残業手当の計算方法や割増率、未払い発生時の対応を解説
残業手当は残業が発生した際に支給しなければいけません。残業に該当する条件や計算方法を確認し、正しく支給できるようにしましょう。残業代の未払いが発生した場合に備えて、対処法や放置してはいけない理由も知っておくと安心です。
この記事では、残業手当の考え方や計算方法、未払い発生時の対応を中心に解説します。
目次
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残業管理や残業代の計算では、労働基準法で「時間外労働」と定められている時間を理解し、従業員がどれくらい残業したかを正確に把握する必要があります。
しかし、どの部分が「時間外労働」にあたるかを正確に理解するのは、意外に難しいものです。
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1. 残業手当が発生する条件と計算方法
残業手当は残業に該当する労働が発生した際に、必ず従業員に支給しなければいけません。どのような条件下で残業手当が発生するのか、計算方法と合わせて正しく理解しておきましょう。
1-1. 残業手当が発生する条件
まずはどのような時に残業手当が必要になるのかを確認していきましょう。
法定労働時間の1日8時間、週40時間に労働時間が収まっているときは、残業手当の支給は必要ありません。(ただし、法定時間内の残業手当を就業規則に定めている場合は除く。)
法定労働時間を超えると、1時間あたりの基礎賃金に対して、下記の残業手当(割増賃金)が必要です。
- 法定労働時間を超えた残業 :25%以上
- 1ヵ月60時間を超えた残業:50%以上
1ヵ月60時間を超える残業に対する割増賃金は、中小企業は2023年3月末日までは適用外でした。しかし、現在は事業規模や業種を問わずに、すべての企業でこの割増賃金が必要になっています。雇用形態(正社員・アルバイト・パートタイムなど)による違いもありません。
また、上記以外にも週1回の法定休日や、深夜(22時から5時まで)労働には、別途、休日手当や深夜手当が必要になります。
- 法定休日の労働:35%以上
- 深夜時間の労働:25%以上
従業員が残業をしたときは、これらの手当を合わせて、残業代の支給が必要です。
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1-2. 残業手当の計算方法
残業手当の計算方法は、割増賃金や残業時間を使って計算します。
1時間あたりの賃金1,500円、所定労働時間を8時間と定めている従業員を例に、1日に支給される給与の計算をします。
【例】
9時(始業)から、22時まで働いた場合
9:00~ 12:00→1,500円×3時間
12:00~13:00→休憩1時間
13:00~18:00→1,500円×5時間
18:00~22:00→1,500円×1.25×4時間
18時~22時の労働が残業時間に該当するため、25%の割増賃金が発生し、合計19,500円の支給が必要になります。
内訳は、8時間分の賃金12,000円と、4時間分の残業手当の7,500円です。
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2. 時間外手当・休日出勤手当・深夜手当との違い
残業手当は、通常の労働時間を超えて業務をおこなった従業員に対して支給されるものです。そのため、時間外手当・休日出勤手当・深夜手当など、イレギュラーな勤務に対する手当と混同しやすい部分があります。各手当の違いを知っておきましょう。
2-1. 時間外手当とは
時間外手当は残業手当と同じ意味で使われることも多いですが、厳密には違いがあります。
時間外手当は法定労働時間を超えた残業に対する手当のみを指すもので、残業手当は法定内残業と法定外残業の両方が含まれます。
どちらの表現を使っても大きな問題にはなりませんが、もしもトラブルが発生して労働紛争にまで発展するような場合は、使い分けを意識したほうが正確です。
2-2. 休日出勤手当とは
休日出勤手当は、法定休日に出勤した従業員に対して支払う割増賃金を指します。
