雇用契約と業務委託契約の違いは?混同しがちな請負契約や委任契約についても解説
企業が結ぶ業務遂行に関する契約には、使用者と労働者という主従関係のある「雇用契約」と主従関係のない「業務委託契約」の大きく2つにわけられます。
企業と雇用契約を結んだうえで働く人は、使用者の指揮命令の元で働く労働者として扱われます。そのため、労働基準法や労働契約法などの法律の保護を受けることができます。
一方で業務委託契約には主従関係がなく、事業者間の契約と扱われます。すなわち法律の保護は受けることができないのです。
法的な観点を踏まえると業務委託契約の方が不利のように感じますが、雇用契約と業務委託契約にはそれぞれメリットとデメリットがあります。
この後の章では両者の違いをさらに深堀したり、雇用契約と業務委託契約の見分け方について解説していきます。
雇用契約は法律に則った方法で対応しなければ、従業員とのトラブルになりかねません。
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目次
1. 雇用契約と業務委託契約の違いとは
雇用契約は民法で定義されている契約であり、使用者の指示に従う対価として賃金をもらう契約を指します。
その一方で、業務委託契約という言葉は法律で定義された契約形態ではなく、「請負契約」「委任契約」「準委任契約」の3つの契約形態をひとまとめにした呼び名です。いずれも業務の遂行やその成果、納品物に対して対価が発生します。
簡単にまとめると以下のような関係になります。
契約類型 | 概要 | |
雇用契約 | 当事者である一方(労働者)が相手方に使用されて労働に従事し、使用者である相手方は、その労働に対して賃金を与える約束をする契約 | |
業務委託契約 | 自社で対応できない業務を、他社やフリーランスなどの個人といった外部に任せる契約 | |
請負契約 | 発注者に依頼された仕事の完成や、成果物を納めることを目的とした契約 | |
委任契約 | 発注者に依頼された業務の提供または業務を提供したことによる成果を目的とした契約。法律行為が業務内容の対象。 | |
準委任契約 | 発注者に依頼された業務の提供または業務を提供したことによる成果を目的とした契約。書類作業や開発業務など、あらゆる事務業務(事実行為)が対象。 |
本章では、「雇用契約」と、業務委託契約として「請負契約」「委任契約」「準委任契約」の契約内容や特色について詳しく説明します。
1-1. 雇用契約とは
雇用契約とは、民法623条により定義されている労働供給契約の1つです。
具体的には、当事者である一方(労働者)が相手方に使用されて労働に従事し、使用者である相手方は、その労働に対して賃金を与える約束をする契約のことです。
雇用契約を締結した労働者は、労働保険や社会保険の加入や有給休暇の取得、使用者からの一方的な解雇の禁止など、労働法上の保護を受けることができます。
従業員の立場を守るために民法や労働基準法によってある程度のルールは定められていますが、契約成立に書面の作成が義務付けられているものではありません。
正社員であれば雇用契約書を作成することがほとんどですが、アルバイトやパートタイムなどの非正規雇用では、雇用時間や期間が短いため、雇用契約書が交付されないことも多いようです。
雇用契約書を取り交わさなかったために、労使間でのトラブルが発生する可能性があるため、アルバイトであっても労働法を遵守した雇用契約書を交わし、労働者が労働条件について理解・同意した上での雇用契約である証拠を確保しておきましょう。
関連記事:アルバイト採用でも雇用契約書は必要?書き方の基本や注意点
1-2. 業務委託契約とは
一方で、業務委託契約とは、自社で対応できない業務を、他社やフリーランスなどの個人といった外部に任せる契約です。
業務委託契約は、その名がつく法律はありません。「請負契約」「委任契約」「準委任契約」の総称と捉えられます。
そのため、請負契約や委任契約について記述されている民法に法的根拠を持つと考えられます。具体的には、民法第632条の「請負」や民法第643条の「委任」が該当すると考えられています。
「請負契約」「委任契約」「準委任契約」について、それぞれ解説します。
①請負契約とは
請負契約とは、発注者に依頼された仕事の完成や、成果物を納めることを目的とした契約のことです。
受託者には、依頼された仕事を完成させる義務(瑕疵担保義務)が発生し、完成した仕事や成果物を納品して、はじめて報酬が支払われます。ただし、発注者の意に沿った結果や成果が得られないと、報酬を請求できません。
請負契約と同様に他人の労務を利用する契約類型である「委任契約」や「雇用契約」との違いとしては、仕事の完成を目的とする点に請負契約の特色があります。
②委任契約とは
