労使協定の種類を一覧で紹介!労働基準監督署に届出が必要なケースも解説
更新日: 2025.8.26 公開日: 2022.2.8 jinjer Blog 編集部

労使協定には多くの種類があり、その内容は多岐にわたります。代表的な36協定のほか、有給休暇の取得方法や休憩時間の扱い、みなし労働時間制に関する協定など、日常の労務管理に欠かせないものが多数あります。
これらの協定の中には、労働基準監督署への届出が必要なものもあり、手続きが不適切だと協定が無効となる恐れもあるため、内容を正しく理解し、適切に対応することが重要です。本記事では、労使協定の種類を一覧で紹介します。また、具体的な手続きの流れや届出の必要性についても解説します。
関連記事:労使協定とは?種類や労働協約・就業規則との違い、届出義務に違反した場合を解説
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1. 労使協定の種類を一覧で紹介!


労使協定には複数の種類があり、関連する労働基準法や用途が異なるほか、労働基準監督署への届出の要不要も変わります。有名な36協定のほかに、どのような労使協定があるのか知っておきましょう。
|
|
協定内容 |
概要 |
届出の必要性 |
関連する 労働基準法 |
|
1 |
労働者の貯蓄管理に関する協定 |
企業が労働者から貯蓄管理の委託を受け、実施する場合に必要 |
必要 |
第18条 |
|
2 |
賃金控除の法定控除以外に関する協定 |
法定控除とは別に、財形貯蓄をはじめ、賃金から控除をおこなう場合に必要 |
不要 |
第24条 |
|
3 |
1ヵ月単位の変形労働時間制に関する協定 |
「1週間の労働時間が、1ヵ月分で平均した際に、労働基準法で定められた労働時間(40時間)を超えない」という労働条件を定める場合に必要(締結すると、労働基準法に違反する時間外労働が発生しても、平均値が法定時間内であれば問題がなくなる) |
原則必要※1 |
第32条の2 |
|
4 |
フレックスタイム制に関する協定 |
フレックスタイム制を導入する際に必要 |
原則不要※2 |
第32条の3 |
|
5 |
1年単位の変形労働時間制に関する協定 |
3の労使協定の平均する期間を1年としたもの(1年を平均して、1週間の労働時間が40時間以内であれば、法定労働時間を超過する週があっても問題がなくなる) |
必要 |
第32条の4 |
|
6 |
1週間単位の非定型変形労働時間制に関する協定 |
1週間毎日の労働時間を通知することを条件に、1日に10時間までの労働が可能になる |
必要 |
第32条の5 |
|
7 |
交代休憩に関する協定 |
決まった時間に労働者全員が一斉に休憩するのではなく、交代で休憩を取るシステムを導入する際に必要 |
不要 |
第34条 |
|
8 |
法定時間外・休日労働に関する協定(36協定) |
労働基準法で定めた時間を超過する労働や、休日出勤が発生する際に必要 |
必要 |
第36条 |
|
9 |
事業場外みなし労働時間制に関する協定 |
事業場外での労働時間を会社が正確に把握できない場合に、一定の労働時間を「みなし」として扱う際に必要 |
原則不要※3 |
第38条の2 |
|
10 |
専門業務型裁量労働制に関する協定 |
専門性の高い職種に限定して、裁量労働制を導入する際に必要 |
必要 |
第38条の3 |
|
11 |
企画業務型裁量労働制に関する決議届 |
事務職や企画職をはじめ、ホワイトカラーに裁量労働制を導入する際に必要 |
必要 |
第38条の4 |
|
12 |
年次有給休暇を計画的に付与する協定 |
年休を計画的に付与し、消化する場合に必要 |
不要 |
第39条 |
|
13 |
代替休暇に関する協定 |
月の法定外残業時間が60時間を超えた際に、代替休暇を与えるシステムを導入する場合に必要 |
不要 |
第37条 |
|
14 |
年次有給休暇を時間単位で付与する協定 |
年休を1時間単位に区切って消化する場合に必要 |
不要 |
第39条 |
|
15 |
育児休業や子の看護休業などの適用除外に関する協定 |
育児休業をはじめとした休業、勤務時間の免除や短縮に適用外を設定する際に必要 |
不要 |
育児看護休業法第6条、第16条の8、第23条 |
|
16 |
看護休暇、介護休暇の適用除外に関する協定 |
15の休暇理由を看護休暇・介護休暇にする場合や拡大する場合に必要 |
不要 |
育児介護休業法第16条の3、第16条の6 |
※1 就業規則に定める場合、労使協定の締結(届出)は不要
※2 清算期間が1ヵ月を超える場合は届出が必要
※3 協定で定める時間が法定労働時間を超える場合は届出が必要
使用者が従業員と労使協定を結ぶ際は、これらの中から必要な協定を選出し、1つずつ合意を取りながら締結します。締結後は、36協定をはじめとしたいくつかの協定は労働基準監督署への届出が必要です。
なお、届出の方法には労働基準監督署へ直接持参するほか、郵送や電子申請といった方法があります。
参考:労働基準法|e-Gov法令検索
参考:労使協定とは|厚生労働省
関連記事:労使協定の届出義務とは?届出が必要な種類一覧と36協定の新様式を紹介
1-1. 届出が不要な労使協定でも周知義務はある
たとえ労働基準監督署への届出が不要な労使協定であっても、労働基準法第106条により、労働者に周知する義務があります。
例えば、フレックスタイム制(清算期間が1ヵ月以内)や、一斉休憩の適用除外(交代制勤務など)に関する協定は、労使で合意したうえで締結すれば良く、届出は不要です。しかし、これらの協定について労働者に正しく周知していなければ、労働基準法違反となる恐れがあります。
そのため、就業規則とあわせて掲示や書面交付、電子閲覧など適切な方法で、協定内容を労働者に明確に知らせるようにしましょう。
2. 労使協定の締結から届出までの流れ


