労働契約法9条が定める就業規則の変更の原則を詳しく紹介
就業規則は一般的に、事業を立ち上げると同時に作成するものですが、時代の流れや法改正などにより、適宜内容を見直さなければならないことがあります。
ただ、就業規則は簡単に変更できるものではなく、労働契約法の規定に沿って所定の手続きをおこなわなければなりません。
特に労働契約法9条では、就業規則の変更ができないケースについて定めているので、あらかじめその内容を理解してから変更を検討しましょう。
今回は、労働契約法9条が定める就業規則の変更の原則や、変更できる条件、変更できないケースについて解説します。
▼そもそも労働契約法とは?という方はこちらの記事をご覧ください。
労働契約法とは?その趣旨や押さえておくべき3つのポイント
目次
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改正労働契約法によって、有期雇用契約に関するルールが大幅に変わりました。
これまで、有期雇用労働者の雇止めを抑制する法律はありませんでしたが、本施行によって雇止めを簡単におこなうことが難しくなっています。
特に無期転換ルールにおいては、無期転換申込権が本格的に発生したのがここ数年です。
比較的新しいルールであるため前例も少なく、対応にお困りの人事担当者の方も多いのではないでしょうか。
ルールや注意点などを理解しておくことで、労働者とトラブルに発展する可能性も低くなります。
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1. 労働契約法9条が定める就業規則の変更の原則
労働契約法8条では、「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる」と定めています。
逆にいうと、労使間の合意がなければ、労働条件を変更することはできないことを意味しています。
実際、労働契約法9条では、就業規則を変更する際の原則として「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」としており、就業規則の変更はあくまで労使間の合意を条件としていることがわかります。
冒頭でも説明した通り、就業規則は時代の流れや法改正によって適宜見直されるものですので、変更のたびに労働者の合意を得るのは少々手間と感じるかもしれません。
しかし、就業規則には労働時間や賃金、退職に関する事項など労働者にとって非常に重要な項目が記載されており、使用者の一存で就業規則の変更が認められると、労働者が一方的な不利益を被る可能性があります。
そのため、労働契約法9条では、労働者の権利や立場を保護するために、労働者の不利益につながる就業規則の変更について、労使間の合意を得ることを前提としています。
関連記事:労働契約法8条に規定された労働契約の内容の変更方法
2. 労働契約法9条に基づく就業規則の変更条件
労働契約法9条では、労働者が不利益を被る就業規則の変更をおこなう場合、労働者の合意を得ることを必須条件としています。
ここでいう「労働者の合意」を得る方法は、大きく分けて2つあります。
2-1. 労働者個人から同意を得る
就業規則の変更によって不利益を被る労働者に対し、個別に面談をおこない、同意を得る方法です。
一方的に就業規則の変更内容を突きつけるのではなく、なぜ就業規則を変更しなければならないのか、変更することによってどんな不利益を被るのか、労働者が納得できるように説明しなければなりません。
賃金や退職金の減額など、労働者が被る不利益が大きい場合は、労働時間の短縮や年次有給休暇の増加といった、その他の労働条件を改善する条項(代償措置)を設けることも検討しましょう。
労働者個人からの同意は口頭でもかまいませんが、後のトラブルを避けるためにも、同意書を作成し、署名・捺印してもらうのがベストです。
2-2. 労働組合との間で労働協約を締結する
就業規則はその企業のルールブックとも言うべき存在ですが、労働契約法13条で規定している通り、その法的効力は法令や労働協約の方が上です。
そのため、労働組合との間で、労働契約の不利益変更に関する事項を含む労働協約を締結すれば、労働者個人から同意を得なくても、労働契約および就業規則を変更することができます。
労働組合との間で締結された労働協約の効力が及ぶのは、原則としてその組合員に限定されますが、労働組合法17条では、一つの工場・事業場に常時使用される同種の労働者の四分の三以上の数の労働者が、一つの労働協約の適用を受けるに至ったときは、当該組合員以外の者にもその効力が拡張適用されるものと定めています。
