在職老齢年金とは?法改正・見直し内容や支給停止調整額の意味、計算方法を解説
更新日: 2025.7.11 公開日: 2025.2.11 jinjer Blog 編集部

在職老齢年金とは、高齢者が働きながら年金を受け取れる制度です。生活保障と就労促進の両立ができる反面、仕組みや手続きは複雑で正確に理解するのが難しいと感じる人は多いのではないでしょうか。
本記事では、この制度の基本的な仕組みや対象者、計算方法、手続きの流れについてわかりやすく解説します。制度を正しく理解し、適切な対応を進めるためにもぜひ参考にしてください。
目次
労務担当者の実務の中で、給与計算は出勤簿を基に正確な計算が求められる一方で、Excelからの手入力や別システムからのデータ共有の際、毎月のミスや抜け漏れが発生しやすい業務です。
さらに、昇格や人事異動に伴う給与体系の変更や、給与計算に関連する法令改正があった場合、更新すべき情報も多く、管理方法とメンテナンスにお困りの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
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1. 在職老齢年金とは


在職老齢年金は、働きながら年金を受け取る人を対象にした年金を調整する制度です。どのような制度なのか、支給停止額や支給停止期間などについてもあわせて知っておきましょう。
1-1. 在職老齢年金の概要と支給停止調整額
在職老齢年金とは、老齢厚生年金を受け取りながら就労している人が、厚生年金保険への加入を維持したまま受け取れる老齢厚生年金です。
この在職老齢年金は、60代前半の就労期間であるにもかかわらず、低賃金の在職者の生活を保障するために導入されました。給与だけでは補えない生活費を年金で支えるという考え方です。
こうした性質を在職老齢年金は持っているため、老齢厚生年金と給料・賞与の合計額が一定以上になると、超えた部分の年金の半分が減額されます。なお、以前は60歳以上65歳未満と65歳以降で支給停止調整額が異なっていましたが、現在は統一されています。
在職老齢年金に対しては1965年の導入以降、さまざまな議論がおこなわれて法改正も繰り返されてきました。現在も議論は続いており、前述した支給調整が入る金額や支給停止期間などは変更され続けています。
1-2. 2025年(令和7年度)の支給停止調整額は51万円
在職老齢年金は、収入によって一部や全部の支給が停止されるとお話をしました。
この支給停止調整額は毎年見直されており、2025年は51万円に引き上げられています。2024年度の支給停止調整額は50万円で、支給停止調整額の引き上げは2023年と2024年にもおこなわれており、3年連続で引き上げられたことになります。
この51万円という数字には、給与だけでなく受け取る年金や賞与も含まれている点に注意が必要です。
在職老齢年金の支給停止調整額は、賃金の変動に合わせて見直されます。賃金が上がればそれに比例して支給停止調整額も上昇していくしくみであるため、今後も賃金上昇が続けば支給停止調整額も上昇していくでしょう。
1-3. 支給停止期間と支給停止額の変更時期
支給停止期間とは、年金が減額される、または支給されない期間のことです。
基本月額+総報酬月額相当額が51万円を超えている場合、賃金と年金の合計が基準額を上回っている間は支給停止され続けます。支給停止額は、総報酬月額相当額が変わった月または退職日等の翌月に変更されます。
支給停止期間は、基準額を超えている期間に準じます。もし、収入状況が変わって賃金と年金の合計が基準額を下回った場合は、支給停止も解除されるのが一般的です。
なお、70歳以上になると厚生年金保険の被保険者資格を失い、保険料を納付する必要がなくなります。しかし、70歳以上になっても制度は適用され続けるため、収入状況によっては引き続き支給停止が発生する点に注意が必要です。
2. 在職老齢年金の対象者


