有給休暇の買い取りは違法?退職時の対応やトラブル事例を解説
更新日: 2025.10.30 公開日: 2021.9.1 jinjer Blog 編集部

有給休暇は、心身のリフレッシュを図り、働きすぎを防止する目的で、雇用形態にかかわらず一定の条件を満たした労働者に付与することが義務化されています。
しかし、なかには休むタイミングがなかったり退職までに消化しきれなかったりして、「有給休暇はいらないから買い取ってほしい」と従業員が有給休暇の買い取りを希望する場合があります。このような場合、企業はどのような対応をすれば良いのでしょうか。
本記事では有給休暇の買い取りの違法性や買い取りをする場合の対応方法・注意点について解説します。有給休暇の買い取りに関するルールをしっかりと把握し、トラブルを未然に防ぎましょう。
関連記事:有給休暇に関する計算を具体例付きで解説!出勤率、日数、金額の計算方法とは?
目次
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1. 有給休暇の買い取りは原則として違法


有給休暇の買い取りは原則として違法です。なぜなら、有給休暇の買い取りは本来の制度の趣旨に反する行為であるためです。
有給休暇は本来、その年に付与された日数を取得させて従業員の心身のリフレッシュを図る目的で設けられている制度です。そのため、買い取って金銭にかえることは本来の働きすぎを防ぎ「心身のリフレッシュを図る」という目的から逸脱しています。
多忙などの理由でなかなか有給休暇を消化できないため、有給休暇を買い取ってほしいと考える従業員もなかにはいるでしょう。
しかし、有給休暇の買い取りは労働者が休む機会を奪うことになるため、原則禁止されています。実際、昭和30年11月30日の行政通達(基収4718号)では、労働基準法第39条(法第39条)を挙げ、次のように言及されています。
年休の趣旨・目的に照らせば,年休の買上げ制度は,原則として認められません。金銭を給付するのと引き換えに,年休を与えたものとすることは,結果として法定日数を付与していないこととなるからです。
行政解釈でも,「年次有給休暇の買上げの予約をし, これに基づいて法第39条の規定により請求し得る年次有給休暇の日数を減じ,ないし請求された日数を与えないことは,法第39条の違反である」 (昭和30年11月30日 基収第4718号)としています。
これにより、企業が強制することはもちろん、労働者の同意があったとしても有給休暇の買い取りは原則として違法となるのです。
ただし、すべての有給休暇の買い取りが違法というわけではなく、一部のケースに関しては買い取りが許可されています。次章で買い取りが可能な有給休暇に関して詳しく説明します。
関連記事:有給休暇の労働基準法における定義|付与日数や取得義務化など法律を解説
2. 有給休暇の買い取りが例外的に認められるケース


前項で有給休暇の買い取りは原則違法と紹介しましたが、場合によっては買い取りが可能なケースもあります。ここでは、有給休暇の買い取りが違法にならない3つのケースについて説明します。
2-1. 退職時に有給が余る場合
退職時に有給休暇が残っている場合、企業と従業員の合意があれば買い取りが可能です。原則として退職日までに有給を消化することが望ましいですが、引き継ぎや退職準備の都合で取得が難しいケースもあります。
そのような場合には、話し合いのうえで双方が同意すれば、違法とならずに買い取りがおこなえます。ただし、従業員から未消化分の買い取りを求められたとしても、企業に買い取りの義務があるわけではありません。
2-2. 労働基準法の基準を超える独自の有給制度がある場合
年次有給休暇は、勤続日数に応じて6ヵ月で10日、1年6ヵ月で11日という風に毎年増えていきます。これらの日数は労働基準法で定められた最低基準であり、買い取りは認められません。
ただし、福利厚生の一環として法定日数を超えて有給休暇を付与している場合、その超過分については買い取りが可能です。法定日数を超える休暇は法律上の制約を受けないためです。
例えば、法定の年次有給休暇が10日あり、さらに福利厚生として5日付与している場合、10日は取得してもらう必要がありますが、追加の5日については買い取りが可能となります。
2-3. 有給休暇が時効により消滅する場合
年次有給休暇は、付与日から2年間有効であり、1年間は繰り越すことが可能です。ただし、繰り越した日数を含めても消化できなかった場合は失効します。この時効により消滅した有給については買い取りが認められます。なお、ほかのケースと同様に法的義務はなく、企業側が拒否することも可能です。
また、働き方改革関連法により、企業には年10日以上の有給が付与された従業員ごとに毎年5日以上の有給休暇を確実に取得させる義務が課されました。そのため、従来よりも「有給休暇が余って失効する」というケースは減少していくと考えられます。
なお、有給の繰り越しの仕組みや保有できる最大日数について確認しておきたい方には、こちらの記事がおすすめです。
関連記事:【図解】有給休暇の繰越とは?上限やルール、計算方法をわかりやすく解説
3. 有給を買い取る際の計算方法と金額相場


