労災保険料とは?計算方法や保険料率、注意点などを解説
更新日: 2025.3.27
公開日: 2024.1.12
OHSUGI
労災保険とは、雇用している労働者が、業務中や通勤途中に怪我や病気、障害を負ったりした時に補償を受けることができる制度です。
労災保険料とは、この労災保険に加入するための保険料で、事業主が全額負担します。例え1人だけでも労働者を雇用しているのであれば、事業主は労災保険に加入する義務があるため、事業主は正しく労災保険料を算出して納付しなければいけません。
しかし、労務担当者の中には、「労災保険料の正しい計算方法を知りたい」「労災保険料に関する注意点は?」と悩みを持っている方も少なくないようです。
本記事では、労災保険料の基礎知識や計算方法、注意点などについて解説していきます。
目次 [非表示]
1. 労災保険とは
労災保険とは、業務上または通勤中による怪我や病気に対し、保険給付をおこなうための制度です。
労災保険の加入は任意ではなく義務なので、労働者を1人でも雇用する事業主は労災保険に加入しなければいけません。
労働者の雇用形態は関係なく、正社員はもちろんアルバイトやパートなどすべての従業員が対象です。
労災保険の保証内容は、以下のように分類されます。
原因・事由 | 分類 | 内容 |
仕事中に発生するもの | 業務災害 | 業務が原因で負傷、疾病、障害または死亡した場合 |
複数業務要因災害 | 複数事業で働く労働者が、業務を要因とする傷病等を患った場合(対象となる傷病は脳・心臓疾患・精神障害など) | |
通勤中に発生するもの | 通勤災害 | 通勤中に労働者が傷病等を被った場合 |
労働災害が起こった際に、従業員に迅速かつ的確な対応ができるよう、労災保険の種類は理解しておきましょう。
1-1. 労働保険料との違い
労災保険料と似ている言葉で、労働保険料というものがあります。
労災保険と労働保険との違いは、雇用保険を含むかどうかです。労働保険は労災保険と雇用保険を総称する名称です。そのため、労働保険というのは労災保険だけでなく雇用保険も含みます。
つまり、労災保険料は労災保険のために払う費用で、労働保険料は労災保険料と雇用保険料を含めた費用というのが違いです。
原則として、労災保険と雇用保険の給付は別でおこなわれますが、保険料の申告と納付は労災保険料として一括でおこなうわなければなりません。
関連記事:労災保険料とは?2024年の保険率や計算方法・注意点を解説
1-2. フリーランスの労災保険料は必要?
企業で働く従業員というのは、労災保険への加入が義務となっていますが、フリーランスの場合は義務ではないため、加入に関しては自分で選ぶことができます。
以前はフリーランスは労災保険に加入できませんでしたが、令和6年11月1日から「特別加入」の対象となったので、現在は希望すれば加入が認められます。
ただし、特別加入対象のフリーランスは「企業から業務委託を受けている個人」もしくは「消費者から業務委託を受けている個人」という条件があります。例えば、マッサージ・整体師や個人タクシー運転手、建設業や林業の一人親方などは対象外となるので注意しましょう。
参考URL:令和6年11月1日から「フリーランス」が労災保険の「特別加入」の対象となりました|厚生労働省
2. 労災保険料率とは?
労災保険料がいくらなのか算出するためには労災保険率を用いますが、保険率は原則3年ごとに改定されます。改定される理由は、過去3年間の災害発生状況や給付実績などをもとに、保険料率を見直す必要があるためです。
労災保険料率は、業種によって事故にあう確率や怪我を被る危険性が異なるため、会社ごとではなく業種ごとに設定されています。そのため、自社の業種の保険料率がどれぐらいなのか、都度確認しなければなりません。
ここでは、令和6年の労災保険料率を紹介します。
2-1. 令和6年の労災保険料率
令和6年度の労災保険料率の一部は、下記のように決められています。
事業の種類 | 業種 | 労災保険率 |
建設業 | 水力発電施設、ずい道等新設事業 | 34 |
道路新設事業 | 11 | |
舗装工事等 | 9 | |
鉱業 | 金属鉱業、非金属鉱業、石炭鉱業 | 88 |
製造業 | 食料品製造業 | 5.5 |
木材または木製品製造業 | 13 | |
林業 | 林業 | 52 |
運輸業 | 交通運輸事業 | 4 |
貨物取扱事業 | 8.5 | |
電気・ガス・水道・熱供給の事業 | 電気、ガス、水道、熱供給の事業 | 3 |
その他の事業 | 卸売業・小売業、飲食店または宿泊業 | 3 |
金融業、保険業、または不動産業 | 2.5 |
このように、鉱業や建設事業など一般的に危険度が高い業種ほど労災保険料率は高く、危険度が低い業種は低く定められています。
3. 労災保険の加入対象者
労災保険というのは、原則として一人でも従業員がいれば、事業主は加入しなければなりません。しかし、業務委託をしていたり短期雇用をしていたりする場合など、加入対象がわかりづらいこともあるでしょう。
加入は義務なので、対象者が加入していないとなると法律違反になってしまいます。そのため、今一度加入対象者をしっかり確認しておきましょう。