法定休日は労働基準法で1週間に1回、4週間で4回以上と定められています。トラブルや急な業務の増加によって、この法定休日に出勤を命じた場合は、35%の割増賃金を支払わなくてはいけません。これが休日出勤手当です。
また、休日出勤をさせるには36協定が必要で、規定を設けていない場合は休日出勤を命じることができません。
2-3. 深夜手当とは
深夜手当は22時~翌朝5時までの労働に対して支払われる割増賃金です。割増賃金率は25%で、この割増賃金は時間外手当とは別に計算されます。
つまり、22時以降まで残業をさせる場合は、深夜手当+時間外手当で50%の割増賃金が発生する計算です。
誤って22時以降の残業に対し、深夜手当のみや時間外手当のみの支給になっている場合は違法になるため、注意しましょう。
3. 会社が残業手当を計算する際の注意点
会社が残業手当を計算する際は、以下の点に注意して正確に算出しましょう。残業手当は通常の給与とは計算方法が異なり、後から支払う場合は時効も存在します。
3-1. 残業代は1分単位で計算する
残業代は原則として1分単位で計算しなければいけません。これは労働基準法で1分でも労働した場合は、その対価を支払うことが定められているからです。
10分や30分で切り捨てて計算することは違法になる可能性が高いため、必ず1分刻みで計算するようにしましょう。
ただし、1ヵ月の残業時間の合計時間は、30分未満は切り捨て、30分以上は繰り上げすることが許容されています。
3-2. 残業時間や割増率は正しいか
従業員が請求した残業時間と、その時間に対する割増率が正確であることも重要です。
打刻をしていても、勤務時間に副業をしていたり、長時間のタバコ休憩をしていたり、本来の業務以外のことをしていた証拠があれば、タイムカードなどの信頼性を否定できます。
残業時間が正しい場合は、残業手当に加えて深夜手当や休日手当が発生してないかも確認し、正確に計算しましょう。
3-3. 残業を禁止していないか
残業を許可制にしている会社もあります。従業員に勝手に残業をさせることを防ぐことができます。
ただし、「定時で終わる仕事量ではなかった」と反論されることがあるため、仕事が残った場合の具体的な対処法(管理職に引き継ぐなど)と合わせて指示をしている必要があります。対処法がなく、定時で終わらない仕事量が発生していた場合は、残業手当の支払いが必要になる可能性が高いです。
3-4. 管理監督者ではないか
管理監督者は36協定の締結が不要であり、残業手当の支払いは必要ありません。
ただし、管理監督者とは経営者と一体的立場の者であり、下記の要件を満たす必要があります。
- 重要な職務内容である
- 責任と権限を有している
- 労働時間の規制になじまない勤務態様である
- 地位にふさわしい待遇がなされている
そのため、請求した従業員が管理監督者ではなく「名ばかり管理職」と判断されれば、残業手当の支払いが必要になる可能性が高くなります。
また、管理監督者でも深夜手当の支給は必要です。
3-5. みなし(固定)残業代は支給していないか
みなし(固定)残業代を支給している会社では、すでに残業代を支給しているものとして主張できます。
ただし、みなし残業時間以上の労働に対して残業手当を支給していない場合は、別途残業手当の支給が必要です。また、みなし残業の時間が100時間など、違法性が高いと判断されれば無効になる可能性が高いため注意しましょう。
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3-6. 残業代の時効消滅は成立していないか
2020年4月の民法などの改正により、残業代の時効消滅期間が下記のように変更されています。
- 2020年3月までの支払い分→2年
- 2020年4月以降の支払い分→3年
残業代を後から請求されたケースで、請求された時期が上記よりも以前の分であるなら、時効消滅を主張できます。
退職している従業員や何年も前の残業に対する請求をされた場合は、まずはこの時効消滅を確認するとよいでしょう。
4. 残業手当の未払い分を請求された際の対応方法
計算ミスや管理不足、または労使間での認識の不一致などにより、残業代の未払いが発生することがあります。
