勤怠管理における遅刻早退の控除の取り扱いや処理の方法について
「働き方改革」の推進にともない、企業は従業員の正確な労働時間の把握を求められています。そのような背景もあり、企業においては自社の勤怠管理の方法やルールを見直す機会が増えてきています。
今回は、正しい勤怠管理をおこなう上で、従業員が所定の労働時間に対して、遅刻・早退などを理由に労働時間が不足した場合の正しい対処法と処理する際のポイントを紹介していきます。
関連記事:勤怠管理とは?目的や方法、管理すべき項目・対象者など網羅的に解説!
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目次
1. 遅刻・早退や欠勤があった場合は給料から控除して良い
企業の勤怠管理の担当者は、従業員の遅刻早退などで所定の労働時間に満たなかった際に、「控除」という形で給与から不就労時間分の賃金を引きます。このような処理をするのは、「ノーワークノーペイの原則」があるからです。
ここでは、「給与から控除して良い」という処理方法のもととなっているノーワークノーペイの原則について、また「控除分」を「残業代」と相殺できるのかについて解説していきます。
1-1. ノーワークノーペイの原則とは
基本的な賃金の支払いの考え方は、労働基準法第24条で「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」とされています。
しかし、従業員が9時出勤のところを10時に出勤した場合、「9時から1時間分の労働力を提供していなくても、その分の賃金を支払う義務がある」ということではありません。「その全額」というのは、あくまでも「働いた時間分」だけです。
これが「ノーワーク・ノーペイ」の原則といわれているもので、従業員が労働をしていない時間は、企業も賃金を支払う必要はないということです。
遅刻だけでなく、早退や欠勤した場合もノーワークノーペイの原則が同じように適用されます。従業員が遅刻・早退、もしくは欠勤によって企業に労働力を提供していない時間分は、給与を支払わなくても問題がないので「控除」しても良いということになるのです。
関連記事:欠勤控除とは?該当するケースと計算方法を詳しく解説
1-2. 遅刻や早退は残業時間と相殺できる?
遅刻や早退をした場合、不労働の時間分の賃金を給与から控除するため、給与計算が複雑になってしまいます。そのため「残業時間と相殺できないか」と考えることもあるかもしれません。
しかし、原則としては相殺できないことがほとんどです。
例えば1時間遅刻をした場合、その日のうちに1時間の残業をすれば、法定労働時間である「1日8時間労働」になります。ですがこの場合、勤怠管理や給与計算のうえでは、1時間の遅刻分を控除するとともに、1時間の法定内残業分の賃金を支払う処理をします。そのため、給与の額面では相殺されているように見えますが、内訳を見ると個別に計算されているのです。
ただし、就業規則や雇用契約の内容によっては相殺が認められる場合もあります。必要に応じて確認してみましょう。
2. 遅刻早退や欠勤による控除を正しく運用する方法
遅刻・早退や欠勤に対して給与の控除をするには、就業規則に定めるなど必要な対応があります。就業規則の定めがない場合は法律違反となることもあるため、ここでは適切に控除を運用するためのポイントを紹介いたします。
2-1. 就業規則に遅刻・早退の基準と控除ルールを定める
「何分遅れたら遅刻か」といった遅刻・早退の基準は労働基準法に特に定めがないため、控除をおこなう場合はその方法やどれくらいの時間から遅刻・早退になるのかを就業規則に明記する必要があります。
たとえば、遅刻早退や欠勤はいつまでに、誰に、どのような手段で届け出るのか、当日に遅刻早退・欠勤をする場合はどのように連絡すればよいのかなどを定めます。後日、有給消化で対応可能か否かなどを記載してもよいでしょう。
遅刻早退などが常態化しないためにも、出勤時間の15分前には連絡する、遅刻早退届を提出する、連絡がなかった場合にはどのような対処をするなど、想定されるケースの対処法を就業規則に盛り込んでおくことをおすすめします。
2-2. 遅刻・早退による控除の計算方法を決める
労働基準法では賃金控除についての定めがないため、控除する金額をどのように算出するかも各企業で決めなくてはなりません。
一般的には、遅刻・早退の場合は1時間あたりの基礎賃金に遅刻早退した分の時間数を掛け合わせるて控除する方法、欠勤した場合は月給を所定労働日数で割って出した1日あたりの賃金を欠勤日数分控除する方法で処理をします。しかし、独自に減算や加算をおこなって、控除金額を決定する企業もあります。
必ず守らなくてはならない点は、15分や30分単位で切り捨てなどはせずに、1分単位で処理をすることです。丸め処理による控除は、労働基準法第24条に違反することになりかねないので注意しましょう。
また、賃金控除の計算の際に注意しておきたいのは、固定残業代の扱いです。基本的に固定残業代は控除計算には含みませんが、含めたとしても違法ではないため、その旨を就業規則に明記しておきましょう。
2-3. 従業員への周知を徹底する
遅刻・早退や欠勤による控除を就業規則に定めたら、必ず従業員への周知をおこないましょう。ただ変更があったことを伝えるだけではなく、遅刻・早退や欠勤する場合はどのように届け出をしたり連絡をしたりしなければならないのか、ルールをしっかりと説明します。
控除について明記した就業規則の周知の徹底をしておけば、ノーワークノーペイの原則により、労働力が提供されていない時間分の賃金を控除する処置が可能になります。