ここでは、実際に労使協定を締結し、届出をするまでの流れについて詳しく紹介します。
2-1. 労使間で協議する
労使協定を締結する前に、労使間で合意を形成するために、協定の内容について協議をおこなう必要があります。なお、労使協定は、使用者と労働者代表との間で結ぶことになります。
労働者代表とは、事業場の過半数で組織される労働組合(労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者)のことです。そのため、労働組合がない場合には、投票や挙手など、民主的な方法で労働者代表を選出しなければなりません。
関連記事:36協定の労働者代表とは?役割・選出方法や決め方も紹介!
2-2. 労使協定を締結する
協議の結果、内容に合意が得られたら、労使協定を書面にて締結します。労使双方が署名または記名押印することで協定が成立します。協定書には、法律で定められた記載事項が網羅されているか、きちんと確認することが大切です。
2-3. 就業規則を変更する
労使協定の内容が就業規則に影響を与える場合には、内容の整合性を確保するため、就業規則の見直し・変更をおこなう必要があります。労働基準法第90条に基づき、就業規則の変更に際しては、労働者代表の意見を聴取しなければならない点に留意しましょう。
2-4. 従業員に内容を周知する
労使協定や就業規則には周知義務があります。そのため、労使協定を締結した場合や、就業規則を変更した場合には、正しい方法で従業員にその内容を周知しなければなりません。具体的な周知方法として、以下の例が挙げられます(労働基準法施行規則第52条の2)。
- 職場の見やすい場所に掲示するか、備え付けておく
- 紙などの書面で従業員に配布する
- パソコンなどの電子ファイルに保存しておき、従業員がいつでもその内容を確認できるようにしておく
2-5. 労働基準監督署へ届出をする
労使協定によっては所轄の労働基準監督署への届出が必要です。
また、就業規則を変更した場合も届出が不可欠です。その際、労働者代表の意見書も添付して届出が必要なので注意しましょう。
2-6. 【注意】労使協定には有効期間を定めるものがある
次のような労使協定を締結する場合、有効期間を定めなければなりません。
- 1ヵ月単位の変形労働時間制に関する協定
- 1年単位の変形労働時間制に関する協定
- 時間外・休日労働に関する協定(36協定)
- 事業場外のみなし労働時間制労働に関する協定
- 専門業務型裁量労働制に関する協定
- 企画業務型裁量労働制に関する決議届
有効期間を過ぎた協定は効力を失います。そのため、期限が近づいたら更新や再締結の準備をおこなう必要があります。更新忘れがないよう、管理体制を整えておくことが重要です。
参考:労使協定とは|厚生労働省
関連記事:労使協定(36協定)の有効期間とは?必要なケースや理由を解説
3. 労使協定に違反した場合のリスク


