人事異動とは?目的・種類・対象者の決め方や手順、注意点を解説 - ジンジャー(jinjer)|統合型人事システム

人事異動とは?目的・種類・対象者の決め方や手順、注意点を解説 - ジンジャー(jinjer)|統合型人事システム

人事異動とは?目的・種類・対象者の決め方や手順、注意点を解説 - ジンジャー(jinjer)|統合型人事システム

人事異動とは?目的・種類・対象者の決め方や手順、注意点を解説

イラスト

人事異動とは、従業員の配置や勤務条件を変更することをいいます。従業員を適材適所に配置し、従業員の成長や企業の効率向上につなげることが目的です。

しかし、人事異動に失敗すると従業員のモチベーション低下や離職に影響する可能性があります。そのため、担当者の方は人事異動を成功させられるように、必要なポイントと注意点を知っておくことが重要です。

本記事では、人事異動を成功させるための従業員の決め方やメリット・デメリットなどについて詳しく解説します。

1. 人事異動とは

荷物をかかえている

人事異動を成功させるには、人事異動がどのような制度なのかを知っておく必要があります。また、適切な時期や人事異動の種類なども把握しておくことが重要です。

ここでは、人事異動の概要やおこなうタイミング、人事異動の種類などを解説します。

1-1. 人事異動の意味と配置転換・転勤・ジョブローテーションとの違い

人事異動とは、企業が従業員の所属部署・職務内容・勤務地・役職・雇用先などを変更する措置全般をさす言葉です。法律上の定義がある用語ではなく、実務上は「社内の人の動きを伴う人事上の措置」を広くまとめた総称として使われます。

一方で、配置転換や転勤、ジョブローテーションは、それぞれ人事異動に含まれる個別の措置や仕組みを指します。混同されやすいため、違いを整理しておきましょう。

用語 意味 人事異動との関係
人事異動 部署・職務・勤務地・役職・雇用先の変更全般を指す総称 –
配置転換(配転) 同一企業内で所属部署や職務内容を変更すること 人事異動の一種
転勤 勤務地の変更を伴う異動。転居を伴うケースが多い 配置転換のうち勤務地が変わるもの
ジョブローテーション 人材育成を目的に、計画的・定期的に複数の部署や職務を経験させる仕組み 人事異動を運用する「制度・仕組み」

1-2. 人事異動の種類|配置転換・転勤・昇降格・出向・転籍

人事異動は、大きく「企業内の異動」と「企業間の異動」に分けられます。根拠や本人同意の要否が異なるため、代表的な5種類を押さえておきましょう。

【企業内の異動】

  1. 配置転換(配転):同一企業内で所属部署や担当職務を変更する異動です。営業部から企画部への異動などが該当し、人事異動のなかで最も一般的な形態といえます。
  2. 転勤:勤務地の変更を伴う異動です。従業員の生活への影響が大きいため、育児・介護への配慮や労働条件明示のルールにとくに注意が必要です。
  3. 昇格・降格(昇進・降職):等級や役職を変更する異動です。降格は賃金の減額を伴うことが多く、就業規則上の根拠や評価の合理性、本人への説明を欠くと無効と判断されるリスクがあります。

【企業間の異動】

  1. 出向(在籍出向):自社に籍を置いたまま、グループ企業などで勤務する形態です。就業規則や労働協約上の根拠規定が前提となり、労働契約法第14条により、権利の濫用と認められる出向命令は無効となります。
  2. 転籍(移籍出向):現在の企業との労働契約を終了し、転籍先と新たに契約を結ぶ異動です。雇用主が変わるため、原則として本人の個別同意が必要であり、就業規則の包括規定だけで一方的に命じることはできません。

このほか、組織改編に伴う異動やプロジェクト単位のアサイン変更、雇用形態の変更なども、広い意味で人事異動に含まれます。

1-3. 人事異動が多い時期と適切な実施タイミング

人事異動を実施する時期は、労働基準法や会社法などによって定められているものではありません。そのため、実施時期は各企業の判断で設定できます。

実務上は、人事異動の実施時期は、人員配置を事業計画とひもづけるための起点として位置づけられます。

要員計画は年度予算とセットで決まるため、期初や下期開始に発令を合わせることで、新体制のまま年度目標を運用でき、人事評価の期間ともずれが生じません。

ここで想定しているのは、年1〜2回の定期異動や組織改編に伴う一斉異動の場面です。欠員補充や緊急のプロジェクト対応といった随時異動は、この考え方にとらわれず、必要が生じた時点で速やかに実施します。

