残業代単価の計算方法と勤務形態ごとの考え方をわかりやすく解説
更新日: 2024.11.15
公開日: 2022.3.6
OHSUGI
従業員が定められた労働時間を超えて労働をした場合、会社に残業代を請求することができます。担当者は従業員に対し、残業代の計算方法や確認方法しっかり説明できなければなりません。また、残業代の平均額についても押さえておいたほうがよいでしょう。
今回は、労働基準法に基づきながら、残業代の計算方法と平均額について解説します。また近年では、フレックスタイム制や変形労働時間制など、新たな勤務形態を導入する企業が増えつつあります。このような勤務形態ごとの残業代の考え方も一緒に解説していきます。
関連記事:残業時間の定義とは?正しい知識で思わぬトラブルを回避!
残業管理や残業代の計算では、労働基準法で「時間外労働」と定められている時間を理解し、従業員がどれくらい残業したかを正確に把握する必要があります。
しかし、どの部分が「時間外労働」にあたるかを正確に理解するのは、意外に難しいものです。
当サイトでは、時間外労働の定義や「法定外残業」と「法定内残業」の違いをわかりやすく図解した資料を無料で配布しております。
資料では時間外労働の上限や効率的な残業管理の方法も解説しているため、法に則った残業管理をしたい方はこちらから資料をダウンロードしてご覧ください。
1. 残業代単価の計算方法
残業代を計算するにあたって、残業の種類と基礎賃金の算出方法は正確に知っておく必要があります。ここでは、2種類ある残業の説明や基礎賃金の算出方法、36協定について詳しく解説します。
1-1. 残業の種類について
まず残業代を正しく計算するために、残業の種類を理解しておきましょう。残業は法定外残業と法定内残業の2種類に分かれています。
法定外残業(時間外労働)
法定外残業は、法定労働時間(1日8時間または週40時間)を超えた労働時間のことを指します。一般的には「時間外労働」と表現されることの方が多いです。
例えば、就業規則が「9:00〜18:00(休憩1時間)」の場合、所定の労働時間は8時間です。仮に19:00まで労働した場合は9時間の労働になるため、法定外残業は1時間になります。
法定外残業を行った場合、労働基準法に基づき、原則として割増賃金を支払わなければなりません。具体的には、時間外労働の賃金は「1時間当たりの基礎賃金」に基づき計算され、その基礎賃金に割増率を掛けることになります。割増率は、時間外労働の場合は通常25%、1ヶ月の時間外労働が60時間を超える場合は50%の割増賃金が適用されます。このように、法定外残業は適切に管理し、従業員に正義をもって支払うことが重要です。
法定内残業
法定内残業は、パートタイムで働いている人に多い残業の種類です。就業規則などで1日5時間や7時間などの所定労働時間が決められている場合に適用されます。決められている所定労働時間を超えて、8時間まで働くことを法定内残業といいます。
例えば、就業規則が「9:00〜17:00(休憩1時間)」の場合、所定労働時間は7時間です。仮に18:00まで労働した場合、実働8時間になり法定内残業は1時間です。法定内残業時間に割増の義務はありません。
1-2. 1時間あたりの基礎賃金を算出する
残業代を計算するにあたって、1時間当たりの基礎賃金額が必要です。基礎賃金を算出する場合は、月給に含まれる一部手当を除外することができます。
基礎賃金の算出方法は以下の通りです。
基礎賃金=(月給-諸手当)÷月の所定労働時間
労働に関係ある手当は基礎賃金に含まれるため、月給から除外しないように注意しましょう。該当例として役職手当や地域手当、資格手当などが挙げられます。反対に通勤手当や住宅手当など、労働とは関係ない手当は除外できます。
関連記事:割増賃金の基礎となる賃金とは?計算方法など基本を解説
1-3. 残業にあたる範囲の時間を集計する
残業にあたる範囲の時間を集計する際には、所定労働時間を超過した実労働時間のみを対象とします。
具体的には、休憩時間や有給休暇の取得日、遅刻・早退など、勤務していない時間は集計に含まれません。このため、労働と関連のない時間を除外して該当する残業時間だけを正確に集計することが重要です。これにより、適切な残業代の計算が可能になります。
1週間の起算日の考え方
残業にあたる範囲の時間を集計する際には、1週間の起算日の考え方が重要です。
労働基準法では「1日8時間」または「週40時間」を超える労働が時間外労働とされ、割増賃金の対象となります。この起算日は、就業規則で定められている場合はその曜日から、定めがない場合は日曜日からスタートします。例えば、起算日が月曜日の場合はその週の月曜日から日曜日までが1週間となります。起算日の設定は残業代の計算に影響を及ぼすため、しっかり把握しておきましょう。
「1日8時間」「週40時間」の考え方
残業にあたる範囲の時間を集計する際、「1日8時間」と「週40時間」の考え方は重要です。
これらの基準両方に該当する場合は、超過時間の多い方を優先して割増賃金を計算することが求められます。例えば、1週間の起算日が月曜日で、月曜日から金曜日までの実働時間を例えて、月曜日は9時間、火曜日は9時間、水曜日は10時間、木曜日は9時間、金曜日は5時間だったとします。この場合、1週間の合計実働時間は42時間となり、週単位での時間外労働は2時間です。
しかし1日単位で見ると金曜日からの5時間の超過が適用されるため、時間外労働は5時間として扱われます。
36協定について
なお、1日8時間、1週40時間を超える法定外残業をする場合は、36 協定の締結が必要です。
36協定を結んでいない場合は、従業員に法定外残業をさせることはできず、もしも命じた場合は労働基準法違反になります。
36協定を結ばずに法定労働時間を超える労働を行わせた場合「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科される可能性があります。気になる方は一度、36協定を締結しているか確認しておきましょう。
関連記事:36協定における残業時間の上限を基本からわかりやすく解説!
