労働基準法第15条に基づく労働条件の明示義務とは?ルール改正も解説
更新日: 2025.7.1 公開日: 2021.10.4 jinjer Blog 編集部

従業員を雇用する際、企業には労働条件を明確に示す義務があります。この義務は労働基準法第15条によって定められており、労働者の権利保護と労使間のトラブル防止を目的としています。
近年、働き方や雇用形態の多様化に伴い、労働条件の明示に関するルールも改正されています。特に2024年4月に施行された改正では、より詳細な情報提供が求められるようになりました。
本記事では、労働基準法第15条の基本的な内容から最新の改正ポイントまで、人事担当者や経営者が知っておくべき重要な情報を分かりやすく解説します。
目次
人事担当者であれば、労働基準法の知識は必須です。しかし、その内容は多岐にわたり、複雑なため、全てを正確に把握するのは簡単ではありません。
◆労働基準法のポイント
- 労働時間:36協定で定める残業の上限時間は?
- 年次有給休暇:年5日の取得義務の対象者は?
- 賃金:守るべき「賃金支払いの5原則」とは?
- 就業規則:作成・変更時に必要な手続きは?
これらの疑問に一つでも不安を感じた方へ。当サイトでは、労働基準法の基本から法改正のポイントまでを網羅した「労働基準法総まとめBOOK」を無料配布しています。
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1. 労働基準法15条とは


労働基準法第15条は、企業が労働契約を締結する際に従業員に対して労働条件を明示することを義務付けた条文です。
この義務は正社員だけでなくパート・アルバイトなどの非正規雇用者も対象です。これにより雇用契約締結後の労使トラブルを防止し、労働者は自身の労働条件を理解したうえで不当な労働から保護されます。
明示すべき項目については労働基準法施行規則により定められています。
1-1. 労働条件の明示義務
労働基準法第15条第1項では、労働条件の明示義務について以下のように規定されています。
(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
引用: 労働基準法|e-Gov法令検索
労働基準法第15条は、労働条件の明示義務について規定する重要な条文です。具体的には、企業が労働契約を締結する際に、従業員に対して賃金、労働時間、その他の労働条件を明示する義務を定めています。これは、労働者が安心して働くため企業側に透明性と公平性を求めるものです。
ポイントは「労働契約の締結に際し」という表現にあります。これは、労働契約を結ぶ前に事前に労働条件を明示しなければならないという意味ではありません。労働契約を締結する際に明示すれば要件を満たすことになります。
また、労働条件明示の実施対象となるのは雇用契約を締結する全ての労働者です。雇用期限の定めがない正社員はもちろん、有期雇用の契約社員、パート・アルバイトといった短時間労働者に対しても適切に労働条件を明示しなければなりません。
1-2. 明示された労働条件が事実と異なる場合(労働基準法第15条第2項)
事前に明示された労働条件と実際の労働条件に違いがあった場合、労働者は契約を即日解除し退職する権利が認められています。
② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
引用: 労働基準法|e-Gov法令検索
この規定により、従業員は明示された条件と実際の労働環境に違いがあった場合、通常の退職で必要とされる2週間の期間(※)を待つことなく、即座に労働契約を解除することができます。
(※)通常、従業員が自己都合で退職する場合は民法第627条により申し入れから2週間後に雇用関係が終了します。
1-3. 即時契約解除時の帰郷旅費負担(労働基準法第15条第3項)
就業のために住居を移動した労働者が契約解除後14日以内に帰郷する場合、必要な旅費の負担は雇用主の義務です。
③ 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
この規定は、就業のために住居を移転した労働者が労働条件の相違により契約を解除する場合、使用者が帰郷に必要な費用を負担することを義務付けています。
これはかつて集団就職が一般的であった時代、帰郷費用の補償がなければ事実上の強制労働にあたるため設けられた規定です。あくまで「帰郷」することが条件ですので、住居を移動せずに転職する場合は当てはまりません。
また、雇用主が負担する「旅費」には交通費のほか宿泊費や食事代も含まれます。荷物の運送費も旅費に含まれると判断できることから、引っ越し費用も雇用主の負担です。
1-4.労働基準法第15条に違反したときの罰則
労働基準法第15条に違反した場合、使用者は労働基準監督署から勧告を受けるだけでなく、罰金を科されることがあります。具体的には、労働条件を明示しない場合や、法令で義務付けられた方法で明示しない場合、労働基準法第120条第1号に基づき30万円以下の罰金が科せられます。
また、これに伴う行政処分や企業の信用低下も避けられません。このため、労働条件の明示義務を厳守し、適切かつ具体的な情報を提供することが極めて重要です。
2. 厚生労働省令で定める労働条件の明示方法


