性に該当しない
1つ目の補償対象にならない事例は、業務遂行性と業務起因性に該当しないということです。まずはそれぞれの言葉の意味と、どのような条件下で該当しないと判断されるのか理解しましょう。
業務遂行性 |
「怪我をしたときに仕事をしている状態だったかどうか」 実際に仕事をしている最中だけではなく、参加を強制されている会社の親睦会や、仕事を一時中断してトイレや給水に行っているときに発生した事故も含まれる |
業務起因性 |
「その怪我が、仕事をしていたことが原因で生じたと言えるかどうか」 例)営業職の人が外回りの途中で転んだ場合、当事者は得意先を回るのが主な業務であるため、その仕事をしていたことが原因で生じた怪我だと考えることができる |
上記の2つの条件を満たしていない場合は災害補償の対象外になります。
従業員から相談を受けた場合は事故発生時の状況を詳しくヒアリングすることが大切です。その上で補償対象に含まれるか慎重に検討しましょう。
2-2. 犯罪行為や重大な過失がある
2つ目の補償対象にならない事例は、犯罪行為や重大な過失がある場合です。例えば、酒酔い運転や運転中のスマホ操作等の行為があったため事故を起こしてしまったというようなケースです。
本人の犯罪行為によって生じた事故や本人に重大な落ち度があるケースでは、労災では保険給付の制限をしています。酒気帯び運転や運転中のスマホ操作は、他人にまで危害を加えるおそれのある重大な犯罪行為に該当するからです。
その他にも、危険であるとわかりきっている場所や立ち入り禁止場所にあえて自ら立ち入るなど、自分に明らかな過失がある場合は、保険給付が制限されてしまいます。
ただし、自分の犯罪行為によって生じた事故や、本人に重大な過失がある場合でも、程度によっては一部の給付を受けられることがあります。従業員から相談があった場合は、過失の度合いや状況を精査して慎重に話を進めましょう。
2-3. 通勤経路が合理的でない通勤災害
通勤災害とは、労働者が通勤により被った負傷、疾病、障害又は死亡を言います。この場合の「通勤」とは、上記にあるように、業務遂行性と業務起因性を満たしているものを指します。具体的には以下の3点です。
- 住居と就業の場所との間の往復
- 就業の場所から他の就業の場所への移動
- 住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動(例:転勤によって配偶者と別居している場合や、要介護の父母と別居している場合の相手方の家への移動のこと)
これらを満たした上で合理性が判断軸になることを覚えておきましょう。
注意しておきたいのは、従業員が提出した経路を利用していれば無条件で勤災害に当てはまるわけではないという点です。論点は、そもそも従業員の提示した通勤ルートが最短での通勤距離であるかという点になります。そのため、もし通勤災害が起きた場合は、通勤災害時に使っていた道が職場までの最短距離であるかどうかも確認しましょう。
3. 労働基準法に定められた災害補償の補償額
労働基準法では補償の内容や額の基準が細かく決められており、状況に応じて必要な額を支払わなければなりません。
本章では、通院費や入院費の補償、休業補償、療養補償などの従業員側へ支払われる補償だけでなく、打切保障や分割補償などの企業側への救済補償も併せて詳しくご紹介します。
3-1. 療養・休業に関する補償
療養・休業に関する補償については、以下のように定められています。
第七十五条 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。
(中略)
第七十六条 労働者が前条の規定による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の百分の六十の休業補償を行わなければならない。
引用:労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)|e-Gov 法令検索
労働基準法第75条と第76条が該当します。また、上記の通院費や入院費は療養補償に含まれていますが、労働者災害補償保険法の第12条の8や第13条の2項に記載があるため、気になる方はご覧ください。
療養補償
- 治療(療養)に必要な額の負担
休業補償
- 労働者が療養によって働けない場合は平均賃金の100分の60割を補償
休業補償が発生する休業日数に関しては特に法律で定められていないため、何日休業させるのが妥当であるかを正しく確認し、医師が必要と認める期間は安静加療させるようにしましょう。また復帰の際も同様に、医師と復帰可能かどうか相談したのちに判断しましょう。
無理して働かせ、復帰の予定日がさらに遅れてしまえば会社としての損失も大きくなるため、対応は社内で明確にしておくことをおすすめします。
関連記事:労働基準法76条に規定された休業補償の金額や支払期間を紹介
3-2. 後遺症が残った場合の補償
労働者が負傷または病気にかかり、治療後も障害が残っている場合には、労働基準法77条により障害補償が適用されます。
障害等級1~7級:基礎日額の313日~131日分の障害者年金
障害等級8~14級:基礎日額の503日~56日分の一時金
残ってしまった障害の重さによって金額が変わるため、従業員本人や家族への確認が必要です。
3-3. 労働災害に遭った社員が亡くなった場合の補償
