同一労働同一賃金の説明義務はどう強化された?注意点や説明方法も解説
更新日: 2025.8.25 公開日: 2022.1.27 jinjer Blog 編集部

同一労働同一賃金の制度が施行され、企業には労働者に対する待遇の説明義務が課されるようになりました。これまで、正社員と非正規社員との待遇差について「仕方のないもの」として受け入れていた労働者も多くいましたが、制度の周知が進むなかで、疑問を抱き、説明を求める動きが広がりつつあります。
労働者から質問を受けた場合、企業はその待遇差について合理的な理由を説明しなければなりません。この記事では、同一労働同一賃金の説明義務に対応するために企業が事前にすべき準備と、具体的な説明の進め方について解説します。
▼そもそも「同一労働同一賃金とは?」という方はこちら
関連記事:同一労働同一賃金とは?派遣・非正規の待遇における規定や法改正の背景をわかりやすく解説
意図せず不合理な待遇差を放置してしまうと、思わぬ労使トラブルに発展する可能性があります。
企業の信頼性を守るためにも、客観的な視点での定期的な見直しが不可欠です。
◆押さえておくべき法的ポイント
- 「均衡待遇」と「均等待遇」の判断基準
- 企業に課される「待遇に関する説明義務」の範囲
- 万が一の紛争解決手続き「行政ADR」の概要
最新の法令に対応した盤石な体制を構築するために参考になりますので、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. 同一労働同一賃金で強化された説明義務


同一労働同一賃金では、非正規雇用労働者に対しての「待遇に関連する事柄への説明義務」が強化されました。説明義務の詳細と今までの違いについて解説します。
1-1. 同一労働同一賃金の説明義務は法律で企業に課せられたもの
同一労働同一賃金での説明義務とは、労働者に対して「企業が待遇についての説明をおこなう義務」です。具体的には、2020年施行のパートタイム・有期雇用労働法第14条2項(労働者派遣法第31条の2)に基づいて説明が義務付けられています。
例えば、非正規雇用労働者の一人が「なぜ同じ仕事をしているのに、正規雇用労働者と給与が違うのか」と質問をしてきた場合、それに対して「給与が違うことに対しての合理的な説明」を企業側がしなければ法律違反です。
これまでも労働者側から質問をすることはできましたが、企業側に説明をする義務は明確にはありませんでした。企業側が「そういう決まりだから」のひと言で片付けていたとしても、表面上の問題にはならないケースも多くあったはずです。
ところが、同一労働同一賃金が施行されてからは、雇用形態を理由にした給与や待遇の格差は違法となりました。これによって、雇用形態による給与や待遇の差が問題であるという認識が広まり、企業は格差に対する説明義務を負うようになったのです。
参考:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)第14条2項|eーGov法令検索参考:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(労働者派遣法)31条の2|e-Gov法令検索
参考:雇用形態に関わらない公正な待遇の確保|厚生労働省
1-2. 同一労働同一賃金が導入される前との違い
前項で、同一労働同一賃金が施行される前は、企業側に説明義務が明確にはなかったという表現をしましたが、実はこの表現は正確でなく、一部の内容や雇用形態限定で説明義務はもともとありました。それが同一労働同一賃金によって明確化、強化されたのです。
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– |
パートタイム |
有期雇用 |
派遣雇用 |
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|
改正前 |
改正後 |
改正前 |
改正後 |
改正前 |
改正後 |
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|
雇用管理上の措置の内容 (雇い入れ時) |
説明義務あり |
説明義務あり |
説明義務なし |
説明義務あり |
説明義務あり |
説明義務あり |
|
待遇決定に際しての考慮事項(求めがあった場合) |
説明義務あり |
説明義務あり |
説明義務なし |
説明義務あり |
説明義務あり |
説明義務あり |
|
待遇差の内容・理由 |
説明義務なし |
説明義務あり |
説明義務なし |
説明義務あり |
説明義務なし |
説明義務あり |
このように、それぞれのタイミングで発生する3種類の説明義務のすべてが、雇用形態を問わずに「説明義務の規定あり」に変化しました。
とくに注目すべきは、待遇差についての説明責任の変化です。以前は、非正規雇用労働者に対する説明義務は一切ありませんでしたが、改正後はすべて説明義務が発生しています。そのため、賃金や福利厚生などの待遇に正社員との格差がある場合、労働者からの質問に対して企業は合理的な理由を明確に説明しなければならなくなりました。
1-3. 説明義務が強化された理由
同一労働同一賃金の説明義務が強化された理由は、労働者が「納得して働く」ことを重視したからです。説明義務がないと「正社員と同じ業務をしているのに、なぜパートタイム労働者の給与は低いのか」「同程度の責任を負っているのに待遇に差があるのは納得できない」といった疑問や不満を抱えながら働く非正規労働者が増えてしまいます。
その結果発生するのが、企業と労働者間でのトラブルです。トラブルが深刻化すれば、法廷闘争にまでもつれ込むことになってしまうでしょう。トラブルに発展する前に話し合いをし、合理的であれば了承して働いてもらう、もしも不合理であれば改善に向けて動くなど、労使双方が納得感を高めて働くことが、説明義務が強化された大きな理由です。企業側はこれをよく理解し、説明義務を果たすための準備と、必要であれば待遇の見直しをするようにしましょう。
2. 労働者への説明方法