労働基準法15条1項の後段で、「厚生労働省令で定める事項については厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない」とされています。
これは、賃金や労働時間など特に重要な事項の明示方法について、厚生労働省の定めるルールに従う必要があるという意味です。具体的な方法を見てみましょう。
2-1. 原則:書面の交付
労働条件の明示は口頭ではなく、書面の交付でおこなうことが原則です。
書面の様式について特に決まりはありませんが、厚生労働省のモデル労働条件通知書を利用することで、漏れのない明示が可能になります。モデル労働条件通知書は厚生労働省のWebサイトからダウンロードできます。
2-2. 労働者が希望した方法
労働条件の明示を電子メールやFAXなどで実施する場合は以下の要件を満たす必要があります。
- 労働者の本人の希望があること
- 受信者を特定できる通信手段を用いること
- 明示内容を出力して書面が作成できること
2019年4月の労働基準法改正により、電子メールやFAXによる労働条件の明示が認められました。しかし、その運用には制限もあるため、要件を押さえて正しく運用しましょう。
1.労働者の希望があること
電子メール等での労働条件明示が認められるのは労働者本人の希望があった場合に限られます。本人の同意を得られないまま、雇用主が一方的に電子メール等で明示することはできません。なお、従業員の希望については個別に確認することが求められます。
2.受信者を特定できる通信手段を用いること
労働条件を電子で明示する場合、その受信者が特定できる通信手段でなければなりません。例えば、その従業員のブログやSNSへの書き込みなど、第三者に情報が伝わる可能性がある方法は認められません。
3.明示内容を出力して書面が作成できること
電子メールなどで労働条件を明示する場合、必要に応じてその内容が書面で出力できることが求められます。チャットアプリやSNSのメッセージ機能を用いることは禁止されていませんが、情報保存や印刷の利便性を考慮すると利用を控えた方がよいでしょう。
電子メールを利用する場合も、本文に直接記載するのではなくPDF等のファイルを添付する形式が望ましいとされます。
3. 絶対的明示事項(必ず明示すべき労働条件)


