年末調整は退職者も対象になる?やるべき手続きや確定申告が必要になるケースを解説

退職者は原則として年末調整の対象外ですが、状況によっては対象となる場合もあります。
適切に対応するためには、必要書類や提出期限を理解し、確実に手続きを進めることが大切です。
本記事では、退職者に関する年末調整の取り扱いと、確定申告が必要となるケースについて解説します。
目次
令和7年度の税制改正によって、令和7年12月の年末調整から変更が生じます。また、令和7年11月20日に施行された通勤手当の非課税限度額の改正によって、新たに年末調整の対応が必要となるケースもあります。
- 「令和7年分の年末調整で提出する書類は?」
- 「年収の壁の引き上げで年末調整はどう変わった?」
- 「通勤手当の非課税限度額の改正で年末調整が必要になる従業員は?」
このような疑問をお持ちの方に向けて、令和7年分の年末調整に必要な書類から対象者、計算の流れまで、年末調整に関する基本的な業務を図解でわかりやすくまとめた資料を無料で配布しております。
業務の進め方に不安のある方や、抜け漏れなく対応したい方は、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. 退職者は原則として年末調整の対象外


退職者は、原則として年末調整の対象外となります。これは、12月31日時点で会社に在籍していないためです。年内に新たな会社へ再就職し、その会社で年末調整を受ける場合には、退職した会社で年末調整をおこなう必要はありません。
1-1. 年末調整をせずに源泉徴収票を発行する
退職した従業員については、基本的に年末調整をおこなわず、源泉徴収票を発行することが必要です。
源泉徴収票は退職日から1ヵ月以内に交付する義務があり、新しい雇用先や本人が確定申告をおこなう際に必要となります。
ただし、特定の条件を満たす場合には、退職者も年末調整の対象となる場合があります。
退職者への対応にあたっては、年末調整の対象となるか否かを正しく判断し、必要な手続きを適切に進めることが重要です。
2. そもそも年末調整とは

年末調整とは、1年間に給与から源泉徴収した所得税および復興特別所得税の合計額と、実際に納めるべき税額を一致させるための手続きです。
源泉徴収とは、会社が従業員に給与を支払う際に、あらかじめ所得税などを差し引いて国に納める仕組みを指します。
従業員は自分で税額を計算して毎月納める必要がなく、会社がその役割を担うことで納税が確実かつ円滑におこなわれます。
しかし、源泉徴収によって差し引かれた税額は、必ずしもその人の年間の納税額と一致しません。これは、源泉徴収額が年間の給与予定額を基準に計算される一方、実際の給与額は残業代や昇進、賞与などの影響で変動するケースが多いためです。
そこで、毎年年末にその年の最終的な給与総額と各種控除を踏まえて正しい税額を計算し、過不足を精算するのが年末調整です。
関連記事:年末調整とは?その必要性や基本的な書き方目的や確定申告との違い、基本的な流れを人事担当者向けに解説
関連記事:源泉徴収票とは?正しい見方やいつどこで発行できるのかわかりやすく解説
3. 退職者の年末調整が必要になるケース