具体例として、3月決算の企業では3月中に内示を出し、4月1日付で発令、下期は10月1日付とするのが典型です。12月決算の企業なら、1月と7月が同じ位置づけです。つまり「4月や7月に多い」のではなく、「自社の期の変わり目に集中する」と捉えるのが正確です。

運用時のポイントは4つです。

  1. 部門の繁忙期を避ける
  2. 内示から発令まで2週間〜1ヵ月の引き継ぎ期間を確保する
  3. 人事評価期間の区切りと揃えて評価の連続性を保つ
  4. 転居を伴う場合は子どもの進学時期など生活面に配慮する

これらを満たせる時期を、自社の年間スケジュールに落とし込んでおきましょう。

2. 人事異動を実施する目的

書類を確認してサインする

人事異動を実施する主な目的は、次の4つです。

  1. 人材配置を最適化する
  2. 従業員のモチベーションの維持・向上
  3. 人材の育成・キャリア開発
  4. 組織の効率向上・戦略実現

これらの目的で人事異動をおこなうことで期待できる効果や、詳しい内容をひとつひとつ見ていきましょう。

2-1. 適材適所の人員配置を実現する

人事異動の目的のひとつに、人的リソースの効果的な活用が挙げられます。

具体的には、従業員のスキル・特性に合ったプロジェクト・部門に配置するなどです。実際、既存の部署での成果が期待できなかった従業員でも、異動をすることで活躍できるようになったケースは少なくありません。

また、部門ごとに必要な人材を配置すれば、効果的かつ効率的に人材を運用でき、業務の円滑な進行やチームワークの向上が期待できるでしょう。

2-2. 従業員のモチベーションの維持・向上

従業員のモチベーションを維持・向上させることも、人事異動の目的です。同じ業務に長期間従事していると、慣れが原因で業務への意欲が低下するおそれがあります。

マンネリ化が進むと、従業員のモチベーションの低下はもちろん、業績にも悪影響を及ぼしかねません。人事異動を通じて新たな環境で業務に携わることでマンネリ化を防ぎ、モチベーションの維持・向上につなげられるでしょう。

2-3. 人材の育成・キャリア開発

従業員の人材育成とキャリア開発を促進することも、人事異動の重要な目的です。異動によって新しい業務に携わることで、これまで経験できなかったノウハウを身につけられます。

また、スキルや経験に関する成長機会を提供すれば、従業員のキャリア発展も期待できるでしょう。異動により、従業員を育成担当として新しい環境に配置するというチャレンジも人材育成において効果的です。適材適所で育成担当を配置することで、部署全体のスキルや知識の向上につながり、組織全体のレベルアップを促進できるでしょう。

2-4. 組織の効率向上・戦略実現

組織の効率向上と戦略を実現することも、人事異動を実施する目的のひとつです。

具体的には、部門やプロジェクトの業績・生産性を向上させるために、部署の創設・廃止・統合などを実施して人事異動をおこないます。

新しい市場への進出や新技術の導入に伴う人員配置の変更など、企業が掲げる戦略や目標を達成するためにも欠かせません。組織全体を効率的に機能させ、戦略的な目標を達成するための手段として、人事異動は重要なプロセスとなるでしょう。

3. 人事異動を実施するメリット

メリットのブロック

人事異動を適正におこなえば、従業員のモチベーションアップや能力の発掘などができ、生産性が上がりやすくなります。人事労務担当者が押さえておきたいメリットは、主に次の2つです。

  1. スキル活用と従業員の成長を促進できる
  2. 業務の属人化を防止できる

ここでは、これらのメリットについて解説していきます。

3-1. スキル活用と従業員の成長を促進できる

人事異動のメリットとして、従業員のスキルを適切に活用できる点が挙げられます。

業務を円滑に遂行するためには、その業務に必要な能力を持った人材を適切に配置することが重要です。しかし、初めて配置する段階で、業務に必要な能力があるかどうかを見抜くのは難しいのが実情ではないでしょうか。

