ベースアップとは?昇給との違いや計算方法、実施の手順を解説
更新日: 2026.7.1 公開日: 2024.12.22 jinjer Blog 編集部

近年、物価上昇への対応や優秀な人材の確保を目的に、基本給を一律に引き上げる「ベースアップ」を検討する企業が増えています。しかし、一度実施すると引き下げが難しく、安易な決定は将来の経営を圧迫するリスクを伴います。
本記事では、ベースアップの基礎知識をはじめ、定期昇給・賃上げとの違い、定額・定率の計算方法、メリット・デメリット、そして実施する際の具体的な手順までわかりやすく解説します。
目次
「自社の給与計算の方法に不安がある」「労働時間の集計や残業代の計算があっているか確認したい」「社会保険や所得税・住民税などの計算方法があっているか心配」など、給与計算に関して不安な方もいらっしゃるのではないでしょうか。
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1. ベースアップとは


ベースアップとは、社員全員の給料を一律にあげることです。略して「ベア」とよばれます。勤続年数や業務成績、役職など関係なくすべての社員に適用されるのがベースアップの特徴です。
ベースアップがおこなわれる背景には、物価上昇に伴い賃金の価値が相対的に下がったことが挙げられます。物価上昇による支出金額の増加分を軽減するためにも、ベースアップは重要な役割を担っているのです。
1-1. ベースアップの目的・メリット
ベースアップを実施する大きな目的は、社員の不満を和らげ、仕事への意欲向上につなげる点にあります。基本給そのものを引き上げることで、将来にわたる賃金水準の底上げが図られ、「継続的に処遇が改善されていく」という安心感を社員に与えやすくなります。
また、その効果は既存社員に限りません。賃上げに積極的な企業は、求職者に対して、安定した経営基盤や持続的な成長力を有し、利益を適切に社員へ還元している企業として好意的に受け止められやすくなります。こうした点から、ベースアップは人材の定着だけでなく、採用力の向上にも寄与する重要な施策といえます。
1-2. ベースアップの実施状況
厚生労働省が公表した「令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」によると、令和7年(2025年)時点での企業の対応は次のとおりです。
- ベースアップを実施(または実施予定)と回答した企業:57.8%
- ベースアップを実施しない(しなかった)と回答した企業:15.1%
この結果から、過半数の企業がベースアップに取り組んでいることがわかります。今後は、優秀な人材の獲得競争が進む中で、ベースアップに踏み切る企業はさらに増加していく可能性があると考えられるでしょう。
参考:令和7(2025)年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況|厚生労働省
2. ベースアップと類義語の違い


ベースアップには、次のような類義語があります。
- ベースアップと定期昇給
- ベースアップと賃上げ
ここでは、ベースアップと類義語の違いについて解説します。
2-1. ベースアップと定期昇給
ベースアップとは、全社員の基本給水準を一律に引き上げることです。実施の背景には、企業業績や物価の上昇、労働市場の動向などの外部環境に加え、労使交渉の結果が影響します。
これに対し、定期昇給は、あらかじめ定められた賃金テーブルに沿って、個々の社員の給与を段階的に引き上げる制度です。年齢や勤続年数、職能、評価結果などを基準に、それぞれの社員の処遇を見直して昇給がおこなわれます。
2-2. ベースアップと賃上げ
賃上げとは、社員に支払う賃金を引き上げることを指すため、ベースアップも定期昇給もいずれも賃上げに含まれます。したがって、ベースアップは賃上げの一形態であり、広い意味では同義と捉えられるでしょう。
ただし、ベースアップは社員全員の基本給を一律に上げる、定期昇給は個人の能力に応じて基本給を引き上げるという違いがあります。社員への説明にあたっては「賃上げ」と一括りにするのではなく、ベースアップなのか定期昇給なのかを明確に区別して伝えることが大切です。
3. ベースアップの計算方法