労働条件には、必ず明示しなければならない事項と、会社で定めがある場合に明示すべき事項があります。前者を一般に「絶対的明示事項」と呼びます。具体的には次の6つが絶対的明示事項として挙げられています。
- 労働契約の期間
- 有期労働契約の場合は、更新する場合の基準・通算契約期間または更新回数の上限がある場合はその上限
- 就業の場所と仕事内容(変更のある場合は、変更する可能性のある範囲)
- 始業・終業時刻、休憩時間・休日など勤務時間に関する事項
- 給与の決定方法・締め切り・支払時期、昇給
- 退職に関する事項(解雇事由を含む)
上記に加え、有期労働契約の更新時、無期転換申込権(※)が発生している場合はその旨と無期転換後の労働条件の明示が必要になります。
(※)有期労働契約で通算5年を超えて働いた従業員が企業に申し出をすることで無期雇用に転換できる権利
但し、絶対的明示事項のうち⑤の「昇給」に関しては書面の交付を要する項目から除かれています。
関連記事:労働条件通知書の記入例や書き方のポイントを解説
関連記事:雇用契約書・労働条件通知書を電子化する方法や課題点とは?
3-1. 契約期間
まずは労働契約の期間です。雇用期間が定められている場合はその期間を、期間の定めがない(無期雇用)場合はその旨を明示します。
例えば、雇用期間が定められている場合は「契約期間:〇年〇月〇日から〇年〇月〇日まで」といったように具体的な契約期間の起点と終点の日付を明記しましょう。期間の定めがない場合においても、「期間の定めなし(無期雇用)」など明確な記載が必要です。
3-2. 契約更新の基準
次に有期労働契約を更新する場合の基準です。契約期間満了後に契約を更新する可能性がある場合は、その更新の判断基準を明示する必要があります(更新があり得る場合のみ)。例えば「更新あり(業務量や勤務成績、会社の経営状況により判断)」などです。
加えて、2024年4月の法改正以降は、有期契約について契約更新の上限の有無も明示事項に含まれました(詳細は後述)。もし更新に回数や通算期間の上限が設けられている場合は、その内容(例えば「最長〇回まで更新可」等)も含めて示す必要があります。
3-3. 就業場所と業務内容
就業場所(勤務地)と従事すべき業務の内容も必ず明示します。どこで働くのか(本社なのか支店なのか、所在地)と、どんな仕事をするのか(職種や業務内容)を具体的に伝えます。
なお、2024年4月からは、「就業場所」および「業務内容」について将来的な変更の範囲(配置転換や異動の可能性など)を明示することが全ての従業員に対して必要になりました。例えば、勤務地は「雇い入れ直後:東京本社 変更の範囲:将来的に国内全域への転勤の可能性あり」のように、雇入れ時の勤務地と、異動などで変更され得る範囲を併記する形です。
業務内容についても同様に、「雇い入れ直後:人事・総務 変更の範囲:将来的に事務全般への配置転換の可能性あり」といった書き方で職務内容の変更範囲を示します。
3-4. 労働時間の条件
勤務時間に関する事項も明示事項です。具体的には、始業時刻と終業時刻(所定労働時間)、所定時間外労働の有無(残業の可能性があるか)、休憩時間の長さやタイミング、休日、休暇などを明確に示す必要があります。
例えば「所定労働時間:9時~18時(実働8時間)、休憩:12時〜13時(1時間)」「時間外労働:あり」「休日:毎週土曜日および日曜日、国民の祝日、1月1日、1月2日、1月3日」「休暇:年次有給休暇は6ヵ月継続勤務後に10日付与」などといった内容です。
また、交替制勤務(シフト制)で労働者をグループに分けて勤務させる場合は、その交替の仕組みについても明示する必要があります。
3-5. 退職に関する事項
退職に関する事項も必ず示すべき項目です。ここには定年や自己都合退職、解雇など労働契約の終了に関わる事項が含まれます。
例えば定年制がある場合は「定年:〇歳」と示し、定年後再雇用制度があればその概要も書きます。自己都合退職の場合の手続き(例:「退職希望日の30日前までに届け出」など)も就業規則等で定めていれば伝えます。
また、解雇の事由(会社がどのような場合に従業員を解雇できるか)も具体的に列挙して明示します。解雇事由は就業規則に定めがあるので、例えば「解雇事由は就業規則第⚪︎条に定めるとおり」など、就業規則の該当箇所を参照させる形でも構いません。
3-6. 賃金関係(賃金計算方法・支払方法・昇給など)
賃金に関する事項は労働者にとって最も関心の高い事項の一つであり、詳細かつ正確な明示が求められます。基本給の額、諸手当の内容、賃金の計算方法、支払方法、支払時期、昇給に関する事項を明確に示す必要があります。
基本給:月給制、日給制、時給制などの賃金形態を明示し、具体的な金額を記載します。
諸手当:通勤手当、住宅手当、家族手当、職務手当など、支給される手当の種類と支給条件、支給額を詳細に説明します。
昇給:昇給の有無、昇給の時期、昇給の基準などを明示します。
ただし、昇給に関する事項については書面による明示を要求されないため、詳細な昇給制度については就業規則や人事制度で定め、その概要を労働条件通知書で示すという方法も可能です。
4. 相対的明示事項


