試用期間満了で従業員を解雇(本採用拒否)するときの手続きをわかりやすく解説
更新日: 2025.10.17 公開日: 2022.9.27 jinjer Blog 編集部

多くの企業では、本採用前に試用期間を設けて、従業員の適性や勤務態度を見極めています。しかし、試用期間満了時に「本採用は見送る」として契約を終了させる場合、法的な手続きや判断基準を誤ると、労務トラブルに発展する恐れがあります。
実際に「試用期間中だから自由に解雇できる」と誤解している担当者も少なくありません。本記事では、試用期間満了を理由とする解雇(本採用拒否)の法的な考え方を整理し、適切な手続きの流れや注意点について詳しく解説します。
目次
試用期間においては、法律上で雇用契約締結の義務はありませんが、本採用前のトラブルを避けるため締結しておく方が安心でしょう。とくに期間や待遇、さらには解雇については企業側は法規則に則って、雇用契約書を作成しなければなりません。
「正当な解雇と認められる要件が知りたい」「解雇を進める手順がわからない」「解雇予告はいつまでにするべきなのか知りたい」このようなお悩みをお持ちの方に向けて、当サイトでは雇用契約手続きマニュアルとして、雇入れから雇止め・解雇までを徹底解説した資料を配布しています。
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1. 試用期間満了で解雇できる?

「試用期間」という言葉から、お試し期間という気軽なイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、試用期間での雇用契約と本採用後の契約に違いはなく、同じ労働契約であることを理解しておく必要があります。
試用期間だからといって、会社が自由に本採用するかしないかを決められるわけではありません。理由があって試用期間満了時に本採用を見送る場合、それは「解雇」として取り扱われます。
通常、雇用している正社員を解雇することは容易ではなく、よほどの理由がない限りは難しいでしょう。合理的な解雇事由には、無断欠勤が多いことや協調性が著しく欠けている場合などが挙げられますが、指導により改善の見込みがあるのであれば、解雇は認められません。
「仕事の成果を出していない」「効率が悪くミスが多い」などの理由だけで本採用を拒否した場合は、不当解雇と判断される可能性が高いため注意しましょう。
1-1. 試用期間満了後解雇よりも本採用拒否のほうが認められやすい
試用期間満了時に解雇する場合も、客観的で合理的な理由があり、なおかつ社会通念上相当である必要があります。したがって、試用期間満了による本採用の拒否(試用期間満了解雇)も、決して容易におこなえるものではありません。
ただし、最高裁判例(三菱樹脂本採用拒否事件)では、試用期間とは従業員の能力や適性を見極めるための期間であり、企業が解約権を留保した契約関係にあると解釈されています。そのため、本採用を見送る判断(試用期間終了時の解雇)は、試用期間満了後の本採用された通常の正社員に対する解雇よりも、広い範囲で許容されるとされています。
右の留保解約権に基づく解雇は、これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず、前者については、後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものといわなければならない
1-2. 満了を待たず試用期間の途中に解雇することもできる?
試用期間の途中であっても通常の解雇と同様に、合理的な理由がある場合は解雇できます。しかし、満了時に本採用を拒否することと比べると、途中での解雇はよりハードルが高くなるでしょう。
満了時であっても、短期間で適性があるかどうかの判断は難しいものです。そのため、さらに早い試用期間の途中での解雇は、よほどのことがない限り正当な理由として認められないと考えられます。「試用期間中に重大なトラブルを起こした」「経歴詐称があった」など、途中で解雇するほどの問題があった場合は、それを証明できる書類や証拠を集めておくことが重要です。
2. 試用期間満了時に能力不足を理由に解雇できるケース

試用期間満了時であっても、労働契約は原則として本採用を前提とした雇用契約であるため、解雇には客観的合理性と社会的相当性が求められます。そのため、試用期間満了時に能力不足を理由として解雇が認められることはほとんどありません。
しかし、全く解雇が認められないわけではありません。ここでは、試用期間満了時に能力不足を理由に解雇できる具体的なケースについて紹介します。
2-1. 指導・教育を尽くしても業務能力が改善されない場合
試用期間中に十分な指導・教育をおこなったにもかかわらず、業務の基本的なスキルや知識が身につかず、通常求められる水準に到達していない場合、解雇が正当とされる可能性があります。例えば、簡単な業務であっても繰り返しミスをする、業務手順を何度教えても理解できないなど、改善の兆しが見られないケースが該当します。
2-2. 著しい能力不足により企業に重大な損害を与えた場合
業務遂行能力が著しく不足しており、その結果として企業に損害をもたらした場合も、解雇理由として認められる可能性があります。例えば、取引先との契約に重大なミスを生じさせて損害賠償が発生した、誤った作業により製品を大量に廃棄する結果になったなど、客観的に見て深刻な影響を及ぼしているケースが対象です。
3. 試用期間満了で従業員を解雇するときの手続き

