同一労働同一賃金で交通費はどうなる?判例や課税について解説
更新日: 2025.11.21 公開日: 2022.1.28 jinjer Blog 編集部

同一労働同一賃金の原則は、基本給や手当だけでなく、交通費(通勤手当)の取り扱いにも関係します。
企業が、契約社員や派遣社員などの非正規労働者を雇用する際には、正社員との間に不合理な待遇差がないようにしなければなりません。そのため、交通費の支給方法や金額設定においても、その職務内容や通勤手段に応じて、公平性をもって対応することが求められます。
本記事では、交通費の定義や対象範囲、支給に関する注意点、そして関連する判例や税務上の取り扱いについて詳しく解説します。
▼そもそも「同一労働同一賃金とは?」という方はこちら
同一労働同一賃金とは?適用された理由やメリット・デメリットについて
目次
意図せず不合理な待遇差を放置してしまうと、思わぬ労使トラブルに発展する可能性があります。
企業の信頼性を守るためにも、客観的な視点での定期的な見直しが不可欠です。
◆押さえておくべき法的ポイント
- 「均衡待遇」と「均等待遇」の判断基準
- 企業に課される「待遇に関する説明義務」の範囲
- 万が一の紛争解決手続き「行政ADR」の概要
最新の法令に対応した盤石な体制を構築するために参考になりますので、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. 同一労働同一賃金での交通費の取り扱い


同一労働同一賃金の原則は、通勤手当(交通費)などの手当にも適用されます。
厚生労働省のガイドラインでは、職務内容や責任、配置の変更範囲などが同一であれば、通勤手当の支給に不合理な差を設けてはならないとされています。そのため、企業は就業形態にかかわらず、客観的かつ合理的な基準で交通費を支給しなければなりません。
ここでは、同一労働同一賃金の原則における交通費について解説します。
1-1. 交通費に含まれるもの
企業で使われる「交通費」という言葉には、次の2つのどちらか、あるいは両方を指すことが多いです。
- 通勤手当
- 旅費交通費
通勤手当は「労働者の自宅~労働場所(会社や事業場など)の移動にかかる費用」のことを指します。旅費交通費は、会社からの業務命令や営業などで「労働場所~訪問、出張先の移動にかかる費用」です。
同一労働同一賃金での交通費の取り扱いで問題になりやすいのは、前者の通勤手当です。とくに派遣労働者や有期雇用労働者の通勤手当は、トラブル事例が多いため不当な格差をつけないように注意してください。
1-2. 同一労働同一賃金の交通費は契約社員や派遣にも適用される
同一労働同一賃金ガイドラインでは、賃金だけでなく「待遇も正規雇用と非正規雇用の間に不合理な格差があってはいけない」とされています。この指針に従うと、非正規雇用労働者に対しても、正社員との間に不合理な差がない条件での通勤手当の支給が必要です。
非正規雇用労働者の中でも、特に契約社員や派遣労働者においては、同一労働同一賃金施行前までは通勤手当が支払われないことがほとんどでした。「交通費は給与に含む」という条件を見た記憶がある人や、実際にそのように規定した経験がある人も多いはずです。
しかし、同一労働同一賃金が導入後は、非正規雇用労働者にのみ「交通費は給与に含む」といった条件をつけることは違法になりました。
ただし、就業規則において正規雇用労働者に通勤手当の支給がない場合は、非正規雇用労働者に対しても支給する必要はありません。
もし、正規雇用労働者には通勤手当を支給するにもかかわらず、非正規雇用労働者には支給しないといった待遇差を設ける場合は、不合理な待遇差ではないことを説明する説明責任が生じることを覚えておきましょう。
当サイトでは、上述した不合理な待遇差ではないことを説明する際の、具体的な理由や不合理とみられた際の適切な対応などを解説した資料を無料で配布しております。
通勤以外の手当や基本給、賞与などもまとめてあるため、同一労働同一賃金の内容に関して不安な点があるご担当者様は、こちらから「同一労働同一賃金 対応の手引き」をダウンロードしてご確認ください。
2. 同一労働同一賃金の交通費(通勤手当)支給方法と注意点