正しく労使協定を締結しなかったり、労使協定の内容に違反したりすると、企業はさまざまなリスクを負います。ここでは、そのリスクの内容について詳しく紹介します。
3-1. 協定違反による制度の無効化
次のような場合、労使協定の効力が認められない恐れがあります。
- 法律で定められた記載事項(有効期間など)が抜けている
- 届出が必要な労使協定を労働基準監督署へ提出していない
- 労使協定の内容が従業員に正しく周知されていない
例えば、36協定の届出を怠った場合、その効力が認められず、従業員に時間外労働・休日労働をさせた場合、労働基準法違反となる可能性があります。
3-2. 労働基準法違反による罰則
労使協定を結んだ場合、労使ともにその内容に拘束されることになります。例えば、36協定で月20時間までの時間外労働と定めた場合、それを超えて労働を命じれば協定違反となり、労働基準法違反として扱われる可能性が高いです。
違反があった場合は、まず労働基準監督署から是正勧告や指導がおこなわれますが、改善されない場合や悪質なケースでは、労働基準法に基づき拘禁刑や罰金などの罰則が課せられる恐れもあるので気を付けましょう。
3-3. 従業員からの損害賠償請求
労使協定違反によって労働者に不利益が生じた場合、労働者から損害賠償を求められるリスクが高まります。
例えば、36協定で定めた上限を超えて時間外労働をさせていた場合、健康被害やメンタル不調に対する損害賠償請求につながる恐れがあります。また、違法な労働条件下で働かされたとして、未払い賃金や割増賃金の請求、退職後の労働審判・訴訟に発展するケースもあるので注意が必要です。
3-4. 企業イメージの低下
労使協定違反が明るみに出ると、企業のコンプライアンス意識が問われ、社会的信用が損なわれる恐れがあります。重大な法違反については、厚生労働省のホームページ上で企業名が公表されるケースもあり、採用活動や取引先との信頼関係、従業員の士気に悪影響を与えかねません。
4. 労働基準監督署の役割


労使協定をはじめとした、労働に関連するルールのほとんどには労働基準監督署が関係しています。そのため、労働基準監督署がどのような役割を担っているのか知っておくと、労使協定について問い合わせをする際に役立つでしょう。
4-1. 労働基準監督署は労働関連の法令を守っているか監督する機関
労働基準監督署の役割は、労働基準法や最低賃金法をはじめとする労働関連の法令を、企業が守っているかどうか監督することです。
厚生労働省の第一線機関で、全国に321署あり、監督課・安全衛生課・労災課・業務課などで構成されています。
4-2. 労働基準監督署の主な仕事は調査
労働基準監督署の主な仕事は、違法行為の調査です。賃金の不払いや労働条件の明示違反、法定外の時間外労働など、さまざまな違反の疑いに対して調査をおこないます。
違反が認められた場合は、監督指導をして是正を促しますが、処罰はできません。企業に繰り返し指導勧告をおこなったり、立ち入り調査を実施したりしても改善が見られないと判断した場合や悪質なケースでは、書類送検をします。
労働基準監督署がおこなうのは基本的に行政指導の域を出ないため、企業側に改善の意志がなく変化を期待できない側面もあります。加えて、労基署は法令違反の是正を目的とした機関であり、明確な証拠や資料がなければ、個人的な人間関係のトラブルなどに関しては対応できないこともあります。
5. 労使協定の種類を正確に理解し、適切な届出をおこなおう


労使協定は、労働時間の計算方法や表現が複雑な場合があり、正確に理解するには一定の専門知識が求められます。しかし、社会保険労務士などの専門家や、労務管理システムを活用すれば、適切な作成・運用が可能です。
また、協定の内容によっては所轄の労働基準監督署への届出が必要であり、これを怠ると法令違反として処罰される可能性もあります。労使協定を締結する際は、内容を十分に理解し、正しい手続きをおこなうことが大切です。



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