関連記事:勤怠控除とは?計算方法と注意するべきポイントを紹介
3. 勤怠管理における遅刻早退の控除にあたって注意すべき点
遅刻・早退による給与控除をおこなう際には注意しておきたいポイントがあります。労働基準法に照らし合わせてみると、違法になりかねない控除もあるため、しっかりと把握しておきましょう。
3-1. 控除は遅刻・早退の時間分だけおこなう
給与控除の大原則は、遅刻・早退があった時間分だけ、欠勤があった日数分だけおこなうことです。
ノーワーク・ノーペイの原則では、「労働が提供されなかった時間分は賃金を支払う必要がない」となりますが、反対に考えると「労働が提供された時間分は必ず賃金を全額支払わなければならない」ということになります。
したがって、労働しなかった時間以上に賃金を控除をしてはならず、たとえば10分の遅刻を15分の遅刻に切り上げて給与を控除することはできません。
そもそも、残業を含め労働時間は1分単位で管理・記録し、給与計算も1分単位でおこなわなければならないため、控除や給与の計算方法はしっかり確認しておきましょう。
3-2. 給料の控除と制裁のための減給は別物
遅刻早退や欠勤の控除と似た対処法で、「減給」というものがあります。控除と減給は同じものだと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、両者は異なる概念です。
控除は労働がなかった時間分の賃金を給与から差し引くことですが、減給は懲戒処分の一つであり、労働しなかった時間分を超えて賃金を減らすことが可能です。前者は労働基準法に特に定めはありませんが、後者は減給できる上限金額が労働基準法で定められています。
労働基準法第91条で「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。」と明記されています。そのため、減給する際はこの基準に則った対処をおこなうようにしましょう。
3-3. 遅刻・早退回数を欠勤扱いや有休消化にすることはできない
ノーワーク・ノーペイの原則や労働基準法第91条に照らし合わせて考えると、「3回遅刻したら欠勤扱いとして1日分の給与を減給する」「遅刻を5回したら有給休暇が1日減る」といったペナルティを設けることはできません。
たとえば、15分の遅刻を3回した場合に控除していいのは45分ぶんの賃金であって、1日分の賃金を減給することはできません。
また、有給休暇は遅刻回数によらず、雇い入れ日から半年が経過していて出勤率が8割以上であれば付与されるものであり、労働者の権利であるため、これを遅刻回数によってはく奪することは不当な取り扱いになります。
無断欠勤や遅刻早退の多い社員への制裁を考えるのであれば、人事考課や給与査定の項目として、遅刻・早退の回数や欠勤日数を加えるとよいでしょう。
ただし、欠勤した場合に事後申請で有給休暇とすることは違法ではありません。そのため、社内で有給休暇の事後申請を認めているのであれば、欠勤に対してそのルールが適用されていることを就業規則に明記しておくとよいでしょう。
3-4. 控除が適用されない給与体系もある
遅刻・早退や欠勤による賃金控除に関して自社で決めることができますが、控除が適用されない給与体系もあるため注意が必要です。
賃金控除が適用されないのは「完全月給制」です。完全月給制では遅刻早退や欠勤の有無にかかわらず、毎月定められた月給を支払う給与形態です。そのため、「完全月給制」の場合は遅刻をしても早退をしても、就業規則にその旨の記載がなければ賃金控除をおこなうことはできません。
今後、賃金の控除を実施する場合は、自社の給与形態が完全月給制でないかを確認してから制度を定めましょう。
4. 遅刻や早退の処理は勤怠管理システムがおすすめ
従業員の遅刻・早退などの勤怠管理の対応は、煩雑な作業になることが多く、計算ミスなども起こりやすくなります。勤怠管理の計算ミスは給与計算にも影響するので、1つ間違えるだけで膨大な修正作業が発生します。
このようなリスクをなくしてくれるのが、勤怠管理システムです。
勤怠管理システムを導入すれば、さまざまなインターフェイスで打刻ができ、労働時間を正確に把握することができます。また、遅刻や早退などの申請もネットワーク上で可能です。システムによっては、給与計算システムとの連携が可能なので、給与計算の手間を省くことで業務の効率化が期待できるでしょう。
このように、勤怠管理システムは勤怠の計算ミスのリスクを軽減するだけでなく、ほかのシステムと連携することでデータの一元管理が可能になり、煩雑な作業も軽減されるのです。
企業の勤怠管理者や経理の負担を減らす方法をお探しの場合は、勤怠管理システムの導入を検討することをおすすめします。
関連記事:勤怠管理システムとは?はじめての導入にはクラウド型がおすすめ
5. 遅刻・早退や欠勤の控除はルールをきちんと決めよう
従業員が遅刻早退をした際の対応を解説してきました。企業は、従業員に賃金の全額支払い義務がありますが、労働力を提供していない場合は「ノーワークノーペイ」の原則が適用されます。
しかし、賃金を控除する際には控除してはいけない手当や、1分単位で控除するなど運用するには注意すべきポイントもありますので気を付けましょう。
賃金控除に関しては、労働基準法に明記されていないため、企業の就業規則の整備が必要です。また、従業員の正確な労働時間を把握し、煩雑な給与計算を正確に処理するためにも勤怠管理システムの導入をおすすめします。
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