L字カーブとは?M字カーブとは違う?原因と解消に向けた取り組みを解説
更新日: 2025.12.12 公開日: 2025.12.12 jinjer Blog 編集部
L字カーブとは、女性の正社員比率を年代別にグラフ化した際に、アルファベットの「L」のような形を描く現象のことです。日本では20代後半で女性の正社員比率がピークに達した後、30代以降に急激に低下し、そのまま低い水準が続きます。
一方、女性の就業者数自体は増加傾向にあり、20~50代女性の約8割が何らかの形で働いています。つまり、正社員として働き続ける人の割合が子育て期を境に大幅に減少してしまうのがL字カーブの問題です。
本記事では、L字カーブの概要とM字カーブとの違い、そしてその原因と解消に向けた政府の取り組み、企業ができることについて解説します。
育児・介護休業に関する法改正が2025年4月と10月の2段階で施行されました。特に、育休取得率の公表義務拡大など、担当者が押さえておくべきポイントは多岐にわたります。
本資料では、最新の法改正にスムーズに対応するための実務ポイントを網羅的に解説します。
◆この資料でわかること
- 育児・介護休業法の基本と最新の法改正について
- 給付金・社会保険料の申請手続きと注意点
- 法律で義務付けられた従業員への個別周知・意向確認の進め方
- 子の看護休暇や時短勤務など、各種両立支援制度の概要
2025年10月施行の改正内容も詳しく解説しています。「このケース、どう対応すれば?」といった実務のお悩みをお持ちの方は、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. L字カーブとは?
L字カーブとは、女性の年齢階級別正規雇用率(正社員として働く人の比率)の推移を指す言葉です。グラフにすると、20代後半を頂点に右肩下がりに低下し続けるため、その形がアルファベットの「L」に見えることからこう呼ばれます。
内閣府男女共同参画局から引用した、令和4年の年齢別正規雇用比率のグラフを見ると、25~29歳の女性の正社員比率は約6割近くですが、30代以降は大きく低下していることがわかります。一方、就業率は30歳以降でも大きな変化は見られないため、同年代の女性の多くが非正規雇用労働者で働いていることがわかるのです。
このL字カーブは、日本における女性の働き方の課題を象徴する指標として注目されています。「結婚や出産を機に正社員を辞め、その後はパートや派遣社員として働く女性が多い」という実態を示しており、早急な是正が求められています。
1-1. M字カーブとの違い
L字カーブと対比されるものにM字カーブがあります。M字カーブは、女性の労働力率(就業率)を年代別に表したグラフが「M」の字を描く現象です。
かつて日本では、20代後半から30代前半にかけて女性の就業率が大きく落ち込み、育児が一段落する40代で再び上昇するパターンが典型的で、1980年代の統計では明確なM字型が確認されていました。これは結婚・出産を機にいったん離職し、子育てが落ち着いた後に再就職するケースが多かったことが背景にあります。
近年は女性の継続就業者が増えた影響でM字カーブの谷は徐々に浅くなり、この傾向は解消しつつありますが、反対に表面化したのがL字カーブの問題です。M字カーブは「働く・働かない」の指標ですが、L字カーブは「正社員で働き続けられるか」を示す指標であり、女性のキャリア継続の難しさを浮き彫りにするものと言えます。
2. L字カーブが生まれた原因


L字カーブのような現象が生まれてしまう背景には、女性が出産・育児期に直面するさまざまなハードルが存在します。仕事と子育ての両立が難しく離職を選ばざるを得ないことや、企業側の子育て支援の不足、そして一度離職すると正社員として復帰することが困難といった複合的な原因があるのです。本章では、主な原因を3つに分けて解説します。
2-1. 仕事と子育ての両立が困難
出産や育児により仕事と家庭の両立が難しくなることが、女性が正社員を辞める大きな要因です。多くの女性は出産前後にキャリアの岐路に立たされます。
子育て期は子どもの世話に時間も労力も取られ、残業やフルタイム勤務をこなすのが難しくなるため、「仕事か家庭か」の二者択一を迫られる状況に置かれがちです。内閣府の調査でも、「出産を機に退職、または働き方を変えて、育児後は非正規で働くケースが多い」と分析されています。
2-2. 企業の育児に対する理解不足
女性の離職を招くもう一つの原因は、職場の子育て支援制度や育児への理解が不足する職場環境です。育児休業制度や短時間勤務制度などが法律で整備されてきたとはいえ、企業によっては制度が未整備だったり、形式上の制度はあっても取得しづらい雰囲気が残っていたりすることもあります。
実際の厚生労働省の調査でも、「職場に子育てと仕事の両立を支援する雰囲気がなかった」や「夕方以降にも勤務時間が及ぶ勤務形態だった」など、企業の理解不足や職場風土の問題が報告されています。
このように、企業側のサポート体制や理解が十分でないと、女性社員は育児と仕事の両立に行き詰まり、やむを得ず退職に至ってしまうのです。
2-3. 30代以降の正社員化が困難
一度出産や育児で離職した後、正社員として再就職するハードルが高いこともL字カーブを生む大きな要因です。
これは、フルタイム+残業といった従来型の正社員の勤務形態が育児との両立を難しくし、結果として時間に融通の利く非正規雇用労働者を選ばざるを得ない人が多いためです。さらに企業側にも、中途採用で子育て中の女性を正社員登用する慣行が十分に根付いていないという課題もあるのです。
また、子育てのために一度離職した人は、再就職時点で年齢が上がっているケースが多いです。このように、一般に年齢が高まるほど正社員へ再就職しキャリアを再スタートすることは難しい傾向があります。
3. L字カーブ解消に向けた政府の取り組み


