賃金支払いの5原則とは?例外や守られないときの罰則について
更新日: 2024.5.8
公開日: 2022.2.13
OHSUGI
労働基準法では労働環境だけでなく、労働者が受け取る対価の賃金についても明確に定められています。賃金の支払を定めているのは労働基準法第24条で、ここに記載されているルールは「賃金支払いの5原則」と呼ばれています。
賃金支払いに関する罰則は、労働基準法違反に対する罰則の中でも重いことに加え、労働者の信頼を欠くことにもつながるため注意が必要です。
今回は、賃金支払いの5原則の内容や例外、守られないときの罰則、その他の規定について詳しく解説していきます。
目次
1. 賃金支払いの5原則とは?
賃金支払の5原則とは、労働基準法第24条に記載されている賃金支払に関する原則のことです。
▽賃金支払いの5原則
- 通貨払いの原則
- 直接払いの原則
- 全額払いの原則
- 毎月1回以上払いの原則
- 一定期日払いの原則
労働基準法第24条には、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」「賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。」と表記があり、そこから賃金支払いの5原則が読み取れます。
この原則は、労働の対償として支払われる「賃金(給与)」が確実に労働者本人の手に渡るために定められたものです。
賃金支払いの5原則をしっかり理解すると、賃金は全額を原則現金で直接労働者に支払う必要があり、さらに毎月1回以上かつ一定期日の間に繰り返して支払わなければならないと解釈できます。
関連記事:労働基準法第24条における賃金支払いのルールを詳しく紹介
参考:労働基準法|e-Gov
2. 賃金支払いの5原則の例外を紹介
賃金の支払いが遅れることは労働者の生活に関わるため、「支払わない」や「遅れて支払う」、「分割で支払う」などの方法は認められません。ただし、やむを得ず賃金が支払えない場合や、手続きを単純化したい場合には、賃金支払いの5原則の例外が適用されます。
ここでは、原則ごとの例外を紹介するのでチェックしておきましょう。
2-1. 通貨払いの原則の例外
- 口座振り込み
- 通勤手当の現物支給
- 退職金を小切手で支払う
賃金は原則、日本円の現金で支払わなければなりません。ただし、労使協約や本人の同意があれば、上記のような現金以外での支払いが認められます。ただし、通勤手当を定期券として現物支給するには、労使協約の締結が必要なので注意してください。賃金の口座振り込みや退職金を小切手で支払うのは、本人の同意があれば問題ありません。
しかし労使協約や本人の同意があっても、外国通貨で賃金を支払ったり、通貨と異なる商品券や自社製品での支払いは認められていません。また、外国人労働者であっても日本円の現金で支払う必要があります。
2-2. 直接払いの原則の例外
直接払いの原則では、賃金を労働者本人に支払うことを定めていますが、本原則にもいくつかの例外があります。
- 使者に支払う(妻など)
- 裁判所の決定により賃金が差し押さえられている場合
1つ目の例外は労働者本人に事情があり、賃金を受け取れない場合の例外です。例えば労働者の妻に支払い、妻から労働者に賃金が渡れば直接払いの原則を満たしていることになります。
また、2つ目の例外は、裁判所から賃金差し押さえの指示が出ている場合に、直接差押債権者に支払うという例外です。ただし、裁判所の判断でなければ、労働者本人以外への支払いは認められません。
2-3. 全額払いの原則の例外
賃金は、労働に対して全額を支払うという原則がありますが、賃金の一部から控除として社会保険料や源泉所得税を差し引き、控除後の賃金を支払うことは違法に当たりません。
- 賃金からの天引きが法令で定められているもの
- 労使協定により社宅賃料・貯金・積立金などの天引きに同意している場合
賃金は、税金や社会保険料が控除された額を受け取るのが一般的ですが、これは全額払いの原則に反しません。また、労働者の過半数を代表する労働組合や代表者が労使協定を締結しており、賃金から社宅賃料や積立金などの天引きが認められているケースも、「全額払いの原則」の例外となります。
2-4. 毎月1回以上払いの原則の例外
毎月1回以上払いの原則の例外として認められるのは、臨時で支払われる賃金のみです。例えば、賞与や特別手当などが例外に該当します。
ちなみに、経営難やトラブルなどどうにもならない理由があるとしても、1ヵ月半や2ヵ月に1回の支払いになってしまう、というのは「毎月1回以上払いの原則」の例外に該当せず違法となってしまうので注意しましょう。
2-5. 一定期日払いの原則の例外
一定期日払いの原則では、翌月15日支払い、翌月25日支払など、一定の期日で支払わなければなりません。
