給与の遡り支給とは?時効や遡及計算の方法、実務の注意点を解説
更新日: 2026.3.17 公開日: 2026.3.17 jinjer Blog 編集部

給与計算業務はどんなに慎重におこなっていても、計算ミスやコミュニケーションエラーによって給与を遡って支給することがあります。
この記事では給与を遡って支給する際の遡及計算の方法や時効、未然にミスを防ぐ方法など実務に役立つ情報を解説するため、ぜひ最後までご覧ください。
給与計算は、従業員との信頼関係に直結するため、本来絶対にミスがあってはならない業務ですが、計算ミスや更新漏れ、ヒューマンエラーが発生しやすいのも事実です。
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資料では、ミス発覚時に参考になる基本の対応手順から、ミスを未然に防ぐための「起こりやすいミス」や「そもそも給与計算のミスを減らす方法」をわかりやすく解説しています。
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1. 給与の遡り支給(遡及計算)とは

「給与の遡り支給」とは本来支払うべき給与が未払いだった場合、その金額を遡って支給することです。単純な給与計算のミスからコミュニケーションエラーまで原因はさまざまですが、会社は速やかに未払い分給与を支払う必要があります。
2. 給与遡及が発生!対応の流れを解説

給与計算業務はどれだけ気をつけていてもトラブルは起こり得ます。ミスが起きないように努めるのは当然ですが、最低限のヒューマンエラーは起きるものと受け入れて、実際の場面で冷静に対応できるように普段から準備することも同じくらい大切です。
この章では実際に給与の遡及支払いをする場面でどのように対応すべきかを解説します。
2-1. Wチェックをして給与遡及が必要かどうかを確認する
給与計算ミスに気づくきっかけは、従業員からの問い合わせ、給与計算の外注先からの指摘などがあります。この段階で、自分ひとりで結論を出さず、必ず別の担当者や給与計算の外注先など第三者の意見を求めましょう。
本当に遡及支払いが必要なケースなのかどうか、複数名で確認をしたうえで判断をおこないます。
2-2. 対象となる従業員や関係者へ連絡・謝罪する
次に、給与の遡り支給が必要なことが確定したら、関係者へ連絡しましょう。
具体的な遡及方法が決まっていなくても、まずは早めに連絡し謝罪することが大切です。謝罪後に、どのような方法で差額分を支給するかについて、関係者と話し合って決定します。
遡及金額と支払方法が決まったら書面で明細書を作成し、詫び状とともに本人に通知するのが望ましいでしょう。
2-3. 給与明細を訂正する
給与明細を訂正する場合、明細を訂正後、誤って支給した給与と正しい給与の差額分のみを後日支給しましょう。
なお、給与の誤りに気づくのが遅くなり、翌月以降の給与計算がはじまっている場合があります。このような時は、本人の同意を得て、翌月分以降の給与で差額分を支給するのが一般的です。
2-4. 遡及処理をおこなう
翌月以降の給与で差額分を上乗せして支給する場合は、遡りで支給したことがわかるように、基本給とは別に支給項目を作成しましょう。給与計算システムを利用している場合は、課税対象や社会保険料の計算に含まれるかどうかの正しい設定が必要です。
一方、給与が過払いの場合、会社は過払い分を徴収できます。この場合、明細を訂正して差額分を振り込んでもらう、もしくは翌月以降の給与から相殺するなどの方法で徴収します。なお、必ず本人の同意があることが前提です。
- この記事を執筆した社労士からのコメント
- 「給与の遡り支給」はどれだけ気を付けていても、給与計算業務をするうえでほぼ必ず起こります。
そこで大切なのは、どれだけ迅速に冷静な対処ができるかどうかです。ミスは起きないに越したことはないですが、こういったトラブルを解決し、再発防止に努めることで社内にノウハウが蓄積されていきます。
正確に法令と規則を理解し、給与計算業務をおこないましょう。
3. 給与の遡り支給「賃金請求権」の時効とは

「賃金請求権」とは、従業員が会社に対して賃金を請求する権利のことをいいます。「賃金請求権」の時効は労働基準法改正前は2年でしたが、2020年4月から「原則5年、当分の間3年」と改正されました。将来的に「賃金請求権」の時効は5年に変更予定ですが、現時点の時効は3年です。
なお、「賃金請求権」は労働の対価として支払われるものであれば、基本給や残業、賞与などの名称を問わずこの権利を行使できます。
ただし、法的に支給する必要がないからといって、法定分しか未払い給与を遡及しなかった場合、従業員の会社に対する不信感が募るでしょう。話し合いできちんと解決し、時には時効以前に遡って未払い給与を支払うことも選択肢として検討が求められます。
4. 給与計算ミスが起きる原因と対策法