【加入対象者】
- 全ての一般労働者(パート・アルバイト、日雇い労働者を含む)
- 船舶所有者に雇用されている船員保険被保険者
- 派遣労働者(この場合は派遣元で加入)
- 海外出張中の従業員
また、併せて加入対象外となる要件を確認しておくと良いでしょう。
【加入対象外】
- 法人、企業の執行権を持つ役員
- 事業主の親族(就労実態と賃金の支払い実績がある場合は加入対象)
- 海外出張ではなく「派遣」の従業員
ただし、「法人、企業の執行権を持つ役員」は例外があるので、労働局に確認することをおすすめします。
参考URL:労働保険の適用単位と対象となる労働者の範囲|厚生労働省 大阪労働局
3-1. 特別加入制度の対象者
労災保険というのは、会社に雇用されている労働者のための保険なので、自営業者や事業主は加入できません。しかし、自営業者や事業主であっても、業務中や通勤中に怪我をしたり病気になったりするリスクがあります。
そのため、「特別加入制度」が設けられ、条件にあっていれば対象者として加入することが可能となっています。
特別加入対象者 | 適用条件 |
中小事業主 | ・従業員50人以下の金融、保険業、不動産業小売業 ・従業員100人以下の卸売り、サービス業 ・従業員00人以下の上記以外の業種 |
特定作業従事者 | ・特定農作業従事者 ・指定農業機械作業従事者 ・国又は地方公共団体が実施する訓練従事者家内労働者及びその補助者 ・労働組合等の常勤役員 ・介護作業従事者及び家事支援従事者 ・芸能関係作業従事者 ・アニメーション制作作業従事者 ・情報処理システムに係る作業従事者 |
自営業者 | ・自動車を使用した客または貨物の運送事業(個人タクシー、貨物運送業者など)または原動機 付自転車もしくは自転車を使用して行う貨物の運送の事業 ・ 建設事業者(土木、解体、大工、左官、とび職人など) ・漁船による水産動植物の採捕の事業 ・林業 ・医薬品の配置販売 ・リサイクル目的の廃棄物の収集・運搬・選別・解体に関する事業 ・船員法1条に規定する船員が行う事業 ・柔道整復師法第2条に規定する柔道整復師 ・条件を満たした高齢者が行う委託事業 ・あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律に基づくあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師 ・歯科技工士・特定フリーランス事業に該当するフリーランス |
海外派遣者 | ・国内事業主から、海外事業に労働者として派遣される ・国内事業主から、海外の中小規模の事業の事業主として派遣される ・独立行政法人国際協力機構などによる開発途上国(地域)への技術協力のために派遣される |
4. 労災保険料の計算方法
労災保険料は、すべての従業員に支払った賃金総額に労災保険料を乗じて算出します。
賃金総額とは、給料や賞与など労働基準法で定められた賃金の総額です。以下では、賃金総額に該当するものと該当しないものの一部をまとめているので参考にしてください。
賃金総額に該当するもの | 賃金総額に該当しないもの |
基本給 賞与 通勤手当 深夜手当 休日手当 住宅手当 扶養手当 役職手当 家族手当 前払い退職金 |
役員報酬 退職金 出張旅費 宿泊費 傷病手当金 出産手当金 寝具手当 休業補償費 見舞金や結婚祝い金など臨時で支払われたもの |
では、「金融業」と「道路新設事業」の具体例を用いて実際に計算をしてみましょう。
業種 | 金融業 | 道路新設事業 |
賃金総額 | 50,000,000円 | 100,000,000円 |
労災保険率 | 2.5% | 11% |
労災保険料 | 50,000,000円×2.5/1,000=125,000円 | 100,000,000円×11/1,000=1,100,000円 |
金融業の労災保険率は2.5%なので、賃金総額が5千万円の場合は労災保険率の2.5を乗じることで、労災保険料は12万5千円と求められます。
道路新設事業の労災保険率は11%なので、賃金総額が1億円の場合は労災保険料が110万円です。ただし、建設事業で賃金総額を算出することが難しい場合には、労務比率を用いることになります。また、保険料を計算するうえで小数点以下が発生した際、1円未満は切り捨てになります。
5. 労災保険料の納付方法
労災保険料の納付方法を下記の3つの観点から解説します。
- 労災保険料の納付期間
- 労災保険料の算出
- 労災保険料の提出先
納付期間や納付場所など、あらかじめチェックしておきましょう。
5-1. 労災保険料の納付期間
労災保険料は、毎年6月1日から7月10日の期間に納付しなければいけません。
ただし、6月1日が土曜であれば6月3日、日曜であれば6月2日から開始となります。また、7月10日が土曜であれば7月12日、日曜であれば7月11日で終了となるため注意しましょう。
納付期間を過ぎた場合は延滞金が発生する場合があるので、計画的に準備を進め、必ず期限内に納付してください。
なお、以下のいずれかに該当する場合は保険料の分割納付が認められています。