1-4. 割増賃金として残業代を計算する
法定外残業代(時間外労働手当)を求めたい場合は以下の計算式で算出できます。
法定外残業代=1時間当たりの基礎賃金×時間外労働の時間数×割増率
時間外労働の場合は割増率25%以上の賃金支払いが義務付けられています。さらに残業が深夜(午後10時〜午前5時)になった場合や時間外労働が1ヶ月60時間を超えた場合は、割増率50%以上の賃金支払いが義務付けられています。
加えて、休日労働(法定休日の労働)に対しては割増率35%以上、休日労働が深夜の場合は割増率60%以上の賃金支払いが義務付けられています。
法定内残業代の場合は、法定外残業のように、割増賃金を支払う必要はないとされているため、以下の計算式で算出できます。
法定内残業代=1時間当たりの基礎賃金×法定内残業時間数
1-5. 残業時間・残業代の端数を処理する
残業時間・残業代の端数を処理する際の基本は、労働時間を1分単位で計算することです。しかし、企業の事務処理を簡潔にするために、1ヶ月間の残業時間の合計に関しては、特例が適用されます。
具体的には、30分未満の端数は切り捨て、30分以上の端数は1時間に切り上げることが認められています。ただし、これはあくまで1ヶ月全体の集計に対して適用されるものであり、1日ごとの端数処理は違法となるため注意が必要です。
また、残業代の計算においても端数が生じることがあり、この場合、1円未満の端数は「50銭未満を切り捨て、50銭以上は1円に切り上げる」というルールが適用されます。正確な計算が求められるため、しっかりとした理解が必要です。
2. 残業単価を用いた残業代の計算例
では実際の例を用いて残業単価を用いた計算例を紹介します。
まず、Aさんの月給が30万円で、所定労働時間が168時間、月の残業時間が40時間の場合を考えます。さらにAさんの給与については、通勤手当が1.5万円、家族手当が1万円あると仮定し、1時間当たりの基礎賃金は以下のように算出されます。
1時間当たりの基礎賃金は、月給から諸手当を引いた金額を、月の所定労働時間168時間で割ることで求められます。
1時間当たりの基礎賃金 = (月給 - 諸手当)÷ 月の所定労働時間 = (30万円 – (1.5万円 + 1万円)) ÷ 168時間 = 1,637円 |
次に、Aさんの残業を把握し、種類ごとに残業時間に応じた割増率を考慮して、残業代を計算します。
Aさんの残業時間は、時間外労働30時間、深夜労働2時間、休日労働8時間だったとします。法定外残業、休日労働、深夜労働などの各種割増が異なるため、それぞれの賃金を算出し、合算します。
時間外労働の残業代:1,637円×30時間×1.25=61,388円 深夜労働:1,637円×2時間×1.50=4,911円 休日労働:1,637円×8時間×1.35=17,680円 |
これらを合算すると、Aさんの1ヶ月の総残業代は83,979円となります。
3. 勤務形態ごとの残業代の考え方
勤務形態によって残業代の考え方は異なります。どの勤務形態においても、残業代の有無は労働基準法で定められており、正しく計算したうえで支給しなくてはいけません。
3-1. 裁量労働制
裁量労働制とは、実際に働いた労働時間とは関係なく、事前に定められた時間を働いたとみなす制度です。
例えば、みなし労働時間を1日8時間(法定労働時間)と定めていたとします。仮に労働時間が9時間だったとしても8時間労働とされるため、残業代は出ないことが多いです。反対に8時間より少ない労働であっても、8時間労働として扱われます。
この制度で割増賃金が発生する場合は以下3つのケースです。
- みなし労働時間の設定が8時間超の場合
- 深夜労働の場合
- 休日労働の場合
みなし労働時間を9時間に設定した場合、法定労働時間を超える1時間分は時間外労働として適用されるため、1時間分の残業代が支払われます。また、深夜労働や休日労働の賃金割増は除外対象のため、この時間帯の労働に関してはほかの勤務形態と同様に割増賃金が支払われます。
関連記事:裁量労働制の残業時間の上限は?知っておくべき注意点を解説
3-2. 固定残業制度
固定残業代制度は、一定時間の残業代が発生することを見込み、月給に固定の残業代を支払う制度です。
仮に実際の労働時間が、定められたみなし時間に届いていなくても、固定残業代は全額支払われます。また、実際の労働時間がみなし時間を超えてしまった場合は、その分の残業代は追加で支払う必要があります。
固定残業制度の導入により、企業は従業員の時間管理を効率化できます。この制度では、あらかじめ残業時間を見込んでの給与設定が行われるため、給与計算がシンプル化されます。しかし、固定残業制度には注意が必要です。従業員が実際にどれだけの時間働いたのかを正確に把握するためには、勤務時間の記録を適切に管理する必要があります。
