同一労働同一賃金における福利厚生の待遇差や実現するメリットとは
更新日: 2025.11.21 公開日: 2022.1.29 jinjer Blog 編集部

同一労働同一賃金の原則は、賃金だけでなく福利厚生にも影響します。正社員と非正規雇用の労働者が、同じ職務内容や責任を担っている場合、「待遇差が不合理であってはならない」と厚生労働省のガイドラインでも示されています。
これにより、通勤手当や住宅補助、食堂利用などの福利厚生についても、平等性が求められる場面が増えています。企業は制度の見直しや整備をおこなう必要があり、対応を誤ると法的リスクを伴う可能性もあります。
本記事では、同一労働同一賃金の基本的な考え方と、福利厚生への影響、対応例やメリットについて詳しく解説します。
▼そもそも「同一労働同一賃金とは?」という方はこちら
同一労働同一賃金とは?適用された理由やメリット・デメリットについて
目次
意図せず不合理な待遇差を放置してしまうと、思わぬ労使トラブルに発展する可能性があります。
企業の信頼性を守るためにも、客観的な視点での定期的な見直しが不可欠です。
◆押さえておくべき法的ポイント
- 「均衡待遇」と「均等待遇」の判断基準
- 企業に課される「待遇に関する説明義務」の範囲
- 万が一の紛争解決手続き「行政ADR」の概要
最新の法令に対応した盤石な体制を構築するために参考になりますので、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. 同一労働同一賃金とは


同一労働同一賃金とは、パートタイム・有期雇用労働者と正社員、または派遣労働者と派遣先の正社員との間で、業務内容や責任、成果などが同等であれば、賃金や手当、福利厚生において不合理な待遇差を設けてはならないという考え方です。
「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)」および「労働者派遣法」の改正でこの原則が法制化され、短時間・有期雇用労働者と正社員との間の格差是正が求められるようになりました。
厚生労働省のガイドラインでは、基本給だけでなく手当や福利厚生も対象とされているため、企業はこれらの手当や待遇に格差がないか確認する必要があります。格差があると、場合によっては従業員から訴えられることもあるので、「同一労働同一賃金」を軽視しないようにしましょう。
2. 同一労働同一賃金は福利厚生にも適用されるのか


同一労働同一賃金では、派遣社員や契約社員といった非正規雇用者の福利厚生についても、職務内容や責任などが同等であれば、正社員との間で不合理な待遇差を設けてはならないと定めています。
実際に厚生労働省が公開する同一労働同一賃金のガイドラインにおいて、「食堂、休憩室、更衣室といった福利厚生施設の利用、転勤の有無等の要件が同一の場合の転勤者用社宅、慶弔休暇、健康診断に伴う勤務免除・有給保障については、同一の利用・付与をおこなわなければならない。」と記載があります。
また、病気休職や法定外の有給休暇やその他の休暇についても、業務内容等の違いに応じて不合理でない待遇を用意しなければならないと記載されているため、待遇差を解消する場合は福利厚生面も一緒に検討しなおすことが大切です。
同一労働同一賃金が導入されたことで、正社員のみが利用できる施設や部屋を、短時間・有期雇用労働者も利用できるようになりました。
労働者が、正社員との待遇差が不当だと感じた場合には、使用者に対して説明を求めることがで、法改正によって説明を要求された場合には説明義務が課されるので注意しましょう。
当サイトでは、上述した法改正で生じた説明責任に関して、待遇差が出た際の合理的な説明例や不合理と判断された際の適切な対応について解説した資料を無料で配布しております。同一労働同一賃金の対応に関して不安な点があるご担当者様は、こちらから「同一労働同一賃金 対応の手引き」をダウンロードしてご確認ください。
3. 同一労働同一賃金を福利厚生で実現するメリットとは