労働者から待遇の差について質問があった際の、説明方法を知っておきましょう。重要なのは「待遇の差が合理的である」と労働者が納得できる答えを伝えることです。
2-1. 誰と誰を比較するのか決める
同一労働同一賃金では、比較する対象を「通常の労働者で条件が最も近い者」としています。
通常の労働者で条件が最も近い者とは、説明を求めてきた労働者と「仕事内容や責任の程度、配置変更の範囲が同じ正規雇用社員」のことを指します。砕けた表現にすると「労働条件が最も似ている正社員」です。
ここで少しわかりにくいのが「配置変更の範囲」という表現でしょう。
「配置変更の範囲」とは、人事異動や業務命令によって発生する、ポスト間の異動範囲です。特定の部門内での異動に限るのか、全部門に渡る異動があるのか、のような人事異動の範囲差だと思って相違ありません。
配置変更の範囲を比べるときは、以下の手順で確認するとわかりやすいです。
①正規雇用労働者と非正規労働者の転勤・転属の有無が同じかどうか
②転勤・転属が有りの場合、異動する範囲を比較する
③転勤・転属が無しの場合、または異動する範囲が同程度である場合、異動先で仕事内容が変化する度合いを比較する
ここまで比較をしたのち、以下のパターンで絞り込みます。
- 1人の通常の労働者
- 複数人の通常の労働者
- 過去1年以内に働いていた1人か複数人の通常の労働者
- 通常の労働者の平均モデル
この手順で絞り込んだ1人、あるいは複数人の労働者が比較対象になります。
続く待遇差の把握や理由の確認は、この比較対象を元におこなうものです。始めの段階で定める比較対象が適切でないと、説明をしても無意味になります。比較対象は精査して決定しましょう。
2-2. 待遇差の内容と理由を把握する
比較対象が定まったら、両者の間にどのような待遇差があるのかを確認します。もし説明を求められている内容が特定の項目に限られている場合は、その部分を優先的に調査しましょう。
賃金表や社内基準などをもとに、待遇の違いやその根拠を明確にします。なお、ここでいう待遇とは、基本給に限らず、賞与や各種手当、福利厚生、教育訓練なども含まれる点に注意が必要です。
関連記事:同一労働同一賃金で各種手当はどうなる?最高裁判例や待遇差に関して
2-3. 書類を作り説明する
短時間・有期雇用労働者に対して待遇の内容や待遇差の理由を説明する際は、十分に理解できるように資料を用いて口頭で説明することが基本です。使用する資料としては、就業規則や賃金規程、正社員の待遇内容を記載した文書などが考えられます。
説明の際には、職務の内容や配置転換の範囲の違いに加え、経験・能力・実績といった、合理的な待遇差の理由となる要素は漏れなく提示しましょう。また、説明内容をわかりやすくまとめた文書を作成し、それを交付することで説明をおこなう方法も認められています。
2-4. 説明資料(フォーマット)の作り方
短時間・有期雇用労働者から待遇に関する説明を求められた場合に備えて、あらかじめ説明資料のフォーマットを作成しておくと、時間や手間を減らし、スムーズに対応できます。この際、厚生労働省が提供している「説明書モデル様式」を参考にするとよいでしょう。
フォーマットを作成する際には、まず比較対象となる正社員のモデルを明示し、その選定理由を記載する欄を設けます。続いて、基本給・賞与・各種手当・福利厚生・教育訓練といった待遇項目ごとに、「待遇差の有無」と「待遇差がある場合の理由」を記載できる欄を設計しましょう。
参考:パートタイム・有期雇用労働法の解説(「p.11 図表1- 9 説明書モデル様式」を含む)|厚生労働省
3. 説明をおこなうときの注意点