ただし、下記のような場合は例外となります。
- 毎月末日支払
- 支払日が営業日でない場合に当月の別日に支払う
- 労働基準法内の非常時払い
毎月末日は、月ごとに日付が異なりますが一定期日なので問題ありません。また、休日を理由に、期日以外の日に支払うことも例外として認められます。さらに、労働基準法で定めがある出産・急病などにより労働者から費用の請求があった場合には、支払期日前の賃金支払いが例外となります。
ただし、毎月第3月曜日や20日~30日の間など、毎月変わる日を期日としたり、支払日に間隔を設けることは認められません。また、条件を課して「〇〇が達成できたら給料を支払う」なども例外とはなりません。
3. 賃金支払いの5原則が守られないときの罰則
「賃金支払いの5原則」のうち、どれか1つでも守られなかった場合は、労働基準法24条違反として30万円以下の罰金刑が科されます。
ただし、時間外労働・休日労働などの際に支払う割増賃金が支払われなかった場合には、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金と、さらに罪が重くなるので注意が必要です。例えば、残業代が未払いの場合には、労働基準法違反の中でも特に重い懲役刑または罰金刑が科されます。
また、賃金を支払わなかった場合には会社に立ち入り調査がおこなわれるというケースもあり、状況によっては逮捕されることもあるので、賃金支払いの5原則はしっかり守りましょう。
4. 労働者の賃金に関わるその他の規定
賃金に関わる規定は「賃金支払いの5原則」だけではなく、他にも規定があります。
- 割増賃金の計算方法
- 遅刻時・早退時の賃金支払い
- 休業時の賃金支払い
これらの規定に関して、詳しく解説していきます。
4-1. 割増賃金の計算方法
割増賃金は残業代と混同しやすいので注意が必要です。
残業代は、就業規則などで定めている労働時間を超過した残業に対し、支給される手当のことです。企業によっては「超過勤務手当」や「残業手当」といいますが、どちらも残業代であり「割増賃金」ではありません。
一方、割増賃金というのは、労働基準法で定められた労働時間を超過した残業に支給される手当のことで、残業代は1.25倍となります。
割増賃金が発生するのは、法定労働時間の1日8時間、1週間40日を超えた場合のみで、企業が定める所定労働時間に対しては割増賃金が発生しません。
例えば、A社の所定労働時間が9時~17時で休憩1時間だった場合、所定労働時間は7時間です。Bさんが17時以降に3時間残業したとすると、1時間分は所定労働時間を超えた残業代として支払われますが、2時間目以降は法定労働時間の8時間を超えているため、「割増賃金」が発生します。
この計算方法を間違えて、すべて「通常の残業代」にしてしまうと規定違反となるので注意しましょう。
関連記事:労働基準法第37条における割増賃金規定の正しい計算方法
4-2. 遅刻時・早退時の賃金支払い
遅刻や早退というのは労働した事実が発生しないため、賃金を支払う必要がありません。これをノーワーク・ノーペイの原則といいます。
ただし、賃金を支払わなくてよいのは、遅刻分・早退分だけです。たとえば、1時間の遅刻にもかかわらず、1時間分以上の賃金を支払わなかったり、1日分の賃金を差し引いたりすることは違法にあたります。
関連記事:勤怠管理における遅刻早退の控除の取り扱いや処理の方法について
4-3. 休業時の賃金支払い
労働者が休暇や休業を取得する際には、賃金が発生する場合とそうでない場合の2パターンがあります。下記の項目における賃金の発生の有無は、各企業の就業規則によって異なるため、自社の就業規則をチェックしておきましょう。
- 有給休暇:支給額は就業規則への明記が必要
- 慶弔休暇:日数や有給の取り扱いは就業規則で定める(労働基準法での規定なし)
- 産前産後休業:有給・無給の取り扱いは就業規則で定める
- 介護休業:有給・無給の取り扱いは就業規則で定める
- 休職期間:賃金の取り扱いは就業規則で定める
5. 賃金支払いの5原則を守る意識を持つのが大切
賃金支払いの5原則は、労働基準法24条に基づいて賃金の支払いルールを明確に定めたものです。「ルール」というと軽視してしまうかもしれませんが、法律に基づいたルールなので「賃金支払いの5原則」は必ず守るという意識を持つことはとても大切です。
ルールに違反した場合、割増賃金以外なら30万円以下の罰金刑が、割増賃金なら30万円以下の罰金または6カ月以下の懲役刑が科されるため注意しましょう。
賃金の支払いは会社への信頼にも関わってくることなので、労使間の信頼関係を崩さないようにするという意味合いでも、ルールをしっかり遵守して従業員と良好な関係を築いていきましょう。
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