役員借入金を活用する節税対策のメリットやデメリットについて解説
更新日: 2024.5.23
公開日: 2022.5.10
jinjer Blog 編集部
資金調達方法の一つである役員借入金は、節税対策があることでも知られています。メリットも多い役員借入金ですが、正しく理解せずに扱ってしまうと、デメリットの影響を受けてしまいかねません。
今回は役員借入金の概要や活用するメリット・デメリットについて詳しく解説します。役員借入金の活用を考えている方は、まずしっかり理解して、メリットが得られる使い方をしましょう。
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1. 役員借入金とは
まずは役員借入金がどのようなものであるか、基本的なことや勘定科目について知っておきましょう。
1‐1. 役員が会社に貸し付けるお金
役員借入金とは、会社の役員が個人で持っている資金を法人に対して貸し付けるお金のことです。会社の資本が足りない時や、開業資金が足りない時などに、役員が会社にお金を貸します。役員借入金は会社側からすると、借りたお金になるため負債として「役員借入金」で仕訳します。
通常お金を借りるということは、利息が発生します。しかし、役員借入金の場合利息は任意のため、利息をつけずに借りられるお金です。いずれ役員借入金も返済しなければなりませんが、利息がつかない分、会社の負担は少なくなります。もちろん任意であるため、利息をつけることもできます。
役員借入金と似た言葉に役員貸付金があります。これは、会社から役員に貸し付けるお金のことです。起業したばかりで役員報酬の条件を満たしていない時の役員報酬代わりとして使う時や、領収書を切れない資金を使う場合、法人の資金を個人が使った時などに使われる勘定科目です。
関連記事:借入金勘定科目とは?2つの勘定科目で正しく使い分けるポイント
1‐2. 決算書では短期借入金になる
役員借入金は決算書では短期借入金に該当します。なお、役員貸付金は決算書では短期貸付金です。仕訳では役員借入金になるため、間違えないようにしましょう。
なお、申告書を提出する際の勘定科目内訳説明書には、具体的な内容を記載しなければなりません。
2. 役員借入金を活用するメリット
役員借入金を活用すると、どのようなメリットが受けられるのでしょうか。後述するデメリットと合わせて確認していきましょう。
2-1. 節税効果がある
役員が会社にお金を入れる方法として、役員借入金の他には出資があります。出資した場合、役員報酬は費用となるため、会社の利益が圧迫され、報酬に対する税金や社会保険料が発生してしまいます。
しかし役員借入金としてお金を入れれば、役員への返済として役員に報酬を支払うことができるため、会社の利益は圧迫されません。また借入金の返済としてのお金であるため、税金や社会保険料も発生せず、節税効果が得られるのです。
2-2. 税優遇制度の適用対象になる
役員借入金で会社にお金を入れた場合、資本金の扱いにはならず、会社の資金は増えても資本金は増加しません。出資の場合は、出資額の50%以上を資本金にしなければならないと定められているため、資本金が増えてしまいます。
資本金が1億円を超えると、法人税の軽減税率や、少額資産の損金参入の特例の対象外です。また、資本金が3000万円を超えてしまうと中小企業の素材特別措置法の税額控除を受けられません。役員借入金なら資本金は増えないので、税優遇の適用が継続されます。
2-3. 返済期限がない
役員借入金は、返済の期限は設けられていません。他の借入金は返済期限が決まっており、期限までに返済しなければ会社の信用を大きく失ってしまいます。そのため、返済する余裕がなくても返済は絶対に行わなければならず、経営が圧迫されてしまうこともあるでしょう。
役員借入金ならいずれ返済する必要はあるものの、資金繰りがうまくいっているタイミングで自由に返済できます。
2-4. 利息が発生しない
役員借入金は利息の設定が任意です。そのため、借入先の役員が同意すれば、利息ゼロでお金が借りられます。無利息の融資を受けたということになるため、法律的にも問題ありません。
もちろん利息を設定するかどうかは任意なため、利息を設定することもできます。利息を設定するときは、市中金利に利率を合わせましょう。理由もなく、市中金利と比べて高い利率にしてしまうと、役員にする給与となってしまい、源泉徴収をする必要が出てしまいます。
