年末調整は退職者も対象になる?やるべき手続きや確定申告が必要になるケースを解説
年末調整で退職者がやるべき手続きを怠ると、スムーズな年末調整をすることはできません。いつまでに提出するのか、必要書類は何かなど、正しい年末調整のためにおこなうべき手続と知識をしっかりと把握しましょう。今回は、年末調整で退職者がやるべき手続きについて説明します。
目次
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1. 年末調整において退職者は対象外
まず退職者において会社は年末調整を行う必要があるのかという点について解説します。
1-1. 年末調整は不要であり源泉徴収票を発行する
退職者は原則として年末調整の対象外であり、年末調整を実施する必要はありません。これは、12月31日時点で在籍していないためです。退職者が年内に新たに別の会社に就職し、その会社で年末調整を受ける場合、退職した会社は年末調整を行う必要がありません。
つまり、退職した従業員については、原則として年末調整は不要です。そのため、退職した会社では源泉徴収票を発行することが基本的な手続きとなります。ただし、退職後速やかに源泉徴収票を発行しなければならない義務があり、これは退職日から1カ月以内に行う必要があります。源泉徴収票は新たな雇用主にとって重要な書類であり、これがなければ確定申告が必要になります。
しかしながら、特定の条件を満たす場合には退職者も年末調整の対象となることがあります。そのため、退職者に対してどのような手続きが必要なのか、十分に理解しておくことが重要です。ここでは、年末調整の定義や対象者の詳細についても触れながら、退職者に必要な手続きを解説します。
2. そもそも年末調整とは
会社など給与の支払者は、役員又は従業員に対して給与を支払う際に、所得税及び復興特別所得税の源泉徴収をおこなっています。源泉徴収とは、所得税及び復興特別所得税を会社が給与からあらかじめ差し引くことです。しかし、その年1年間に給与から源泉徴収をした所得税及び復興特別所得税の合計額は、必ずしもその人が1年間に納めるべき税額とはなりません。
源泉徴収は1年間に支払う給与の予定額によって決まりますが、その金額は会社が1年間に実際に支払うべき金額とは異なるケースがほとんどだからです。金額がズレる要因としては残業代や昇進などがあります。このため、1年間に源泉徴収をした所得税及び復興特別所得税の合計額と1年間に納めるべき所得税及び復興特別所得税額を一致させる必要があります。この手続を年末調整といいます。
関連記事:年末調整とは?やり方や計算方法、確定申告との違いをわかりやすく解説
関連記事:年末調整とは?その必要性や基本的な書き方について解説
2-1. 年末調整の対象者
年末調整の対象者は、原則として「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している、年末まで在籍している従業員に限られます。一般的に、12月31日時点でその会社に在籍していない退職者は、年末調整の対象とはなりません。しかし、特定の条件を満たす退職者でも年末調整が適用される場合があります。そのため、年末調整を担当する人事部門は、誰が年末調整の対象者となるかを正確に理解しておく必要があります。
3. 退職者の年末調整が必要になるケース
1年を通じて勤務している人のほか、1年の途中で退職して、同じ年内に新しい会社に勤めだし年末まで働いている人も年末調整の対象になります。この場合は、転職先で年末調整を受けます。例えば11月に退職し、12月に新たな職場に転職したのであれば、転職先での年末調整が必要です。ただし、退職者が以下のケースに該当する場合は、年の途中でおこなう年末調整の対象となるため、元の会社で年末調整をおこなう必要があります。
- 死亡による退職
- 著しい心身の障害による退職(退職後に再就職の見込みがある場合は除く)
- 12月に支給期の到来する給与の支払を受けた後に退職
- パートで働いている人などが退職した場合で、本年中に支払を受ける給与の総額が103万円以下である人(退職後、本年中に103万円の収入を超える見込みがない)
ぞれぞれの項目について詳しくみていきましょう。
3-1. 死亡による退職
死亡による退職者は、再就職の見込みがないため、年末調整の対象者となります。この場合、企業は退職者の年末調整を実施する義務があります。
さらに、海外の支店に転勤して非居住者となった従業員についても、その年内に支払われる給与に関しては、出国前に年末調整を行う必要があります。このため、死亡による退職者や非居住者のケースでは、適切な手続きを通じて税務処理をおこなうことが重要です。
3-2. 著しい心身の障害による退職(退職後に再就職の見込みがある場合は除く)
退職者の年末調整が必要になるケースとして、著しい心身の障害による退職があります。この場合、退職者の年内の再就職見込みを考慮して年末調整の対象かどうかを判断します。
退職後に再就職の見込みがないと明確に判断できる場合には、年末調整を実施する必要があります。これは、たとえ退職者が年内に就職しなかったとしても、その判断が重要となるためです。
3-3. 12月に支給期の到来する給与の支払を受けた後に退職
退職者の年末調整が必要になるケースの一つに、12月に支給期の到来する給与を受け取った後の退職があります。
