出勤簿は印鑑の押印だけでも大丈夫?法律的な問題点を解説
更新日: 2024.11.28
公開日: 2021.11.12
OHSUGI
企業で出勤簿をきちんと管理していない場合、従業員が残業をしても残業代が支払われないなどの問題が発生します。従来は出勤簿は押印だけで済ませることもできましたが、近年は押印だけの出勤簿は法律で禁止されています。今回は出勤簿に押印が必要かどうか、押印だけの出勤簿が認められない理由、押印だけの出勤簿の問題点について解説していきます。
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1. 出勤簿は印鑑の押印だけでも大丈夫?
シャチハタなどの押印だけの出勤簿では、出勤時間や退勤時間を把握できません。そのため、勤務時間の証拠が残らず、あとから残業代を請求したり訴えたりしようとしても、自分で勤怠管理をおこなうなどの証拠を残しておく必要があります。
1-1. 法律で労働時間の把握が義務化された
従来は押印だけの出勤簿がメインでした。例えばエクセルで作成した出勤簿に押印することでも認められていました。しかし、印鑑なしでは従業員の労働時間や健康状態が把握できないという理由から、安全衛生法が改正されました。2019年4月1日からは押印だけでなく、労働時間がわかる出勤簿の作成が義務付けられるようになっています。
しかし、未だに押印だけの出勤簿を利用している企業に勤めている、または押印だけの出勤簿を使っている経営者も多いでしょう。
その理由を下記で紹介します。
1-2. 押印だけの出勤簿への罰金は無し
労働基準法では、出勤簿のほかに労働者名簿と賃金台帳の作成が義務づけられています。この3つの帳簿を作成していない場合、罰金として30万円の支払いが科せられます。
しかし、押印のみの出勤簿を利用していても現状では罰金は発生しません。
そのため、出勤簿を押印形式のまま使い続けている企業も多く存在します。勤務時間を把握するための出勤簿を作成するためには新たにテンプレートを用意したり複雑な給与計算をしたりしなければなりません。これらを便利にするタイムレコーダーもありますが、導入するにはコストがかかってしまいます。
また、残業時間も明確になるため、残業代をできる限り少なくしたい企業にとってはデメリットも多いです。
これらの対応を怠ったところで罰金が発生するわけではないため、未だに出勤簿を変えない企業もあります。
ただ法律で定められている以上、企業はしっかりと勤怠管理をしておく必要があります。
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関連記事:労働時間の労働基準法違反で企業が受ける罰則と違反しないための対策とは
2. 出勤簿の印鑑だけでは把握できないこととは?
押印だけの出勤簿では把握できない内容が多すぎるために、法改正がなされました。
従業員の労働時間や残業時間などをきちんと把握して正しく給与を支払うためにも、労働時間を把握できる出勤簿は必須です。
2-1. 労働者の出勤日、出勤日数、労働時間
まずは各労働者の出勤日です。労働基準法では基本的に週に1度の休日が義務付けられています。これを超える労働日数がないかを確認します。また、法律で定められている休日のほかに、企業が定めている所定休日に従業員を出勤させていないかどうかも確認します。
出勤日数については、週や月の出勤日数が法律に違反していないか、所定の日数を超えた場合は相応の賃金を支払われているかを確認するためのものです。
さらに労働時間も明記しなければなりません。労働時間とは出勤した時間から退勤した時間、そして休憩時間のすべてです。労働基準法では労働時間は基本的に1日8時間までと定められており、さらに1時間以上の休憩を取らせなければなりません。
これを無視していると訴えられた場合に圧倒的に不利になります。そして労働者側にとっては、この出勤簿が何よりもの証拠となります。
2-2. 日ごとの労働時間
日々の労働時間が定められている企業であっても、仕事内容によって日々の労働時間、残業時間は微妙に違います。
それらを把握するためにも毎日の労働時間の記入は必須です。