年末調整の対象となるのは、原則として「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出し、その年の12月末時点で在籍している従業員です。
そのため、年の途中で退職し、同じ年内に別の会社へ転職して勤務を続ける場合には、年末調整は転職先の会社でおこなわれます。前職の給与も含めて転職先で精算されることになります。
ただし、次のいずれかに該当する場合には、退職した会社で年末調整をおこなう必要があります。
- 死亡による退職
- 著しい心身の障害による退職(退職後に再就職の見込みがある場合は除く)
- 12月に支給期の到来する給与の支払を受けた後に退職
- 本年中に支払を受ける給与の総額が123万円以下で、退職後、本年中に123万円の収入を超える見込みがない人
- 年の途中で再就職し、前職分と再就職先分を合算して年末調整をおこなう場合
- 年の途中で非居住者となった場合(海外赴任など)
それぞれの項目について詳しくみていきましょう。
3-1. 死亡による退職
死亡による退職者は、その後に収入が発生する見込みがないため、退職した会社で年末調整をおこないます。
3-2. 著しい心身の障害による退職(退職後に再就職の見込みがある場合は除く)
退職者の年末調整が必要になるケースとして、著しい心身の障害による退職があります。
この場合、退職者の年内の再就職見込みを考慮して年末調整の対象かどうかを判断します。
退職後に再就職の見込みがないと明確に判断できる場合には、年末調整を実施する必要があります。
3-3. 12月に支給期の到来する給与の支払を受けた後に退職
12月に最後の給与を受け取って退職した従業員は、年末調整の対象となります。
具体的には、12月20日支給の給与を受け取った後に退職した場合、その年にほかの勤務先から給与を受け取る可能性が低いと判断されるため、退職した会社で年末調整をおこなうことになります。
再就職の有無に関わらず、一般的な従業員と同じように年末調整を実施しましょう。
3-4. 本年中に支払を受ける給与の総額が123万円以下である人
年の途中の退職者で、年内の給与総額が123万円以下だった場合、年末調整の対象となります。年末調整をおこなうと、源泉徴収された所得税が還付される可能性があります。
ただし、退職された年に他社へ再就職し、給与を受け取る予定がある場合は、再就職先で年末調整をおこなうことになります。年末調整をおこなわない場合でも、確定申告をすれば払いすぎた税金の還付を受けられます。
なお、従来は「給与収入103万円以下」の場合に年末調整の対象となっていましたが、2025年(令和7年)の税制改正により、この基準額は「給与収入123万円以下」に引き上げられています。そのため、退職者の年内収入が123万円以下であれば、同様に年末調整または確定申告により所得税の還付を受けられる可能性があります。
参考:令和7年分 年末調整のしかた Ⅱ 年末調整とは|国税庁
関連記事:103万円の壁撤廃はいつから?150万円・160万円の引き上げや税制改正の適用時期を解説
3-5. 年の途中で再就職し、前職分と再就職先分を合算して年末調整をおこなう場合
1年の途中で再就職した場合は、原則新しい勤務先で前職の収入と再就職先の収入を合算して年末調整をおこないます。
年末調整の際には、前職の会社が発行した「源泉徴収票」を新しい勤務先へ提出する必要があります。退職した会社(前職)は年末調整をおこなう必要はありません。
3-6. 年の途中で非居住者となった場合(海外赴任等)
海外の支店などに転勤し、年の途中で非居住者となった従業員については、出国までに支払われる給与について退職した会社で年末調整をおこないます。
一方で、出国後に支払われる給与は年末調整の対象外となり、源泉徴収のみの取扱いです。
このように、年末調整業務は従業員全員がする必要があるわけではありません。一定の条件を満たした従業員が対象となるので、まずは誰が対象者で誰が対象外なのかを確認しておく必要があります。
当サイトでは、年末調整の対象者を「はい」「いいえ」形式で確認することができる資料を無料で配布しています。そのほかにも年末調整に必要な業務がこれ一冊で理解できるようになっているので、年末調整業務に不安のある方は、こちらから「年末調整ガイドブック」をダウンロードしてご活用ください。
4. 退職者の年末調整で会社がおこなう手続きと受け取る書類


