社会保険の遡り加入が必要なケースや支払い方法を解説
更新日: 2025.6.10
公開日: 2022.3.31
jinjer Blog 編集部
社会保険は、適用事業所の条件に当てはまる従業員すべてが加入対象です。では、もし条件を満たしているにもかかわらず社会保険に入っていない従業員がいる場合は、どうしたらよいのでしょうか。未加入のまま放置すると、事業所が罰則を受ける可能性もあるため、適切な対処が必要です。
この記事では、厚生年金・健康保険の遡り加入が必要なケース、保険料の支払い方法や還付請求、会社が社会保険に未加入だったときの遡及適用を解説します。
▼社会保険の概要や加入条件、法改正の内容など、社会保険の基礎知識から詳しく知りたい方はこちら
社会保険とは?概要や手続き・必要書類、加入条件、法改正の内容を徹底解説
労務担当者の実務では、社会保険の加入条件を正しく理解していることが求められる一方で、法改正により適用条件が変更されたり、パートやアルバイトの社会保険について加入条件が複雑でわからりづらく正しく理解できているか不安な方もいらっしゃるのではないでしょうか。
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目次
1. 未加入時期があれば社会保険の遡り加入が必要
社会保険は遡って加入できます。ただし、保険料の徴収については健康保険法・厚生年金保険法により2年間の時効があるため、実際に納付する保険料は最大2年分です。従業員に未加入の時期があれば、加入手続きをしなければなりません。
例えば、短時間のアルバイト勤務からフルタイムのパートにしたときや、社会保険の加入要件が変更になったことに担当者が気付かずに時間が経ってしまったときなどに特に注意が必要です。従業員の社会保険(厚生年金保険・健康保険)への加入が漏れていないか、改めてチェックする必要があります。
1-1. 加入要件を満たした時期まで遡って加入が必要
社会保険の未加入が発覚したら、通常、加入条件を満たす時期まで遡って加入しなければいけません。社会保険への加入条件は以下の通りです。
- フルタイム勤務の労働者
- フルタイム勤務の4分の3以上の労働時間の労働者
- 短時間労働者は所定労働時間が1週間20時間以上や月額88,000円以上の賃金をもらっている
- 短時間労働者は雇用期間に1年以上見込みがあることや学生ではない場合も該当
遡って加入する際は、当時の法律と照らし合わせて、加入条件をいつから満たしているか確認しましょう。なお、国民健康保険も遡って加入できます。社会保険の加入条件を満たしておらず、従業員側の勘違いで保険に未加入になっている場合は説明すると親切でしょう。
1-2. 遡り時期の指定はできない
なお、遡り加入の時期は会社や従業員が指定できるものではありません。「この期間だけ遡って加入したい」といった要望は通らず、法律上の条件を満たした時が加入時期となります。
更に長期間社会保険の未加入時期が存在した場合、その期間すべてを遡って加入できるとは限りません。2年以上前の未加入分は遡っても加入できなくなります。長期間未加入のまま放置した場合は取り返しがつかないため、社会保険の加入手続きは確実におこなう必要があります。
1-3. 社会保険の未加入期間を確認する方法
社会保険の遡り加入の手続きをする際は、雇用の実態が加入条件にあっているか、客観的に証明できる書類も必要です。雇用契約書など、当時の労働条件が把握できる書類があれば、その内容を元に遡り時期が特定できます。
しかし、人手不足により徐々に労働時間が超過し、結果的に社会保険の加入条件を満たして働かせていた従業員の場合は、勤務データや賃金台帳から、加入時期を特定する必要があります。
1-4. 国民年金の遡り加入は従業員が手続きする
国民年金も免除や納付猶予、学生納付特例期間があれば遡って加入できます。ただし、国民年金の追納ができる期間は状況により異なります。
国民年金は企業が取り扱うものではなく、日本年金機構と加入対象者が直接手続きをするものです。そのため、手続きは従業員自身でおこなう必要があるため、問い合わせを受けたら年金事務所で手続きをするように案内しましょう。
2. 社会保険の遡り加入には時効がある