試用期間満了で解雇をする場合、通常解雇の流れと基本は同じです。
しかし、本採用拒否の理由明示が必要になるなど少し異なる点もあるため、不当解雇と判断されないように担当者の方は解雇手続きを確認しておきましょう。
3-1. 就業規則の解雇事由を確認する
試用期間の満了時に本採用を拒否するには、客観的で合理的な理由が求められます。就業規則に解雇事由が明示されていれば、その内容に従って判断することが基本となります。そのため、まずは就業規則に試用期間中の解雇や本採用拒否に関する記載があるかを確認しましょう。
就業規則に明確な定めがない場合、企業側の判断の正当性を証明するのが難しくなるので、解雇無効とされるリスクが高まります。不要なトラブルを避けるためにも、事前に就業規則の整備をしておくことが重要です。
実際に解雇する際には、就業規則の解雇事由に該当するかどうかを慎重に判断しなければなりません。例えば「勤務態度の著しい不良」「明らかな能力不足」などが該当し得ますが、これらは指導や注意を繰り返しても改善されないケースに限って、正当な解雇理由として認められる場合が一般的です。
また、解雇の正当性を裏付けるには、事実に基づいた客観的な記録や証拠が不可欠です。就業規則に該当する行為があったとしても、それを裏付ける資料がなければ、不当解雇と判断される可能性があります。したがって、解雇の判断には慎重な対応が求められます。
3-2. 解雇予告をおこなう(原則解雇日の30日前まで)
試用期間満了時に解雇をおこなう場合は、労働基準法第20条に基づき、原則として解雇の30日前までに解雇予告をする必要があります。ただし、労働基準法第21条により、試用期間開始から2週間(14日)以内の解雇の場合は、解雇予告は不要とされています。
3-3. 解雇予告手当を支払う
もし30日未満の予告期間で解雇する場合は、その不足日数に応じた解雇予告手当を支払わなければなりません。例えば、解雇の10日前に予告をした場合、残りの20日分は平均賃金から計算した手当を支払う必要があります。
なお、試用期間中の者の場合、雇い入れから2週間(14日)以内であれば、解雇予告だけでなく、解雇予告手当の支払いも不要です。即日解雇が可能となるため、14日以内なら簡単に解雇してもよいと勘違いされがちですが、通常の解雇と同じように正当な理由が必要です。極めて短い期間で適性がないと判断することは難しく、解雇権濫用とみなされるケースもあることに注意しましょう。
関連記事:労働基準法第20条に定められた予告解雇とは?適正な手続方法
3-4. 解雇理由証明書を交付する
解雇理由証明書とは、労働基準法第22条に基づき、従業員が解雇予告を受けた日から退職日までの間にその理由を求めた場合、会社が交付しなければならない書面です。したがって、請求があった際には、通常2~3日以内を目安に速やかに交付することが求められます。
記載内容については、従業員が希望する項目に限って記載する必要があるため、事前に本人へ確認を取っておくのが望ましい対応です。解雇理由については、就業規則に定められた解雇事由の中から、該当する具体的な理由を明記する必要があります。なお、書式には法的な決まりはなく、自由に作成できますが、客観的かつ簡潔に記載するよう心がけましょう。
3-5. 社会保険などの手続きをおこなう
試用期間中の従業員が社会保険や雇用保険の被保険者であり、本採用に至らず退職する際には、各種保険の資格喪失手続きをおこなう必要があります。
これらの手続きの流れは、通常の退職時と同様です。具体的には、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の喪失手続きは退職日の翌日から5日以内、雇用保険の資格喪失届は退職日の翌々日から10日以内に、それぞれ所定の書類を添えて提出しなければなりません。
とくに雇用保険に関しては、離職票を作成する際の離職理由の記載に注意が必要です。「5.その他(1~4のいずれにも該当しない場合)」にチェックを入れたうえで、「試用期間満了により本採用に至らず退職」など、具体的な事情を明記する必要があります。
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4. 試用期間満了で正しく解雇手続きをしない場合のリスク

試用期間満了による解雇であっても、手続きを誤れば法令違反となり、罰則や損害賠償などのリスクを伴う可能性があります。ここでは、試用期間満了で正しく解雇手続きをしない場合のリスクについて詳しく紹介します。
4-1. 権利濫用により解雇が無効になる
労働契約法第16条では、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない解雇は、解雇権の濫用として無効とされます。このように解雇が無効と判断された場合、企業は労働者を職場に復帰させる義務を負うことになります。
その結果として、企業側には人件費の追加負担や人員配置の見直しなど、新たなコストや労力が発生するでしょう。さらに、復職した労働者と上司・同僚・部下との関係性に十分な配慮をしないと、職場の雰囲気が悪化し、生産性の低下や他の従業員の離職増加といった副次的なリスクを招く恐れもあります。
4-2. 不当解雇として訴えられる可能性がある
従業員が不当解雇を理由に訴訟を提起し、その主張が認められた場合、企業には復職させる義務が生じます。それに加え、本採用拒否が無効と判断されれば、労働契約が継続していたとみなされ、当該期間中の未払い賃金を支払う責任を負う可能性があります。さらに、解雇によって精神的苦痛を与えたと認定された場合には、慰謝料の支払いを命じられるリスクもあるので注意が必要です。
4-3. 法令に基づき罰則が課せられる
試用期間満了解雇であっても、通常の労働者と同じように解雇手続きをしなければなりません。解雇予告・解雇予告手当の支払いをしなかったり、求めがあったにもかかわらず解雇理由証明書を交付しなかったりした場合は、労働基準法違反として罰金などの罰則が課せられる恐れがあるので気を付けましょう。
4-4. 社会的信用を損なう
違法な解雇や不当な処遇が報道などを通じて公になった場合、企業の社会的信用が著しく損なわれる恐れがあります。その結果として、人材採用への悪影響や、取引先との関係に支障をきたす可能性も否定できません。
5. 試用期間満了で解雇するときの注意点やポイント