相対的明示事項とは、企業がその定めをしている場合に明示しなければならない項目のことです。以下の8項目については法令上、書面での明示が義務となっていません。
- 退職金に関する事項
- 臨時に支払われる賃金(賞与)に関する事項
- 食費や作業用品など従業員が負担すべき費用についての事項
- 安全及び衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰と制裁に関する事項
- 休職に関する事項
しかし、定めをしている項目については必ず労働者に伝達されなければなりません。口頭のみの説明は証拠が残らずトラブルになりやすいため、相対的明示事項であっても書面に記載して明示することが望ましいでしょう。
関連記事:労働条件の明示とは?労働条件の明示義務や法改正による明示ルールの変更内容を解説
4-1.賃金関係(退職手当や臨時の賃金など)
まず、給与以外の金銭的な待遇に関する事項です。具体的には退職手当(退職金)に関する事項、臨時に支払われる賃金や賞与、最低賃金額に関する事項が該当します。
例えば、退職金制度がある場合、その対象者、決定・計算・支払方法、支払時期などを明示します。具体的にいうと「退職手当制度あり(勤続3年以上の正社員に適用)、金額は⚪︎万円、支払時期は退職後⚪︎ヵ月以内」などです。
実務上はこれら全てを書面で記載するのが文章の量として難しいことが多いため、就業規則の該当条項を記載して簡潔にすることも多いです。その場合は就業規則もあわせて交付するとよいでしょう。
4-2.休職に関する事項
休職制度を設けている場合は、休職事由、休職期間、休職中の処遇、復職の条件などを明示する必要があります。休職制度は法定の制度ではありませんが、多くの企業で導入されており、従業員の雇用継続に重要な役割を果たしています。
4-3.その他(安全衛生・災害補償など)
その他の相対的明示事項には、安全及び衛生に関する事項、職業訓練に関する事項、災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項、表彰と制裁に関する事項などがあります。
安全衛生に関する事項では、安全衛生教育の実施、健康診断の実施時期と内容、特殊健康診断の対象者、安全衛生委員会の設置状況などを明示します。
災害補償については、労災保険による補償に加えて、企業独自の上乗せ補償制度がある場合はその内容を明示します。
5.書面交付が必要なもの・口頭でよいもの


労働条件の明示は、すべて書面で行う必要があるわけではありません。労働基準法施行規則により、書面での明示が義務付けられている事項と、口頭での明示が認められている事項が区別されています。
絶対的明示事項はほとんどが書面交付を義務付けられていますが、昇給に関しては対象外です。相対的明示事項については、口頭での明示が認められます。ただし、制度を設けている場合は必ず明示する必要があり、従業員が理解しやすいよう丁寧な説明を行うことが重要です。
5-1.労働契約締結の際に就業規則を交付でも可能
労働条件を明示する書面の形式について決まった様式はありません。労働基準法に定められた要件を満たしていれば、形式などは企業の自由です。
そのため、就業規則がある場合、労働条件通知書の代わりに就業規則のコピーを労働者に渡すことで明示に代えることが可能です。ただし、この場合は労働者が必要な労働条件の内容をはっきり理解できるように工夫する必要があります。具体的には、就業規則の該当箇所に付箋やマーカーで印を付けて渡したり、「第⚪︎章第⚪︎条の規定があなたの労働条件です」と説明を加えたりするなどして、重要な項目を見落とされないようにしましょう。
可能であれば内容を口頭で説明した上で「説明を受けました」というサインをもらっておくと安心です。これは後日の証拠にもなります。
6.労働基準法第15条に基づく労働条件の明示時期


労働条件の明示時期は、「労働契約を締結するとき」と定められています。
有期雇用契約を更新する場合は、その更新契約をおこなう際に、労働条件を明示しなければいけません。なお、2024年4月より有期労働契約における労働条件の明示ルールは多数追加されているので注意が必要です。
定年制度を設けている場合、従業員は定年に達すると、雇用関係がいったん終了したのち、再度同じ企業に雇用されます。
再度労働契約を結ぶことになるので、労働条件の明示が必要です。
6-1.新卒採用の場合
新卒採用の場合、実務上は遅くとも従業員に内定を出す時点までに明示することが求められます。入社日(初出勤日)では手遅れで、一般には「採用内定時=労働契約の成立時」に労働条件の通知をおこなうのが適切です。
厚生労働省からも「採用内定によって労働契約が成立する場合には、内定時に労働条件を明示しなければならない」と示されています。
7. 2024年(令和6年4月)法改正のポイント