社会保険は遡って加入できることがわかりました。しかし、すべての無条件に加入できるものではなく、遡及できる期間には時効があります。
2-1. 遡及できる期間は2年まで
社会保険(厚生年金保険・健康保険)は条件を満たした時から全て遡って加入できる訳ではありません。
遡りできる期間は「請求のあった日から2年まで」と、厚生年金保険法 第92条 第1項により定められています。
例えば、2018年から社会保険の加入条件を満たして働いている従業員がいたとしても、実際に遡って加入できるのは、2020年分からということになります。遡っても加入できなかった部分に関しては、年金や福利厚生に影響がでる恐れがあります。従業員側の不利益が発生しないように、企業は十分に注意しなければなりません。
2-2. 社会保険の適用事業所の条件
社会保険の適用事業所は、常時雇用する従業員数が51人以上の企業です。従業員には、正社員だけでなく、すべての要件を満たすアルバイトやパートなどの短時間労働者も含みます。
対象となる従業員の要件
- 週の所定労働時間が20時間以上30時間未満
- 所定内賃金が月額8.8万円以上
- 2ヵ月を超える雇用の見込みがある
- 学生でない
参考:社会保険適用拡大対象となる事業所・従業員について|厚生労働省
企業自体が社会保険に未加入だった際も、遡り加入が必要です。場合によっては、日本年金機構によって強制加入の手続きが取られる場合もあります。
社会保険と雇用保険の未加入企業には罰則もある
適用事業所にも関わらず、督促を受けてもなお社会保険や雇用保険に未加入のままといったケースでは、最大過去2年間分の保険料の納付に加えて遅延金の支払いを命じられることがあります。
さらに悪質なケースの場合、社会保険(厚生年金や健康保険)では6か月以下の懲役または50万円以下の罰金、雇用保険では6か月以下の懲役または30万円以下の罰金といった刑事罰を科せられる可能性があります。
第二百十八条 健康保険組合の設立を命ぜられた事業主が、正当な理由がなくて厚生労働大臣が指定する期日までに設立の認可を申請しなかったときは、その手続の遅延した期間、その負担すべき保険料額の二倍に相当する金額以下の過料に処する。
第八十三条 事業主が次の各号のいずれかに該当するときは、六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
一 第七条の規定に違反して届出をせず、又は偽りの届出をした場合
関連記事:社会保険未加入での罰則とは?加入が義務付けられている企業や従業員の条件も解説
2-2. 遡り加入が必要な従業員の社会保険の加入要件
現行の法律では、下記の要件に該当する従業員は、社会保険への加入が義務付けられています。
- フルタイム勤務の従業員
- 労働時間がフルタイム勤務の3/4以上の従業員
また平成28年からは特定事業所で働く短時間労働者は、下記の条件を満たす短時間労働者も社会保険に加入しなければいけません。
- 1週の所定労働時間が20時間以上
- 賃金の月額が88,000円以上
- 雇用期間が2ヶ月を超えること
- 学生でない
これらの条件に該当するようになったときから、2年間遡って社会保険への加入が可能となります。
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3. 社会保険遡り加入時の支払い方法
遡って社会保険に加入した場合、未納分の社会保険料は一括支払いを基本とし、さらに一時的に会社が全額立て替えて支払う必要があります。
例えば月給10万円の従業員では、会社と本人の負担額、両方合わせて約1万8千円が保険料額となります。
これを24カ月分一括で支払うとなると、43万2千円になります。
もし、同じ条件の従業員が複数名いる場合は、その分も合わせて支払わなければならず、全額を会社が立て替えなければなりません。
手続きが進んだ後は従業員に本人負担分を請求する流れになりますが、会社も従業員も負担が大きくなるため問題になるケースが多いです。
なお、従業員の給与から控除するのは原則として前月分で、多くの保険料を控除してしまうと生活ができなくなってしまう恐れもあります。本人負担分をどのように支払うか本人との調整も必要となります。
4. 社会保険遡り加入時の保険給付の返還について