交通費は支給金額だけでなく支給方法についても、正社員と非正規社員間で合理的な差があるかどうかが問題となります。
例えば、通勤距離や交通手段が同じであるにもかかわらず、非正規社員にのみ定期代を支給しない、あるいは支給上限を設けるなどの差は、厚生労働省のガイドラインでも問題視される可能性があります。そのため、実際の業務内容や通勤実態に基づいて、支給ルールを整備することが重要です。
ここでは、支給する方法や支給する際の注意点を解説します。
2-1. 通勤手当の支給方法
通勤手当の支給をおこなう場合は「全額支給」「一部支給」「一律支給」のいずれかの形態をとります。同一労働同一賃金では、この支払い形態を正規雇用と非正規雇用問わず同じにしなくてはいけません。
パートタイムや契約社員の場合は、同一労働同一賃金ガイドラインに沿って会社の規則に則り支給すればよいのですが、派遣労働者の場合は少し複雑になります。複雑になる理由は、派遣会社が「派遣先均等・均衡方式」「労使協定方式」のどちらを採用しているかによって、支払い方法が異なるからです。
【派遣先均等・均衡方式の場合】
均等・均衡方式では、派遣先企業と待遇を同等にしなくてはいけません。そのため、通勤手当も派遣先の支給条件・支給方法に則って支給します。
前述した全額支給・一部支給・一律支給の違いや、計算方法など、すべての項目を派遣先と同じにして計算する必要があるため、労働者の派遣先が変わるたびに再計算が必要です。
【労使協定方式の場合】
労使協定方式では、2つの形式から通勤手当の支払い規則を決めます。
- 1時間当たり73円(2025年10月時点)の支給(時給に73円以上加算する)※
- かかった通勤手当を実費として支給する
これは派遣元が定めるもので、労使協定によって上記2つの形式のどちらか1つにしぼることもできますし、労使協定によって両方を採用することも可能です。
※令和8年度通達の数値は79円(+6円)
関連記事:労使協定方式や同一労働同一賃金における派遣会社の責任について
2-2. 同一労働同一賃金で交通費(通勤手当)を支給する際の注意点
同一労働同一賃金で通勤手当を支給する際は以下の点に注意する必要があります。
-
正規雇用と非正規雇用労働者の間で、通勤手当の上限に不合理な格差を作らない
-
近い距離に住む労働者の間で通勤手当に差がある場合、その根拠を用意しておく
-
通勤手当の支給対象外となる条件を明確にしておく
労働者側から説明を求められた際に、通勤手当の計算式や距離の測定方法などを、明確に提示できるようにしておくことが重要です。特に正規雇用と非正規雇用の労働者が、近い距離に住んでいる場合は注意しましょう。その理由は、住所が近いのに通勤手当に差があると不満を持たれやすいからです。通勤手当を教え合うということはあまりないですが、定期券や話の弾みで発覚する可能性があることも考慮しておきましょう。
▼その他の手当てがどうなるか知りたい方はこちら
同一労働同一賃金で各種手当はどうなる?最高裁判例や待遇差に関して
3. 同一労働同一賃金の交通費(通勤手当)に関連する判例