委任契約とは、発注者に依頼された業務の提供または業務を提供したことによる成果を目的とした契約のことです。
結果や成果を求められる請負契約に対し、仕事の過程が成果として認められるのが特色です。例えば、発注者の意に沿っていない結果であったとしても報酬の請求が可能なのです。
また、委任契約と似た契約類型に、 準委任契約というものがあります(民法656条)。
委託する業務内容が法律行為か否かという点が両者の違いで、それ以外は同じルールが適用されています。
民法では委任契約について、以下のように定義しています。
委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
委任契約は、法律行為を委託する契約であるのに対し、準委任契約は、事実行為(事務処理)の委託をする契約です。
法律行為とは、代理人契約などの契約を締結するための意思表示があげられます。
これに対して、事実行為(事務処理)とは、書類作業や開発業務など、あらゆる業務が想定されます。
1-3. 業務委託社員と契約社員の違い
契約形態に関連して、混同しがちな契約社員との違いについても解説します。
「契約形態」「雇用関係」「労働条件」の3つの観点で両者を比較してみましょう。
比較項目 | 業務委託社員 | 契約社員 |
契約形態 | 外部の専門家や企業に対して特定の業務やプロジェクトの委託を受けて行う形態です。 委託契約を結んで業務を受託し、契約に基づいて報酬を受け取ります。 |
企業と労働契約を結んで雇用される形態です。 労働契約に基づいて定期的に給与を受け取り、企業に所属する社員として業務に従事します。 |
雇用関係 | 委託契約を結ぶことで雇用されるわけではなく、委託契約の相手方として外部の企業や個人と取引を行います。 直接的な雇用関係は存在しません。 |
企業と直接的な雇用契約を結び、その企業の指示に基づいて業務を行います。 組織の一員として所属するため、一定の組織文化や規律に従う必要があります。 |
労働条件 | 報酬や納期などの業務に関連する条件が契約書に明確に記載され、契約内容に基づいて業務を遂行します。 | 正規の社員と比べて一部異なる場合がありますが、基本的な労働条件(労働時間、休暇、社会保険など)は労働法によって保障されています。 |
業務委託社員は外部の委託契約を受けて業務を行うため雇用関係は存在しない一方、契約社員は企業と直接的な労働契約を結び社内での業務を担当する形態となる点が両者の大きな違いとなります。
2. 雇用契約と業務委託契約の違いの見分け方
雇用契約と業務委託契約の大きな違いは「使用従属性」にあります。
使用従属性があれば雇用契約、なければ業務委託契約と判断できます。
雇用契約を結んだ場合、働く人は「労働者」となり、雇用主からの命令や指示にある程度の拘束力が生じ、指揮命令にしたがって労働することが求められます。かわりに雇用主からの不利益な命令や拘束を受けないように、労働基準法をはじめとする労働法の保護を受けることができます。
一方で業務委託契約は、ある特定の仕事を行った個人や事業者に対して依頼主が報酬を支払うという形態の契約です。
業務委託契約には雇用主と労働者という「使用従属性」はなく、2つの独立した個人もしくは事業者間の契約ということになります。
したがって、仕事を請け負った側は労働者ではないため、労働基準法など法律の保護を受けることはできません。
取引先という扱いになるため、企業側の就業規則に従わせるなど雇用主の指揮命令下に置くことはできません。
2-1. 使用従属性が認められる具体的な要素
使用従属性が認められる要素には主に以下のものがあります。
使用従属性が認められる具体的な要素 | 使用従属性の有無 |
①仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無 | 自由がない場合は使用従属性がある |
②業務内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無 | 業務遂行上の指揮関係が強い場合は使用従属性がある |
③勤務場所・勤務時間の拘束性の有無 | 拘束性がある場合は使用従属性がある |
④通常予定されている業務以外の業務の有無 | 業務がある場合は使用従属性がある |
⑤労務提供の代替性の有無 | 代替性がある場合は使用従属性がある |
⑥報酬の基準が結果基準か時間基準か | 時間基準の場合は使用従属性がある |
⑦欠勤時に、賃金が控除させるか | 控除される場合は使用従属性がある |
⑧残業手当がつくか否か | 着く場合は使用従属性がある |
⑨機械、器具、原材料の負担関係 | 会社負担である場合は使用従属性がある |
⑩就業規則・服務規律の適用がされるかどうか | 適用される場合は使用従属性がある |