ベースアップの方式は次の2つです。
- 定額方式
- 定率方式
ここでは、これらの方式の詳細と計算方法を解説します。
3-1. 定額方式
定額方式は、毎月の給与に一定の金額を上乗せする方法です。この方式は、給与の低い人は昇給率が高くなり、高い人は昇給率が低くなるというのが特徴になります。
例えば、昇給額が20,000円の場合、昇給後の給料の計算方法と昇給率は次のとおりです。
- 月給220,000円の場合:220,000円 + 20,000円 = 240,000円(約9.1%増加)
- 月給440,000円の場合:440,000円 + 20,000円 = 460,000円(約4.5%増加)
定額方式は、全員に一律の金額を支給するため制度としてわかりやすく、運用もしやすい点がメリットです。一方で、高給与層ほど昇給率が低くなるので、「評価に見合っていない」と感じやすく、不満が生じる可能性がある点には注意が必要です。
3-2. 定率方式
定率方式は、毎月の給与にある一定の昇給率を上乗せする方法です。この方式は、給与の高い人ほど昇給額が高くなりますが、低い人は昇給額が低くなるという特徴があります。
例えば、昇給率が4%の場合、昇給後の給料の計算方法は次のとおりです。
- 月給220,000円の場合:220,000円 + 220,000円 × 0.04= 228,800(8,800円増加)
- 月給440,000円の場合:440,000円 + 440,000円 × 0.04= 457,600(17,600円増加)
定率方式では評価や等級に応じて割合を調整することもできるため、賃金水準を効率的に底上げできるほか、インフレ対応としても機能しやすい仕組みです。
一方、同じ昇給率でも高給与者ほど昇給額が大きくなるので、結果的に社員間の給与格差が拡大しやすい点がデメリットです。そのため、企業によっては評価連動型の昇給と組み合わせるなど、格差拡大を抑える工夫が求められます。
4. ベースアップの実施手順


ここでは、企業がベースアップを円滑かつ効果的に実施するための具体的な手順について、実務上のポイントを交えながら解説します。
4-1. 目的・方針を明確にする
ベースアップを実施するにあたっては、まず目的と方針を明確にすることが重要です。社員モチベーションの向上や物価上昇への対応など、企業ごとに狙いは異なります。また、離職率や満足度といった指標をあらかじめ設定しておくことで、施策の効果を適切に検証できるようになります。
目的が明確になることで、制度設計に一貫性が生まれ、社員への説明もしやすくなります。そのため、単なる賃上げではなく、「なぜ実施するのか」「どの水準でおこなうのか」を段階的に整理しておくことが大切です。
4-2. 現状(賃金・財務)を把握する
次に、自社の賃金水準と財務状況を正確に把握することが重要です。社員の給与については、年齢層・職種・等級といった軸で整理し、平均値だけでなく中央値や分布も確認することで、実態に即した水準を把握できます。
さらに、基本給・各種手当に分解し、固定費と変動費を区別しておくことで、ベースアップの影響を見極めやすくなります。そのうえで、同業他社の公開情報や求人データなどを活用し、比較分析をおこなうと、自社の位置づけがより明確になるでしょう。
また、ベースアップは固定費の増加につながるため、将来的な収益見通しやキャッシュフローも踏まえ、無理のない範囲で実施可能かを検討することが不可欠です。。
4-3. 引き上げ内容を設計する
目的と現状の分析結果をもとに、具体的な引き上げ内容を設計します。一律での引き上げとするのか、職種や等級ごとに差を設けるのかを検討し、あわせて引き上げ率や金額の水準を決定します。
また、短期的な人件費の調整にとどまらず、中長期的な賃金体系との整合性を確保することも大切です。将来的な昇給の偏りや不公平感を防ぐため、評価制度との連動性を踏まえながら慎重に検討しましょう。
4-4. 就業規則・賃金規程を見直す
ベースアップの内容が決まったら、就業規則や賃金規程の見直しをおこないます。基本給の定義や計算方法、昇給ルールなどに変更が生じる場合は、規程に反映させなければなりません。
就業規則・賃金規程を改定する際には、労働基準法に基づき、労働者の過半数を代表する者(過半数で組織する労働組合がない場合)への意見聴取や労働基準監督署への届出といった手続きが求められます。また、ベースアップの仕組み変更によって不利益を受ける社員が生じる場合には、原則として本人の同意が必要です。
もし同意が得られないまま変更を進めると、労働契約法に抵触し、ベースアップの見直し自体が無効と判断されるおそれもあります。このように、ベースアップの実施には法令に則った適切な手続きが不可欠です。
4-5. 給与計算へ反映させる
改定後の賃金内容を、給与計算へ正確に反映させることが重要です。そのためには、給与計算ソフトの設定を見直し、計算ロジックに誤りがないかを事前に確認し、支給額にミスが生じないようチェックをおこないましょう。
とくに賃金改定は、税金や社会保険料の算出にも影響を及ぼします。さらに、残業単価や深夜・休日労働における割増賃金の基礎にも関わるので、関連する計算項目についても漏れなく確認することが欠かせません。
4-6. 社員への周知をおこなう
最後に、ベースアップの内容とその目的については、社員に対して丁寧に周知することが重要です。単に金額を伝えるだけでなく、実施に至った背景や企業としての考え方もあわせて説明することで、社員の納得感の向上につながります。
説明会の開催や書面での通知など、状況に応じた適切な方法を選び、誤解が生じないようわかりやすく伝えることが求められます。
なお、就業規則を変更した場合には、労働基準法に基づき、社員への周知が不可欠です。周知が不十分な場合、変更後の就業規則を労働条件として適切に適用できないおそれがあるので、確実な周知を徹底することが重要です。
関連記事:就業規則の変更を届出る際の提出方法と気をつけるべき4つの注意点
5. ベースアップの課題と対応策