社員が労災によって亡くなった場合は遺族補償と葬祭料、2つの補償が発生します。
遺族補償:平均賃金の1000日分を遺族補償とする
葬祭料:葬祭を行う場合は平均賃金の60日分を葬祭料として補償する
遺族基礎年金は死亡の日から6年間支給が止まり、遺族厚生年金は遺族補償と併給調整が入り全額受け取ることができなくなることがあります。
3-4. 災害補償支給前の待機期間の休業補償
労災が認定され、実際に休業補償が支払われるのは4日後です。つまり従業員は3日間は無給になってしまうため、支給前の3日間は企業側に支払い義務があるということになります。
補償額は労働基準法76条に記載があるとおり、平均賃金の100分の60割です。
3-5. 労働基準法では、打切保障と分割補償で終わりも明記されている
社員が労災に遭った場合、企業にも支払に関する救済措置が取り決められています。具体的には労働基準法81条「打切補償」と82条「分割補償」の2つです。
打切補償は療養開始から3年を経過しても回復しない場合は、平均賃金の1200日分の補償をおこない、その後の補償は不要とする法律です。
分割補償は、支払能力があり、補償を受ける者から許可を得た場合に限り、障害補償と遺族補償の支払いが6年間の支払に分割できる法律です。
4. 労働基準法における災害補償の審査
第八十五条 業務上の負傷、疾病又は死亡の認定、療養の方法、補償金額の決定その他補償の実施に関して異議のある者は、行政官庁に対して、審査又は事件の仲裁を申し立てることができる。
引用:e-Gov「労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)」
また1次審査に関して不服がある場合は、第2時の審査として労働基準法86条により「第二次の審査および仲裁」が認められています。
ここでは労働基準法で定める、災害補償の審査に関して解説していきます。
4-1. 労災の決定に不服を申し立てる審査請求とは
審査請求とは、労働災害の給付に対して決定に不服がある場合に再審査を請求できる権利です。
ただし請求には条件があり、決定の翌日から3ヵ月以内におこなわなければなりません。請求先は労働者災害補償保険審査官です。
請求を受けた審査官は決定が違法ではないかを調査し、違法の場合は決定を取り消します。
ただし棄却される場合が多いのが現状です。実際に決定取り消しとして請求が受け入れられた例では、確固たる証拠が揃っていることが多いようです。
4-2. 1回目の審査に不服を申し立てることができる
また1度棄却された場合でも、再審請求が可能です。こちらは1回目の結果が知らされた日から2ヵ月以内で、審議の方法も少し異なります。
労働基準監督署などが決定した内容が事実とは異なり、自分が不利益を被っている際は証拠をそろえて審査請求する必要があります。
5. 労災保険「上乗せ保険」とは
「労災上乗せ保険」とは、負傷型労災(従業員の方の業務中のケガ)の補償および、安全配慮義務違反を問われたなど、労働災害の責任が企業にあると法律上判断された場合に発生する、「企業側がおこなう補償を救済する」保険のことです。
この保険が重要になる背景として、業務中に従業員が事故に見舞われた場合、損害賠償を請求されるケースが増加しているという背景があります。
不運にも死亡事故になってしまった場合、損害賠償金として何千万単位で支払わなければならない可能性も出てきます。労災保険での死亡時の補償額は約1000万円ですが、遺族から多額の損害賠償を求められた場合、最悪のケースでは経営破綻も考えられます。
このため、事故の多い建設会社は労災上乗せ保険に加入することがほとんどです。
労災上乗せ保険は、正社員だけでなく、アルバイトやパートで働く従業員にも適用されます。従業員の人数を記入するだけで加入が可能であるため、ハードルが低い点も加入企業が多い理由です。
会社側に問題があり、「不法行為」または「安全配慮義務違反の債務不履行責任」があると確認された場合には慰謝料の請求が可能になります。
会社にこれらの責任がないと認められた場合は、労働者災害補償保険の請求のみです。
慰謝料については主に以下のものがあります。
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 死亡慰謝料
精神的な面での損害についての慰謝料等は労災では補償されませんが、労災保険で補償されない損害については、民事上の損害賠償請求によって会社に請求することができます。
慰謝料請求をされるようなことがないように、労働環境を整えることが第一ですが、万が一に備え上乗せ保険に加入しておくと安心です。
6. 労働基準法では災害補償の対象範囲や金額が明確に決められている
労働者の就業中・通勤中に怪我や病気を発症した場合は、企業が責任を負わなければならないというのが災害補償です。
災害補償の種類としては、以下のものがあります。
- 療養補償
- 休業補償
- 障害補償
- 遺族補償
- 葬祭料
いずれも補償範囲や条件、金額などが法律で定められているため、違反しないように正しく対応しなければいけません。
労災は突発的に発生するものであるため、いつ起きても対応できるように関連法律の内容を把握し、対応もマニュアル化しておくとよいでしょう。
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