ある程度の期間、従業員が持つスキルをチェックし、人事異動によって適切な部署へ配置することで従業員の能力を活用できます。従業員のスキルや経験に応じて最適なプロジェクトや業務に配置できれば、組織全体の生産性も向上させられるでしょう。

3-2. 業務の属人化を防止できる

人事異動のメリットとして、業務の属人化を防止できる点も挙げられます。

定期的な人事異動を実施することで、ほかの従業員にも自分の仕事を引き継いだり教えたりする必要が発生するためです。特定の従業員だけでなく何人かで業務を遂行できる体制を整えられるため、知識やスキルが社内に浸透しやすくなります。

また、市場の変化や新しいビジネスニーズに迅速かつ柔軟に対応するための能力が向上し、組織全体が変化に適応しやすくなるでしょう。

4. 人事異動によるデメリット

デメリット

人事異動にはメリットがある一方で、次のようなデメリットもあります。

  1. 教育にコストと時間がかかる
  2. ミスマッチによって意欲低下や離職を招く

デメリットを理解しておかないと、人事異動に失敗することもあるので注意しましょう。

4-1. 教育にコストと時間がかかる

人事異動のデメリットとして、教育にコストと時間がかかるという点が挙げられます。

民間シンクタンクの産労総合研究所が実施した『2025年度 教育研修費用の実態調査』によれば、従業員1人あたりの教育研修費用は平均で36,036円です。異動に伴う教育コストはこれだけにとどまりません。受け入れ部門でのOJTに割かれる指導担当者の工数や、新しい業務に習熟するまでの一時的な生産性の低下といった、金額に表れないコストも発生します。

業種や職種にもよりますが、短期的にはコストの増加をもたらす可能性がある点には留意しましょう。

参考:2025年度 教育研修費用の実態調査|産労総合研究所

4-2. ミスマッチによって意欲低下や離職を招く

人事異動のデメリットとして、異動先とのミスマッチにより従業員の意欲低下や離職を招く可能性がある点も挙げられます。

異動に不満を抱く従業員は、モチベーションが低下する可能性があるためです。優秀な人材がモチベーション低下によって離職すれば、組織にとって大きな損失となるでしょう。

また、異動後すぐに離職が発生すると、教育担当の従業員の時間や労力も無駄になります。異動した従業員だけではなく、異動先の部署全体のモチベーション低下につながる可能性もあるため注意が必要です。

ミスマッチを防ぐには、内示の段階で本人と面談し、異動の理由と期待する役割、キャリア上の位置づけを具体的に伝えることが欠かせません。あわせて育児・介護などの個別事情も確認しておきましょう。発令後も1ヵ月・3ヵ月・6ヵ月といったタイミングでフォロー面談を実施し、適応状況を早期に把握することが、離職の防止につながります。

5. 人事異動の対象者を決める基準

資料を確認している

人事異動の対象者は次の基準で決めます。

  1. 組織課題と異動先で必要な役割
  2. スキル・経験・適性・実績
  3. キャリア希望・健康状態・家庭事情
  4. 客観的なデータで選定の公平性

ここからは、それぞれの基準について具体的に解説していきます。1から順に候補者を決める手順にもなっているため、参考にしてください。

5-1. 組織課題と異動先で必要な役割を明確にする

対象者の選定は候補者から考えるのではなく、組織の現状を把握するところから始めます。事業計画や各部門へのヒアリングをもとに、人員が不足している部署や機能していない体制などの課題を洗い出しましょう。

課題が見えたら、欠員の補充なのか、新規事業の立ち上げなのか、部門全体の底上げなのかという異動の目的を定義します。そのうえで、異動先のポジションで求められる職務内容、必要なスキル、経験年数、マネジメントの範囲を要件として言語化しておきましょう。

この要件定義があいまいなまま候補者を探し始めると、選定の基準がぶれ、本人への説明も曖昧になります。「だれを動かすか」ではなく「どのポジションにどのような人材が必要か」から出発することが、納得感のある人事異動の前提です。