説明義務を果たすためには、資料の作成だけでなく、口頭でも労働者に納得してもらうよう説明をしなくてはいけません。ここでは、説明をおこなう際に注意すべきポイントについて紹介します。
3-1. 合理性のある説明を意識する
賃金や待遇の格差は、合理性のあるものであれば認められます。また、客観的に見て合理的な内容であれば、質問をした労働者も納得して働き続けられるはずです。
「経験の差があるから」というような曖昧な表現ではなく、勤続年数やこれまでの貢献度など、具体的なデータを準備して説明するとよいでしょう。
3-2. 比較対象者の情報が漏れないようにする
待遇に関する説明義務を果たす際には、比較対象となる他の労働者の情報が必要となります。ただし、その際は個人情報が漏れないよう、十分に注意しなければなりません。
たとえ意図的でなくても、比較対象者が特定できるような情報が伝わってしまうと、個人情報の漏洩とみなされ、プライバシー保護の観点から問題となる可能性があります。モデル労働者や制度上の基準を用いるなど、個人が特定されない形で説明することが重要です。
3-3. 罰則はないが損害賠償を求められる可能性はある
同一労働同一賃金の説明義務は、仮に果たさなかったとしても直接的な罰則がありません。しかし、不利益を被ったとして、労働者から損害賠償を求められる恐れがあります。罰則がないからといって、説明義務を放棄するようなことをしてはいけません。また、短時間・有期雇用労働者が待遇の説明を求めたことを理由に、解雇や減給などの不利益な取り扱いをおこなうことは、法律で明確に禁止されているので十分な注意が必要です。
当サイトでは、本章で解説した待遇差があるときの合理的な説明内容や、不合理ととらえられる場合の正しい対応についてまとめた資料を無料で配布しております。同一労働同一賃金に沿った説明で不安な点があるご担当者様は、こちらから「同一労働同一賃金 対応の手引き」をダウンロードしてご確認ください。
3-4. 【具体例】正規と非正規における待遇差の説明方法
ここでは、同じ仕事に就く正社員Aと非正規社員Bとの間に給与の違いがあり、Bから説明を求められた場合を例に説明方法を紹介します。
まずは正社員Aと非正規社員Bそれぞれの「職種」「中核的業務」「責任の程度」を整理します。両者ともに職種は「エンジニア職」、中核的業務は「プログラミング」であったとします。
しかし、Aは緊急時・トラブル時の対応を担っている(Bは担っていない)という責任の程度に大きな違いがあることが明確になりました。この場合、AとBの職務内容は異なるため、合理的な待遇差は認められることになるでしょう。
次にAとBの待遇差を明確にします。今回は給与の違いに関して説明を求められたため、その待遇の違いを明確に示し、その待遇差を設けている理由を書類も交えながら説明しましょう。なお、Bに説明をする際は、前述通りAの個人情報が漏洩しないよう十分に注意することが重要です。
参考:不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル~パートタイム・有期雇用労働法への対応~|厚生労働省
関連記事:同一労働同一賃金で業務における責任の程度はどう変化する?
4. 同一労働同一賃金の説明義務は、素早く対応できるように準備しよう


同一労働同一賃金が中小企業に対しても施行され、待遇に関する説明義務の強化も広く知られるようになりました。今後は説明を求める人が増えていくでしょう。
労働者向けの説明書や、比較対象選別のチャートなどを作成しておくと、求められた際に慌てずに済みます。
重要なのは「合理的で納得できる説明をする」ことです。いま一度非正規労働者の待遇を見直し、正規労働者との間に差があれば、その理由を明確にしておきましょう。
関連記事:同一労働同一賃金で中小企業が受ける影響や対応しない場合のリスクを解説



意図せず不合理な待遇差を放置してしまうと、思わぬ労使トラブルに発展する可能性があります。
企業の信頼性を守るためにも、客観的な視点での定期的な見直しが不可欠です。
◆押さえておくべき法的ポイント
- 「均衡待遇」と「均等待遇」の判断基準
- 企業に課される「待遇に関する説明義務」の範囲
- 万が一の紛争解決手続き「行政ADR」の概要
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