交通費に関する同一労働同一賃金の考え方は、複数の判例で争点となってきました。特に、正社員と非正規社員との通勤手当における支給格差は、「不合理な待遇差」に該当するかが裁判で問われるケースがあります。最高裁判決や地裁レベルでも、業務内容や通勤実態に差がなければ、手当の支給差を認めないとする判断が増えています。
ここでは、実際におこなわれた裁判の判例を2つ紹介します。
3-1. 判例①契約社員と正社員の手当の格差
1つ目の事件は、契約社員のドライバーが、正社員との間に各種手当の差があることを訴えたものです。
- 無事故手当
- 作業手当
- 交通費(通勤手当)
- 皆勤手当
- 休職手当
以上の手当てにある格差が争点でした。
このうち、住宅手当以外は「格差が不合理である」と判断され、労働契約法20条に違反するとされました。
契約社員と正社員との間に、労働内容の差はなく、通勤にかかる費用にも差がでるとはいえないことから、通勤手当の格差は不合理とされました。同じ理由により、無事故手当や作業手当など、ほとんどの待遇格差は不合理であると判決が下されています。
住宅手当が不合理ではないとされた理由には、正社員には転勤があるのに対し、契約社員には転勤がないとされていることが挙げられました。
3-2. 判例②非正規雇用の通勤手当が正規雇用の半分
2つ目の事件は非正規雇用労働者の通勤手当が、正規雇用労働者の半分であることが労働契約法20条に違反すると労働者側が訴えたものです。
先ほどと同様に、雇用形態の違いによって通勤に必要な費用が異なる根拠があるとは認められず、この事件でも通勤手当の格差は不合理であると判決が下されています。
この事件では、労働場所が市場であったため、多くの労働者が自家用車で通勤しており、訴えを起こしたパートタイム労働者もそのうちの1人です。そのため、通勤方法が自家用車であることや、通勤経路にも、交通費を正規雇用労働者の半分にする合理性は認められないとされました。
4. 同一労働同一賃金の交通費と税金の関係


交通費(通勤手当)の支給は、税務上の取扱いにも影響します。企業が支給する通勤手当は、一定の非課税限度額内であれば所得税の課税対象とはなりません。また、企業側としては交通費を福利厚生費として損金算入できるケースが多いため、税務処理上のメリットもあります。
ただし、支給方法や金額が適正でない場合、課税対象になる可能性もあるため注意が必要です。
ここでは、交通費にかかる税金について解説します。
4-1. 労働者側の交通費(通勤手当)は基本的に非課税
労働者が受け取る各種手当は、所得税の対象になります。しかし、通勤手当だけは異なり、基本的には非課税です。
ただし、自家用車や自転車の通勤手当(駐車場代含む)は距離で、電車・バスの場合は金額で、非課税になる限度額が定められています。
また、支払い方法でも課税に違いがあります。
通勤手当が非課税となるのは、所得税法上の非課税限度額内で、給与とは別に通勤に必要な費用として支給される場合のみです。単に給与に含めて支給され、その内訳が明確でない場合や、非課税限度額を超える場合は課税対象となります。また、所得税の課税額や扶養内で受け取れる給与限度額にも影響しますので、給与と交通費は分けた方が喜ばれます。
4-2. 事業者側が支払う交通費は基本的に経費にできる
企業が労働者に支給する交通費(通勤手当)は、通常、損金算入できる費用として取り扱われます。法人税法上、事業の遂行に必要な経費であり、福利厚生費や旅費交通費として処理されます。
ただし、経費にできるのは所得税の非課税限度額までで、実態にそぐわない高額な通勤手当や、実際に通勤していない者への支給は、税務上問題となることがあります。また、同一労働同一賃金の観点からも、不合理な支給差がある場合には税務調査で指摘される可能性もあるので注意しましょう。
5. 同一労働同一賃金は交通費にも適用される


同一労働同一賃金の原則は、基本給だけでなく交通費(通勤手当)にも適用されます。正社員と非正規社員で業務内容や責任範囲が同等である場合、通勤条件に応じて合理的かつ公平な支給が必要です。
判例でも、実質的な勤務実態に基づいて支給差の有無が判断されており、企業側の基準が問われるケースが増えています。また、交通費は税務上も非課税扱いや経費計上といったメリットがありますが、支給方法や基準に不備があるとトラブルの原因にもなるので注意してください。
企業は、同一労働同一賃金の原則に沿った制度設計を今一度見直し、適正な運用をおこないましょう。



意図せず不合理な待遇差を放置してしまうと、思わぬ労使トラブルに発展する可能性があります。
企業の信頼性を守るためにも、客観的な視点での定期的な見直しが不可欠です。
◆押さえておくべき法的ポイント
- 「均衡待遇」と「均等待遇」の判断基準
- 企業に課される「待遇に関する説明義務」の範囲
- 万が一の紛争解決手続き「行政ADR」の概要
最新の法令に対応した盤石な体制を構築するために参考になりますので、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
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