社会保険に遡って加入した場合、保険料の取り扱いが複雑になります。国民健康保険や国民年金に加入して支払っていた場合は、二重払いが発生する点に注意が必要です。
4-1. 遡って支払うと二重払いが発生する
社会保険に入っていない期間、従業員は国民健康保険や国民年金に加入しているはずです。
当然保険料も支払っているため、この期間を遡って社会保険に加入すると問題が発生します。社会保険を遡って支払うと、厚生年金保険と国民年金のように、保険料を二重で支払う状態になってしまうからです。
国民年金は申請により還付を受けられるため、年金事務所などで手続きをするように従業員に説明しましょう。
4-2. 健康保険の還付は手続きが複雑なため注意
健康保険の場合、遡及することで管轄する保険者自体が変わるため、年金保険以上に手続きが複雑となります。
もし、遡及する間に健康保険を利用していた場合、保険給付分(医療費の7割)を先に旧保険者(市区町村の国民健康保険など)に支払い、支払い証明を受けなければいけません。
その後、新保険者に保険給付分(医療費の7割)を請求する流れとなります。
手続きが複雑であり、さらに通院などをしていた場合は、支払額も高額となるため、従業員と話し合って処理方法を検討しましょう。
5. 会社が社会保険に未加入時だったときの遡及適用
最後に、会社自体が社会保険に未加入であった際の遡及適用を解説します。
通常、厚生労働省(日本年金機構)の立ち入り検査がおこなわれ、強制的に加入手続きを取られた場合、2年間分遡って社会保険料の支払いが必要となります。しかし、自ら手続きをした場合は、新規適用の扱いとなり、遡及適用は発生しないとされています。
参考:厚生年金保険・健康保険などの適用促進に向けた取組|日本年金機構
5-1. 自主加入
社会保険の未加入が発覚したら、適用事業所は速やかに届け出をおこなって加入手続きをしましょう。
年金事務所から指導を受ける前に自主的に加入した場合、通常、届け出を出した日が新規適用日とみなされるため、遡及適用はおこなわないとされています。
郵送や電話などで加入案内が来ているときは、無視せず、早めに加入手続きをすることで比較的スムーズに対応ができます。
5-2. 加入指導
加入案内をしても応じない事業所には、年金事務所職員による加入指導が実施されます。
加入指導では、書面や電話だけでなく、会社への個別訪問によって制度説明や納付金額、提出書類の案内がおこなわれます。
指導に応じ、この時点で加入した場合は通常、新規適用の扱いとなります。
5-3. 立入検査
度重なる加入指導にもかかわらず、手続きをおこなわない事業所には、立ち入り検査の末、強制的に加入手続きが実施されることになります。立入検査により加入手続きがおこなわれた場合、過去2年分の遡及適用がおこなわれ、企業はその期間分の社会保険料を一括で支払わなければなりません。
さらに、勤務実態について虚偽の報告をするなど、悪質な場合は、6カ月以下の懲役又は50万円以下の罰金が課されるもあります。
5-4. 適用事業所への調査
適用事業所になった後も、従業員の報酬月額が間違っていたり、算定基礎届が未提出であったり、勤務管理がずさんな事業所には指導や指摘がおこなわれます。
指摘したにもかかわらず適切な届け出がなされない場合は、遡及加入が命じられるケースもあります。
6. 社会保険の加入は慎重におこない遡り加入がでないようにしよう
社会保険の加入条件を満たしているのに、未加入であった場合、申請日から2年間までなら、遡って加入できます。
しかし、遡り加入をすれば健康保険の還付請求など、多くの手間が発生します。
業務を円滑に進めるためにも、勤怠システムなどで日々の管理を正確におこない、適用漏れのないようにすることが大切です。
また、管理がずさんな事業所は適用指導も強化されるため、特に注意しましょう。
労務担当者の実務では、社会保険の加入条件を正しく理解していることが求められる一方で、法改正により適用条件が変更されたり、パートやアルバイトの社会保険について加入条件が複雑でわからりづらく正しく理解できているか不安な方もいらっしゃるのではないでしょうか。
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