有給の買い取りは法律で定められた義務ではないので、企業側で独自の計算方法を定めることも可能です。ただし、有給休暇の買い取り方法や金額などについてはあらかじめ就業規則や書面で規定しておく必要があります。
具体的な買い取り金額の計算方法を4パターン紹介します。なお、「3-1.~3-3.」のパターンは、有給取得時の賃金計算の方法です。これらの方法をそのまま採用することも可能ですが、ニーズに応じて、有給の買い取り時には別のルールを設定することもできます。
3-1. 通常賃金での計算方法
4つの計算方法のうち、多くの企業で取り入れられているのが通常賃金での計算方法です。月給制や日給制、時給制によってそれぞれ計算方法が異なります。
- 月給制の場合:(月給額 ÷ 所定労働日数) × 有給買取日数
- 日給制の場合:日給額 × 有給買取日数
- 時給制の場合:(時給額 × 1日の所定労働時間) × 有給買取日数
計算方法が簡単であるだけでなく、従業員側からしてもいつも通りの賃金で支払われるため、最もトラブルが起こりにくい計算方法だといえるでしょう。
3-2. 平均賃金での計算方法
平均賃金での計算方法は、まず、直近3ヵ月の賃金を休日分も含めて合計してから、その合計額を3ヵ月の暦日数で割ります。
ただし、休業などによって直近3ヵ月の賃金が少ない場合、この方法だと単価が非常に低くなる恐れがあります。そのため、この計算方法には最低保障額が決められています。最低保障額の求め方は次のとおりです。
直近3ヵ月の賃金の総額 ÷ 労働日数で割った額 × 0.6
最低保障額を求める際は、暦日数ではなく、実際に働いた労働日数で割るのがポイントです。平均賃金で計算する際は、この最低保障額を下回らないよう注意しなくてはなりません。
3-3. 標準報酬月額での計算方法
保険料額を算定する際の標準報酬月額を用いて計算することも可能です。標準報酬月額を月の日数で割れば、1日当たりの金額を求められます。
健康保険に加入している従業員であれば計算が簡素化されて便利ですが、未加入である場合は標準報酬日額を一から算出しなくてはいけないので、逆に計算が面倒となることもあります。
なお、標準報酬月額での計算方法は、労使協定をあらかじめ結んでおく必要があるため、併せて注意しましょう。
関連記事:有給休暇取得日の賃金計算方法と正しく計算するための注意点を解説
3-4. 定額での計算方法
企業が事前に定めた金額を、有給休暇の買い取り時に支払う方法です。パートやアルバイトなど、時間や日数が固定ではない従業員に適用されることが多いです。
この方法は計算が要らないので、管理がシンプルで手間が省ける反面、場合によっては実際の賃金との間に差が生じる可能性があります。そのため、この方法を採用する際は、金額に対して従業員から納得が得られるよう、事前に労働組合や労働者代表と協定を結んでおくことが望ましいでしょう。
3-5. 有給休暇の買い取り金額はいくらが妥当?相場は?
有給休暇の買い取り額は従業員の賃金によって金額が変動するため、明確な相場といったものがありません。上述でも触れましたが、一般的には通常賃金にもとづいた計算方法を取っている企業が多いようです。
また企業によっては、「正社員は1万円、契約社員は8千円」などあらかじめ就業規則に明記している企業もあります。
4. 有給休暇買い取り時の企業側のメリット


ここまで有給の買い取りについて解説してきましたが、買い取りは一見すると従業員側にばかりメリットがあるように感じるかもしれません。しかし実は、企業側にも大きなメリットが2点あります。
4-1. 社会保険料の負担を軽減できる可能性がある
従業員が退職する際には、残っている年次有給休暇をすべて消化してから退職するケースが多く見られます。この場合、有給休暇の取得期間中も在籍している扱いとなるため、企業側にはその期間に対応する社会保険料の負担が発生します。
一方で、未消化の有給休暇を買い取ったうえで退職日を前倒しすれば、在籍期間を短縮できるので、結果的に社会保険料の負担を軽減できる可能性があります。ただし、有給休暇の取得は従業員の権利であり、企業が一方的に買い取りを強制することは認められていない点に注意が必要です。
4-2. 労使間トラブルを回避できる
有給休暇の取得は、労使間でトラブルが起きやすいテーマです。有給休暇取得中も雇用関係は継続しており、従業員は引き続き労働者としての権利を保持しています。そのため、退職の意思を取り消したいといった要望が出る恐れもあります。
また、退職時点で消化しきれない有給休暇が残っている場合があります。本来、有給取得に会社の許可は不要ですが、業務環境によって取得が難しかったことが原因で残日数が多くなるケースもあります。このような場合、未消化分の有給休暇を買い取ることで、従業員とのトラブルを防ぎ、円満に退職手続きを進めることが実務上有効です。
関連記事:時季変更権は退職時まで行使できる?認められないケースとは
5. 有給休暇買い取り時の注意点