労働条件の明示事項の中には、2024年4月の労働基準法施行規則の改正により変更され、追加されたものもあります。
- 就業場所および従事すべき業務の変更範囲
- 更新上限の有無と内容、更新上限を新設・短縮する場合の説明
- 無期転換申込機会と無期転換後の労働条件
これにより、従業員に対する情報提供がより透明かつ具体的になり、労働環境の公平性が向上することが期待されます。
当サイトでは、最新の法律に基づいた明示事項や雇用契約のルールについてまとめた資料を用意しています。労働条件通知書や雇用契約書の内容を確認するにあたって、見るべき項目がわからない、現在の内容で問題ないのか不安という方は、ぜひこちらからダウンロードしてご確認ください。
関連記事:【2024年4月】労働条件明示のルール改正の内容は?企業の対応や注意点を解説
7-1. すべての労働者|就業場所および従事すべき業務の変更範囲の明示
2024年年4月の改正により、労働者がどこで働くか、どの業務に従事するかが変更される可能性がある場合、その変更の範囲について明示が必要となりました。(労働基準法施行規則第5条1項1号の3)。
これは、従業員を新たに採用する場合や有期雇用の従業員との雇用契約を更新する際に適用され、雇い入れ直後の就業場所と業務の内容に加えて明示する必要があります。目的は、就業場所の変更や業務の変更に対し従業員に予測可能性を与え、トラブルを未然に防ぐことです。対象は正社員だけでなく契約社員、アルバイトなど全ての労働者です。
具体的な労働条件通知書の記載例として、就業場所や業務の変更の範囲に限定を設けない場合には、「会社の定める就業場所」「会社の定める業務」と記載する方法や変更範囲を別紙として添付する方法があります。
例えば、「就業場所:(雇入れ直後)東京支店、(変更の範囲)海外(アメリカ、中国、マレーシア)及び全国(東京、名古屋、大阪、福岡)への転勤あり、その他今後新設される拠点を含む」とすることが考えられます。
変更が一定の範囲に限定される場合には、「就業場所:(雇入れ直後)板橋出張所、(変更の範囲)東京都内」といった具体的な範囲を明確に記載します。
変更が想定されていない場合は、「就業場所:(雇入れ直後)千葉センター、(変更の範囲)青梅センター」と記載します。
変更しない場合は、「変更なし」や「雇い入れ直後に従事すべき業務と同じ」と明示しても問題ありません。
7-2. 有期契約労働者|更新上限の有無と内容の明示、更新上限を新設・短縮する場合の説明
2024年4月の改正に伴い、有期雇用契約の更新に関して、何回まで更新が可能か、その上限および内容を明示することが義務付けられました。
有期雇用の従業員に対して契約の更新について予測可能性を与え、契約終了時のトラブルを予防することを目的としています。アルバイトや契約社員、定年後再雇用の従業員など、有期雇用の従業員が対象です。
また、有期雇用契約に関して、更新上限を新設・短縮する場合には、あらかじめその理由を具体的に説明する必要があります。
具体的な記載方法としては、契約の初期から数えた更新回数や通算の契約期間の上限を示し、さらに現在の契約更新が何回目であるかを併せて記載する方法が推奨されます。
例えば、「契約の更新回数は●回までとする(本契約の更新で更新回数●回目)」「契約期間は通算●年を上限とする(本契約は通算●年目)」といった具体的な表現を使用することで、労働者に対して明瞭な情報を提供することが可能です。
7-3. 有期契約労働者|無期転換申込機会と無期転換後の労働条件の明示
無期転換の申込が可能な機会について、従業員に具体的な時期や方法を明示することが義務づけられました。また、転換後の労働条件についても明示しなくてはいけません。
有期雇用契約が更新されて通算5年を超えた場合、従業員には無期雇用契約への転換を申し込む権利が発生します。この無期転換ルールにより、無期転換申請機会が発生する際には、その旨と転換後の労働条件を従業員に明示することが必要です。
無期転換権が発生するのは、有期雇用契約が5年を超える場合に限られます。例えば、1年契約の有期雇用が5回目の更新に達すると、この権利が生じます。
従業員が無期転換を申し込まないまま契約が更新される場合、更新の都度、無期転換申込機会について明示する義務があります。
具体的な記載例として、「本契約期間中に無期労働契約締結の申込みをしたときは、本契約期間満了の翌日から無期雇用に転換することができる」といった明示が必要です。
無期転換後も労働条件に変更がない場合は「無期転換後の労働条件は本契約と同じ」と明示し、変更がある場合は「無期転換後は、労働時間を⚪︎⚪︎、賃金を⚪︎⚪︎に変更する」と具体的に記載します。
8. 労働条件の明示義務に関する注意点