5-2. スキル・経験・適性・実績を確認する

求める要件が固まったら、人材の整理をおこない、候補者を選定していきます。次の情報を要件と照らし合わせ、適合度の高い順に優先順位をつけましょう。

  • 保有スキル・資格
  • これまでの業務経験と担当領域
  • 直近の人事評価・目標達成状況
  • 適性検査や上長評価から見える特性

スキルマップやタレントマネジメントシステムを整備しておくと、感覚ではなくデータにもとづいた比較が可能になります。

なお、要件をすべて満たす人材だけに絞る必要はありません。育成を目的とした異動であれば、現時点で未充足の要件があっても、異動先の業務を通じて伸ばせるかどうかを見極めるほうが重要です。評価の高い人材を集中的に動かすと送り出し部門の戦力が落ちるため、部署単位での戦力バランスにも目を配りましょう。

5-3. キャリア希望・健康状態・家庭事情を考慮する

候補者が絞り込めたら、内示の前に本人と面談し、事情を確認して合意形成を図ります。自己申告制度やキャリア面談で把握したキャリア希望は、異動後の定着率を大きく左右する情報です。

希望と完全に一致しない配置であっても、その意図を本人のキャリアプランと結びつけて説明できれば、納得感は大きく変わります。

あわせて、育児や介護の状況、本人や家族の健康状態、通勤時間の変化についても必ず確認しましょう。とくに転居を伴う転勤では、育児・介護休業法にもとづき、育児や介護が困難となる労働者への配慮が事業主に求められます。確認した内容と検討の経緯は記録に残しておくことが重要です。

5-4. 客観的なデータで選定の公平性を確保する

辞令を発表する前に、選定の根拠を客観的に説明できる状態になっているかを点検します。次の観点でチェックすると、判断の偏りを防げます。

  • スキル・評価・在籍年数・異動履歴を一覧化できているか
  • 特定の管理職の主観だけで決まっていないか
  • 同じ従業員にばかり異動が集中していないか
  • 特定の部署だけが負担を負い続けていないか

とくに注意したいのが、問題のある従業員を退職に追い込む目的の異動です。こうした選定は不当な動機・目的による配転として、無効と判断されるリスクがあります。だれに対しても「なぜこの配置なのか」を説明できることが、公平性を担保する最終的な基準です。発令後は、フォロー面談などを通じて、異動者の定着を支援しましょう。

6. 人事異動の決め方・手順

ビックリマークに注目している

人事異動は、対象者を決めて発令すれば完了するものではありません。計画から異動後のフォローまでを一連のプロセスとして設計しておくことで、現場の混乱や本人の不満を防げます。ここでは、実務の流れを6つのステップに分けて解説します。

6-1. 異動の目的・対象部署・実施時期を計画する

最初に、事業計画と各部門へのヒアリングをもとに要員計画を策定し、異動の全体像を固めます。ここで決めるのは、次の3点です。

  1. 異動の目的:欠員補充か、新規事業の立ち上げか、部門の底上げか
  2. 対象となる部署と規模:どの部署から何名を動かすか
  3. 実施時期:内示と発令をいつに設定するか

目的が「欠員補充」なのか「新規事業の立ち上げ」なのかによって、求める人材像も時期の優先度も変わります。

時期については、自社の会計年度の区切りに合わせて設計するのが基本です。ただし、対象部署の繁忙期と重なると引き継ぎが不十分なまま業務が回らなくなるため、部門ごとの業務サイクルも確認しておきましょう。発令日から逆算し、内示・調整・引き継ぎに必要な期間を含めたスケジュールを引いておくと、後工程が滞りません。

6-2. 条件に合う異動候補者を選定する

計画が固まったら、ポジションごとに候補者を選定します。

求める要件と、候補者のスキル・経験・人事評価・本人の希望を照らし合わせ、複数名をリストアップして優先順位をつけましょう。1名だけに絞ると、本人の事情で調整がつかなくなった際に計画全体が止まってしまいます。

候補者が固まったら、送り出す部門と受け入れる部門の双方の責任者と協議します。

最終的な人員配置案は、人件費への影響も含めて経営層の承認を得ておきましょう。

6-3. 労働契約・就業規則・法的リスクを確認する

候補者が固まったら、発令前に法的な観点で問題がないかを点検します。とくに確認しておきたいのは、次の項目です。

  1. 就業規則や労働協約に、配置転換・転勤を命じる根拠規定があるか
  2. 勤務地限定・職種限定の合意がある従業員を対象にしていないか
  3. 業務上の必要性を客観的に説明できるか
  4. 退職に追い込む目的など、不当な動機による選定になっていないか
  5. 育児・介護をおこなう従業員への配慮を尽くしたか

