労働基準法第89条で定められた就業規則の作成と届出の義務
更新日: 2025.11.21 公開日: 2021.10.1 jinjer Blog 編集部

職場のルールを定める「就業規則」は、労働基準法第89条に則って作成する必要があります。
また、常時10人以上の労働者を雇用する使用者は、就業規則を届け出ることが法律で義務づけられているので、要件に該当する場合は速やかに作成・届出をおこないましょう。
就業規則というのは、使用者と従業員の間で締結している労働契約の内容を具体的に明文化したものです。そのため、労使間の紛争を予防するという観点からもとても重要な役割を担った書面なので、法律をしっかり順守して作成しなければなりません。
ここでは、労働基準法第89条で定められた就業規則の概要と作成方法、届出の義務について解説します。
▼そもそも労働基準法とは?という方はこちらの記事をまずはご覧ください。
労働基準法とは?雇用者が押さえるべき6つのポイントを解説
目次
労務管理をおこなう上で、就業規則の「作成、届出・変更、さらには周知において」——正しく理解できていますか?
記載すべき項目のミスや、変更する際のルールの見落としは、法令違反や労基署からの指導といった深刻なトラブルを招きかねません。就業規則の管理ミスは企業リスクに直結するため、人事労務担当者であれば、必要な労働基準法を正しく理解しておくべきです。
当サイトでは、就業規則におけるルールをはじめ、労務管理の要となる「労働時間・休憩・休日・年次有給休暇」に関しても法的基準をわかりやすく解説した資料を無料配布しています。
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1. 労働基準法第89条とは


労働基準法は、労働条件の最低基準を定めた法律で、雇用形態に関係なくすべての労働者に適用されます。労働基準法第89条とは、企業に対して職場のルールとなる「就業規則」を作成し、労働基準監督署に届け出ることを義務付けた規定です。
労働者と企業がこの「就業規則」を守ることで、労働者が安心して働ける環境を整えられます。また、賃金や労働時間などに関しても、「言った言わない」「聞いてない」など、労使間の不要なトラブルを防止することも可能です。
このように、労働基準法第89条は、労働者の権利を守りつつ公正な労働条件を確保するという観点からも、極めて重要な条文となります。
1-1. 労働基準法第89条で定められた就業規則とは
就業規則とは、労働者の賃金や労働時間、退職などの労働条件に関する事項や、職場での規律について定めた規則のことです。
職場におけるルールを明確に定め、労使双方がそれを守ることで、労働者が安心して働ける環境を整えることを目的としています。
労働基準法第89条の条文は以下のとおりです。
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。
このように、常時10人以上の労働者を使用する企業は就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出ることが義務付けられており、これを怠ると同法第120条の規定により、三十万円以下の罰金に処されます。
常時10人以上の労働者を使用していない使用者の場合、就業規則の作成は任意ですが、労使間の無用なトラブルを避けるために、就業規則の作成が推奨されているのです。
また、就業規則の内容を変更・修正する場合も、同様に届け出が必要なため、注意しましょう。
就業規則の持つ効力
会社における就業規則の効力はかなり強く、賃金や労働時間、解雇事由などは、原則として就業規則に準じます。
ただ、就業規則に定めれば何をしても良いというわけではなく、労働基準法第92条では、「就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない」と定められています。
たとえば、同法第32条で定められた労働時間である休憩時間を除いて1週間に40時間、1日あたり8時間を超えて労働させる規約を就業規則に設けた場合、労働基準違反となり、その規約は無効となります。
仮にそのような規約を設けても、同法第92条の規定により、行政官庁(労働基準監督署長)から就業規則の変更を命じられます。
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1-2. 労働基準法89条「就業規則」の適用範囲
労働基準法第89条「就業規則」の適用範囲は、「常時10人以上の労働者がいる企業」です。この「常時」というのは、日常的に10人以上の労働者が在籍している状態のことを指します。
つまり、「夏の繁忙期だけ」など一時的に10人以上になる時期があるとしても、1年のほとんどは9人以下という場合は適用範囲外となります。ただし、繁忙期が長い業種で、例えば常時雇用ではないとしても半年以上10人を超える労働者がいるのであれば、適用範囲となることがあるので注意してください。
また、「労働者」というのは正社員だけでなく、パート・アルバイトや非正規雇用などすべての労働者が含まれます。そのため、正社員1人であってもパートやアルバイトが9人いる場合は適用範囲になるということをしっかり認識しておきましょう。
2. 労働基準法第89条による就業規則の作成方法