退職者の年末調整において、会社がおこなう手続きと回収すべき書類について解説します。
4-1章では「すべての退職者に対して会社が必ずおこなう手続き」を、4-2章〜4-4章では「例外的に年末調整が必要になる退職者に限って、会社が回収すべき書類」について解説します。
まずは4-1章の手続きを必ずおこない、年末調整が必要なケースかどうかを判断した上で、必要に応じて4-2章以降の書類を回収しましょう。
4-1. 源泉徴収票の発行(退職者本人へ交付・再就職先に提出)
年の途中で従業員が退職した場合、その会社(前職)は原則として年末調整をおこなう必要はありません。これは、退職者がその年のうちに別の会社に再就職した場合、新しい勤務先で前職の給与と再就職先の給与を合算して、年末調整をおこなうことになるためです。
前職の会社は、退職した従業員に対して「源泉徴収票」をその退職日以後1ヵ月以内に発行する義務があります。
退職者が新しい勤務先で年末調整を受けるためには、前職の源泉徴収票を新しい勤務先に提出することが必須です。これにより、前職と再就職先の給与が合算され、その年全体の所得税が正確に精算されます。
4-2. 扶養控除等(異動)申告書の回収
扶養控除や障害者控除、寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除などの適用を受けるために必要な「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を回収します。扶養する親族の有無にかかわらず、年末調整の対象となる従業員は全員提出が必要です。
4-3. 保険料控除申告書の回収
従業員が支払った生命保険料や地震保険料などの各種保険料控除を受けるために必要な「給与所得者の保険料控除申告書」を回収します。
保険料控除を適用するためには、申告書と合わせて、保険会社などから送付される支払証明書を添付してもらう必要があります。
4-4. 基礎控除申告兼給与所得者の配偶者控除等申告兼所得金額調整控除申告書の回収
基礎控除・配偶者控除・配偶者特別控除・所得金額調整控除をまとめて申告するための書類である「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」を回収します。
再就職した従業員の場合、この申告書の「あなたの本年中の合計所得金額の見積額の計算」欄には、新しい勤務先の給与と前の勤務先の給与を合わせた1年間の収入金額を記入する必要があります。
5. 退職者が確定申告をする必要があるケース

退職をして確定申告が必要になるケースも一緒に確認していきましょう。
5-1. 年をまたいでの再就職
年をまたいで再就職する場合には、その年の所得税を確定申告で精算する必要があります。
例えば、11月に最終の給与を受け取って退職し、新しい会社での勤務開始が翌年1月以降となる場合、その年の年末調整はどの勤務先でも実施されません。そのため、本人が確定申告をおこなって精算する必要があります。
5-2. 再就職をせず個人事業主・フリーランスになる
退職後に再就職せず、個人事業主やフリーランスとして活動を開始するケースでは、確定申告が必要になります。会社員時代に得た「給与所得」に加えて、新たに発生した「事業所得」や「雑所得」を合算して申告する義務があるためです。
5-3. 定年退職後の公的年金等の収入金額が400万円超
公的年金等の収入金額の合計が年間400万円を超える場合、確定申告が必要です。複数の年金を受給している場合は、それぞれの「公的年金等の源泉徴収票」に記載されている「支払金額」を合算して計算します。
公的年金収入が年間400万円以下であっても、公的年金以外の所得の合計額が年間20万円を超える場合は確定申告が必要です。
この所得には、給与所得、個人年金、企業年金、配当所得、一時所得などが含まれます。
5-4. 「退職所得の受給に関する申告書」が未提出
退職時に退職金を支給する場合は、「退職所得の受給に関する申告書」を提出します。この申告書を提出していれば、適正な源泉徴収がおこなわれるため、原則として確定申告をする必要はありません。
一方、申告書を提出しない場合は、退職金に対して一律20.42%の税率で所得税が源泉徴収されます。そのため、確定申告により実際の所得に基づいて税額を再計算し、過不足を精算する必要があります。
参考:A2-29 退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)|国税庁
5-5. 確定申告でしか受けられない控除の適用
医療費控除、寄附金控除、雑損控除、住宅ローン控除(初年度)などの一部の控除は、年末調整では適用できません。そのため、これらの控除を受けるには確定申告をおこなう必要があります。
6. 11月・12月末に退職する場合の年末調整のやり方


