労使協定の届出義務とは?届出が必要な種類一覧と36協定の新様式を紹介
労使協定は労働者と使用者の間で結ぶ、取り決めのことを指します。労使協定は労働基準法に基づいて定められていますが、契約の種類によって詳細が大きく異なる点がポイントです。
従って、労働者と使用者の双方で合意すれば効力を発揮する労使協定もあれば、行政官庁に届出をおこなってから初めて効力を発揮する労使協定もあります。
また、法定労働時間を超える労働を可能にする36協定は、2021年4月から届出の様式が新しくなりました。
今回は、労使協定の届出とあわせて、36協定の新様式に関して詳しく解説します。
関連記事:労使協定の基礎知識や届出が必要なケース・違反になるケースを解説
目次
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1. 労使協定とは?
1-1. 労使協定の締結者
労使協定は、「労働者の過半数で組織する労働組合」もしくは「労働者の過半数を代表する者(労働組合がない場合)」と、使用者の間で締結します。
協定を締結した後は、作業場に分かりやすく掲示したり、書面で交付したり、労働者全員に周知しなければなりません。周知の作業を忘れないように注意しましょう。
1-2. 労使協定の届出義務
労使協定の届出義務は、労働基準法に基づき、特定の労使協定が労働基準監督署に届出を必要とするものです。これは労働環境や労働時間に関する問題を労働基準監督署が監督・管理するための重要な手続きです。労使協定は以下の3種類に分類され、会社は①および②の労使協定について届出を行う必要があります。
① 届け出が効力要件である労使協定:これは労働基準監督署への届け出が行われなければ効力を持たない協定を指します。例えば、36協定はこのカテゴリに該当します。36協定がない場合、法定労働時間を超えて労働させることはできません。
② 届け出は義務だが、効力要件ではない労使協定:このタイプの協定は、届け出をすることが求められますが、届け出が効力発生の条件ではありません。例えば、1ヶ月単位の変形労働時間制に関する協定があります。これらの協定についても労働基準監督署に届け出を行う必要があります。
③ 届け出が不要な労使協定:このタイプの協定は、労働基準監督署への届け出が不要です。ただし、社内での手続きや文書の保管は求められることが多いです。
届出を怠ると罰則が科されることもあるため、企業は法令に従って適切に届出を行うことが求められます。
1-3. 届出の必要・不要は労働基準法を確認する
労働に関わる協定は何種類か存在するため、法律としての根拠が混在します。労使協定は労働基準法に基づいて締結するので、労働基準法に届出の表記が無ければ届出は不要です。なお、届出が不要な労使協定には、賃金控除や時間単位年休、休憩一斉付与などに関する協定が挙げられます。
届出が不要な労使協定の場合、労働者と使用者で合意が成立し、書面によって協定を交わした時点で成立します。
関連記事:労使協定の種類・特徴や労働基準監督署に届出が不要なケースについて解説
2. 届出が必要な労使協定の種類
それでは具体的に届出が必要な労使協定は種類や内容によって異なりますので一覧で説明します。
▼届出が必要な労使協定一覧
- 強制貯蓄
- 1カ月単位の変形労働時間制
- 1年単位の変形労働時間制
- 1週間単位の非定型変形労働時間制
- 清算期間が1カ月をこえるフレックスタイム制
- 時間外・休日労働
- 事業場外労働(労働時間が法定労働時間を超える場合)
- 専門業務型裁量労働制
以上の労使協定は労働基準法に基づいて定められています。
例えば、事業場外で労働をおこなう場合、労働基準法32条で以下の通り定められています。
使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない。
従って、届出の必要がある労使協定は双方で合意を得てから書類を作成し、行政官庁に届出をおこなう必要があります。
労使協定の届出提出先は、所轄の労働基準監督局です。
3. 時間外労働について定める36協定とは
36協定は、使用者と労働者で合意を得た後に書面で協定を締結します。その後、労働基準監督署に届出を提出し、労働基準監督署に認められてから初めて効力を発揮するのがポイントです。2021年4月の新様式では、届出に関する項目が変更されました。
