役員の勤怠管理は必要?従業員との違いや各種保険について解説
更新日: 2025.9.29 公開日: 2020.2.19 jinjer Blog 編集部

勤怠管理は従業員の出退勤情報について把握するためにおこなっていますが、役員には適用されるのか、いまいちわかっていないという担当者もいるかもしれません。ですが、「役員だから勤怠管理をしなくてよいだろう」という自己判断はNGです。
役員の勤怠管理についての必要性や適用範囲は、労働基準法や社会保険制度の規定により異なります。万が一、管理が必要であるのに管理をしなかった場合は、企業に対して何らかのペナルティが課せられる可能性もあるので注意しましょう。
ここでは、役員の役割や従業員との違い、勤怠管理の必要性などについて詳しく解説します。
目次
普段から労務・勤怠管理を徹底していたとしても、労働基準監督署による立ち入り調査は、いつ来るのか事前に分かるものではありません。
そのため、自社の管理方法に問題がないのか不安を抱えている担当者の方も多いのではないでしょうか。
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1. 役員の役割とは


役員には、企業内の業務執行や業務・会計の監査などの権限を持つ幹部職員のことを指しますが、どの役員にも企業の意思決定や経営を担う重要な役割があります。
いずれの役員職も、経営の中枢をなす役目を持ちながらも、その働き方や扱いは多様ですが 役員の定義や役割を理解することで、勤怠管理の必要性についても見えてきます。
ここでは、代表的な役職ごとの役割を解説します。
1-1. 取締役
取締役は、株式会社の経営を決定し、業務執行を監督する役割があります。株式会社を設立する際に必ず設置が求められる役職であり、取締役会を設置している場合には、取締役会のメンバーとして企業の業務遂行に関する意思決定に参加します。
また、社長=代表取締役と思われがちですが、必ずしも社長が代表取締役というわけではありません。代表取締役が取締役会のリーダーであることに対して、社長は従業員の中の最高権力者に該当します。
しかし、多くの企業では「代表取締役社長」として代表取締役と社長を兼任していることから、社長=取締役という認識が広まっていると考えられます。
1-2. 専務取締役
専務取締役は、取締役会の意思決定を具体的な経営執行に反映させる役職で、企業全体を統括し、自社の経営において代表取締役を補助する役割があります。
具体的な業務内容は企業によって異なりますが、「企業全体の監督と管理」や「経営方針の決定と執行」が主な業務です。企業全体の管理では、経営方針や事業戦略を達成をするために部署ごとの業務の流れを監督して、適切な指示を出します。
経営方針の執行では、社長の意思決定をサポートするナンバー2として、経営戦略や目標とする方針に対する意見を提案したり、経営戦略を執行するための具体的な指示を出すのが業務です。。
1-3. 常務取締役
常務取締役は特定の業務部門やプロジェクトの責任者として企業の業務執行を担う役職で、企業の自社業務を統括し、自社の経営において代表取締役・専務取締役を補助する役割があります。
常務取締役は「役員」の位置づけですが、経営執行をおこなう専務取締役と違い「業務」を執行するのが役割です。そのため、より現場に近い、「業務執行を担う役員」という特徴があります。
従業員の労働状況を把握し、業務効率をアップするマネジメントや、現場のリーダーを統率して意思決定をおこなう、役職者の指導・育成などが主な業務です。常務取締役も、勤怠管理や労働時間の把握は法律上義務付けられていません。
1-4. 監査役
監査役は株主総会で選出され、取締役・会計参与の職務を監査する役員で、取締役の職務執行や会計の適正性を監査する役割を持っています。
取締役とは異なり、業務執行の権限を持たず会社の経営の監視や内部統制の確認、不正が見つかった際には、取締役会に差止請求をしたり株主総会で報告をしたりするという重要な役割を持っているのが監査役の特徴です。
監査役には、業務監査・会計監査の権限があると定義している企業が一般的です。監査役を設置することで、企業経営の健全性を担保する役割を担っています。監査役は独立性が求められるため、労働者的な管理からは除外されるのが一般的です。
1-5. 執行役員
執行役員は、会社法上の役員ではなく、会社内部の役職として業務執行を担うポジションで従業員という扱いになります。「従業員でありながら経営にも関わる」という、特殊な立場となるのが執行役員の特徴です。
執行役員の役割は、取締役会で決定した経営方針に基づき、担当する部門の業務執行をおこなう最終責任者です。ただし、雇用に関する契約は企業によって異なるため、契約形態によって法的な扱いが違うというのも特徴といえるでしょう。
雇用契約を結んでいる執行役員については、労働者として勤怠管理の対象となる可能性がありますが、委任契約である場合は管理不要なので、契約内容の確認が必要です。
直接雇用であっても、社内ルールに則ったポジションなので、報酬体系も従業員と同じ定義となっています。そのため、取締役会へ参加する権利はありません。
2. 役員と従業員の違いとは