具体的には、例えば12月20日に給与が支給され、その後12月31日までに退職した場合、退職者は年末調整の対象となります。このような場合、退職時には会社に在籍していないものの、年内に他の勤務先で新たな給与を受け取る可能性が低いため、年末調整を実施する必要があります。再就職の有無にかかわらず、一般の従業員と同様に年末調整を行うことになります。
3-4. 本年中に支払を受ける給与の総額が103万円以下である人
退職者の年末調整が必要になるケースとして、本年中に支払を受ける給与の総額が103万円以下である人が挙げられます。特に、パートタイムやアルバイトとして働いている人は、この条件に該当する可能性が高く、年末調整の対象となります。これにより、税負担の軽減や正確な納税ができるようになります。
ただし、退職後にほかの勤務先から給与の支払いを受ける見込みがある人は、年末調整の対象外となります。このため、退職者は自身の収入状況をしっかりと把握し、年末調整が必要かどうかを判断することが重要です。
このように、年末調整業務は従業員全員がする必要があるわけではありません。一定の条件を満たした従業員が対象となるので、まずは誰が対象者で誰が対象外なのかを確認しておく必要があります。当サイトでは、年末調整の対象者を「はい」「いいえ」形式で確認することができる資料を無料で配布しています。そのほかにも年末調整に必要な業務がこれ一冊で理解できるようになっているので、年末調整業務に不安のある方は、こちらから「年末調整ガイドブック」をダウンロードしてご活用ください。
4. 退職者が退職した年の年末調整でやるべきこと
退職した年の年末調整では、退職者がどのような手続きを行うべきかを理解しておくことが重要です。具体的には、いくつかの書類を用意してスムーズに手続きを進める必要があります、正確な手続きを行うことで、税金の過不足を避けることができますので正しく理解しておきましょう。
4-1. 1年の途中で再就職する場合は転職先へ源泉徴収票を提出
年末調整で退職者がやるべきこととして、新しい会社で働き始める前に、その年中に別の会社から給与の支払を受けた給与の金額やその給与から徴収された所得税額等を確認します。
1年の途中で退職して、同じ年内に新しい会社に勤めだして年末まで働いている場合、転職先では、退職した会社で得た収入と転職した会社で得た収入を合算して所得税を計算します。そのために、退職した会社で退職するまでに源泉徴収された税額が記載された「給与所得の源泉徴収票」が必要です。所得税法によって会社は退職日から1か月以内に源泉徴収票を交付する決まりとなっているため、退職した会社から源泉徴収票を受け取り、それを転職した会社に提出します。
この確認ができないときには、年末調整をおこなうことはできません。別の会社に「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出して支払を受けた給与がある人については、その別の会社から支払を受けた給与を含めて年末調整をおこなう必要があるためです。
源泉徴収票は、退職する日に受け取るケースと、あとから郵送されてくるケースがあります。給与所得の源泉徴収票をしっかりと用意しておくことが、年末調整を退職者がスムーズにおこなうポイントです。
なお、年末調整をおこなう際に給与所得から控除する基礎控除や扶養控除などの所得控除は勤務期間に応じて月割りする必要はありません。例えば、5月に前の会社を辞めて、8月から新しい会社で働き始める人の場合、給与所得から控除する基礎控除や扶養控除などの所得控除は全額が認められます。
関連記事:年末調整で前職の源泉徴収票提出が必要なときの対応方法
4-2. 扶養控除等(異動)申告書を提出
また年末調整では源泉徴収票の他にも大きく分けて3種類の書類を提出する必要があります。またそれぞれに必要に応じて、添付書類も合わせて提出します。
3種類の書類とは以下のとおりです。
- 扶養控除等(異動)申告書
- 保険料控除申告書
- 基礎控除申告兼給与所得者の配偶者控除等申告兼所得金額調整控除申告書
まず扶養控除等(異動)申告書から解説します。給与所得者の扶養控除等(異動)申告書とは給与所得者が扶養控除、配偶者の控除などを受けるために用いる書類です。会社は従業員に対して、扶養控除等(異動)申告書を配布し、該当の年に1回目の給与を支払う前日までに回収する必要があります。給与所得者の扶養控除等(異動)申告書は、年末調整時に翌年の申告書を提出してもらうのが一般的です。
4-3. 保険料控除申告書を提出
続いて保険料控除申告書を提出します。この書類は、給与所得者が、その年の年末調整において生命保険料、地震保険料などの保険料控除を受けるために提出する書類です。
保険料控除申告書には次のような内容を記載します。
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 社会保険料控除
- 小規模企業共済等掛金控除
4-4. 基礎控除申告兼給与所得者の配偶者控除等申告兼所得金額調整控除申告書を提出
最後に、基礎控除申告兼給与所得者の配偶者控除等申告兼所得金額調整控除申告書を提出について説明します。この書類は、給与所得者が、その年の年末調整において基礎控除、配偶者(特別)控除、所得金額調整控除を受けるために提出する書類です。
特に年間の合計所得額が2,500万円以下の場合、基礎控除が受けられるため、多くの従業員が提出する必要があります。従業員には年末調整時に提出してもらいます。
5. 確定申告が必要になるケース