最後に、労働条件の明示義務に関連して押さえておくべきポイントを整理します。
8-1. 有期雇用契約の「変更の範囲」の具体的な明示方法は
有期雇用契約における変更の範囲の明示は、労働基準法第15条に基づき、契約期間中の就業場所や業務内容の変更を具体的に示すことが要求されます。
変更の範囲とは、労働契約期間中の変更を意味します。したがって、契約が更新された場合に命じられる可能性がある就業場所や業務については、現行の法律では明示する必要がありません。
8-2. 有期雇用契約の「更新の上限」の具体的な明示方法は
有期雇用契約の場合、労働条件の明示義務に関する労働基準法第15条に基づき、契約更新の上限についても具体的な明示が必要です。この際、契約の当初から数えた更新回数または通算契約期間の上限を明確に示すことが従業員との認識の一致につながります。
具体的には、契約当初から数えて何回目の更新かや現在の契約更新回数といった情報をあわせて示すことで、従業員が自身の契約の継続可能期間を正確に理解することができます。
8-3. 更新の上限がない場合の記載方法
労働基準法第15条に基づき、有期労働契約の更新上限がない場合でも、その旨を明示することが推奨されます。
具体的には、厚生労働省が公開しているモデル労働条件通知書には更新上限の有無(無・有)という欄があります。この欄で更新上限がない場合には、「無」と明示しましょう。
8-4. 無期転換後の具体的な労働条件の明示方法は
無期転換後の労働条件について、詳細を記載する義務があります。具体的には、賃金、労働時間、勤務地など労働契約締結の際の明示事項と同じものです。。
明示方法は、項目ごとに明示するほか、有期労働契約から無期転換することで変更となる労働条件の有無を示し、変更がある場合はその内容を明示するという方法でも差し支えありません。
8-5. パートタイマーに関する特則
従業員がパートタイマーのときは、「パートタイム・有期雇用労働法」にもとづいた項目を明記しなければなりません。
明示義務があるのは以下の4項目です。
- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
- 短時間・有期労働契約の雇用管理の改善に関する相談窓口
なお、これらの項目は書面による明示が義務付けられています。
8-6. 派遣労働者に関する特則
派遣労働者も労働者であることには変わりがありません。そのため、派遣労働者に対しても、就労条件の明示義務が労働者派遣法34条1項において定められています。
派遣労働者の方へは「労働条件通知書」と「就業条件明示書」が交付されます。双方意味が似ていますが意味が異なるので、ここで理解しておきましょう。
労働条件通知書は、絶対的明示事項について労働基準法に基づき交付が要求されるものの一例であるのに対し、就業条件明示書は労働者派遣法において定められた書面です。実務上は共通する内容が多いため、まとめて「労働条件通知書 兼 就業条件明示書」といった書面を派遣元が派遣労働者に対して交付することが多いです。
具体的には労働基準法上の絶対的明示事項に加え、派遣先で従事する業務の内容、賃金(時給など)、残業の有無、派遣先での苦情申出先など、派遣法で定められた事項をすべて記載する必要があります。
9. 労働条件を適切に明示して労使トラブルを防ごう


労働基準法第15条が定める労働条件の明示は、従業員を保護し労使トラブルを回避するための取り決めです。採用時に労働条件を丁寧に説明し書面で渡しておけば、入社後の「聞いていない」「こんなはずではなかった」というミスマッチを減らすことができます。
特に昨今は労働者の意識も高まっており、自分の待遇や権利に関する情報開示を求める傾向があります。最新の法改正内容も踏まえ、必要な事項を漏れなく、わかりやすく明示するよう努めましょう。



人事担当者であれば、労働基準法の知識は必須です。しかし、その内容は多岐にわたり、複雑なため、全てを正確に把握するのは簡単ではありません。
◆労働基準法のポイント
- 労働時間:36協定で定める残業の上限時間は?
- 年次有給休暇:年5日の取得義務の対象者は?
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