在職老齢年金とは?必要な手続きや計算方法をわかりやすく解説
更新日: 2025.2.11
公開日: 2025.2.11
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「在職老齢年金とは何?」
「在職老齢年金を計算する方法は?」
「在職老齢年金に必要な手続きは?」
在職老齢年金とは、高齢者が働きながら年金を受け取れる制度です。生活保障と就労促進の両立ができる反面、仕組みや手続きは複雑で正確に理解するのが難しいと感じる人は多いのではないでしょうか。
本記事では、この制度の基本的な仕組みや対象者、計算方法、手続きの流れについてわかりやすく解説します。制度を正しく理解し、適切な対応を進めるためにもぜひ参考にしてください。
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1. 在職老齢年金とは
在職老齢年金とは、60歳以上の高齢者が働きながら受け取れる老齢厚生年金のこと、あるいは一定の収入がある場合に受給額の一部または全部の支給を停止する仕組みのことです。
もともとは、高齢者の生活保障と就労促進を図るため、1965年(昭和40年)に導入されています。
以前は、厚生年金の受給条件として退職が必須でした。しかし、労働者不足が顕著になっている現在、高齢者も貴重な労働力として注目されているのが現状です。在職老齢年金によって、高齢者の就労意欲を促進できるとして期待されています。
2022年の在職定時改定制度により、65歳以上の受給者は毎年10月に支払った保険料も年金に反映されました。結果、65歳以降の就労意欲も高められると注目されています。
また、60歳以降も被保険者として年金制度の支え手に回ってもらう、あるいは年金受給額を抑えることで現役世代の負担を軽減することもねらいです。
2. 在職老齢年金の対象者
在職老齢年金の対象者は、以下の条件を満たす人です。
- 60歳以上
- 老齢厚生年金の受給資格がある
- 厚生年金の適用事業所に就労している
在職老齢年金は、老齢厚生年金の受給資格がある60歳以上であり、厚生年金の適用事業所で働いていることが必須条件となっています。
そのため、60歳以上であっても、自営業やフリーランスなど厚生年金保険に加入していない働き方をしていた人は、受給資格を持たないため対象外です。
また、老齢厚生年金の受給資格があることも条件となっています。そのため、以下の条件に当てはまる人以外は、通常の老齢厚生年金の支給開始である65歳から適用されるのが一般的です。
- 特別支給の老齢厚生年金の受給権者
- 年金の繰上げ受給をおこなう人
特別支給の老齢厚生年金とは、一定の条件を満たす場合、通常65歳から支給される老齢厚生年金を60〜64歳に受給できる仕組みです。男性は昭和36年4月1日以前、女性は昭和41年4月1日以前生まれが対象で、生年月日に応じて受給開始年齢が決まります。
一方、年金の繰上げ受給とは、通常65歳から受け取ることができる老齢厚生年金を、前倒しで受け取る制度です。繰り上げた月数に応じて、年金額が減額されて支給されます。
3. 在職老齢年金を計算する方法
ここからは、在職老齢年金を計算する方法を解説します。
- 基本月額+総報酬月額相当額が50万円以下の計算方法
- 基本月額+総報酬月額相当額が50万円を超える際の計算方法
基本月額+総報酬月額相当額が50万円を超えるかどうかで、計算方法が異なります。それぞれの計算方法を詳しく把握して、適切に手続きを実施できるよう準備しましょう。
3-1. 基本月額+総報酬月額相当額が50万円以下の計算方法
基本月額+総報酬月額相当額が50万円以下の場合、基本月額の全額が支給されます。
例えば、基本月額が10万円で総報酬月額相当額が40万円の場合、合計は50万円となるため、10万円すべてを受給可能です。
ここでいう基本月額とは、老齢厚生年金の報酬比例部分を12で割った月額のことを指します。老齢厚生年金としてもらえる金額のことを意味し、以下の計算式で求めます。
基本月額 = 老齢厚生年金の報酬比例部分(在職中の平均月収と厚生年金の加入期間をもとに計算)÷12
一方、総報酬月額相当額は、その月の標準報酬月額に直近1年間の賞与の12分の1にあたる額を加えたもののことです。主に、在職老齢年金の支給額を計算する際に用いられます。
3-2. 基本月額+総報酬月額相当額が50万円を超える際の計算方法
基本月額+総報酬月額相当額が50万円を超える際の計算方法は、以下の通りです。
調整後の年金支給月額 = 基本月額 -(基本月額 + 総報酬月額相当額 – 50万円)÷ 2
例えば、基本月額が18万円で総報酬月額相当額が35万円の場合、以下のように計算します。
18 – (18 + 35 – 50) ÷ 2 = 16.5
まず、基本月額18万円と総報酬月額相当額35万円を合計すると、53万円です。次に、求めた53万円から50万円を引いて求めた3万円を2で割ると、1.5万円であることがわかります。