給与計算業務はさまざまな原因でミスが起こり得ます。この章ではなぜミスが起きるのか、その原因と対策を紹介します。
4-1. 手作業・アナログ対応が多い
給与計算ミスの原因のひとつは給与計算業務をアナログな方法でおこなっていることでしょう。特に残業代などの割増賃金は、どの部分が何%分割増になるのか、慎重に確認することが重要です。
どうしても手計算では、ヒューマンエラーを100%防ぐことはできません。こうした複雑な割増計算はシステムを導入することで簡素化でき、計算にかかる工数を大幅に削減できます。
4-2. 人手が不足している
バックオフィスの人手が足りないことも、遡り支給が発生する原因のひとつです。特に中小企業では人手不足の傾向が顕著であり、給与計算業務は属人化しがちです。とはいえ、なかなかバックオフィス業務にリソースを割けないのが実情でしょう。
人手不足の対策としては、給与計算業務を標準化するためにも、マニュアルの作成や社労士やBPOへのアウトソーシングが有効です。
関連記事:社労士に給与計算を依頼できる?相場や税理士との違い・依頼の流れを解説
4-3. 法令知識の理解不足
法令知識の理解不足や就業規則の認識不足などにより、未払いの給与が発生しがちです。具体例を踏まえて解説します。
- 割増賃金の計算ミス
- 手当のつけ忘れ
- 昇給による計算ミス
- 法改正の確認漏れ
【1】割増賃金の計算ミス
時間外手当、深夜勤務、休日出勤などの割増賃金の計算ミスにより、未払い分給与が発生します。
割増賃金は計算が複雑なので手計算でおこなうと給与ミスが発生しがちです。勤怠システムや給与システムの自動計算で、ミスの確率を減らしていきましょう。
【2】手当のつけ忘れ
家族手当や役職手当など、身上異動や人事異動に紐づいている手当のつけ忘れも給与の計算ミスの原因です。
これは社内での手当が支給されるルールや、支給するタイミングを把握していないことが要因で起こります。担当者は日ごろから就業規則や内規を普段から確認しておきましょう。
【3】昇給などの計算ミス
定期昇給で固定の給与が上がった際も計算ミスが起きやすいです。
昇給額を手計算で基本給に反映させているなどの場合、残業代を計算するための時給単価の更新を失念し、誤った残業代を支給してしまうこともあります。このケースでも、システムを導入して時給単価を自動的に算出するなどの対処方法を検討しましょう。
【4】法改正の確認漏れ
法改正によって給与の計算額が変わることも多々あります。
月60時間を超えた時間外労働は50%以上の割増賃金が必要ですが、2023年4月の改正前は一定規模以上の会社が対象でした。こうした法改正を常にチェックしておかなければ、本来支給すべき割増賃金を支払わないなど、給与のミスにつながります。
5. 給与の遡り支給のよくある質問

この章では給与の遡り支給についてよくある質問を取り上げ、曖昧になりがちな部分を解説します。
5-1.遡及計算の時効はいつを基準に数える?
労働基準法が改正された2020年4月1日以降の「賃金請求権」の時効は、原則5年当分の間3年です。
労働基準法改正前・・・2年
労働基準法改正後・・・原則5年、当分の間3年
未払い賃金の請求は、労働基準法の規定が適用されます。給与の支払日の翌日を起点にして3年が時効です。
- 具体例
- 給与支払日:2026年2月28日
時効起算日:2026年3月1日
時効消滅日:2029年2月28日
なお、2020年4月1日より前に発生した事案については法改正前の時効2年が適用されます。
5-2.給与の遡り支給に関する罰則は?
従業員に対する「給与の未払い」は、労働基準法の第24条の賃金支払い5原則のなかの「賃金の全額払いの原則」に違反しています。給与の未払いにおける罰則は、同法第120条により30万円以下の罰金です。
一方、残業代や深夜勤務割り増し分は同法37条に違反し、同法119条によって6ヵ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金となります。ただし、是正勧告を無視し続けるといった悪質な対応をしない限り、刑事罰に問われる可能性は低いため、ミスが発覚した時は迅速に対応しましょう。
関連記事:賃金支払いの5原則とは?例外や守られないときの罰則について
5-3. 給与計算ミスは翌月精算してもいい?
給与計算ミスが、支給後すぐに発覚した場合は、給与明細を訂正して差額分を即時支給しますが、翌月以降にミスが発覚する場合もあります。このような時は、翌月分の給与で未払い分を遡って支給するのが一般的です。
金額、差額支給する際の項目名などをあらかじめ伝え、翌月以降の給与明細に反映させましょう。ただし、この場合は翌月分の給与で遡り支給することへの本人の承諾は必須です。
【イメージ図】

6. 給与計算ミスを防止するバックオフィス体制を構築しよう

給与計算業務はどれだけ気をつけてもミスは起こりうるものです。ミスを起こさないことは当たり前に重要ですが、ミスが発覚しても、冷静に迅速な対応ができるかどうかが重要でしょう。
給与計算業務は社会保険や税金、労働法などさまざまな知識の包括的な理解を必要とします。1人の担当者がこれをすべて理解し、実施するのは困難です。担当者を2人以上置いてダブルチェック体制を構築したり、システムの導入やアウトソーシングを利用したりして、ミスの防止に努めましょう。
給与計算は、従業員との信頼関係に直結するため、本来絶対にミスがあってはならない業務ですが、計算ミスや更新漏れ、ヒューマンエラーが発生しやすいのも事実です。
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