これらを満たさない異動命令は、権利の濫用として無効と判断されるリスクがあります。検討の経緯は記録に残し、後から説明できる状態にしておきましょう。判断に迷う場合は、社会保険労務士など専門家への相談をおすすめします。

6-4. 本人へ内示し、理由と期待する役割を説明する

法的な確認を終えたら、対象者本人へ内示をおこないます。

内示とは、正式な辞令の前に異動予定を個別に伝える手続きで、発令の2週間〜1ヵ月前に、直属の上長が個別に対面で伝えるのが一般的です。

転居を伴う異動では、家族と相談する時間が必要になるため、さらに早めに設定するとよいでしょう。だれが、いつ、どこまで開示するかは、あらかじめ社内ルールとして文書化し、管理職に周知しておくと、部署ごとの運用のばらつきを防げます。

伝える内容は、異動先と発令日、担当する業務、労働条件の変更点に加えて、なぜその人が選ばれたのかという選定理由と、異動先で期待する役割です。

さらに、そこで得られる経験が本人のキャリアにどうつながるかまで具体的に示しましょう。とくに選定理由の説明が不足すると、本人が「現部署で評価されなかったのではないか」と否定的に受け取り、モチベーションの低下や離職につながりかねません。

本人の希望と完全に一致しない配置であっても、将来の目標に向けた通過点として位置づけられれば、納得感は大きく変わります。人事担当者だけでなく、送り出す側の上長からもメッセージを伝えると、より説得力が増します。

あわせて、育児・介護の状況や健康面など、配慮が必要な事情がないかを確認します。内示は正式決定前の情報のため、公表まで他言しないよう伝えておきましょう。

6-5. 辞令を発令し、社内発表と引き継ぎを進める

本人への内示と確認が終了したら、正式な辞令を発令します。

内示の段階では人事異動はまだ確定しておらず、関係者にしか通達されません。一方で辞令は、異動が正式に決定したことを示す公式発表です。辞令発令によって、従業員に人事異動に関する情報が詳細に提供され、適切な手続きが進められます。

注意したいのが引き継ぎです。口頭だけで済ませると、後任者が判断に迷ったときに確認先がなくなり、業務の停滞を招きます。

日常業務の手順に加えて、進行中の案件の経緯と次のアクション、トラブルが起きやすい箇所とその対処法まで記載しておきましょう。引き継ぎ期間は業務の複雑さに応じて2週間から1ヵ月を目安とし、テンプレートを用意して品質のばらつきを防ぐことも有効です。

6-6. 異動後の教育・面談・効果検証を実施する

異動後は、新しい業務に必要なスキルや知識を身につけるためのフォローをしましょう。異動先の業務についてサポートがなされることで、従業員は円滑に業務に適応し、組織全体の成果に貢献できるようになります。

面談は、1ヵ月・3ヵ月・6ヵ月といったタイミングをあらかじめ決めて設定しておきましょう。節目を決めておくことで、適応の遅れや本人の不安を早い段階で把握できます。

効果検証では、異動者の定着率やパフォーマンス、部署のエンゲージメントスコアといった数値に加えて、各面談で得た本人の実感も記録します。人事データを一元管理し、異動履歴とあわせて参照できる状態にしておくと、検証の負荷を下げられます。

蓄積した検証結果は、次回の選定基準やフォロー方法の見直しに活用しましょう。

7. 人事異動を成功させるポイント

ポイントのイラスト

手順どおりに進めても、異動が期待どおりの成果につながらないことは少なくありません。原因の多くは、配置そのものではなく、異動の前後を組織としてどう支えるかという運用面にあります。ここでは、3つのポイントを解説します。