在職老齢年金の対象者は、以下の条件を満たす人です。
- 60歳以上
- 老齢厚生年金の受給資格がある
- 厚生年金の適用事業所に就労している
在職老齢年金は、老齢厚生年金の受給資格がある60歳以上であり、厚生年金の適用事業所で働いていることが必須条件となっています。
そのため、60歳以上であっても、自営業やフリーランスなど厚生年金保険に加入していない働き方をしていた人は、受給資格を持たないため対象外です。
また、老齢厚生年金の受給資格があることも条件となっています。そのため、以下の条件に当てはまる人以外は、通常の老齢厚生年金の支給開始である65歳から適用されるのが一般的です。
- 特別支給の老齢厚生年金の受給権者
- 年金の繰上げ受給をおこなう人
特別支給の老齢厚生年金とは、一定の条件を満たす場合、通常65歳から支給される老齢厚生年金を60〜64歳に受給できる仕組みです。男性は昭和36年4月1日以前、女性は昭和41年4月1日以前生まれが対象で、生年月日に応じて受給開始年齢が決まります。
一方、年金の繰上げ受給とは、通常65歳から受け取ることができる老齢厚生年金を、前倒しで受け取る制度です。繰り上げた月数に応じて、年金額が減額されて支給されます。
3. 在職老齢年金を計算する方法


ここからは、在職老齢年金を計算する方法を解説します。
- 基本月額+総報酬月額相当額が51万円以下の計算方法
- 基本月額+総報酬月額相当額が51万円を超える際の計算方法
基本月額+総報酬月額相当額が51万円を超えるかどうかで、計算方法が異なります。それぞれの計算方法を詳しく把握して、適切に手続きを実施できるよう準備しましょう。
3-1. 基本月額+総報酬月額相当額が51万円以下の計算方法
基本月額+総報酬月額相当額が51万円以下の場合、基本月額の全額が支給されます。
例えば、基本月額が11万円で総報酬月額相当額が40万円の場合、合計は51万円となるため、10万円すべてを受給可能です。
ここでいう基本月額とは、老齢厚生年金の報酬比例部分を12で割った月額のことを指します。老齢厚生年金としてもらえる金額のことを意味し、以下の計算式で求めます。
基本月額 = 老齢厚生年金の報酬比例部分(在職中の平均月収と厚生年金の加入期間をもとに計算)÷12
一方、総報酬月額相当額は、その月の標準報酬月額に直近1年間の賞与の12分の1にあたる額を加えたもののことです。主に、在職老齢年金の支給額を計算する際に用いられます。
3-2. 基本月額+総報酬月額相当額が51万円を超える際の計算方法
基本月額+総報酬月額相当額が51万円を超える際の計算方法は、以下の通りです。
調整後の年金支給月額 = 基本月額 -(基本月額 + 総報酬月額相当額 – 51万円)÷ 2
例えば、基本月額が18万円で総報酬月額相当額が35万円の場合、以下のように計算します。
18 – (18 + 35 – 51) ÷ 2 = 17
まず、基本月額18万円と総報酬月額相当額35万円を合計すると、53万円です。次に、求めた53万円から51万円を引いて求めた2万円を2で割ると、1万円であることがわかります。
最後に、基本月額18万円から求めた1万円を引きましょう。結果、上記の人が受け取れる年金は17万円です。
4. 在職老齢年金の受給で必要な手続き


年金を受給するためには、日本年金機構から送付される「年金請求書」の提出が必要です。必要事項を記入し、誕生日の前日以降に必要書類と合わせて年金事務所に届け出ることで、年金を受給できます。
年金請求書の提出に必要な書類は、以下の通りです。
- 戸籍謄本・戸籍抄本・住民票の写し
- 年金手帳・基礎年金番号通知書
- 受取金融機関の通帳・キャッシュカードのコピー
配偶者や子がいる場合は、上記に加えて以下の書類も用意しましょう。
- 身分関係を証明するための戸籍謄本・住民票
- 配偶者や子供の収入を証明する書類(所得証明書・課税証明書・源泉徴収票)
また、障害状態にある子がいる場合は、医師または歯科医師の診断書も必要です。
さらに、年金受給後も状況に応じて手続きも欠かせません。給与に変動があった場合や賞与が支給された際には、その都度会社が日本年金機構に報告をおこないましょう。
5. 在職老齢年金の現状と見直し案