3-1. 36協定の締結における過半数代表者の選出条件
また36協定の締結には、過半数代表者を選出する必要があります。
労使協定は使用者と労働者の間で結ぶため、労働代表者が使用者に関係していた場合、代表者としてふさわしくありません。そのため、選出条件に沿って代表者を選出します。
選出条件をさらに詳細にすると、次のとおりになります。
- 労働者の過半数を代表していること
- 管理監督者ではないこと(労働基準法第41条2号に基づく)
- 使用者の意向によって選出されていないこと
選出する際は適切な方法で選出されていなければなりません。選出方法は36協定届に記入する項目があるので、こちらも忘れずに記入しましょう。選出条件について詳しく解説します。
労働者の過半数を代表していること
労働者の代表者は、事業場全ての労働者の過半数を代表する者であることと定められています。労働組合が代表者として36協定を締結する場合も、事業場全ての労働者を代表する労働組合である必要があります。
事業場全ての労働者とは、正社員だけでなく契約社員やアルバイトも含まれます。
管理監督者でないこと
労働者の代表は、監督者や管理の地位にある者ではないことが条件にあります。管理監督者とは、部長・工場長など、経営者と同じように労働条件を決める権利を有する立場を指します。
条件の一つに、使用者の意向によって選出された者でないと記載されているので、管理監督者にあたる人は避けた方がよいとされています。
使用者の意向によって選出されていないこと
代表者は使用者が指名することはできません。使用者の意向によって選出された代表者が36協定を締結した場合、その36協定には効力がありません。
また労働者の中から代表を選ぶ場合は、36協定を締結することを目的として選出しなければなりません。36協定締結前から全く異なる目的で選出されていた場合も36協定は無効となります。[注1]
36協定を結ぶために適切な代表者をしっかり選ぶのが大切です。
[注1]36協定の締結当事者となる過半数代表者の適正な選出を!|厚生労働省
4. 労使協定の届出手続き
4-1. 労使協定の届出先
労使協定の届出先は、事業所を管轄する労働基準監督署です。具体的な労働基準監督署の所在地は、厚生労働省のウェブサイトから検索できます。地域ごとに異なる管轄区域があるため、正確な届出先を確認することが重要です。労働基準監督署では、提出された労使協定を審査し、労働基準法に基づく適正な手続きを確認します。また、電子申請が可能な場合もあり、その際には必要な書類の電子データ化やデジタル署名が求められることがあります。
4-2. 労使協定の届出様式
労使協定の届出様式は、労働基準監督署が定めた特定のフォーマットに従って行う必要があります。この様式は、労働基準法施行規則によって定められており、労働基準法に基づき、労使で合意した内容を明確に示すために使用されます。厚生労働省のウェブサイトでは、各労使協定に対応する届出書の様式が提供されており、内容に応じて適切な様式を使用して届け出を行うことが求められます。
最近では、紙での提出だけでなく、電子申請も可能となっており、その場合はデジタル署名が必要になります。新様式では、使用者の押印・署名の廃止やチェックボックスの新設などにより、手続きが一層簡素化されています。正確な様式に従って提出することが、適切な届出の第一歩です。
4-3. 労使協定の届出期限
労使協定の届出期限は、法的に定められた重要な要件です。特に時間外労働や休日労働のルールを定めた36協定については、労働基準監督署への届け出が効力要件とされており、発効日の前日までに届け出を行う必要があります。届出期限を守らない場合、企業は罰則を受ける可能性があり、注意が必要です。
一方で、36協定以外の労使協定のうち届け出義務があるものについては、届け出の期限が特に設けられていませんが、労働基準法違反を避けるためにも、遅くとも効力発生から2~3週間以内には届け出を行うことが推奨されます。新たに協定を締結した場合や既存の協定を更新する場合も、期限内に適時適切な届出が求められます。
労働基準監督署に対して適切に届出を行うことで、労働者の権利を保護し、企業のコンプライアンスを確保することが重要です。この手続きを徹底することで、企業は労働基準法に基づく適切な運営を維持できます。
5. 36協定の変更点は?新様式でどこが変わった?
