時季変更権の行使が認められるケースは?注意点を解説
更新日: 2025.5.29
公開日: 2025.5.29
jinjer Blog 編集部
「自社のケースは時季変更権が認められる?」
「時季変更権を行使する際に注意するべき点は?」
時季変更権とは、従業員が申請した有給休暇の取得時期を、業務上の都合に応じて企業が変更できる制度です。ただし、時季変更権の行使には「事業の正常な運営を妨げる場合」と厳格な条件があり、すべてのケースで認められるわけではありません。
本記事では、具体的にどのような状況で時季変更権が認められるのかを解説します。時季変更権が認められないケースや企業側が適切に対応するための注意点も紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
人事評価制度は、従業員のモチベーションに直結するため、適切に設計・見直し・改善をおこなわなければ、最悪の場合、従業員の退職に繋がるリスクもあります。
しかし「人事評価制度に改善したいが、いまの組織に合わせてどう変えるべきか悩んでいる」「前任者が設計した評価制度が古く、見直したいけど何から始めたらいいのかわからない」という方もいらっしゃるでしょう。
当サイトではそのような企業のご担当者に向けて「人事評価の手引き」を無料配布しています。
資料では、人事評価制度の基本となる種類の解説や、導入手順、注意点まで詳しくご紹介しています。自社の人事評価に課題感をお持ちの方は、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご確認ください。

1. 時季変更権とは
時季変更権とは、従業員が申し出た有給休暇の取得時期を、企業側の事情により変更できる権利です。
例えば、従業員が「この日に有給を取得したい」と申し出た際、企業は業務に支障が出ると判断した場合に別日への変更要求が可能です。
企業が時季変更権を行使できる条件は、労働基準法第39条5項で定められた「事業の正常な運営を妨げる場合」に限られていることに留意しましょう。
例えば、繁忙期や重要な業務の対応が重なり、どうしても従業員が必要なケースなどが当てはまります。
従業員の有給休暇取得の自由を尊重しつつ、企業運営とのバランスを図る制度です。適切に運用することで、企業と従業員の双方にとって納得感のある働き方が実現できるでしょう。
2. 時季変更権の行使が認められる主なケース
「事業の正常な運営を妨げる場合」に含まれ、企業が時季変更権の行使が認められるケースは主に以下の4つです。
- 代替人員を確保できない場合
- 同時期に有給休暇取得者が重なる場合
- 本人の出席が欠かせない業務がある場合
- 長期間連続で有給休暇を取得する場合
それぞれ、具体的に解説します。時季変更権がどのようなケースで認められる傾向があるのかを理解し、自社で時季変更権を行使する際の参考にしてください。
2-1. 代替人員を確保できない場合
時季変更権が認められる代表的なケースとして、代替人員の確保が難しい場合が挙げられます。担当業務を代替する人材がいない場合、従業員が有給休暇を取得している間は業務がストップするためです。
とくに、以下のような当該従業員のみ対応可能な専門的な知識やスキル、資格が必要な業務は、有給休暇の取得によって事業運営に支障をきたす恐れがあります。
- 情報システムの運用・管理業務
- チームで行動するクリエイティブ職
- 土木・建築分野の技術職
- 医師・薬剤師
- 士業(弁護士・税理士など)
- コンサルタント
このような業務はすぐに別の従業員に引き継ぐことが難しいため、企業側による時季変更権の行使が正当と判断される可能性が高いでしょう。
2-2. 同時期に有給休暇取得者が重なる場合
同じ時期に複数の従業員が有給休暇を取得しようとする場合も、時季変更権の行使が認められる可能性があります。一度に複数人が欠けることで、業務への影響が懸念されるためです。
ただ、単に有給休暇取得者が複数人いるだけでは理由として十分とはいえません。「ほかの従業員の負担増加」や「業務継続が困難」などの明確な影響がある場合に限り、時季変更権は認められます。
2-3. 本人の出席が欠かせない業務がある場合
時季変更権が認められるケースとして、本人の出席が不可欠な業務がある場合も挙げられます。以下のような業務は、当該従業員でなければ対応できないケースが多く、他の人では代替が困難です。
- 重要な商談
- 発言や決裁が求められる会議
- 社内外の研修で講師や指導役を務める
- 専門的な業務
上記のような場面では、従業員が不在になることで契約締結ができなくなる、進行が止まるなどの重大な支障が生じる可能性が否めません。
そのため、企業側が時季変更権を行使できる正当な理由とされることがあります。
2-4. 長期間連続で有給休暇を取得する場合
従業員が長期間連続して有給休暇を取得しようとする場合も、時季変更権が認められる可能性があります。進行中のプロジェクトから長期間抜けることで、業務の正常な進行に支障をきたすと判断されるためです。
とくに、事前に従業員から調整の相談がなく、突然長期間の有給休暇を申請してきた場合、企業側の対応が間に合わない可能性があります。
急な代替要員の確保や業務の引き継ぎは難しいため、時季変更権を行使できる可能性が高いでしょう。
3. 時季変更権の行使が認められない主なケース
時季変更権の行使が認められない場合は、主に以下のとおりです。
- 時季変更権の理由が漠然としている場合
- 産休や育休の期間と重なる場合
- 退職日までに有給休暇を消化しきれない場合
- 有給休暇の計画的付与制度(計画年休)を導入している場合
それぞれ順に解説します。
3-1. 時季変更権の理由が漠然としている場合
時季変更権の理由に具体性がなく漠然としている場合、時季変更権の行使は認められないことがあります。