固定残業制度は、従業員にとって魅力的である一方で、適切な運用がなされなければ、企業と従業員の関係に亀裂を生じさせることもあります。良好な職場環境を保つためには、労使間のコミュニケーションが欠かせません。
関連記事:固定残業代とは?制度の仕組みや導入のポイントを分かりやすく解説
3-3. 変形労働時間制
変形労働時間制は、労働時間を「1週間・1ヶ月・1年」単位で調整できる制度です。トータルで働いた時間が定められた労働時間内であれば、残業代の対象外となります。所定労働時間の設定は、変形労働時間制であっても、法定労働時間内に収める必要があります。
このように変形労働時間制では、特定の週や月に労働時間を柔軟に調整することができるため、企業のニーズに応じた働き方が可能となります。
ただし、この制度を利用する際には、十分な労働時間の管理が求められます。労働者は予め設定された所定の働き方を理解し、法定労働時間を超過して働いた場合には適切な残業代を受け取る権利があります。
また、変形労働時間制を導入している企業は、労働者に対して所定労働時間の内容や残業代の計算方法についてしっかりと周知することが重要です。これにより、従業員の理解を得やすくなり、労使間のトラブルを避けることに繋がります。この制度を適切に運用することによって、企業は労働者の働きやすさを高める一方で、業務の効率性を維持することが可能となります。
関連記事:変形労働制でも残業代は出さないとダメ!知っておくべきルールとは
3-4. フレックスタイム制
フレックスタイム制は、定められた労働時間の範囲内で、労働者が始業・終業時間を自由に決めることができる制度です。清算期間内(上限3ヶ月)に働くことができる労働時間と、実際の労働時間の差を計算した上で残業代を支払う必要があります。
このようにフレックスタイム制は、特に働き方の多様性が求められる現代において、企業と従業員双方にとってメリットが大きい制度です。従業員は自身のライフスタイルに合わせた働き方ができるため、仕事とプライベートの両立がしやすくなります。
しかし、フレックスタイム制を適用する際には、労働時間の管理が非常に重要です。企業側はフレックスタイム制を導入する際に、従業員に制度の内容や残業代の計算方法について詳細に説明し、理解を得ることが必要です。これによって、従業員が自身の労働時間を適切に管理できるようになり、不要なトラブルを避けることができます。
この制度は、企業の業務効率を高めるだけでなく、従業員の働きやすさを向上させ、モチベーションアップにも寄与します。また、フレックスタイム制を活用することで、企業は優秀な人材を確保するための強力な手段となります。
4. 形態別・職業別の残業代平均額
現在支給されている残業代が適切なのか残業代の平均額を知っておく必要があります。
最後に、職業別の残業代の平均額をご紹介していきます。
厚生労働省が出している「毎月勤労統計調査」の2023年6月のデータによると、1ヶ月あたりの残業代は18,608円でした。これは16業種の全体平均額で、前年比と比較すると1.9%増加しています。
その理由として、新型コロナウイルスによって増えていたリモートワークが減り、出社して残業をする人が増え始めたことが考えられます。
なお、これら16の業種のなかで上位3つの業種は以下の通りです。
- 電気・ガス業:49,824円
- 運輸業・郵便業:42,614 円
- 情報通信業 :32,009円
新型コロナウイルスの影響によって、消費者の買い物が実店舗からネットに移行したり、企業が在宅勤務を導入して環境の整備を進めたりした関係で、上位3つの職業の残業代に影響が出ていたものが継続しているのかもしれません。
また、新型コロナウイルスの影響を大きく受けやすい医療・福祉関係は12番目に低い残業代平均額でした。こうした背景には、業界でサービス残業やみなし残業といったものが考えられます。
5. 残業代が適正単価かどうかしっかりチェックしよう
残業代単価は正確に残業代を計算し、支給するために重要な数字です。勤務形態別の計算方法を理解し、間違いのない支給をしましょう。
残業を「サービス残業」として扱っている業種、企業は少なくありません。また、残業代が未払いとなっていたり、少なく支給されていたりすることに気づかないケースもあります。
そのような場合は、従業員から「残業代を計算したが、少ない」「計算が合わない」と申し出がある可能性があります。担当者は改めて基礎賃金や残業時間を確認し、再度残業代をしっかり計算し直しましょう。
従業員とのトラブルを避けるためにも、残業代が正しいかどうか、残業代の金額が平均額に達しているかどうかをチェックしておくことも大切です。
残業管理や残業代の計算では、労働基準法で「時間外労働」と定められている時間を理解し、従業員がどれくらい残業したかを正確に把握する必要があります。
しかし、どの部分が「時間外労働」にあたるかを正確に理解するのは、意外に難しいものです。
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