関連記事:借入金とは?借入金の種類や意味、金利や返済まで網羅的に徹底解説
3. 役員借入金を活用するデメリット
役員借入金にはメリットもありますが、大きなデメリットもあります。利息なしでお金が借りられるからと、どんどん役員借入金を増やしてしまうと、大変な事態になってしまうこともあります。きちんとデメリットを理解しておきましょう。
3‐1. 相続税が増える可能性がある
役員借入金はお金を貸し付けた役員からすると、返済してもらうべき債権で、役員個人の財産になります。そのため、貸し付けた役員が死亡してしまった場合、相続財産とみなされるので、相続税が発生してしまうのです。役員借入金を活用しすぎていると、かなりの額の相続税がかかってくる可能性があります。
すぐに役員借入金を返済してもらえるくらいの余裕が会社にあれば問題ありませんが、これまで役員借入金が返済されていなかった場合その可能性は低いです。債務超過になっている可能性もあり、役員借入金の回収が望めなくなるため、残された人たちが多額の相続税に苦しんでしまうかもしれません。
また役員借入金は負債ですから、役員借入金が多ければ多いほど株式の評価額は下がってしまいます。債務超過の状態では株式評価額は0円です。
3-2. 法人税の留保金課税がなくなることがある
同族経営の場合は法人税にも影響が出る可能性があります。資本金が1億円以下の同族経営の会社の場合、対象となる事業年度の前事業年度が終了した時点での自己資本比率が50%を下回っている場合、留保金課税が停止されます。
自己資本比率は自己資本を総資産で割って計算しますが、役員借入金は自己資本に含まれるため、役員借入金が多すぎると自己資本比率が50%を上回ってしまう可能性が高いです。その結果、本来なら不要な留保金課税が課されてしまう可能性が考えられます。
3-3. 源泉所得税が無駄になることがある
同族経営の場合は、所得税にも影響が出るかもしれません。同族経営で役員借入金を使っているケースでは、一度役員に支払った役員報酬を役員借入金に形を変えて会社に戻していることが多くあります。このケースで会社から役員に返済が行われない場合、役員報酬支払いにかかってしまった源泉所得税が無駄になってしまうことがあります。
役員報酬をすぐに役員借入金とする場合は、源泉所得税を収めなければ、役員賞与として扱えず、経費として計上できません。
3-4. 役員会の承認が必要
役員借入金で利子や担保を設定する場合は利益相反取引に該当するため、役員会での承認が必要になります。これは勝手に高い利率を設定されたり、担保として会社の所有物が奪われてしまったりするのを避けるためです。利子や担保を設定する場合は、役員全員からの承認が必要となります。無利息や無担保の役員借入金の場合は、役員会の承認は必要ありません。
3-5. 債務超過のリスクを抱える
役員借入金は会社にとっては負債です。そのため役員借入金が増えれば増えるほど、資産よりも負債が多くなり、債務超過になってしまうリスクがあります。最悪の場合は会社を精算しなければならない事態に陥ることもあるでしょう。
3-6. 銀行からの評価が下がりやすい
役員借入金は債務ですから、貸借対照表にも記載されます。銀行から融資を受ける際にあまりに役員借入金が多いと、融資してもらうための要件を満たせず、断られてしまう可能性も高いです。
このほかの勘定科目は「勘定科目と仕訳のルールBOOK」で解説しています。勘定科目や仕訳の説明や「資産」「負債」などのグループについても説明しているため、経理初任者の方におすすめです。科目の概要も記載しているので、「なぜ仕訳する必要があるのか理解できていない」「似た科目が多く、違いが覚えられない」という方はぜひこちらからご覧ください。
4. 役員借入金はバランスを考えて上手に活用することが大切
利息なく事業資金を調達できる役員借入金はメリットが大きい反面、どんどん増やしてしまうとさまざまなデメリットの影響を受けてしまいます。うまく使えば会社を成長させられるものですが、その結果融資を受けられなくなったり、相続税が膨らんでしまったりしては意味がありません。増やしすぎないように注意して、うまく活用しましょう。
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