出向手当とは?重要性や相場をわかりやすく解説
出向手当は、出向に伴い支給される手当です。
コロナ禍の影響により異業種への出向が話題となり、現在でも大企業・中小企業問わず出向制度を活用する企業が増えています。出向の条件として、「出向手当を支給すべきか」と悩む企業は多いのではないでしょうか。
企業から従業員に対し出向を打診する場合は、出向の種類や出向手当の相場を考慮したうえで、出向手当を検討しなければなりません。
そこで本記事では、出向手当の基本情報や在籍出向と転籍出向の手当の違いについて詳しく解説します。また、出向手当を支給するメリットや相場・支給する方法・会計処理についても触れていきます。
目次
1. 出向手当とは
出向手当とは、出向するにあたって基本給に含まれない諸費用として支払われる手当の1つです。
どのような性質や目的を持つ手当なのか、支給例と合わせて解説していきます。
1-1. 出向による給料の減額を補助するもの
出向手当とは、所属する企業の雇用契約を維持したまま別の企業に異動することを指します。
異業種に出向することもあり、出向を命じられた従業員は環境や待遇の変化に戸惑ったり、デメリットを受けたりすることがあります。
そのような経済的なマイナスや精神的な負荷に対して支給する手当が「出向手当」です。出向手当は必ずしも支給しなければいけない手当ではありません。
しかし、出向する従業員のストレスや不安を考え、企業側がサポートするために必要なものとして出向の条件に取り入れることが多いです。
1-2. 出向手当の目的
前述したように、出向手当の目的は金銭的・精神的な負荷を補助することです。
従業員は企業から出向を命じられた場合、企業が納得できる理由がなければ、基本的に出向を拒否できません。
しかし出向先が遠方の場合、引越しが必要となります。ほかにも、労働条件の変更にともない新たな知識の習得・人間関係の構築など、精神的な負担が大きくなる可能性もあるでしょう。
出向手当を支給する目的はこのような金銭的・精神的な負荷に対する補助をすることです。
1-3. 出向手当の支給例
出向手当の支給例として、これまでの基本給を維持する目的で出向手当を支給するパターンがあります。
出向元と出向先の基本給に差があり、出向先の労働基準に合わせると基本給が減る場合、出向者にとって不利な条件となるためです。
出向者の負担を軽減するためにも、出向手当の制度を整えることが出向元・出向先の企業にとって重要です。
ただし、出向手当の制度だけが整っていても、出向者の不安を取り除けない場合もあります。出向者の意見を伺いながら、寄り添った対応をおこなうことが大切です。
2. 在籍出向と転籍出向の手当の違い
出向制度には在籍出向と転籍出向があり、違いは以下のとおりです。
出向制度 | 雇用契約 | 出向手当 |
在籍出向 | 出向元・出向先 | 支給される可能性がある |
転籍出向 | 出向先のみ | 支給されることは少ない |
それぞれの出向制度の違いについて、詳しく見ていきましょう。
2-1. 在籍出向
まず在籍出向とは、出向元・出向先ともに雇用契約を交わし、出向先にて勤務する契約です。出向者は一定期間を出向先で働いたのち、出向元に戻れます。
また、在籍出向の場合、出向元よりも出向先の基本給が低いのであれば、出向手当により差額が補填される可能性もあるでしょう。ただし、出向手当の支給は企業によって異なるため、必ずしも支給されるわけではありません。
2-2. 転籍出向
次に転籍出向とは、出向先とのみ雇用関係を交わし、出向先にて勤務する契約です。出向者は出向元との雇用契約を解除しなければならず、在籍出向のように出向元に戻ることはできません。
また、転籍出向の場合、一般的には出向先の基本給のみが支給されるため、出向手当が支給されることは少ないです。また、転籍出向では出向先の条件によって、出向者が不利になるケースがあります。
出向元は出向者に対し、出向先の雇用契約について慎重に説明しなければなりません。
3. 出向手当を支給するメリット
出向手当を支給する立場別のメリットは以下のとおりです。
- 【出向元】出向命令を受け入れてもらいやすい
- 【出向先】優秀な人材の確保
- 【出向者】経済面における不安の解消
それぞれの立場におけるメリットについて、詳しく解説します。
3-1. 【出向元】出向命令を受け入れてもらいやすい
出向者に対して出向命令を受け入れてもらいやすい点が、出向元が出向手当を支給するメリットです。出向を打診しても、出向者が承諾しなければ出向を命じられません。
また、無理に出向を命じた場合、出向者とのトラブルの原因となります。金銭的補助として出向手当の制度を取り入れることで、出向命令を受け入れてもらいやすくなるでしょう。
3-2. 【出向先】優秀な人材を確保しやすい