有給休暇を買い取る際は、事前に気をつけておきたいポイントがいくつかあります。次に順を追って確認していきましょう。
5-1. 有給休暇の買い取り予約は違法となる
従業員に有給休暇の買い取りを予約し、有給休暇の日数を減じるまたは与えないことは法律で禁止されているので注意しましょう。
有給休暇には労働者の心身をリフレッシュさせる目的があるため、本来の趣旨に従って取得させることが原則です。退職など上述で挙げた特別な理由がない限りは、計画的に有給を取得させるようにしましょう。
5-2. 有給休暇の買い取りは義務ではない
有給休暇の買い取りは法律で義務づけられたものではありません。有給休暇が金銭で売買されるようになってしまうと、労働者の心身の健康が危ぶまれる事態に陥ってしまうためです。
そのため、従業員から「有給休暇を買い取ってほしい」と要求されても、上述で挙げた特別なケースを除いて原則断ることができます。
5-3. 有給の買い取りは「賞与」として計上する
有給休暇を買い取った際は、計上の仕方が異なる点も注意すべきポイントです。在職中に支払う場合は「賞与(給与所得)」として計上するのが一般的です。ただし、退職に起因して支払う場合は「退職手当(退職所得)」として計上します。
なお、賞与で処理する場合は、「被保険者賞与支払届」を買い取り額の支払日から5日以内に提出しなくてはいけません。社会保険料の処理に関してもボーナスと同様の扱いが必要です。標準賞与額を用いて計算する点や賞与明細の発行が必要となる点に注意しましょう。
一方、退職手当で処理する場合、社会保険料はかかりません。ただし、退職手当に対しても源泉徴収義務があります。正しく手続きをしたうえで、退職後には「退職所得の源泉徴収票」を1ヵ月以内に退職者本人へ交付しましょう。
参考:従業員に賞与を支給したときの手続き|日本年金機構
参考:No.2732 退職手当等に対する源泉徴収|国税庁
6. 有給休暇の買い取りでよくあるトラブルと対策


有給休暇の買い取りをおこなうときは、トラブルが生じやすいため注意しましょう。最後に、よくあるトラブルと対策法について解説します。
6-1. 買い取り可否についてのトラブル
そもそも、有給休暇の買い取りが可能かどうかを知らない従業員は多いです。あとになって「買い取りができると知らなかった」といったトラブルが生じることがないように、あらかじめ買い取りの可否についての書面を作成し、労働者と交わしておきましょう。就業規則に有給の買い取りについて記載しておくこともおすすめです。
作成するのは合意書や誓約書、雇用契約書などの形式を問いませんが、基本的には以下の内容を記載しておく必要があります。
- 買い取りの対象となる有給休暇
- 有給休暇の買い取り金額
- 支払日
- 支払の方法
また、実際に買い取りするときは書面に条件を記載し、双方に認識の違いがないことを確認しておくことが大切です。
6-2. 買い取り金額に関するトラブル
有給休暇の買い取り金額には、法律上の決まりがありません。そのため、企業は自社の基準に沿って有給休暇の買い取り金額を決定できます。ただし、国籍・性別・雇用形態などに基づき不合理な差を設けると、法令に抵触する恐れがあり、従業員トラブルにもつながるので注意が必要です。
6-3. 税法上のトラブル
有給休暇を買い取るときは、税務処理を間違えるトラブルが起きやすいため注意しましょう。企業は、買い取った有給の税法上の扱いを理解しておくことが大切です。
退職にともなう有給休暇の買い取りは、退職することに起因して支払われる賃金であると考えられるため、「退職所得」扱いになります。このほかのケースの場合は、「給与所得」扱いです。本来は有給休暇の消化時に支払う給与であったことを考えると、納得しやすいでしょう。
なお、従業員の税金(所得税・住民税)の計算方法は、「給与所得」と「退職所得」のどちらで処理するかで大きく異なります。一般に、退職所得として計算する場合は退職所得控除が適用されるため、給与所得として扱う場合よりも税負担が軽くなる傾向があります。従業員にもあらかじめこのことを周知しておくと、混乱が生じにくくなります。
関連記事:退職金にかかる税金は?計算方法や退職金控除についても解説
7. 有給休暇の正しい知識をつけてトラブルのない買い取りを


労働者が休暇を取る権利である有給休暇は、原則として買い取ることができません。しかし、「退職時に有給休暇が余った」「年次有給休暇よりも多い日数を付与している」「消滅してしまう」のいずれかに該当する場合は、有給の買い取りが可能です。
有給休暇の買い取りは、従業員と企業で認識をすり合わせておかないとトラブルが生じやすいため注意が必要です。スムーズな買い取りができるように、あらかじめ書面などで詳しい条件を提示しておくことが大切です。
関連記事:年次有給休暇とは?をわかりやすく解説!付与日数や取得時期も紹介



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