非組合員に対して合意を得るための説明をおこなう必要はありますが、仮に合意を得られなかった場合でも、同種の労働者の四分の三以上で構成された労働組合と労働協約を締結すれば、自動的に当該事業場の労働条件を統一させることができます。
労働組合と協議の末、同意を得られた場合は、労働組合法14条の規定のもと、書面に作成し、両当事者が署名または記名押印します。
参考:労働契約法|e-Gov法令検索
参考:労働組合法|e-Gov法令検索
3. 労働契約法9条の例外として就業規則を変更できるケース
労働契約法9条では、労使間の合意を得ずに就業規則の不利益変更をおこなうことを原則として禁じています。
しかし、企業側も単純な経費削減のためではなく、時として経営を立て直すために労働契約を見直さざるを得ないときがあります。
そんなときの例外として、労働契約法9条では「次条の場合は、この限りでない」という例外を設け、労働契約法10条に該当する場合は労使間の合意を得ずに就業規則を不利益変更することを認めています。
具体的には、以下の事情を鑑みて、就業規則の変更が「合理的なものである」とみなされた場合は、労使間の合意なく就業規則および労働契約の変更が可能となります。
- 労働者の受ける不利益の程度
- 労働条件の変更の必要性
- 変更後の就業規則の内容の相当性
- 労働組合等との交渉の状況
- その他の就業規則の変更に係る事情
就業規則の変更が「合理的なものである」かどうかは、上記5つの事情を総合的にとらえて判定されますが、特に①についてはハードルが高く、労働者の受ける不利益の程度が大きいほど、労働契約法9条の規定のもと、就業規則の変更は無効とされる可能性が高くなります。
関連記事:労働契約法10条の規定による就業規則の変更の条件や方法
4. 労働契約法9条における「労働者の不利益」について
労働契約法9条に定める「労働者の不利益」にあたる主なケースを4つご紹介します。
4-1. 賃金・退職金の減額
賃金や退職金の減額は、「労働者の不利益」の中でも、特に労働者に与える影響の大きい事例です。
就業規則にあらかじめ減給の可能性が規定されており、かつ企業の裁量の範囲内(少額)であれば、不利益変更が認められる場合もありますが、基本的には高度の必要性に基づいた合理的な理由・内容でなければ、原則として不利益変更に該当すると考えておきましょう。
4-2. 賞与の減額
賞与の規定を設けている場合、賞与の減額や変更も労働者の不利益に該当します。
ただ、賞与の支給は法律で定められたものではないため、就業規則で企業の業績や評価によって支給の有無を決定する旨が明記されていれば、不利益変更に該当しない可能性があります。
逆に、支給の有無や減額について就業規則に明記されていない場合や、賞与支給額の計算方法(基本給の◯ヵ月分など)が明示されている場合に賞与の減額をおこなうと、不利益変更とみなされます。
4-3. 労働時間の変更
賃金はそのままなのに労働時間が増えた場合や、これまで就労義務のなかった時間帯(深夜帯など)への変更などをおこなう場合は、原則として不利益変更とみなされます。
一方、労働時間の増加に応じて賃金も増額する場合や、始業時間・終業時間を少々ずらす程度なら、不利益変更にはあたらない可能性があります。
4-4. 休日制度の変更
年間休日や有給休暇の日数を減らす場合や、年間休日そのものは増えるものの、賃金が減額される場合などは、不利益変更に該当します。
一方、年間休日が増えても賃金に変動がない場合は、労働者にとっての不利益は生じないため、不利益変更には該当しません。
5. 労働契約法9条では、原則として合意のない就業規則の不利益変更を禁じている
労働契約法9条では、労働者の権利を保護するために、原則として労使間の合意のない就業規則の不利益変更を禁じています。
例外として、変更もやむなしと思われるような合理的な理由があれば、労働契約法10条のもと、労働者の合意なしで就業規則を変更することも可能です。
労働者の不利益変更にはさまざまなケースがありますが、特に賃金の減給などは労働者に与える影響が大きいため、実際には滅多なことで変更が認められません。
経営不振などでどうしても就業規則の変更が必要な場合は、労働者の合意を得る努力をすると共に、変更の必要性や変更内容が合理的なものであるかどうか、念入りに精査するようにしましょう。
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