労働基準法第89条で定められている就業規則の作成方法には、3つのステップがあります。
- 原案の作成
- 労働者を代表する者から意見聴取する
- 就業規則届を作成する
ここでは、これら3つのステップについて解説します。
2-1. 原案の作成
まずは就業規則の原案を作成します。
労働基準法第89条では、就業規則の内容として、必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」と、当該事業所で定めをする場合に記載しなければならない「相対的必要記載事項」、および当該事業所の労働者すべてに適用される定めをする場合は「任意記載事項」の3つを記載することとしています。
具体的には、以下の1~3が絶対的必要記載事項、4~10が相対的必要事項です。[注2]
- 労働時間に関する事項
- 賃金に関する事項
- 退職に関する事項
- 退職手当に関する事項
- 臨時の賃金(賞与)、最低賃金額に関する事項
- 食費、作業用品などの負担に関する事項
- 安全衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰、制裁に関する事項
- その他全労働者に適用される事項
1について、具体的には、始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇のほか、交代制を導入している場合には就業時転換に関する事項を記載します。
2は賃金の決定や計算、支払いの方法、締め切り、支払いの時期のほか昇給に関する事項も含まれるので漏れがないようにしましょう。
3は労働者による自主退職(自己都合退職)だけでなく、解雇の事由も記載してください。
任意記載事項にあたる11には、労働基準法上では記載を要求されていないものの、使用者が特に記載しておきたいと思った項目があれば記載します。例えば、経営理念や社是、就業規則を設ける目的、用語の定義、採用手続などは記載しておくと従業員との意思疎通が図りやすくなります。
2-2. 労働者を代表する者から意見聴取する
労働基準法第90条では、使用者は就業規則を作成するにあたり、労働者を代表する者の意見を聴取することが義務づけられています。
ここでいう「労働者を代表する者」とは、労働者の過半数で構成された労働組合がある場合はその労働組合を意味しますが、労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者を選出します。
後者の場合、投票や挙手などの方法で選出するのが一般的ですが、労働基準法施行規則第六条により、使用者(事業主)の意向に基づいて選出された者や、監督または管理の地位にある者が代表者となることは禁じられています。[注3]
使用者はステップ1で作成した就業規則の原案を労働者の代表に提示し、その内容を確認してもらったうえで、意見を聴取します。
労働者代表は就業規則について、賛成・反対どちらの意見も出すことができますが、労働基準法で定められているのはあくまで「意見を聴くこと」ですので、必ずしも労働者代表の意見を汲んで就業規則を加筆・修正することはありません。
労働者代表の意見を書面にまとめたら、代表者に署名・捺印してもらいます。
2-3. 就業規則届を作成する
労働者の代表から意見聴取をおこない書面にまとめたら、労働基準監督署に提出するための就業規則届を作成します。
「就業規則届」に関しては決まった様式がないので、企業が任意で作成・提出しても問題ありません。しかし、必ず記載しなければならない項目があり、未記載だった場合は不備となってしまうため、労働基準監督署のHPなどで公開されているテンプレートを利用すると便利です。
また、記載項目は「就業に関する規則」だけでなく、提出する年月日と提出先の労働基準監督署の名前、事業所名や労働保険番号、事業所の所在地、使用者の名前、業種・労働者数なども明記するので正確に把握しておきましょう。
3. 労働基準法89条による就業規則の作成ポイント


就業規則は、単に会社側が規則を決めて労働者代表が合意すればよい、というものではないのでポイントを押さえておきましょう。
- 労働者代表は適正に選出する
- 必須事項の記載漏れがないようにする
- 法令との整合性を確認する
ここでは、これらのポイントについて解説します。
3-1. 労働者代表は適正に選出する
就業規則は、労働者代表の合意を経て規定されます。そのため、労働者代表は適正に選出しなければなりません。
原則として、会社側が決めた代表は無効になります。その理由は、会社にとって都合の良い代表が選ばれる可能性があるからです。会社の意向をくんだ従業員が代表になってしまうと、労働者側にとって不利益な規則でも合意してしまう可能性があります。これでは公正な合意に至らないので、会社が代表を指名することはできません。
また、どんなに優れた業績を収めている従業員でも、管理監督者は代表にはできないので注意してください。
3-2. 必須事項の記載漏れがないようにする
前述していますが、就業規則には記載しなければならない「必須事項」があります。
◎絶対的必要記載事項
①始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに交替制の場合には就業時転換に関する事項
②賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
③退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
これらの事項に関しては、詳細な部分までしっかり記載しなければなりません。特に、昇給に関することや解雇する事由は記載漏れが多いので、わすれないように明記してください。
3-3. 法令との整合性を確認する
就業規則の内容は、必ず法令との整合性を確認しましょう。法令の最低基準を下回らないようにする、というのは法律で決められていることです。
(法令及び労働協約との関係)
第九十二条 就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。
下回らないようにするには、割増賃金率や休日・有給休暇の日数などを決める際に、法令を確認して基準以上にするというのがベストです。法令に反している規定は無効になるため、変更もしくは自動的に就業規則で定める基準が適用されるので注意しましょう。
4. 労働基準法第89条による就業規則の届出義務