本採用に至る前であっても、適切な手続きを踏まずに解雇をおこなえば、違法と判断され、解雇が無効とされる可能性があります。ここでは、試用期間満了時に解雇を検討する際の重要な注意点や、押さえておくべき実務上のポイントについて詳しく解説します。
5-1. 試用期間中に指導や改善の機会を与える
解雇の理由として、能力不足が挙げられることがありますが、短期間で能力がないと判断して解雇することは簡単ではありません。
経験者の中途採用では、能力に期待して採用することが多いかもしれませんが、適切な指導をおこなっていない状態で業務遂行能力がないと一方的に決めつけた場合、解雇が無効になる可能性があります。
たとえ、無断欠勤が多い場合でも注意や指導をおこない、改善の機会を与えなければなりません。繰り返し指導や注意をしても全く改善されない場合において、はじめて解雇の有効性が高くなるということは覚えておきましょう。
5-2. 退職勧奨も検討する
試用期間満了による解雇であっても、それ相当の理由がなければ不当解雇として、従業員から訴えられるリスクがあります。そのため、本採用を見送る場合は、いきなり解雇を通知するのではなく、まずは「退職勧奨」をおこなうことが望ましい対応といえるでしょう。
退職勧奨とは、会社側が従業員に対して退職を打診し、双方の合意に基づいて退職に至ることを目的とした働きかけです。合意のうえでの退職であれば、解雇トラブルを未然に防ぐことが可能です。ただし、退職勧奨をおこなう際は、従業員の自由意思を尊重することが何より重要です。退職の強要と受け取られるような圧力的・一方的な言動は、違法行為と判断される恐れがあるので慎重な対応が求められます。
5-3. 解雇前に面談をおこない事前に伝える
試用期間終了まで、本採用拒否についての会社側の意思表示が何もなく、突然解雇を言い渡した場合は、無効になるケースがあります。
解雇予告をおこなわず手当を支払ったとしても、解雇前には一度本採用が難しい可能性があることを面談などで伝えることが望ましいでしょう。
話し合いを一切せずに解雇すると、万が一裁判になったときに、強引な不当解雇であったと主張されるかもしれません。
なぜ試用期間満了で解雇をするのか、その理由を具体的に説明し、本人の気持ちや言い分を聞くことが大切です。
5-4. 解雇制限についても理解しておく
労働基準法第19条により、従業員が業務上の負傷や疾病により療養のため休業している間と、その後30日間は、原則として解雇することはできません。これは試用期間中の労働者にも適用されるため、業務災害による休業中に解雇をおこなうことは法律上制限されている点に注意が必要です。
ただし、例外として天災などの「やむを得ない事由」により事業の継続が不可能となった場合などには、解雇が認められる可能性があります。その際には、行政官庁の認定を受ける必要があるので慎重な対応が求められます。
5-5. 新卒者の場合は要注意
新卒者は社会経験が少なく、即戦力を期待して採用するわけではないため、能力面や勤務態度などを理由とした解雇は注意が必要です。
裁判において新卒者は「できなくてあたり前」という考えが前提にあるので、解雇した場合、会社側の指導が足りていないことが問題視される可能性があります。
社会人としての一般常識やビジネスマナーなどから教え、会社が新卒者を育てていくことが求められるため、試用期間満了での解雇は難しいケースが多いでしょう。
6. 試用期間満了時の解雇は合理的な理由が必要のため慎重に検討しよう

たとえ試用期間中であっても、短期間で「適性がない」と判断し、解雇することは容易ではありません。解雇が認められるためには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められることが必要です。これらの条件を満たしていると企業側が説明・証明できる場合に限り、試用期間満了を理由とした解雇は有効とされます。
手続きについても、通常の解雇と同様に慎重に進める必要があります。とくに就業規則に明記された解雇事由に該当しているかどうかが、判断の重要なポイントとなるため、就業規則の整備と明確化が不可欠です。なお、試用期間中の解雇はトラブルに発展する可能性もあるので、法的なルールを正しく理解し、記録や手続きを適切におこなうことが、リスクを最小限に抑えるうえで重要です。
試用期間においては、法律上で雇用契約締結の義務はありませんが、本採用前のトラブルを避けるため締結しておく方が安心でしょう。とくに期間や待遇、さらには解雇については企業側は法規則に則って、雇用契約書を作成しなければなりません。
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