最後に、基本月額18万円から求めた1.5万円を引きましょう。結果、上記の人が受け取れる年金は16.5万円です。
4. 在職老齢年金の受給で必要な手続き
年金を受給するためには、日本年金機構から送付される「年金請求書」の提出が必要です。必要事項を記入し、誕生日の前日以降に必要書類と合わせて年金事務所に届け出ることで、年金を受給できます。
年金請求書の提出に必要な書類は、以下の通りです。
- 戸籍謄本・戸籍抄本・住民票の写し
- 年金手帳・基礎年金番号通知書
- 受取金融機関の通帳・キャッシュカードのコピー
配偶者や子がいる場合は、上記に加えて以下の書類も用意しましょう。
- 身分関係を証明するための戸籍謄本・住民票
- 配偶者や子供の収入を証明する書類(所得証明書・課税証明書・源泉徴収票)
また、障害状態にある子がいる場合は、医師または歯科医師の診断書も必要です。
さらに、年金受給後も状況に応じて手続きも欠かせません。給与に変動があった場合や賞与が支給された際には、その都度会社が日本年金機構に報告をおこないましょう。
5. 在職老齢年金の支給停止期間とは
支給停止期間とは、年金が減額または支給されない期間のことです。
基本月額+総報酬月額相当額が50万円を超えている場合、賃金と年金の合計が基準額を上回っている間は支給停止され続けます。
もし、収入状況が変わって賃金と年金の合計が基準額を下回った場合は、支給停止も解除されるのが一般的です。
なお、70歳以上になると厚生年金保険の被保険者資格を失い、保険料を納付する必要がなくなります。しかし、70歳以上になっても制度は適用され続けるため、収入状況によっては引き続き支給停止が発生する点に注意が必要です。
6. 在職老齢年金の支給停止額を計算する方法
60歳以上64歳以下の場合の支給停止額の計算方法は以下の通りです。
支給停止額(月額) = (基本月額 + 総報酬月額相当額 – 支給停止調整額)÷ 2
基本月額とは、老齢厚生年金の月額のことを指します。一方で総報酬月額相当額とは、過去1年間分の標準賞与額の12分の1を標準報酬月額に加算したもののことです。
支給停止調整額は、現役世代の平均的な賃金をもとに決定されます。なお、2024年度の支給停止調整額は50万円です。
具体例として、基本月額が10万円、総報酬月額相当額が40万円の場合を考えましょう。この場合、合計は50万円となり支給停止調整額と同じため、支給停止額は0円です。つまり、この場合は老齢厚生年金が全額支給されます。
もし、基本月額が15万円で総報酬月額相当額が40万円の場合、合計は55万円となります。支給停止調整額を5万円超えるため、超過分の半分である2.5万円が支給停止される金額です。
7. 在職老齢年金の今後の制度改正
在職老齢年金の今後の制度改正は、以下の通りです。
- 支給停止基準額の引き上げ
- 在職老齢年金制度の廃止
それぞれ、具体的に解説します。
7-1. 支給停止基準額の引き上げ
在職老齢年金の今後の制度改正として挙げられるのが、支給停止基準額のさらなる引き上げ
です。2024年度時点では、50万円の支給停止基準額を62万円ないし71万円に引き上げする案が議論されています。
高齢者が働いて得られる収入が増加することで支給停止になる基準を引き上げることで、高齢者の就業を促進することが狙いです。労働を控えている高齢者が働きやすい状況を作ることで、社会全体の労働力不足を補えられると考えられています。
また、基準額引き上げに伴い、収入が増える高齢者に対して一定の税負担を求める案も検討中です。所得税控除額に上限を設けるなど、収入増加によって手取りが減少しないような工夫が施されるでしょう。
7-2. 在職老齢年金制度の廃止
在職老齢年金の今後の制度改正として、在職老齢年金制度の廃止も挙げられています。現状の在職老齢年金制度がある以上、高齢者の労働意欲の低下を防げないと考える人もいるためです。
労働力人口の減少に伴い、日本経済の持続的成長には高齢者の労働参加が欠かせません。在職老齢年金制度を廃止することで、さらなる高齢者の就労促進が期待されています。
ただ、制度を廃止すると年金受給者への給付額が増加するため、年金財政に圧迫を与えかねません。高齢者の就労促進と年金財政のバランスをどのようにとるかが議論されています。
8. 在職老齢年金を理解して適切に手続きを進めよう
本記事では、在職老齢年金の基本的な仕組みや対象者、計算方法、必要な手続きについて詳しく解説しました。
在職老齢年金は、高齢者が働きながら年金を受け取れる制度で、生活保障と就労促進の両立を図る重要な仕組みです。しかし、計算方法や手続きは複雑で、多くの人が正確に理解するのが難しいと感じています。
高齢者の就労意欲を促進するためにも、制度の詳細を把握して適切に手続きを進められるよう最新情報を常に確認し続けましょう。
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