7-1. 上司と異動先部署を含めた受け入れ体制を整える

異動の成否は、送り出す側だけでなく受け入れ側の準備にも左右されます。発令前の段階で、異動先の上長と初期の担当業務や育成方針をすり合わせておきましょう。

受け入れ部門には、最初の3ヵ月程度の育成計画を作成してもらい、教育担当者を明確にしておくと、本人がだれに相談すればよいか迷わずに済みます。異動直後は成果を出しにくい時期であるため、評価上どう扱うかもあらかじめ決めておくと、本人の不安を軽減できます。

既存メンバーに対しても、異動者の役割や期待を事前に共有しておきましょう。受け入れ側が「なぜこの人が来るのか」を理解していないと、業務の割り振りが曖昧になり、異動者が実力を発揮しにくくなります。

7-2. 送り出し部門の戦力低下をケアする

異動の議論は受け入れ側の充足に集中しがちですが、送り出し部門の負担への手当てを欠くと、次回以降の異動が進めにくくなります。「人を出すと損をする」という認識が管理職に広がれば、優秀な人材ほど部門に囲い込まれるようになるためです。

具体的には、後任の配置時期や、後任が決まるまでの業務の再配分、外部リソースの活用可否を、発令前に送り出し側の責任者と合意しておきます。一時的に生産性が下がる期間があることを前提に、その期間の目標水準をどう扱うかまで決めておくと、現場の納得感は大きく変わります。

人材を輩出した部門を評価する仕組みを設けることも有効です。育成した人材が他部門で活躍したことを管理職の評価に反映すれば、異動は「戦力を取られること」ではなく「組織への貢献」として位置づけられます。

7-3. 期待した成果が出ないときの立て直し方を決めておく

異動がうまくいかないケースは一定の割合で発生します。重要なのは、それを個人の問題として放置せず、早い段階で原因を切り分けて手を打つことです。原因は、大きく次の3つに分けられます。

  • 要件定義の問題:求めるスキルや役割の設定が実態と合っていなかった
  • 受け入れ体制の問題:育成計画や相談先が機能していなかった
  • 本人の適応の問題:業務内容や人間関係への適応に時間がかかっている

原因によって打ち手は変わります。要件のずれであれば担当範囲の見直し、体制の問題であれば教育担当の変更や支援の追加、適応の遅れであれば猶予期間の設定というように、対応を分けて検討しましょう。

改善が見込めない場合は、再異動も選択肢に含めます。このとき、再異動を「失敗」として扱う運用にしないことが重要です。本人にも周囲にも不名誉な出来事として記憶されると、以降の異動全体が慎重になりすぎ、組織の柔軟性が失われます。判断の経緯と結果を記録し、次回の選定基準やフォロー方法の改善につなげる姿勢が求められます。

8. 人事異動における法的注意点と拒否への対応

はてなの吹き出し

異動命令は企業に認められている権利であるものの、従業員に不利になる命令や理由に正当性がない場合は問題になるおそれがあります。労働基準法や労働契約法に抵触すれば、命令が無効となるだけでなく、損害賠償を請求されるリスクもあります。ここでは、人事異動の注意点に関して解説します。

8-1. 違法行為に該当しないか注意する

人事異動をおこなう際は、労働基準法に違反しないか十分に注意しなければなりません。

国籍や信条、社会的な身分などを理由にして人事異動をおこない、労働条件を一方的に決定すると違法行為に該当するおそれがあります。

(均等待遇)

第三条 使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。

引用:労働基準法|e-Gov 法令検索

違法行為に該当した場合、労使間でのトラブルに発展したり、企業の信用問題に関わったりする可能性もあります。異動の理由と従業員の同意を軽視せずに進めましょう。

8-2. 人事権の濫用をしないようにする

企業には人事権があり、労働者の地位や処遇を決定できます。しかし、この人事権を不当に濫用したとみなされた場合は、異動命令が無効と判断されかねません。

次のいずれかに当てはまる場合は権利の濫用とされる可能性があります。

  • 業務上の必要性が存在しない場合
  • 不当な動機や目的をもっておこなわれた場合
  • 労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合

とくに重要なのが、業務上の必要性を客観的に説明できるかどうかです。選定の理由や検討の経緯は記録に残しておきましょう。なお、出向命令については労働契約法第14条に、濫用と認められる場合は無効となる旨が定められています。