役員は労働者である従業員を雇用している側であることに対して、従業員は労働者として雇われている側というのが一番の違いです。
会社法では、役員は「使用人」と定義されていることから、役員と従業員の関係は使用人と労働者の関係です。
また、役員は会社法上の機関として、経営に関する意思決定や監督をする存在であり、会社との関係は委任契約に基づいています。一方、従業員は労働契約に基づいて会社に雇用され、労働基準法などの労働関係法令が適用されます。
そのため、従業員は役職や能力などに応じて企業から「給与」を受け取りますが、役員は株主総会で定められた任務遂行の対価として企業から「報酬」を受け取るというのも違いになります。
3. 常勤役員と非常勤役員について


「役員」の中でも違いが分かりづらいのが、「常勤役員」と「非常勤役員」ではないでしょうか。役員は勤務の実態により「常勤」と「非常勤」に分けられますが、「常勤」「非常勤」とついているため、勤務日数で判断するように思えるかもしれません。
しかし、実は常勤役員と非常勤役員の違いについて明確に定めている法律は存在しないのです。したがって、これらの役員の設置や業務内容は、各企業の判断に委ねられることになります。
一般的に、「常勤役員」は毎日出社し、会社の業務に継続的に従事する役員を指します。一方、「非常勤役員」は会議への出席や月数回の訪問程度にとどまる場合が多く、業務への関与は限定的です。ただし、いずれも雇用契約ではなく委任契約であるため、労働者には該当しません。
4. 役員に勤怠管理は必要?

従業員は給与制なので、勤務状況を管理する必要があります。
しかし、役員は委任契約もしくは準委任契約となるため、一般的な「お給料」はありません。そのため、役員の勤務管理に関して悩んでしまう担当者も多いのではないでしょうか。
ここでは、役員に勤務管理が必要なのかを解説していきます。
4-1. 役員には労働基準法と就業規則が適用されない
労働基準法や就業規則が適用されるのは、使用人と雇用契約を結んでいる労働者になります。役員は法人と委任契約を結んでいるため、労働者にはあたらないことから労働基準法と就業規則が適用されません。
つまり、労働時間や欠勤・遅刻などの管理をする必要がないので、勤怠管理が不要となっています。
役員には、労働基準法によって定められている労働時間や残業時間の上限はなく、休憩の付与、休日や有給休暇など休日休暇の付与もありません。
個別に契約している委任契約に従い、企業の経営を維持・向上させることが役員のミッションです。基本的には、働く時間などは決まっていないため、役員は勤怠管理をする必要がないということです。
4-2. 使用人兼務役員(有給役員)や役員から従業員になった場合には勤怠管理が必要
雇用契約のない役員には勤怠管理の必要はありませんが、委任契約と雇用契約の両方を結んでいる「使用人兼務役員(有給役員)」には、一部勤怠管理が必要になることがあります。
使用人兼務役員(有給役員)は「取締役営業部長」など、役員でありながら従業員としての役割ももっているため、委任契約と雇用契約が両方適用されます。したがって、使用者の指揮命令に基づいて実際の業務をおこなっており、労働者としての側面が強い場合は、有給休暇の付与などを含めた勤怠管理の必要性がでてきます。
また、役員から従業員になった場合、労働者として雇用契約を使用者と結ぶので、労働基準法や就業規則が適用されます。
そのため、以前使用人兼務役員(有給役員)や役員であったとしても現在従業員であるならば、勤怠管理が必要になります。
関連記事:勤怠管理とは?目的や方法、管理すべき項目・対象者など網羅的に解説!
5. 役員に対する労災、雇用、社会保険の適用について