所定の時間内に労働を済ませているか、残業した時間は次でどれくらいになったのかなどを把握します。
あとでも紹介しますが残業時間、休日出勤、深夜労働などの残業代の計算方法はそれぞれに違い、非常に複雑です。
出勤簿できちんと管理しておかなければ月々の正しい給与計算ができなくなってしまいます。
関連記事:一日の労働時間の基準と上限を労働基準法からわかりやすく解説
2-3. 時間外労働の時間数
労働基準法では基本的に1日8時間、または週に40時間までと労働時間は定められていますが、これを超える労働時間を時間外労働と呼びます。
出勤簿では月々の最終的な時間外労働をきちんと明記しなければなりません。時間外労働は通常の1時間あたりの賃金に25%をかけた賃金を支払う義務があります。
また、この割増賃金を支払えばいくら時間外労働をさせてもいいというわけではなく、上限も定められています。
この上限を超えていないかどうかも出勤簿で把握します。
関連記事:労働時間の上限は週40時間!法律違反にならないための基礎知識
2-4. 休日労働の日数や時間
従業員を休日出勤させた場合はその日数と労働時間も出勤簿に明記しなければなりません。
労働基準法では月に4回の法定休日が定められています。
そしてそれだけでなく、企業が独自に定めた所定休日もあります。
土日休み、水曜と日曜休み、シフト制など、休日は企業によっても違いますが、この休日に従業員を出勤させた場合は必ずその記入が必要です。
法定休日に出勤させた場合は、通常の1時間あたりの労働時間に35%をかけた賃金を支払う義務があります。
さらに、休日出勤で8時間を超える労働をさせた場合には時間外労働の手当ても支払わなければなりません。
これを把握するためにも休日出勤の日数、時間の明記が必要です。
2-5. 深夜労働の日数や時間
深夜労働とは、22時から翌5時までの時間の労働のことです。これも労働基準法で定められています。
深夜労働をさせた場合は1時間あたりの賃金に対して25%をかけた賃金を支払わなければなりません。
また、朝から労働をしていて時間外労働が22時を超える場合は時間外労働の25%と深夜労働の25%を合わせた50%をかけた賃金を支払う義務があります。
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中小企業必見!働き方改革に対応した勤怠管理対策
3. 印鑑のみの出勤簿が持つ法的な問題点
印鑑のみの出勤簿には法的にさまざまな問題点があります。
それらを簡単に解説します。
3-1. 出勤簿と労働者名簿と賃金台帳の作成は義務
まず、法律では出勤簿だけでなく労働者名簿と賃金台帳の作成が義務付けられています。
これらの作成を怠っている場合、30万円以下の罰金を支払わなければならない可能性があります。
この場合の出勤簿には、上記のような決まりはありません。
3-2. 労働時間の把握が義務付けられてる
法律で労働時間の把握が義務付けられるようになりました。上記で解説したとおり、未だに押印のみの出勤簿を利用している企業も多いですが、そのままにしていると法的に問題があります。
関連記事:労働時間の把握が義務化!法改正の内容と対応方法とは?
3-3. 残業時間を完全に隠しきれない
押印だけの出勤簿や、退勤時間になったら押印をさせる、タイムカードを切らせるなどの企業もあります。
いまだに残業代を支払わないために、さまざまな工夫をしている、いわゆる『ブラック企業』もあるかもしれませんが、残業時間を完全に隠蔽することはできません。
従業員が個別にメモを取っていたり、時間管理をしていたりする可能性があります。GPSやメールの送信履歴などでも勤務時間はバレますので、出勤簿で必ず把握しておく必要があります。
4. 正しい出勤簿を作成しよう
本記事では、出勤簿への押印について解説しました。法律では勤務時間や時間外労働、休日出勤などを把握できるようにしなければなりません。いまだに押印のみの出勤簿を利用している企業は違法行為にあたりますので、早急に出勤簿の変更を考えましょう。
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