出向元の優秀な人材を確保できる点が、出向先が出向手当を支給するメリットです。優秀な人材を確保するには採用費などが発生しますが、必ずしも優秀な人材が確保できるとはいえません。
出向制度の導入や出向手当の支給をすることで、即戦力となる人材を確保できるでしょう。
3-3. 【出向者】経済面における不安が解消できる
出向者の経済面の不安を解消できる点が、出向手当の支給を受けるメリットです。出向を命じられた場合、減給や引越し費用などが懸念されるため、出向者にとって金銭的・精神的に負担がかかります。
出向手当として給与の差額分を補填したり、引越し費用などを負担したりすることが重要です。不安や不満がなくなれば出向先でも本来の能力が発揮しやすくなり、出向者だけでなく出向先にとってのメリットにもなるでしょう。
4. 出向手当の相場
平成30年(2018年)に厚生労働省がおこなった賃金事情等総合調査によると、出向手当制度を導入している企業の平均支給額は2万3千円。また、出向手当の最高額は5万9千円、最低額は5千3百円の結果が発表されました。
上記のように出向手当を導入している企業によっても、支給額が大幅に異なります。支給額を定める場合は、出向先の労働環境や平均支給額などを考慮したうえで、出向者が不利にならないよう慎重に設定しましょう。
参照:平成30年賃金事情調査 調査結果の概要 2ページ|厚生労働省
5. 出向手当を負担するのはどちら?
出向手当をの負担は、状況によって「出向元が支払う・出向先が支払う・双方が支払う」の3つのパターンに分かれます。
法律による定めはなく、どのように支給するかは各企業と従業員の間で大きく異なります。それぞれのケースを見ていきましょう。
5-1. 出向元が支払う
出向元が出向者に対し、出向手当を支払う方法です。在籍出向の場合、基本給や出向手当などを含む給与を支払うこともできます。
ただし、出向元が出向者の給与を全額支払った場合、出向元は寄附金課税の対象となるため注意しなければなりません。詳しくは所轄の税務署へお問い合わせください。
5-2. 出向先が支払う
出向先が出向者に対し、出向手当を支払う方法です。出向手当を支払う方法に関して、法律上の決まりはありません。
出向先が直接出向者に支給するケースや、出向先から出向元へ給与を支払ったあと、出向元から出向者へ支払うケースもあります。出向者が不利にならないよう、双方で話し合うことが必要です。
5-3. 出向元と出向先の両方で負担する
出向者に対し、出向元と出向先の両方で出向手当を負担する方法です。前述のとおり出向手当を支払う方法に決まりがないため、両企業で負担することもできます。
ただし、出向先の給料が高く、出向手当として出向下が差額を補填する場合、支払った差額分は、出向期間中であっても出向元となる企業の損金額に算入されるため注意しなければなりません。
参照:厚生労働省 在籍型出向「基本がわかる」ハンドブック(第2版)26ページ
6. 出向手当の会計処理
出向者の出向手当を含む給与の会計処理について、勘定科目に決まりはありません。
とくに出向先が出向元に支払う給与負担金に関しては、「給与」「支払い手数料」などの勘定科目でも問題なく処理できます。
ただし、会計処理をするうえで、給与負担金を「給与」にするとわかりにくくなる可能性があります。「受取手数料」あるいは「雑収入」などの勘定科目で計上すると良いでしょう。
6-1. 派遣社員の給与との違い
出向者の手当については、しばしば派遣社員の取り扱いや給与の取り扱いと混同されることがあります。
自社から他社に従業員を供給するという点で、出向と派遣は似ていますが、派遣は「労働派遣事業」に該当し、派遣させるには厚生労働大臣の許可が必要です。この点には十分に注意して、出向は出向として取り扱いましょう。
また、給与と手当の取り扱いも明確に違います。手当の処理は前述したように決まりはありませんが、給与には原則があります。課税金額にも影響するため、この点も間違えないように注意しましょう。
7. 出向手当は積極的に取り入れて出向者に寄り添った対応をしよう
出向手当は、出向者の経済的・精神的な負担を金銭面で補助する制度です。出向者は企業から出向を打診された場合、基本的に拒否できません。
出向者を気持ちよく出向先へ送り出すためにも、出向者に寄り添った制度を採用することが大切です。
ただし出向手当の相場は、企業によって大幅に異なります。出向先の労働環境や平均支給額を検討したうえで、出向者が不利益とならないように支給額を設定しましょう。
また、出向に関する書類や組織の管理をおこなうには、人事労務管理に特化したツールを使用することがおすすめです。出向に関する手続きをする場合は、ぜひ管理ツールの導入を検討してみてください。
関連記事:労働契約法14条における「出向」の意味や対応のポイント
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