労働基準法における退職の定義と手続き方法を分かりやすく解説
労働基準法には退職に関する具体的な定義がありません。
そのため、従業員の退職に関しては民法の規定が適用されます。
民法では、2週間前に会社に対して退職の申し出をすれば、退職の自由として自由に辞められると定義されています。
この記事では、従業員の退職の定義と手続き方法、退職に関するトラブルの解決方法を解説します。従業員から何日前に退職について手続きすればいいのか質問された際に正確に回答できるようにしておきましょう。
▼そもそも労働基準法とは?という方はこちらの記事をまずはご覧ください。
労働基準法とは?雇用者が押さえるべき6つのポイントを解説
労働基準法では、従業員が退職を申し出て2週間が経過すれば、雇用契約が終了するとされていますが、これに基づき会社独自のルールを定める場合もあります。
そこで今回は、労働基準法に定められた退職のルールから退職届のフォーマット、退職に際してよくあるトラブルの対処法まで網羅的に解説しています。
「退職に関するルールを定めたい」「トラブルを防止したい」という方は、ぜひこちらからダウンロードしてご活用ください。
目次
1. 労働基準法における退職の定義
退職とは労働者からの申し出により、労働契約を終了することです。
労働についてのルールは労働基準法に定められているのが一般的です。しかし、退職については労働基準法において明確な定義は設けられていません。労働者の自由として、退職は認められています。労働者は退職の予告(退職予告)をいつでも使用者に伝えられます。退職は労働者の自由であるため、使用者側が無理に引き留めることができません。憲法22条においても、職業選択の自由が認められているため、従業員は自社を退職して、新たに勤務先を探すことが可能です。
退職は労働者の自由ですが、労働者は自社の就業規則や民法に則って、退職についての手続きを進める必要があります。
2. 労働基準法における退職の手続き方法
前述のように、従業員の退職は民法が適用され、さらに、雇用期間に定めがあるか否かによっても扱いが異なります。
参考:民法(明治二十九年法律第八十九号)|e-Gov 法令検索
2-1. 雇用期間に定めのない者の退職(無期雇用)
正社員・パート、アルバイトを問わず、雇用期間の定めのない従業員は、民法上、退職の2週間前までに口頭や文章で申し出ればよいとされています。(民法第627条第1項)
そのため、仮に就業規則に規定されている期限を過ぎていても、会社側は退職の申し出を受理しなくてはいけません。
関連記事:労働基準法による退職届は何日前までに必要?法的ルールを解説
関連記事:労働基準法上は退職2週間前通知で大丈夫?スムーズな手続き方法
2-2. 雇用期間に定めのある者の退職(有期雇用)
雇用期間に定めのある従業員の場合、雇用契約の満了により労働契約が終了するため、更新をしなければその時点で退職となります。
また、基本的には雇用契約の途中で退職はできません。
ただし、労働者にやむを得ない事情(育児、介護、など)がある場合は、雇用契約を解消し退職できるとしています。(民法第628条)
やむを得ない事情がないにも関わらず、雇用契約を解消する場合は、会社との合意が必要です。
2-3. 雇用期間に定めのある者で1年以上経過している場合
雇用期間に定めのある者の中でも、例外的に途中退職が認められるケースがあります。
雇用契約期間が1年以上の場合、契約日期間の初日から1年を過ぎていれば、使用者に申し出ることでいつでも自由に退職できます。これを「契約期間の経過措置」といいます。(労働基準法 第137条)
2-4. 就業規則の規定よりも民法が優先される
就業規則で退職について規定していた場合も、手続き上は民法の規定が優先されます。
そのため、「退職の際は〇ヵ月前までに申し出ること」と書いていても、左記を理由に退職を引き留めることは法律上できません。
3. 労働基準法上の退職に関するトラブル
退職に関するトラブルでは、従業員に対して損害賠償請求ができるケースと、会社側が訴えられてしまいかねないケースがあります。
それぞれのケースを把握し、トラブルなく退職手続きをおこないましょう。
3-1. 有期雇用者が一方的に退職したケース
有期雇用者がやむを得ない理由もなく、会社との合意もないままに一方的に退職した場合、会社側は従業員に対して損害賠償請求が可能であると、民法上定められています。
これとは逆に、会社側に過失(賃金の未払いやパワハラ・セクハラなど)があった際は、従業員が一方的に退職したとしても、損害賠償を請求される可能性があります。
3-2. 無期雇用者が引継ぎをせず退職したケース
無期雇用者は法律上2週間前に申し出れば退職できますが、引継ぎなどを一切せずに辞めてしてしまった場合、会社側は従業員に対して損害賠償請求が可能です。
とはいえ、このようなトラブルを避けるためにも、退職方法を事前に従業員に周知するなどの対策も必要でしょう。
3-3. 試用期間中に退職希望があったケース
企業側は、試用期間中の教育にかかった費用や労力が無駄になることから、試用期間中に退職希望があった際は、損害賠償を考えることもありますが、無期雇用の従業員に対しては退職は基本的な自由であり、損害賠償請求は認められないのが実情です。
これは、試用期間中に退職希望があった場合でも、退職のルールは他の雇用形態と同様に適用されるためです。原則的には合意退職となり、就業規則に基づく対応が求められます。
したがって、このケースでは退職を受け入れるほか、選択肢がないため、試用期間中に退職者が多い場合は、今後のため教育方法や職場環境の改善を検討する必要があります。
3-4. 労働条件が異なっていたケース