退職をして確定申告が必要になるケースというものもあり、確定申告が必要となるケースにはいくつかの重要な状況があります。手続きをミスしないためにも、これらの要件をしっかりと理解しておくことが重要です。
5-1. 年をまたいで再就職するケース
年をまたいで再就職する場合は、新しい勤め先で年末調整することができません。本人自らが確定申告をおこなう必要があります。再就職のタイミングが年内か否かによって、年末調整の扱いが異なるので注意しましょう。確定申告の時期は毎年2月16日から3月15日までです。退職時に交付された源泉徴収票を基に、前年1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得について、必ず期日内に確定申告をおこなうようにしましょう。
新しい勤め先での年末調整が行えないため、収入の合算や税額控除などを適切に計算するために、正確な情報をもとに申告書を作成することが重要です。場合によっては、税務署からの指導を仰ぐことも考慮しながら、必要な書類を揃え、申告漏れがないように準備することが望ましいです。また、再就職先での控除内容が影響を及ぼす可能性があるため、過去の収入や経費についても整理解決しておくことが重要です。
5-2. 再就職しない(個人事業主・フリーランス)ケース
退職後に再就職せず、個人事業主やフリーランスとして活動を開始するケースでは、確定申告が必要になります。元の会社での年末調整を受けることで課税関係は整理されますが、個人事業を始めると新たに「事業所得」や「雑所得」が発生します。このため、確定申告を通じて、給与所得に加えた全ての所得を申告し、必要に応じて追加納税を行う義務が生じます。
5-3. 定年退職後、公的年金等の収入金額が400万円を超えるケース
定年退職後、公的年金を受給している場合、収入金額が400万円を超えると確定申告が必要になります。この場合、複数の年金を受け取っている人は、合計金額を計算する必要があります。また、給与や賞与、原稿料などの「給与所得」や「雑所得」と合算して申告することになります。注意が必要なのは、公的年金等の収入が400万円以下でも、他の収入が20万円を超える場合は確定申告が求められる点です。公的年金等の収入が400万円以下で、なおかつその全部が源泉徴収されている場合は、所得税の申告が不要になるシチュエーションもあります。
5-4. 「退職所得の受給に関する申告書」を提出していないケース
退職所得に関しては、「退職所得の受給に関する申告書」を提出することが重要です。この申告書を提出していれば、適正な源泉徴収が行われ、原則として確定申告をする必要はありません。しかし、申告書を提出しない場合、退職金には一律の税率(20.42%)が適用され、所得税が源泉徴収されます。このため、確定申告で実際の所得に基づく税額を再計算し、過不足を精算する必要があります。
5-5. 確定申告でなければ受けられない控除を適用したいケース
確定申告が必要になるケースの一つに、確定申告でなければ受けられない控除を適用したい場合があります。具体的には、医療費控除、寄附金控除、雑損控除、そして住宅ローン控除(1年目)などの控除は、年末調整では受けることができないため、これらを適用するためには確定申告を行う必要があります。これらの控除を活用することで、納税額を軽減できるため、しっかりとした手続きが求められます。
6. 12月末に退職する場合の年末調整のやり方
12月末に退職する場合、年末調整の手続きは特に重要です。この時期に退職すると、年内の給与が支給された後に離職するため、その収入に対する年末調整が必要となります。退職後に給与がどのように計算されるのかを理解し、必要な書類を整えておくことで、円滑に手続きを進めることができます。
6-1. 12月分の給与が12月支給の場合の年末調整
12月末に退職する場合、12月分の給与が12月支給となると、その月の給与は年末調整の対象となります。
原則として12月31日まで在籍している従業員が年末調整の対象ですが、12月に支給される給与を受け取った後に退職する場合、再就職の見込みが低いため年末調整を行う必要があります。退職者の年末調整では、実際に受け取った給与を基に適切な税額を計算し、過不足を精算することが重要です。年内に支払われるした給与が影響するため、退職時には正確な給与情報が必要となります。
6-2. 12月分の給与が1月支給の場合の年末調整
退職者が12月分の給与を1月に支給される場合の年末調整について考えると、その場合は1月に支給される給与は年末調整の対象にはなりません。
年末調整はその年中に支払いが確定した給与に基づいて行われるため、12月分の給与が1月に支払われる場合、実際の収入の確定日は1月となります。したがって、年末調整は12月に支払われた本年にかかる給与のみに焦点を当て、1月に支給される分は含めないことが重要です。この点を理解しておくことで、適切な手続きが可能となります。
7. 年末調整で退職者がやるべき手続きをしっかりと押さえて正しい年末調整を
ここまで年末調整の概要、年末調整で退職者がやるべきこと、年末調整を退職者がスムーズにおこなうポイントなどについて説明してきました。年末調整で退職者がやるべき手続きについてよく理解できたという人もいらっしゃることでしょう。
年末調整を正しくおこなうと所得税の還付を受けられる場合もあります。年末調整で退職者がやるべき手続きをしっかりと押さえて正しい年末調整をおこないましょう。
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