在職老齢年金は、少子高齢化や賃金の変動などを受けて繰り返し見直しがおこなわれてきました。現状と今後の展望、在職老齢年金の廃止などについて考えていきましょう。
5-1. 在職老齢年金が及ぼす就労意欲への影響
近年は少子高齢化により、労働力不足や事業の継承問題などが注目されるようになり、高齢者の就労と活躍が重要視されるようになっています。
しかし、在職老齢年金の支給停止があるため「年金が減らないように働こう」という就業調整をおこなう人も多く、高齢者の就業が思うように進んでいないという側面があります。
2022年度の厚生労働省の発表では、65歳以上で就業している人の16%が支給停止の対象になっています。また、将来的に厚生年金を受け取れるようになった際に、年金額を意識して就業調整をおこなおうと考える人の割合は60代前半で49.4%と約半数ほどにも上っており、60代後半は31.9%、70歳以上では19.5%と元気に働ける年代の人ほど就業調整をしようと考えていることが分かりました。
「多く働いてもその分年金が減らされる」という部分が就労意欲の低下を招いているため、高齢者活躍を推進するうえでは在職老齢年金は一種の枷のようになっています。
5-2. 支給停止基準額の引き上げ
在職老齢年金の今後の制度改正として挙げられるのが、支給停止基準額のさらなる引き上げです。
2025年度時点では、51万円の支給停止基準額を62万円ないし71万円に引き上げする案が議論されています。
支給停止基準額の引き上げは、賃金の上昇だけでなく高齢者の就労意欲を高めることも目的とされています。前項でも触れたように、在職老齢年金の支給停止を避けるために就労調整をしている高齢者は少なくありません。支給停止基準額が上がればその分働ける時間は長くなり、人材確保や事業承継の問題を解消しやすくなると考えられます。
また、基準額引き上げに伴い、収入が増える高齢者に対して一定の税負担を求める案も検討中です。所得税控除額に上限を設けるなど、収入増加によって手取りが減少しないような工夫が施されるでしょう。
5-3. 在職老齢年金制度の廃止
在職老齢年金の今後の制度改正として、在職老齢年金制度の廃止も挙げられています。現状の在職老齢年金制度がある以上、高齢者の労働意欲の低下を防げないと考える人もいるためです。
また、仮に在職老齢年金制度を廃止したとしても、所得が多い人が過度に優遇される結果にはならないという点も、廃止という道が考えられている要因のひとつです。
労働力人口の減少に伴い、日本経済の持続的成長には高齢者の労働参加が欠かせません。在職老齢年金制度を廃止することで、高齢者の就労促進による全世代型の社会保障構築や人材不足の解消などが期待されています。
ただ、制度を廃止すると年金受給者への給付額が増加するため、年金財政に圧迫を与えかねません。高齢者の就労促進と年金財政のバランスをどのようにとるかが議論されています。
6. 在職老齢年金を理解して適切に手続きを進めよう


本記事では、在職老齢年金の基本的な仕組みや対象者、計算方法、必要な手続きについて詳しく解説しました。
在職老齢年金は、高齢者が働きながら年金を受け取れる制度で、生活保障と就労促進の両立を図る重要な仕組みです。しかし、計算方法や手続きは複雑で、多くの人が正確に理解するのが難しいと感じています。
高齢者の就労意欲を促進するためにも、制度の詳細を把握して適切に手続きを進められるよう最新情報を常に確認し続けましょう。



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さらに、昇格や人事異動に伴う給与体系の変更や、給与計算に関連する法令改正があった場合、更新すべき情報も多く、管理方法とメンテナンスにお困りの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
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