実際に就業した結果、会社側が提示した労働条件と著しく異なっていた場合、従業員は労働契約を即時解除できます。
さらに、就職のため転居をしていたなら、14日以内申請により帰郷費用を会社側が負担しなくてはいけません。(労基法第15条)
著しく異なるとは、次のようなケースがあげられます。
- 無期雇用と記載して募集していたたにもかかわらず、採用時は有期雇用だった。
- 求人票に記載されている給与と採用時の給料が明らかにことなり、事前に説明も受けていない。
求人票の内容は曖昧に記載しないことや、入社時には労働条件など正しく説明し、合意を得る必要があります。
3-5. 会社側が違法な引き止めをしてしまったケース
会社側が退職する従業員に対して、「引継ぎが見つかるまで退職を認めない」「退職金を支払わない」などと無理に引き止めてしまうと、録音され、労働基準監督署や弁護士に相談されるケースも考えられます。
労働者が退職を申し出た際は、法律に則った対処をしましょう。
関連記事:労働基準法に退職金の規定はある?金額の決め方を詳しく解説
4. 労働基準法に則った退職者の有給休暇の取り扱い
また従業員が退職する際の有給休暇の取り扱いはどのように対応すべきなのか、労働基準法に則った正しい対応方法を解説します。有給休暇の取り扱いをきちんと行うことで、退職時のトラブルを避け、円満な職場環境を保つことができるでしょう。
4-1. 退職日までの有給休暇申請は拒否できない
退職日までの有給休暇の申請は、原則として拒否できません。労働基準法において、会社は従業員の有給休暇の取得を拒むことができるのは、時季変更権が行使される場合のみです。
この時季変更権とは、指定された日に有給休暇を取得することが事業運営に支障をきたす場合に、会社が他の日への変更を提案する権利を指します。しかし、退職日までの期間においては、従業員が有給休暇を申請した際に他の日に変更することは不可能であり、会社はその申請を受け入れる義務があります。
したがって、退職が決まった従業員に対しては、十分な引継ぎ期間が設けられていたとしても、申請された有給休暇を拒否することはできません。
4-2. 退職時の有給休暇の買取は可能
退職時の有給休暇の買取は可能です。労働基準法第39条により、原則として有給休暇は現実に与えられるものであり、払い戻しに関しては義務付けられてはいません。
しかし、退職する際に未消化の有給休暇が残っている場合、それを買い取ることは合法であり、権利を妨げるものではありません。よって、会社は従業員からの買い取りの要求を拒否する権利を有するため、適切な対応を行うことが求められます。
5. 2週間前に申し出れば、従業員は自由に退職できる
民法では、従業員は退職を希望する2週間前までに会社に申し出ることで、退職理由に関係なくいつでも自由に退職できると定められています。
しかしながら、2週間前に申し出れば全てのケースが認められるわけではなく、引継ぎをせずに退職するなど、会社に損失を与えた場合は損害賠償請求が可能となります。
退職トラブルを避けるためにも、就業規則の遵守を促すことや、信義誠実の原則に従わない場合の罰則などについて、事前に周知するとよいでしょう。
関連記事:労働基準法に定められた「退職の自由」の意味を分かりやすく解説
関連サイト:マイチョイス
労働基準法では、従業員が退職を申し出て2週間が経過すれば、雇用契約が終了するとされていますが、これに基づき会社独自のルールを定める場合もあります。
そこで今回は、労働基準法に定められた退職のルールから退職届のフォーマット、退職に際してよくあるトラブルの対処法まで網羅的に解説しています。
「退職に関するルールを定めたい」「トラブルを防止したい」という方は、ぜひこちらからダウンロードしてご活用ください。
人事・労務管理のピックアップ
-
【採用担当者必読】入社手続きのフロー完全マニュアルを公開
人事・労務管理公開日:2020.12.09更新日:2024.03.08
-
人事総務担当が行う退職手続きの流れや注意すべきトラブルとは
人事・労務管理公開日:2022.03.12更新日:2024.07.31
-
雇用契約を更新しない場合の正当な理由とは?通達方法も解説!
人事・労務管理公開日:2020.11.18更新日:2024.11.21
-
法改正による社会保険適用拡大とは?対象や対応方法をわかりやすく解説
人事・労務管理公開日:2022.04.14更新日:2024.08.22
-
健康保険厚生年金保険被保険者資格取得届とは?手続きの流れや注意点
人事・労務管理公開日:2022.01.17更新日:2024.07.02
-
同一労働同一賃金で中小企業が受ける影響や対応しない場合のリスクを解説
人事・労務管理公開日:2022.01.22更新日:2024.10.16
労働基準法の関連記事
-
派遣の就業条件明示書とは?明示事項や労働条件通知書との違いも解説
人事・労務管理公開日:2024.03.18更新日:2024.03.14
-
勤怠・給与計算
【2024年問題】物流・運送業界における勤怠管理の実態調査 時間外労働の上限規制について70%以上は「把握している」が「労働時間の集計が正しくできている」と回答した企業は30%以下
公開日:2023.11.20更新日:2024.11.15
【2024年問題】物流・運送業界における勤怠管理の実態調査 時間外労働の上限規制について70%以上は「把握している」が「労働時間の集計が正しくできている」と回答した企業は30%以下
勤怠・給与計算公開日:2023.11.20更新日:2024.11.15
-
労働基準法第36条に定められた36協定(時間外・休日労働)の内容や様式を解説
人事・労務管理公開日:2021.10.04更新日:2024.07.16