- 概算保険料額が40万円以上の場合(ただし、労災保険と雇用保険のどちらか一方だけ成り立っている場合は20万円以上)
- 労働保険事務組合に労働保険事務を委託している場合
分割納付が認められた場合、保険料を3回に分割して納付が可能です。
5-2. 労災保険料の算出
労災保険料は前年度の賃金総額をもとに当年度の保険料を算出します。つまり、当年度に支払う労災保険料はあくまでも概算の保険料です。
前年度に概算で支払った労災保険料に不足があった場合は不足分を支払い、多かった場合は今年度の保険料に充当します。
ただし、年度途中で以下の2つに当てはまった場合は注意しましょう。
賃金総額の見込額が2倍以上に増加する場合
申告済みの概算保険料より13万円以上増加する場合
両者に該当する場合、賃金総額と概算保険料が増加した日から30日以内に増加概算保険料申告書の提出と増加概算保険料の納付が必要です。
参考:兵庫労働局 | 賃金の見込額が増加したとき(継続事業)
5-3. 労災保険料の提出先
労災保険料が算出できたら申告書を記入し、以下のいずれかの場所で保険料の納付と申告書の提出をおこないます。
- 都道府県労働局
- 労働基準監督署
- 銀行や郵便局などの金融機関
なお、e-Govによる電子申請も可能ですが、事前に申請手続きをしておかなければならないので、利用する場合は確認しておきましょう。
6. 労災保険料に関する3つの注意点
労災保険料を申告・納付する前に、以下の5つの注意点を押さえておきましょう。
- 正確な賃金総額を算出する
- 過不足は翌年度で調整する
- 納付期限を過ぎると延滞金が発生する
- 事業ごとの保険率で算出する
- 出向や派遣社員に注意する
それぞれ詳しく解説するので、参考にしてください。
6-1. 正確な賃金総額を算出する
労災保険料を算出するためには、賃金総額を正しく求めることが重要です。
賃金総額とは、給与や賞与など労働の対価として支払われたすべての賃金を指しますが、賃金の中には含まれないものもあるので注意しましょう。
賃金総額に含まれないものには、下記のような手当が挙げられます。
- 役員報酬
- 出張旅費
- 休業補償費
- 退職金
- 臨時で支払われる結婚祝い金や見舞金など
これ以外にも賃金に含まれないものがあるので、イレギュラーな手当や補償などがある場合は必ず確認しましょう。
6-2. 過不足は翌年度で調整する
労災保険料で過不足が発生した場合は、翌年度の保険料で調整しなければいけません。
労災保険料は、今年度の見込み賃金総額を基準にし、概算で申告・納付する仕組みとなっています。
納付した保険料が多かった場合は今年度の労災保険料に充当し、足りなかった場合は翌年度の労災保険料に追加して支払いましょう。
6-3. 納付期限を過ぎると延滞金が発生する
労災保険料を期限までに納付しなければ、延滞金が発生するので注意しましょう。
納付期限を過ぎても労災保険料を納付しなかった場合、まずは督促状が届きます。督促状に記載された指定納期を過ぎても労災保険料を納付しなければ延滞金が発生する、という仕組みになっています。
つまり、督促状が届いた時点ですぐに支払えば延滞金は発生しないということです。しかし、督促状の納付期限を過ぎてしまうと延滞金も併せて払わなければならないので、迅速に対応しましょう。
延滞金は年14.6%で発生し、延滞日数は法定納期の翌日まで遡って算出されます。「法廷納期」は最初の納付期限であり、督促状に記載された納付期限が基準ではないので注意しましょう。
6-4. 事業ごとの保険率で算出する
労災保険料を算出する際は、事業ごとの保険率で算出する必要があります。そのため、複数の事業を展開している企業の場合は注意が必要です。
複数の事業を展開しているのであれば、事業ごとに定められた労災保険上の事業の種類に応じた保険率で計算しましょう。また、労災保険法においての事業の区分は労働基準法や労働安全衛生法と捉え方が異なるので、混同しないように注意しましょう。
6-5. 出向や派遣社員に注意する
出向や派遣社員についての労災保険料の取り扱いにも、注意が必要です。
出向している社員は出向先で労災保険に加入するため、保険料は出向先が負担します。一方、派遣社員は受け入れている企業ではなく、派遣元が労災保険料を支払います。つまり、派遣社員を受け入れている事業主負担ではないので、余分に払わないように注意してください。
7. 従業員を雇用した場合は労災保険料を納めよう
労災保険料を納付することは、労働者を雇用する事業主の義務です。そのため、労災保険料の納付手続きを怠ると延滞金が発生し、最悪の場合は労働者への保険給付した額を会社が負担することになります。
労災保険料というのは計算方法や納付手続きなど複雑な面もありますが、従業員を守るのはもちろん罰則を課せられないためにも、必ず期限内に納付しなければいけません。
労務担当者は労災保険の制度を正しく理解し、正確な保険料の算出と納付をおこなうことが重要です。
もしも、労災保険に関して疑問がある場合は、厚生労働省が運営する相談ダイヤルを利用するなどして理解を深めましょう。
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