36協定とは労使協定の一つで、労働基準法第36条に基づいて定められた取り決めのことです。2021年4月より36協定が新様式に変わり、変更点は以下の4点となっています。
- 使用者の押印、署名の廃止
- 36協定の協定当事者に関するチェックボックスの新設
- e-Govによる電子申請が可能
- 特別条項付と一般条項で様式が変わる
押印・署名の廃止や場所を選ばずに申請できる電子申請により、36協定の届出が提出しやすくなりました。
ここからは、36協定の新様式を解説していきます。
参照:主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)|厚生労働省
5-1. 使用者の押印・署名の廃止
36協定を労働基準監督署に届け出る際は、36協定届を提出します。使用者の押印・署名が廃止されたのは、この36協定届内。使用者は記名のみで36協定届を提出できます。
ただし、協定届が協定書としての役割を持つ場合は、労働者代表と使用者の押印・署名が必要です。
36協定における協定書は、労働基準法第32条2に基づいて作成される文書で、双方の合意・締結を証明するための書面です。協定届が協定書を兼ねる場合には、忘れずに押印と署名をおこないましょう。
5-2. 36協定の協定当事者に関するチェックボックスの新設
協定当事者に関するチェックボックスとは、労働代表者が代表として適格かを確認するためのチェックボックスです。
▼労働代表者の要件(チェックボックス記載)
- 労働者の過半数を代表する者であること
- 管理監督者でないこと
- 締結者の選出方法が明らかであり、民主的な方法での選出者であること
- 使用者の意向で選出されていないこと
以上の要件は36協定届の最後の部分に記されており、選出方法とチェックボックス2カ所にチェックを入れるようになっています。
36協定届を提出する場合は、チェックボックスに要チェックと記載されている箇所に正しくチェックが入っているか、代表者は項目の要件を満たす人物かをしっかり確認しましょう。
仮にチェックボックスに未記載のまま提出すると、要件に適合している協定届とは認められず、36協定の効力が発生しないことになります。
関連記事:労使協定と36協定の違いや新様式で変化した内容とは
5-3. 電子申請が可能になった
新様式ではe-Gov電子申請が可能となりました。また、事業所単位で36協定を締結していたとしても、電子申請に限り本社一括で届け出ることができます。押印・署名の代わりとなる、電子証明書の添付や電子署名も不要です。
ただし、これまでどおり36協定の締結に関しては、事業所ごとに実施しなくてはいけません。この点、混同しないように注意しましょう。
5-4. 特別条項付と一般条項で様式が変わる
労働基準法改正によって時間外労働の上限規制が設けられたことに伴い、特別条項が36協定届の記載事項に加わりました。
これにより、新様式では特別条項の有無によって、2種類の様式が用意されています。特別条項がない場合は「様式第9号」、特別条項がある場合「様式第9号の2」を使って、それぞれ届出を作成する必要があります。
6. 労使協定の届出を怠った場合の罰則
6-1. 36協定の届け出を怠った場合
36協定の届け出を怠った場合、企業は労働基準法第32条や第36条に違反することになり、罰則が科される可能性があります。具体的には、36協定なしで時間外労働や休日労働を行わせた場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されることがあります。労働基準監督署への届け出が効力要件とされているため、36協定届を提出しない限り、36協定は無効(未発効)となります。このため、労働時間の適法な管理ができなくなり、さらに従業員からの信頼を損ない、企業の評判にも悪影響を及ぼす可能性があります。効果的かつ適法な労働時間管理を行うために、36協定の締結と届出を確実に行うことが求められます。
6-2. 届け出が効力要件ではない場合
一部の労使協定では、届け出が効力要件とされていない場合もあります。これは、36協定以外の労使協定について、労働基準監督署への届け出義務を怠った場合でも、その効力が否定されないことを意味します。したがって、労働基準監督署へ届け出ていない労使協定に基づく労働条件を適用しても、それ自体は直ちに労働基準法に違反するわけではありません。
しかし、労働基準監督署に届け出を行うことで、労働条件の適法性と透明性が確保されるため、届出を怠ることは企業のリスク管理上問題となる可能性があります。最悪の場合、労働者との信頼関係を損なうことにもなりかねません。さらに、労働基準監督署への届け出義務に違反した場合には、行為者・会社の両方に対して30万円以下の罰金が科される可能性があります。したがって、届出が効力要件でない場合でも、適切な手続きとして届出を行うことは企業の信頼性を高め、労働環境の整備に寄与します。
7. 労使協定は労働基準監督署へ届け出よう!36協定は新様式に注意
労使協定の中でも、強制貯蓄や裁量労働制、36協定などを締結する場合は、管轄の労働基準監督署に届出を提出しなければなりません。書面で合意を交わした時点ではなく、届出が認められた時点で効力を発揮します。
加えて、届出が必要な36協定は2021年4月より、新様式での届出を提出する必要があります。
新様式とは、36協定届だけの場合は押印・署名が不要になり、加えて、労働者の代表が適当であるかのチェックボックスへのチェックが必要になりました。また、e-GOVを利用すれば、電子申請も可能です。
仮に労働者の代表者としてふさわしくない人が36協定を締結した場合、その36協定は正式に認められないので注意しましょう。
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