ベースアップは社員の待遇改善につながる一方で、経営面や組織運営において無視できないデメリットもあります。ここでは、ベースアップを実施する際に企業が直面し得る課題と、それに対する具体的な対応策について解説します。
5-1. 人件費が増える
ベースアップは、社員の給与水準を引き上げる施策である一方、企業にとっては固定的な人件費の増加を伴います。とくに中小企業や利益率の低い業種においては、収益構造に負担を与える可能性があります。
こうしたリスクに対応するには、まず人件費の増加額を事前にシミュレーションし、適切なコスト管理をおこなうことが重要です。場合によっては、今回のベースアップを見送るという判断も選択肢のひとつとなります。
さらに、単なるコスト増として捉えるのではなく、企業全体の生産性向上とあわせて検討する視点も欠かせません。例えば、業務プロセスの見直しやデジタルツールの導入による効率化を進めれば、限られた人員でもより高い付加価値を生み出せる体制を構築できるようになります。
5-2. 物価上昇に追いつかない可能性
ベースアップを実施したとしても、その効果が十分に実感されるとは限りません。とくに急激な物価上昇が続く局面では、名目上の賃金が上がっても実質賃金が伸びず、社員の生活改善につながらない可能性があります。
こうした状況に対応するには、ベースアップのみに頼らない柔軟な制度設計が重要です。例えば、定期昇給制度の導入や見直しによって、継続的な収入の増加を図り、社員が将来の見通しを持てる環境を整えられます。
さらに、インフレ手当や生活支援手当など、物価の変動に応じた補填をおこなうことも有効です。加えて、食事補助や健康支援といった福利厚生を充実させることで、可処分所得を間接的に高める効果も期待できます。
5-3. 不公平感によるモチベーション低下の懸念
一律のベースアップは公平性を担保しやすい反面、成果や貢献度に関係なく賃上げがおこなわれるので、高いパフォーマンスを発揮している人材にとっては不満につながる可能性があります。一方で、評価制度が不透明なまま処遇に差を設けると、不公平感が強まり、モチベーション低下を招くリスクもあります。
そのため、ベースアップに加えて、賞与やインセンティブなどの成果連動型報酬を組み合わせることが有効です。さらに、評価基準を明確にし、十分なフィードバックをおこなうことで、納得感のある処遇の実現が求められます。
関連記事:賞与とは何?種類・決め方・計算方法・所得税や社会保険料の計算を解説
5-4. ベースダウンが難しくなるリスク
一度引き上げた基本給を引き下げる「ベースダウン」は、不利益変更にあたるので、原則として労働者本人の同意が必要です。ただし、変更内容に合理性があり、かつ就業規則の改定が十分に周知されている場合には、例外的に同意がなくても有効と認められることがあります。
しかし、判例上その合理性の判断は極めて厳格であり、実質的なハードルは非常に高いので、一方的なベースダウンは強い法的リスクを伴います。そのため、企業としては安易にベースアップをおこなうのではなく、将来的な経営状況や人件費の持続可能性を十分に見据えたうえで、慎重に判断することが重要です。
参考:労働契約(契約の締結、労働条件の変更、解雇等)に関する法令・ルール|厚生労働省
関連記事:雇用契約の条件は途中で変更できる?契約期間内に変更する方法をご紹介
い企業は注意しましょう。
参考:労働契約法|厚生労働省
6. ベースアップを活用して魅力のある企業づくりを目指そう


ベースアップは、社員の仕事へのモチベーションを向上させてくれます。また、採用活動をおこなう際にも、求職者にプラスの印象を与えられるでしょう。
ただし、ベースアップをおこなってからのベースダウンは簡単にできるものではありません。そのため、現在の資金力や今後の見通しを踏まえたうえで、ベースアップを本当に導入するべきか慎重に判断する必要があります。
ベースアップを上手に活用できれば、今まで以上に社員にとって働きがいのあるよい会社となるので、自社の業績アップのためにも前向きに検討してみましょう。



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