参考:労働契約法第14条|e-Gov 法令検索

参考:育児・介護休業法第26条|e-Gov 法令検索

8-3. 育児・介護・健康・転居による不利益へ配慮する

育児・介護休業法第26条では、就業場所の変更を伴う配置転換について、育児や介護が困難となる労働者の状況に配慮することが事業主に求められています。配慮義務であり異動が禁止されるわけではないものの、次の対応をとっておく必要があります。

  • 本人の育児・介護の状況や、家族の健康状態をヒアリングする
  • 転居を回避できないか、時期をずらせないかを検討する
  • 単身赴任手当や住宅支援など、負担を軽減する制度を確認する
  • 検討した内容と結論を記録に残す

本人の健康状態への配慮も欠かせません。持病や治療の状況を無視した配置は、安全配慮義務違反を問われる可能性があります。

8-4. 差別的な配置や報復目的の異動をおこなわない

異動を制裁の手段として用いることは、法的なリスクが極めて高い運用です。

特定の従業員を退職に追い込む目的の配置や、労働組合の活動・内部通報に対する報復としての異動は、権利の濫用として無効と判断される可能性があります。性別や国籍、信条などを理由とした不利益な配置も同様で、不当労働行為やハラスメントに該当するおそれもあるでしょう。

また、本人の能力や経験とかけ離れた業務への配置は、パワーハラスメントにおける過大な要求や過小な要求とみなされかねません。異動を人事上の懲罰として使う運用が常態化すると、従業員の不信感を招き、組織全体のエンゲージメント低下にもつながります。

異動はあくまで業務上の必要性にもとづいて判断しましょう。

8-5. 採用時・有期契約更新時に就業場所・業務の変更範囲を明示する

2024年4月に労働条件明示のルールが改正されました。これまでの労働条件明示事項に加えて、次の項目が追加で必要になります。

対象者 明示するタイミング 追加項目
すべての労働者 雇用契約の締結時や更新時 就業場所と業務の変更範囲(書面による明示が必要)
※テレワークがある場合は、テレワークを認める場所の明示も必要
有期労働契約者 雇用契約の締結時や更新時 更新回数上限の有無と内容
有期契約が5年を超える場合は、無期転換への申し込みができること
無期転換後の労働条件

参考:令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます|厚生労働省

8-6. 従業員が異動を拒否できるケースと企業の対応

人事異動が発表された場合、従業員は原則として拒否できません。従業員が所属している企業が就業規則に人事異動に関する規定を設けている場合、業務命令となるためです。

正当な命令に従わない場合は業務命令違反にあたり、懲戒の対象になることもあります。ただし、就業規則に規定がない場合や、勤務地・職種を限定する合意がある場合は、この限りではありません。

また、次に該当する異動命令は、人事権の濫用として無効になる可能性があります。

  • 業務上の必要性が認められない
  • 異動の理由や目的が不当である
  • 労働条件が大幅に悪化する、または著しい不利益が生じる
  • 労働契約で限定された勤務地や職種の範囲を逸脱する
  • 性別や国籍などを理由とした差別に該当する
  • 育児や介護によるやむを得ない時短勤務・休職を理由としている

拒否された場合は、すぐに処分を検討するのではなく、まず本人から理由をヒアリングしましょう。育児・介護や健康上の事情があれば、時期の変更や勤務地の再検討といった代替案を探ります。面談の内容と企業の検討結果は必ず記録に残し、対応の妥当性を説明できる状態にしておくことが重要です。

9. 人事異動を有効に活用して生産性の向上につなげよう

PC作業する女性

人事異動は、適材適所の実現や人材育成、業務の属人化防止といった効果が期待できる一方、進め方を誤ればモチベーションの低下や離職、法的トラブルを招きます。成果を左右するのは、異動そのものではなく、選定から発令後のフォローまでをどう設計するかという点です。

そのうえで欠かせないのが、本人への丁寧な説明です。なぜその人を選んだのか、異動先で何を期待しているのか、それが本人のキャリアにどうつながるのかを伝えられれば、納得感は大きく変わります。

人材データを整備し、本人の希望を吸い上げる仕組みと異動後のフォロー体制を組み合わせることで、人事異動は「従業員が納得し、組織が強くなる施策」へと変わります。まずは自社の運用を棚卸しし、改善できる点がないか確認してみてはいかがでしょうか。

jinjer Blog 編集部

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