同一労働同一賃金で交通費はどうなる?判例や課税について解説
同一労働同一賃金は、賃金だけでなく待遇面でも正規雇用と非正規雇用の間で格差を作ってはいけないことになっています。
交通費も手当のひとつとして数えられているため、取り扱いには注意が必要です。正しく支給し、同一労働同一賃金の指針を守り、従業員から不満が出ないように注意しなくてはいけません。
本記事では同一労働同一賃金での交通費支給について、判例や税金の話を交えて解説します。
▼そもそも「同一労働同一賃金とは?」という方はこちら
同一労働同一賃金とは?適用された理由やメリット・デメリットについて
目次
同一労働同一賃金に罰則はありませんが、放置すると損害賠償のリスクが高くなります。
同一労働同一賃金とは、「正社員と非正規社員を平等に扱う概念」のように認識されていても、具体的にどのような対策が必要かわからない方も多いのではないでしょうか?
本資料では、どのような状態が「不平等」とみなされうるのかや、企業が対応すべきことを4つの手順に分けて解説しております。 自社でどのような対応が必要か確認したい方は、こちらから資料をダウンロードしてご確認ください。
1. 同一労働同一賃金での交通費の取り扱い
同一労働同一賃金の導入により、正規雇用と非正規雇用で、賃金の格差ができることは違法になりました。その中で交通費はどのように取り扱われるのか、分かりやすく解説します。
1-1. 交通費に含まれるもの
企業で使われる「交通費」という言葉には、次の2つのどちらか、あるいは両方を指すことが多いです。
- 通勤手当
- 旅費交通費
通勤手当は「労働者の自宅~労働場所(会社や事業場など)の移動にかかる費用」のことを指します。旅費交通費は、会社からの業務命令や営業などで「労働場所~訪問、出張先の移動にかかる費用」です。
同一労働同一賃金での交通費の取り扱いで問題になりやすいのは、前者の通勤手当です。とくに派遣労働者や有期雇用労働者の通勤手当は、トラブル事例が多々あります。
1-2. 非正規雇用労働者にも交通費(通勤手当)の支給は必要
同一労働同一賃金ガイドラインでは、賃金だけでなく「待遇も正規雇用と非正規雇用の間に格差があってはいけない」とされています。この指針に従うと、非正規雇用労働者に対しても、正社員と同じ条件での通勤手当の支給が必要です。
非正規雇用労働者の中でも、特に派遣労働者においては、同一労働同一賃金施行前までは通勤手当が支払われないことがほとんどでした。「交通費は給与に含む」という条件を見た記憶がある人や、実際にそのように規定した経験がある人も多いはずです。
同一労働同一賃金が導入された後からは、このような条件を派遣労働者にのみつけることは違法になりました。
就業規則により、正規雇用労働者にも通勤手当の支給がない場合は、非正規雇用労働者に対しても支給する必要はありません。
もし、正規雇用労働者には通勤手当を支給するにもかかわらず、非正規雇用労働者には支給しないといった待遇差を設ける場合は、不合理な待遇差ではないことを説明する説明責任が生じることを覚えておきましょう。
当サイトでは、上述した不合理な待遇差ではないことを説明する際の、具体的な理由や不合理とみられた際の適切な対応などを解説した資料を無料で配布しております。
通勤以外の手当や基本給、賞与などもまとめてあるため、同一労働同一賃金の内容に関して不安な点があるご担当者様は、こちらから「同一労働同一賃金 対応の手引き」をダウンロードしてご確認ください。
2. 同一労働同一賃金の交通費(通勤手当)支給方法と注意点
同一労働同一賃金で非正規雇用労働者に通勤手当を支給する方法と、支給する際の注意点を解説します。トラブル防止にぜひお役立てください。
2-1. 通勤手当の支給方法
通勤手当の支給をおこなう場合は「全額支給」「一部支給」「一律支給」のいずれかの形態をとります。同一労働同一賃金では、この支払い形態を正規雇用と非正規雇用問わず同じにしなくてはいけません。
パートタイムや契約社員の場合は、会社の規則に則って支給すればよいのですが、派遣労働者の場合は少し複雑になります。派遣会社が「派遣先均等・均衡方式」「労使協定方式」のどちらを採用しているかによって、支払い方法が異なるからです。
【派遣先均等・均衡方式の場合】
均等・均衡方式では、派遣先企業と待遇を同等にしなくてはいけません。そのため、通勤手当も派遣先の支給条件・支給方法に則って支給します。
前述した全額支給・一部支給・一律支給の違いや、計算方法など、すべての項目を派遣先と同じにして計算する必要があるため、労働者の派遣先が変わるたびに再計算が必要です。
【労使協定方式の場合】
労使協定方式では、2つの形式から通勤手当の支払い規則を決めます。
- 1時間当たり72円(2024年4月時点)の支給(時給に74円以上加算する)
- かかった通勤手当を実費として支給する
これは派遣元が定めるもので、どちらか1つにしぼることもできますし、労使協定によって両方を採用することも可能です。