退職時期や給与の支払い時期の具体例をもとに解説します。
6-1. 11月に退職する場合の年末調整
11月に退職する場合、給与の支払いタイミングによって、年末調整の対象となるかどうかが異なります。最終の給与の支払いが当月11月支給の場合は、原則として退職した会社での年末調整は実施せず、源泉徴収票を発行しましょう。
ただし、最後の給与支払いが翌月12月支給の場合、退職する会社が年末調整をおこなわなければなりません。
例えば、12月25日支払の給与を受け取った後に退職したケースがこれに該当し、本人がその後に再就職したかどうかに関わらず、ほかの従業員と同じように年末調整をおこないます。
6-2. 12月末退職|12月分給与を12月中に支給する場合
12月末に退職し、最後の給与支払いが当月12月支給の場合、最後の支給の給与まで年末調整の対象となります。
6-3. 12月末退職|12月分給与が1月支給の場合
12月末に退職し、12月分の給与を翌月1月に支給する場合、退職時に会社で年末調整はおこなわれますが、1月に支給される給与は前年の年末調整の対象には含まれません。そのため、会社は源泉徴収票を発行する必要があります。
退職の際は最終の給与の支給月によって年末調整の対象となるかどうかが変わります。
また、年末調整の対象となる場合でも対象となるのはあくまで年内に支給された給与のみである点に注意し、適切な手続きをおこないましょう。
7. 退職者の年末調整に関するよくある質問

退職者の年末調整に関してよくある質問をまとめました。実務の参考になさってください。
7-1. 退職者も給与支払報告書が必要?
退職者であっても、原則として給与支払報告書の作成・提出は必要です。給与支払報告書は、市区町村が住民税を計算するための重要な資料であり、正社員だけでなく、パート・アルバイト、そして退職者も提出対象に含まれます。
退職者がいる場合には、給与支払報告書の個人別明細書に「退職時の住所」「その年の支払金額」「退職年月日」「マイナンバー」を記載する必要があります。
また、総括表には「退職者・退職予定者」の欄に記載し、提出します。
報告書の内容は市区町村の住民税課税に直結するため、退職者分も漏れなく記載し提出しましょう。
関連記事:給与支払報告書とは?書き方や提出方法・期限をわかりやすく解説
7-2. 退職者も年末調整で定額減税は対象?
2024年に実施された定額減税は、2024年6月1日時点で会社に在職していた方が対象です。
給与や賞与から順次控除され、控除しきれなかった分については、2024年の年末調整や2025年度(令和7年度)の住民税ですでに精算されました。
退職された場合でも、それまでに受けられなかった減税分は消滅せず、年末調整や確定申告、あるいは2025年度の住民税で清算が完了しています。
定額減税は「令和6年分(2024年分の所得税)に限って実施されたもの」であるため、2025年以降の年末調整での対応は必要ありません。
7-3. 退職者の年末調整の書き方は?
退職者の年末調整は、基本的には在職中の従業員と同じ方法で記入します。ただし、対象となるのは、その年の1月1日から退職日までに支給された給与や控除分に限られる点に注意が必要です。
給与収入は退職日までに支給された金額を記載し、社会保険料や生命保険料控除も退職日までに支払った分のみを対象とします。
扶養控除等申告書は通常どおり提出しますが、再就職の予定がある場合は二重提出にならないよう確認しましょう。配偶者控除についても、退職日までの状況をもとに年間見積額で判断します。最終的には退職日までの給与・控除内容をまとめて源泉徴収票を交付しましょう。
最終の給与が翌年の支給になる場合は、その分は翌年分として別途源泉徴収票を発行する必要があります。
関連記事:【2025年最新】年末調整の書き方を申告書別にわかりやすく解説!(記入例あり)
8. 年末調整で退職者がやるべき手続きをしっかりと押さえて正しい年末調整を


退職者は原則として年末調整の対象外ですが、死亡や12月退職など特定のケースでは会社で年末調整をおこなう必要があります。
一方、年内に再就職する場合には新しい勤務先で前職分と合算して精算するため、退職した会社は源泉徴収票を速やかに発行しなければなりません。
また、年末調整では扱えない医療費控除や住宅ローン控除の初年度分などがある場合、退職者本人が確定申告をおこないます。
会社は退職日までの給与や控除を正しく反映し、必要な書類を回収・交付することで、税金の過不足を防ぎ、退職者がスムーズに次の手続きへ進めるようにすることが大切です。



令和7年度の税制改正によって、令和7年12月の年末調整から変更が生じます。また、令和7年11月20日に施行された通勤手当の非課税限度額の改正によって、新たに年末調整の対応が必要となるケースもあります。
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