労働基準法第89条では、常時十人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成するだけでなく、行政官庁に届け出ることを義務づけています。
届出には、作成した就業規則と就業規則届をそれぞれ2部ずつ、労働基準監督署の窓口に持参するか郵送しなければなりません。
郵送する場合は、控えを事業所に返送してもらうための返送用封筒(切手付き)を同封します。
届出にあたって手数料などは必要なく、窓口や郵送で手続きが終われば、労働基準監督署の受付印が押印されます。
労働基準法施行規則第49条では、常時十人以上の労働者を使用するに至った場合、遅滞なく就業規則の届出をおこなわなければならないと定められているので、要件を満たしたら速やかに届出を実施しましょう。
なお、労使間のトラブルを避けるために就業規則を作成したとしても、常時十人以上の労働者を使用していない場合は届出の義務はありません。
関連記事:就業規則の届出方法と具体的な手順を分かりやすく解説
4-1. 就業規則の一括届出について
就業規則は原則として、事業所ごとに届け出る必要がありますが、本社の就業規則と、それ以外の事業所の就業規則内容が同じ場合、「本社一括届出制度」を活用すればまとめて届け出ることが可能となります。
やり方としては、本社の所轄労働基準監督署宛に、本社を含む事業所の数に対応した必要部数の就業規則を届け出ます。
この際、厚生労働省で公開している届出事業場一覧表(任意書式でも可)に、各事業所の名称や所在地、所轄労働基準監督署長をまとめて記載し、添付します。
また、本社と各事業所の就業規則が同一内容であることを、届出事業場一覧表の欄外等に記載します。
なお、意見の聴取および意見書の作成は各事業所におこなう必要があるので、あらかじめ注意しましょう。
4-2. 届出をしないと罰則がある
就業規則の届出は義務なので、しなかった場合には30万円以下の罰金が科せられます。当然ですが、作成をしなかった場合でもこの罰則が適用されるので注意してください。
「お金を払えば済むこと」と思う経営者もいるかもしれませんが、そもそも就業規則がないというのは企業側にとってもリスクがあります。例えば、横領などで懲戒処分をしたくても、就業規則に明記されていない場合は処分を下すことができません。定年の規定がなければ、高齢の従業員がいても「正社員」の雇用形態のまま雇用を継続することになります。
就業規則は、単に賃金や労働時間のことを定めるだけでなく、さまざまなリスク回避をするためのルール設定にもなるので、必ず作成をして届出をおこなってください。
5. 就業規則は労働基準法第89条に則って作成しよう


常時十人以上の労働者を使用している事業者は、労働基準法第89条に基づき、就業規則の作成および届出をおこなうことが義務づけられています。
就業規則には、業種や業態にかかわらず必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」と、その企業で定めがある場合に記載しなければならない「相対的必要記載事項」などを記載し、労働基準監督署に届け出る必要があります。届出をしなかった場合、罰則が科せられることもあるため、担当者の方は注意してください。
また、法改正があったり社内でルール変更したりする場合、全従業員が新しい就業規則を確認できるようにしておくことも重要です。
就業規則はその職場のルールであり、基準となるべき規則となるため、労働基準法第89条をもとに、内容をよく精査して作成するようにしましょう。
労務管理をおこなう上で、就業規則の「作成、届出・変更、さらには周知において」——正しく理解できていますか?
記載すべき項目のミスや、変更する際のルールの見落としは、法令違反や労基署からの指導といった深刻なトラブルを招きかねません。就業規則の管理ミスは企業リスクに直結するため、人事労務担当者であれば、必要な労働基準法を正しく理解しておくべきです。
当サイトでは、就業規則におけるルールをはじめ、労務管理の要となる「労働時間・休憩・休日・年次有給休暇」に関しても法的基準をわかりやすく解説した資料を無料配布しています。
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