時季変更権は、労働基準法にもとづき「事業の正常な運営を妨げる場合」にだけ行使が認められており、根拠は明確でなければなりません。
例えば、「繁忙期だから」「業務が増える可能性があるから」などの曖昧な理由だけでは、企業側の主張が通らない可能性があります。
正当な理由がないまま有給休暇の取得を拒否すれば、従業員の権利を不当に制限したことになりかねないため注意しましょう。
3-2. 産休や育休の期間と重なる場合
時季変更権は、産前産後休業や育児休業、介護休業など特別な休暇期間と重なる場合も行使できません。休暇期間中は、労働義務自体が存在しないためです。
例えば、産前・産後休業では、出産予定日の6週間前(多胎妊娠は14週間)から取得でき、産後8週間は就業させることが法律で禁止されています。
産休期間に有給休暇を取得するよう日程を変更することは、法律違反にあたります。
また、育児休業や介護休業も、休業期間中は労務提供の義務がなく、時季変更権を行使できないため注意しましょう。
3-3. 退職日までに有給休暇を消化しきれない場合
従業員が退職までに有給休暇を消化しきれない場合、時季変更権の行使ができません。
当該従業員が退職日するまでの有給休暇について変更を強制することは、自由に有給を取得する権利を不当に制限する行為とみなされるためです。
有給休暇は退職と同時に消滅するため、従業員は退職日までに有給休暇を消費する必要があります。企業は、退職予定の従業員が希望する日程で取得できるよう調整が必要です。
そのため、代替要員を確保したり、業務のスケジュールを調整したりなど、円滑な引継ぎができるよう事前の準備を徹底しましょう。
3-4. 有給休暇の計画的付与制度(計画年休)を導入している場合
時季変更権の行使が認められないケースとして、有給休暇の計画的付与制度を導入している場合が挙げられます。
計画的付与制度とは、労使協定により、有給休暇のうち5日を除いた部分の取得日をあらかじめ決定する仕組みです。(労働基準法39条6項)
計画的付与制度によって事前に決定した有給休暇は、労使で合意された日程であるため、企業の一方的な判断による変更はできません。
やむをえず取得日を変更する場合は、時季変更権ではなく、改めて労使協定の再締結をおこなう必要があります。
4. 時季変更権を行使する際の注意点
時季変更権を行使する際は、以下の3点に注意が必要です。
- 行使する理由・状況を明確に伝える
- 正当な理由なく濫用すると罰則を受ける可能性がある
- 従業員が行使を無視した場合は無断欠勤として処理できる
それぞれ詳細に解説します。どのような点に注意するべきかを理解して、時季変更権を適切に行使できるようになりましょう。
4-1. 行使する理由・状況を明確に伝える
時季変更権を行使する際は、従業員に理由や状況を具体的かつ明確に伝えることが不可欠です。理由を曖昧にしたまま休暇日程を変更すると、従業員の不満やトラブルにつながりかねません。
例えば「繁忙期だから」などの漠然とした理由だけでは、時季変更権の条件である「正常な運営を妨げる具体的な理由」としては不十分と判断されることがあります。
「納品前の対応が集中している」「担当者不在では業務が停滞する」など、客観的かつ具体的な事情を説明することが大切です。
また、口頭だけでなく書面などを用いて記録を残すことで、従業員の理解を得やすくなります。トラブルなく適切に処理することで、職場内の信頼関係の維持にもつながるでしょう。
4-2. 正当な理由なく濫用すると罰則を受ける可能性がある
時季変更権は、正当な理由がなければ、労働基準法違反として罰則を受ける可能性があります。業務上の必要性がないにもかかわらず、有給休暇の取得を妨げたり、不当に延期させたりする行為は違法です。
違反と判断された場合、労働基準監督署からの是正勧告や罰金の対象となります。従業員との信頼関係を損ない、企業イメージの低下や労働紛争にもつながりかねません。
実際、最高裁にて「通常の配慮をすれば代替勤務者の配置ができた」と判決を受け、損害賠償請求に発展したケースも存在します。
時季変更権の行使は、あくまで法律にもとづいた適正な理由がある場合に限っておこなうよう徹底しましょう。
4-3. 従業員が行使を無視した場合は無断欠勤として処理できる
時季変更権を適切に行使し、理由や背景を十分に説明したのにもかかわらず、従業員が指示に従わず出勤しなかった場合は、無断欠勤として対処可能です。
また、社内規定に沿って、必要に応じて懲戒処分なども検討できます。
ただし、対応を誤ると従業員との関係性が悪化したり、職場内の雰囲気に悪影響を及ぼしたりするおそれもあります。
トラブルが懸念される場合は、労務管理の専門家や社会保険労務士の助言を受けながら対応することで、不当解雇と判断されるリスク回避にもつながるでしょう。
5. 時季変更権について理解を深めて適切に行使しよう
時季変更権は、従業員の有給休暇取得と企業の業務運営を両立させるための重要な制度です。ただし、行使が認められるのは、事業の正常な運営に明確な支障があると判断される場合に限られます。
時季変更権を行使できるか判断に迷った際は、企業側の都合ではなく「業務上での影響度」を基準に冷静に見極めることが大切です。
従業員との信頼関係を損なわないためにも、時季変更権の条件や注意点を正しく理解して慎重に運用しましょう。
人事評価制度は、従業員のモチベーションに直結するため、適切に設計・見直し・改善をおこなわなければ、最悪の場合、従業員の退職に繋がるリスクもあります。
しかし「人事評価制度に改善したいが、いまの組織に合わせてどう変えるべきか悩んでいる」「前任者が設計した評価制度が古く、見直したいけど何から始めたらいいのかわからない」という方もいらっしゃるでしょう。
当サイトではそのような企業のご担当者に向けて「人事評価の手引き」を無料配布しています。
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