従業員に未払い分の残業代を請求された場合は、すぐに支払う方向で検討し始めるのではなく、以下の点を十分に検討してから行動に移しましょう。
4-1. 支払い義務のある残業手当を計算する
まずは、会社で保管しているタイムカードや勤怠管理システムなどを確認し、間違いなく支払い義務のある残業手当がどれほどあるか確認します。
従業員の主張は、計算方法が間違っていたり、時効消滅分が含まれていたりするケースも少なくありません。残業の実態や正確な時間を十分に精査し、会社が支払うべき残業手当のみを計算しましょう。
4-2. 反論できる点をまとめる
次に、請求に対して反論できる点をまとめましょう。
例えば、以下の3点など、請求をした従業員の勤務態度や職種・役職なども加味して、反論できる点はないかまとめましょう。
- 使用者の管理が届かないところでサービス残業をしていた
- 営業職の直行直帰の際は、事業場外みなし労働時間制を適用していた
- 管理監督者に対し残業手当がない代わりとして、十分な手当を用意していた
これらは未払い分の残業手当を請求された場合でも、すでに支給済みや支給が不要であると判断される重要な証拠になり得ます。
なぜ残業手当を支給していなかったのか、その根本的な理由を見つけて会社の規定や従業員の待遇と照らし合わせることが大切です。
5. 未払いの残業手当の請求を放置するリスク
未払い残業手当の請求がされた場合、それを放置することは非常に危険です。企業にとって大きな悪影響が出る恐れがあります。
放置するリスクを正しく認識し、もしもの場合に備えておきましょう。
5-1. 遅延損害金や付加金が発生するケースがある
残業手当を給料日に支払わないことは、債務不履行に該当するため、損害遅延金の支払いが必要です。
従業員が在職中の場合、下記のように事業形態により遅延金の利率が異なります。
- 営利目的の会社の場合(株式会社など。商法による)→年利6%
- 非営利組織の場合(NPO法人など。民法による) →年利5%
ただし、従業員が既に退職している場合は年利14.6%となります。
裁判に発展した結果、残業手当の未払いが悪質だと判断されれば、未払いの残業手当の他にペナルティとして付加金の支払いも必要となります。
なお、付加金の上限は未払い額と同額までです。
例えば未払いの残業手当が300万円あれば、付加金の支払いも300万円まで、合計600万円までの支払いを命じられる可能性があります。
5-2. 労働審判や裁判・訴訟に発展する恐れがある
従業員からの請求に応じず、長期間放置を続けた場合は労働審判に発展するケースもあります。
通常、裁判所から出頭の呼び出しがあり、3回の審判により解決を図ります。
話し合いによる和解(調停成立)や、労働審判の確定がされた場合は、決定事項に応じて金銭の支払いなどを済ませて解決に至るでしょう。しかし、どちらかに不服がある場合は訴訟手続きへと移行します。裁判まで発展すると判決が下されるまで8ヵ月~1年6ヵ月など長期に及びます。
裁判に至った場合は時間や金銭的なコストが増えるだけでなく、企業イメージにも悪影響が出ることを考えなければいけません。
6. 残業手当のトラブルを避けるために勤怠管理を徹底しよう
残業手当は取り扱いが少し特殊で、気を付けなければいけない点があります。計算する際は正確性を重視し、未払いを防がなくてはいけません。
従業員から未払いの残業手当を請求されたら、まずはその請求内容を確認し、間違いや反論できる部分はないか確認しましょう。
なお、請求を放置したり、無視したりすると、トラブルが悪化する原因になるため、速やかな対処が大切です。
残業手当の請求は労働審判でも多い内容です。日頃から勤怠管理を抜け漏れなくおこなう、自己判断の残業はさせないなど、対策を徹底しましょう。
残業管理や残業代の計算では、労働基準法で「時間外労働」と定められている時間を理解し、従業員がどれくらい残業したかを正確に把握する必要があります。
しかし、どの部分が「時間外労働」にあたるかを正確に理解するのは、意外に難しいものです。
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