L字カーブの是正に向けて、政府もさまざまな施策を打ち出しています。男性の育児参加を促す制度や、働き方改革の推進、女性活躍を後押しする法制度、さらに非正規雇用労働者の処遇改善策など、問題の根本解決に向けた総合的なアプローチが進められています。
本章では、政府が現在取り組んでいる主な施策を解説します。
3-1. 男性の育児休業取得を推進
政府は、女性に偏りがちな育児負担を軽減するため、男性の育児休業取得促進に力を入れています。2022年には改正育児・介護休業法が施行され、出生後8週間以内に取得できる「産後パパ育休」(出生時育児休業)の創設など制度拡充がおこなわれました。
これらの促進の結果、男性の育児休業取得率は令和6年度で40.5%まで上昇しており、少しずつ成果が出てきています。
関連記事:産後パパ育休とは?育児休暇との違いや申請方法、給付金について解説
3-2. 働き方改革
長時間労働の是正や柔軟な働き方の普及といった働き方改革で長時間労働慣行の見直しを促すことも、L字カーブ解消には欠かせません。政府は2019年の働き方改革関連法の施行以来、時間外労働の上限規制を設けるなど労働時間に関する法整備を進めてきました。厚生労働省は企業への監督指導を強化し、2024年度からの時間外上限規制の中小企業への完全適用に至っています。
さらに政府は、テレワークやフレックスタイム、短時間勤務制度といった柔軟な働き方の導入も推進しています。特に子育て期の従業員については、「残業免除や短時間勤務、テレワークなどを組み合わせて柔軟に働ける仕組みを整えるべき」と提言しており、企業が従業員のニーズに応じた多様な勤務形態を提供できるよう支援策が講じられています。
関連記事:働き方改革で残業時間の上限規制や割増率はどう変わった?わかりやすく解説!
3-3. 女性活躍の推進
女性活躍の推進もL字カーブ解消に向けた重要な施策のひとつです。政府は2016年に「女性活躍推進法」を施行し、大企業に対して女性の登用に関する数値目標と行動計画の策定、公表を義務付けました。
加えて2022年の法改正では、常時301人以上の企業に、女性管理職比率など男女の職業生活に関する情報公表が義務付けられています。
また、政府は正社員転換を支援するためのキャリアアップ助成金(正社員化コース)を展開しています。これは非正規雇用労働者を正社員に登用した企業に助成金を支給する制度です。
3-4. 非正規雇用労働者の賃金引上げ
L字カーブ問題の背景には、正規・非正規間の待遇格差も存在します。そこで政府は、非正規雇用労働者の賃金引上げを図るため「同一労働同一賃金」の徹底に取り組んでいます。
2020年に施行されたパートタイム・有期雇用労働法により、正社員と非正規雇用労働者の間で不合理な待遇差を設けることが禁止され、同じ仕事に対しては同じ賃金を支払う原則が法制化されました。
これにより、正社員と非正規雇用労働者の待遇差を是正し、特に非正規比率の高い女性労働者の賃金底上げを目指しています。
関連記事:同一労働同一賃金とは?法改正の背景・目的や不合理な待遇差の禁止についてわかりやすく解説
4. L字カーブ解消に向けて企業が取り組むべきこと