⑪退職金制度、福利厚生制度の適用を受けることができるかどうか | 受けることができる場合は使用従属性がある |
⑫給与所得として源泉聴取がされるかどうか | 源泉聴取がされる場合は使用従属性がある |
たとえば仕事をするための勤務場所や勤務時間などの決まりがあるかどうかが関係します。
また、業務を行うにあたって指揮命令があるかどうかも重要な要素です。
どちらも勤務地や勤務時間、業務上の指示を労働者が拒否できないのであれば、使用従属性があるため、雇用契約であると考えられます。
就業規則や服務規律があったり、福利厚生制度の恩恵を受けていたりする場合も雇用契約であると判断されるでしょう。
さらに、仕事の成果に対してではなく、働いたことそのものに対して報酬が支払われている場合には雇用契約となります。
こうした要素を総合的に見て、契約の形態が判断されます。
3. 業務委託契約が雇用契約と判断された場合
さまざまな場面で「使用従属性」が認められる場合には、たとえ契約書に「業務委託契約書」と書かれていても雇用契約と見なされることが少なくありません。
雇用契約と見なされた場合、労働者に対しては労働基準法による保護が適用されます。
具体的には、以下のような労働法上の保護が適用されます。
- 雇用保険、健康保険、労災保険、厚生年金保険などの社会保険制度が利用できる
- 年次有給休暇を取得することができる
- 労働基準法に基づき、残業代を請求することができる
「雇用逃れ」という言葉をご存じでしょうか?
業務委託契約を利用して、自社の労働者として雇用するのではなく外部の業者として働かせることで、上記のような労働法上の保護による社会保険料や残業代、有給休暇を与える責任から逃れ、企業側の手間や費用を節約しようとする動きです。
このように使用従属性が認められないように業務委託契約を悪用することは違法行為につながりかねません。
政府や労働組合、社会的な監視組織などが監視し、雇用逃れを防止する取り組みも行われています。適切な方法で業務委託契約を利用しましょう。
ここまで雇用契約と業務委託契約の違いについて解説してきましたが、正しく理解するためには、そもそもとなる雇用契約の基礎知識や禁止事項などを知る必要があります。当サイトで、前述した内容や「口約束っていいの?」というようなよくある疑問などを解説した資料を無料で配布しておりますので、雇用契約について確認したい方は、こちらから資料をダウンロードしてご確認ください。
4. 雇用契約と業務委託契約は同時に結ぶことができる
雇用契約と業務委託契約は、同時に締結することができます。
アルバイトや契約社員などの雇用契約者が収入アップのため、業務時間外を利用して会社の仕事を請け負うという場合などに、雇用契約と業務委託契約を同時並行で締結することが多いです。
ここで注意すべき点は、業務委託契約が「雇用の延長」とみなされないように雇用契約の部分と業務委託の部分を切り離すことが重要です。
業務委託契約で依頼している業務範囲と雇用契約で依頼している業務範囲が重複すると、わざわざ別契約を結んだ意味がなくなってしまいます。
また、雇用契約が時間基準で報酬が発生するのに対して、業務委託契約は業務内容や成果物に対して報酬が発生するので注意が必要です。
4-1. 自営型(非雇用型)テレワーク
テレワークの普及に伴い、これまで子育てや介護など時間や空間の制限があり中々働く機会のなかった人々が、パソコンなどの情報通信機器を用いて場所にとらわれず働くことができるようになりました。また、副業として本業のない休日にテレワークとして働く人も増えています。このような就労を自営型(非雇用型)テレワークと呼びます。
インターネットを通じた仕事の仲介事業であるクラウドソーシングの普及などから気軽に受発注が行える世の中になりました。
気軽にできるようになったからこそ、どのような契約内容のもと受発注が行われているのか正しく理解せずに、受注側・発注側問わずトラブルも増えている傾向があります。
政府は自営型テレワークの適切な実施のためのガイドラインを出しています。
自社の社員で、自営型テレワークの個人事業主へ発注する際や、自営型テレワーク(副業)を希望する社員が出てきた際は、契約形態についてしっかりと確認をとりましょう。
関連記事:自営型テレワークの適切な実施のためのガイドライン|厚生労働省
5. 雇用契約と業務委託契約の違いは使用従属性で判断しよう
雇用契約と業務委託契約は雇用主と労働者の間に使用従属性という形で大きな違いがあります。
どちらが適しているかはどのような製品・サービスを提供しているかによって異なるため、雇用主がよく検討したうえで判断しなければなりません。
製品やサービスの質、コストなどを総合的に考慮して、よりメリットの大きな契約を選ぶようにしましょう。
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