役員の場合、保険関連をどのようにすればいいか迷う場面もあるでしょう。
ここでは役員の労災、雇用、社会保険の適用について解説します。従業員との違いをしっかりと理解していきましょう。
※ここで説明する役員とは、従業員として兼務していない役員であることを前提とします
5-1. 労災保険では役員は被保険者ではない
労災保険の正式名称は、労働者災害補償保険です。
労災保険は、雇用されている労働者が通勤途中もしくは仕事中に発生した出来事に起因した怪我や病気、障害、死亡したときに労働者もしくはその遺族に対して補償される制度です。
原則として、役員はこの制度の被保険者には該当しません。その理由は、役員は労働者ではなく、労働基準法の適用を受けないため、労災保険の対象外となるからです。
ただし、使用人兼務役員(有給役員)として実際に業務に従事している場合は、労働者性が認められる可能性があり、その際は労災保険の適用対象となる場合もあります。そのため、万が一労災保険を適用しなければならない事態がおこった場合は、業務内容や契約形態に基づいた判断が求められます。
5-2. 雇用保険では役員は被保険者ではない
雇用保険というのは、雇用されている労働者の生活および雇用の安定や就職の促進のために、失業した方もしくは教育訓練を受ける方に対して失業保険が給付される制度です。
制度の内容から分かるように、雇用されている労働者が対象となります。役員は雇用契約が存在しないため、雇用保険の加入対象にはならないのが基本です。
ただし、役員であっても実態として労働者性が強く、勤務時間や指揮命令下での業務が認められる場合には、被保険者として認められる可能性があります。判定には、職務内容や給与の支給形態など複数の要素を総合的に見る必要があります。
5-3. 社会保険では役員も被保険者となる
労災保険や雇用保険とは異なり、社会保険(健康保険および厚生年金保険)というのは役員か否かは関係なく、企業などに使用され働いた対価として報酬を得ている人が被保険者となります。
法人の役員は、会社に使用される者とは異なる立場であっても、報酬を受けて継続的に業務を行う限り、被保険者とみなされます。これは健康保険法および厚生年金保険法において、法人の代表者や取締役を含め、報酬の支払いを受ける者が原則加入義務を負うためです。
例外的に報酬のない非常勤役員などは適用除外となる可能性がありますが、基本的には役員であっても社会保険への加入が必要だということは覚えておきましょう。
5-4. 有給役員(使用人兼務役員)であれば各種保険の対象者となる
使用人兼務役員、いわゆる有給役員というのは、会社の経営に関与しながら従業員としての職務も果たす立場です。
このような役員には、従事する業務に対する労働者性が認められる範囲で、労災保険・雇用保険・社会保険のすべてが適用される可能性があります。例えば、営業部長や工場長などの肩書で日常的な業務を主導したり指揮をおこなったりしている場合、使用人としての実態があると判断され、保険加入が義務づけられます。
人事担当者は、該当する保険制度への適切な対応が必要となるため、有給役員(使用人兼務役員)の実務内容と報酬体系を正確に把握し、該当する保険制度への適切な対応が必要です。
6. 従業員が出向先で役員となる場合の勤怠管理


勤務形態の中には、「勤めている企業では従業員、出向する先の企業で役員として勤める」というケースがあります。このように、「基本的に従業員なので出向先では役員」という複雑な勤務形態の場合、勤怠管理は必要になるのでしょうか。
ここでは、出向先で役員になる従業員への勤怠管理について解説します。
6-1. 出向元では従業員であるため勤怠管理は必要
出向先で役員として勤務しても、出向元では従業員であるため、出向元側で勤務状況を把握しなければなりません。そのため、従業員が出向先で「何時に出社して何時に退社しているか」など出退勤記録を記録する必要があります。
ただし、出向で勤務先が別企業となる場合は、どのように勤務状況を管理するかを個別で決める形になります。出向元側での記録が難しいようであれば、出向先に管理を依頼するか、システムなどを利用して出向先で打刻処理をするなど、管理方法を決めておきましょう。
6-2. 給料の支払いは、出向元、出向先のどちらかになる
出向している従業員への給料については、出向元が支払う場合と出向先が支払う場合のどちらのパターンもあります。
出向している従業員に対し、出向元から給与を支払う場合は、出向元における雇用契約が継続していることを意味し、勤怠管理や保険加入の義務も出向元が担います。
出向先から出向料を支払う場合は役員報酬に該当するため、株主総会決議の範囲内の報酬であるかを確認しなければなりません。また、出向元が賞与を支給する場合は、賞与に該当する金額を出向先に請求することがあるため、事前に取り決めをしておきましょう。
このように契約形態の違いにより、勤怠や社会保険の取扱いが大きく変わるため、事前の契約確認が不可欠です。
7. 役員の勤怠管理の必要性は雇用形態でチェックしよう


役員に対する勤怠管理の必要性は、雇用契約の有無や業務内容によって異なります。
一般的な役員は労働者としての地位を持たないため、労働基準法の対象外となり、勤怠管理は不要です。しかし、使用人兼務役員や出向元における従業員としての立場が残っている場合には、労働者性が認められることから、勤怠管理や保険加入が必要になります。
また、社会保険に関しては、原則として役員も加入対象となるため、報酬の有無や勤務の実態を基に正確な判断が求められます。
人事・総務担当者は、各種契約書と業務の実態を確認し、役員かつ労働者であるかどうかを明確に区分したうえで、必要に応じた勤務管理体制を整備することが重要です。



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