L字カーブの解消には、企業の取り組みも不可欠です。労働力不足が深刻化するなかで、企業が自ら職場環境を見直し、従業員が出産や育児と仕事を両立しやすい制度・風土を作ることは、優秀な人材の離職防止につながります。
本章では、企業が主体的に取り組むべきポイントを5つ解説します。
4-1. 男性の育児休業を促進する
1つ目が、男性従業員の育児休業取得を促進することです。男性も育児に積極的に関与できる環境を整え、女性従業員のキャリア継続を支援しましょう。
促進のためには、育児休業制度をしっかり周知するとともに、男性が休業取得しやすい職場風土づくりが重要です。例えば、上司が育休取得を後押しする発言をする、取得事例を社内報で紹介する、普段から属人化を防ぎ業務引き継ぎを円滑にしておくなど、「男性が育休を取るのが当たり前」の雰囲気を醸成しましょう。
4-2. 長時間労働の是正
長時間労働の是正も取り組むべき重要課題です。残業前提の働き方が当たり前になってしまっている職場では、子育て中の従業員が働き続けることは困難であり、男性従業員も育児への参加が難しくなります。
まずは企業トップの方針として、「不要不急の残業はしない」「業務効率化により定時退社を推進する」など明確なメッセージを発信するとよいでしょう。
そのほかの施策としては、業務削減やノー残業デーの導入、業務プロセスの見直し、自動化ツールの活用などで業務効率を上げることが考えられます。
関連記事:長時間労働の問題点は?原因と改善策を解説
4-3. 多様な働き方を認める制度を導入する
テレワークやフレックス勤務の導入など働く場所・時間の柔軟化も効果的です。例えば、在宅勤務を併用できれば通勤時間を削減でき、保育園への送迎や子どもの急病対応もしやすくなります。
企業は、自社の就業規則や雇用形態を見直し、従業員がライフステージに応じて柔軟に働ける制度を整備しましょう。政府も、勤務地や勤務時間を限定した「多様な正社員」の拡充を重要な施策と位置付けており、子育てとの両立を可能にする働き方として推進しています。
こうした制度を導入すれば、出産・育児で離職せず正社員のまま働き続けられる選択肢が広がります。
関連記事:ハイブリッドワークとは?導入企業の割合・メリット・デメリット・課題を解説
4-4. 女性の採用や積極的な登用をおこなう
女性の採用と登用を積極的に進めることも欠かせません。まず採用段階で、将来的に結婚・出産を経ても長く働き続けたい意欲のある女性を積極的に採用し、育成する方針が重要です。新卒・中途を問わず、多様なバックグラウンドを持つ女性人材に門戸を開きましょう。
また、在籍中の女性従業員に対しても、公平にキャリア機会を提供することが大切です。昇進・昇格の際に無意識のバイアス(アンコンシャス・バイアス)で女性を過小評価することなく、管理職や重要ポストにも女性を登用する努力を続けましょう。
厚生労働省「令和6年度 雇用均等基本調査」によると、日本企業における女性管理職の割合は、課長相当職以上が13.1%と、欧米諸国の30%以上と比べて依然として低水準です。
また、jinjer株式会社が2025年1月に実施したアンケート調査でも、女性の管理職比率は29%未満と回答した企業が合わせて7割を超える結果でした。


参考:【女性活躍推進の取り組みに関する実態調査】 500名以上の企業を中心に、約60%が女性活躍推進に取り組む一方で 女性管理職比率の低さが課題に
政府はプライム市場上場企業を対象に「2030年までに指導的地位に占める女性の割合30%」を目標に掲げていますが、達成には企業の主体的な取り組みが不可欠です。
女性従業員が「自分も管理職になれる」「キャリアの展望が開けている」と感じられる職場であれば、出産・育児後も復帰して活躍しようという意欲につながります。
4-5. 正社員雇用を積極的におこなう
正社員としての雇用機会を積極的に提供することにも注力しましょう。非正規雇用労働者は正社員に比べて賃金水準が低く待遇も不安定な傾向があり、「育児休業を取って休む余裕がない」と感じる人も少なくありません。優秀な人材であっても非正規の立場では長期的なキャリア形成が難しく、企業にとっても戦力が定着しにくいというデメリットがあります。
具体的には、契約社員やパート社員にも正社員登用試験の受験機会を与える、育児等で時短勤務中の従業員が希望すれば長期に短時間正社員として継続雇用できる制度を設ける、といった施策が考えられます。また、一定期間勤務した派遣社員を直接雇用に切り替えることも、安定雇用に寄与します。
これらの取り組みに対しては前述のキャリアアップ助成金など公的支援策が活用できることもありますので、積極的に利用すると良いでしょう。
5. L字カーブの是正に貢献し企業価値を上げよう


L字カーブの問題に向き合い改善に取り組むことは、単に女性従業員のためだけではなく企業価値の向上にもつながります。優秀な人材がライフイベントを理由にキャリアを中断せずに働き続けられれば、企業はそのスキルと経験を活かし続けることが可能です。多様性のある組織づくりは、新たな発想やイノベーションを生み出しやすくなり、長期的な競争力強化にも寄与するでしょう。
また、働きやすい職場環境を整備する企業は社会的な評価も高まり、採用市場でも「選ばれる企業」となります。男性の育休取得促進や長時間労働の是正、柔軟な働き方の導入などの取り組みは、決して女性従業員のためだけではなく、従業員全員が働きやすい職場づくりにつながるのです。
多様な人材がライフイベントに左右されず能力を発揮できる職場を実現し、企業価値を一層高めていきましょう。



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