関連記事:労使協定方式や同一労働同一賃金における派遣会社の責任について
2-2. 同一労働同一賃金で交通費(通勤手当)を支給する際の注意点
同一労働同一賃金で通勤手当を支給する際は以下の点に注意する必要があります。
- 正規雇用と非正規雇用労働者の間で、通勤手当の上限に不合理な格差を作らない
- 近い距離に住む労働者の間で通勤手当に差がある場合、その根拠を用意しておく
- 通勤手当の支給対象外となる条件を明確にしておく
労働者側から説明を求められた際に、通勤手当の計算式や距離の測定方法などを、明確に提示できるようにしておくことが重要です。
特に正規雇用と非正規雇用の労働者が、近い距離に住んでいる場合は注意しましょう。住所が近いのに、通勤手当に差があると不満を持たれやすいからです。通勤手当を教え合うということはあまりないですが、定期券や話の弾みで発覚しないとも限りません。
▼その他の手当てがどうなるか知りたい方はこちら
同一労働同一賃金で各種手当はどうなる?最高裁判例や待遇差に関して
3. 同一労働同一賃金の交通費(通勤手当)に関連する判例
通勤手当が絡む案件で、同一労働同一賃金に違反すると判決が下された判例をご紹介します。
3-1. 判例①
1つ目の事件は、契約社員のドライバーが、正社員との間に各種手当の差があることを訴えたものです。
- 無事故手当
- 作業手当
- 交通費(通勤手当)
- 皆勤手当
- 休職手当
以上の手当てにある格差が争点でした。
このうち、住宅手当以外は「格差が不合理である」と判断され、労働契約法20条に違反するとされました。
契約社員と正社員との間に、労働内容の差はなく、通勤にかかる費用にも差がでるとはいえないことから、通勤手当の格差は不合理とされました。同じ理由により、無事故手当や作業手当など、ほとんどの待遇格差は不合理であると判決が下されています。
住宅手当が不合理ではないとされた理由には、正社員には転勤があるのに対し、契約社員には転勤がないとされていることが挙げられました。
3-2. 判例②
2つ目の事件は非正規雇用労働者の通勤手当が、正規雇用労働者の半分であることが労働契約法20条に違反すると労働者側が訴えたものです。
先ほどと同様に、雇用形態の違いによって通勤に必要な費用が異なる根拠があるとは認められず、この事件でも通勤手当の格差は不合理であると判決が下されています。
この事件では、労働場所が市場であったため、多くの労働者が自家用車で通勤しており、訴えを起こしたパートタイム労働者もそのうちの1人です。そのため、通勤方法が自家用車であることや、通勤経路にも、交通費を正規雇用労働者に半分にする合理性は認められないとされました。
4. 同一労働同一賃金の交通費と税金の関係
交通費を支給する場合、受け取る側である労働者も、支払う側である事業者も税金に変化があります。それぞれの交通費に関連する税金をみていきましょう。
4-1. 労働者側が受け取る交通費(通勤手当)は基本的に非課税
労働者が受け取る各種手当は、所得税の対象になります。しかし、通勤手当だけは異なり、基本的には非課税です。
ただし、自家用車や自転車の通勤手当(駐車場代含む)は距離で、電車・バスの場合は金額で、非課税になる限度額が定められています。
また、支払い方法でも課税に違いがあります。
給与の一部として支払う場合は課税対象になり、交通費として分ける場合は非課税です。所得税の課税額や扶養内で受け取れる給与限度額にも影響しますので、給与と交通費は分けた方が喜ばれます。
4-2. 事業者側が支払う交通費は基本的に経費にできる
事業者側が支払う交通費は、通勤手当・旅費交通費のどちらも経費として計上できます。ただし、経費にできるのは所得税の非課税限度額までです。
事業者側・労働者側双方の節税に繋がりますので、交通費は「おいしい経費」といわれることが多いです。
5. 交通費は支給が基本!企業側も節税ができるお得な経費
交通費はほとんどの場合が「労働をおこなうために必要な経費」として認定されます。労働者側が提示した通勤手段や経路を精査する必要はありますが、正規雇用・非正規雇用の垣根なく同じ条件下での支給が正解です。
交通費支給による損金は、経費として計上できます。これは通勤手当・旅費交通費どちらにも当てはまるものです。税金対策も兼ねて、適切な金額を支給しましょう。
同一労働同一賃金に罰則はありませんが、放置すると損害賠償のリスクが高くなります。
同一労働同一賃金とは、「正社員と非正規社員を平等に扱う概念」のように認識されていても、具体的にどのような対策が必要かわからない方も多いのではないでしょうか?
本資料では、どのような状態が「不平等」とみなされうるのかや、企業が対応すべきことを4つの手順に分けて解説しております。 自社でどのような対応が必要か確認したい方は、こちらから資料をダウンロードしてご確認ください。
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