同一労働同一賃金の導入により、正社員とそれ以外の従業員に待遇差がある場合は、福利厚生を含め格差の解消が必要です。企業は一時的なコスト負担増を懸念することもあるかもしれませんが、対応することで下記のようなメリットも期待できます。
▽福利厚生で同一労働同一賃金を実現するメリット
- 優秀な人材を採用できる
- 優秀な人材を雇用し続けられる可能性がある
- 労働者のモチベーション向上につながる
- 雇用制度を単純化できる
ここからは福利厚生で同一労働同一賃金を実現するメリットを詳しくご紹介します。
3-1. 優秀な人材を採用できる
労働力不足が顕著になっている今、短時間・有期雇用労働者・派遣労働者の労力は決して見逃せません。従って、あらゆる企業で労働力獲得の動きが活発になり、結果的に優秀な人材は待遇の良い企業に集まってしまいます。
しかし、同一労働同一賃金で福利厚生を改善すると、自然と優秀な人材が集まる可能性があります。特に、従来は正社員しか利用できなかった福利厚生を非正規雇用労働者が利用できると、企業としての注目度も上がります。
同一労働同一賃金に伴って福利厚生を改善することは、労働不足の解消につながります。
3-2. 離職を防ぐ効果が期待できる
福利厚生の改善は、優秀な人材を新たに雇用できるだけでなく、既存の従業員の離職を防ぐ効果も期待できます。
同一労働同一賃金の下で福利厚生を正社員と非正規社員で均等に整えることは、従業員の定着率を高め、離職防止の効果が期待できるのです。
不公平な待遇は従業員の不満につながりやすく、特に生活に直結する通勤手当や食堂利用、健康診断といった福利厚生の差は、退職理由になりやすい項目です。待遇差を是正することで、安心して長く働ける環境を提供でき、結果的に人材の流出を防ぐことが可能です。人材の定着は採用・教育コストの削減にもつながります。
3-3. 労働者のモチベーション向上につながる
同一労働同一賃金で福利厚生を改善することは、労働者のモチベーション向上にもつながります。同じ業務をおこなっていても待遇に差があると、不公平感が生まれ、職場への不信感につながりかねません。一方で、正社員・非正規社員にかかわらず福利厚生を等しく利用できる環境が整っていれば、従業員は自分が大切にされていると感じ、仕事に対する意欲も高まります。
福利厚生が充実すれば、良い職場環境で働けたり、休暇を取得しやすくなったり、万が一の事態に安心して対応できたりするなどのメリットが得られるので、従業員のモチベーションは向上します。
また、モチベーションの向上は業務の効率化や品質の向上にもつながるため、組織全体のパフォーマンス向上に好影響をもたらすメリットも得られるでしょう。
3-4. 雇用制度を単純化できる
同一労働同一賃金で福利厚生を含めた各種待遇を改善することは、雇用制度の単純化にもつながります。従来の制度では、経験や能力などの規定とは別に、短時間・有期雇用労働者・派遣労働者に対して別々に規定を定めている企業もありました。
しかし、同一労働同一賃金で待遇差改善が求められたことから、制度設計や管理業務の複雑さを軽減することが可能になりました。これにより、社内手続きや制度説明の手間も削減され、管理コストの抑制というメリットも得ることができます。
さらに、制度が明確化されることで、従業員からの問い合わせ対応やトラブル対応も減少し、労務管理の効率化というメリットの実現にもつながります。
4. 同一労働同一賃金における福利厚生の対応例


同一労働同一賃金のガイドラインで示されている、福利厚生に関する主な対応項目は以下のとおりです。
- 社員食堂や休憩室・更衣室など
- 転勤者用の社宅支援
- 慶弔休暇の制度
- 健康診断による勤務免除の制度
- 病気休職の制度
- 有給休暇の取得日数
ただし、労働日数や労働時間、業務内容、責任範囲などに差がある場合は、それらを考慮して待遇差を設けることは、不合理な待遇差とはならない場合があります。
年次有給休暇の比例付与**は、労働基準法(第39条)でも、週所定労働時間が短い労働者に対して労働日数に応じて有給取得日数を与える(比例付与)と定めています。
ただし、同じ業務内容、責任の程度、転勤や人事異動の可能性があるにもかかわらず、有期雇用労働者や派遣労働者に転勤時の手当がない、または手当が比較的少ない場合には不合理な待遇差として判断される可能性があります。
現時点で、同一労働同一賃金の原則に違反したことに対する直接的な罰則は決められていません。ですが、待遇差の内容によっては労働者から損害賠償を請求される可能性があるため、注意が必要です。裁判には費用も時間もかかるため、不合理な待遇差がある場合にはただちに解消に向けた取り組みを始めましょう。
関連記事:同一労働同一賃金で各種手当はどうなる?最高裁判例や待遇差に関して
関連記事:同一労働同一賃金で業務における責任の程度はどう変化する?
5. 同一労働同一賃金では福利厚生も待遇差の解消が必要


フルタイムかつ無期雇用で働く正規雇用労働者と、それ以外の非正規雇用労働者の待遇差を解消するために同一労働同一賃金の制度が導入されました。同一労働同一賃金は同じ業務をこなし、同じ責任を負い、転勤や人事異動の可能性も同等であれば、正社員と同等の待遇を定めなければならないとする制度です。
同一労働同一賃金の対象には賃金だけでなく福利厚生も含まれるので、正社員との間に差がある場合は解消の取り組みが必要です。
解消の仕方がわからない、費用負担があってやむを得ずできない場合には、厚生労働省が主体となっておこなっている無料相談や助成金の制度を利用するのがおすすめです。格差のせいで思わぬトラブルに発展しないよう、制度の内容をしっかり確認してください。
関連記事:同一労働同一賃金での慶弔見舞金の扱いとは?考え方も解説



意図せず不合理な待遇差を放置してしまうと、思わぬ労使トラブルに発展する可能性があります。
企業の信頼性を守るためにも、客観的な視点での定期的な見直しが不可欠です。
◆押さえておくべき法的ポイント
- 「均衡待遇」と「均等待遇」の判断基準
- 企業に課される「待遇に関する説明義務」の範囲
- 万が一の紛争解決手続き「行政ADR」の概要
最新の法令に対応した盤石な体制を構築するために参考になりますので、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
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