労働基準法第91条の減給の上限とは?減給ルールや計算方法をわかりやすく解説
更新日: 2026.5.21 公開日: 2021.10.4 (大手外資企業HRCoE/社会保険労務士)

懲戒処分として減給(賃金の一部を差し引く制裁)を検討する場面では、労働基準法第91条による上限額を超えない運用が欠かせません。上限を誤ると、未払い賃金の発生や減額の無効主張につながるおそれがあります。
本記事では、実務で迷いやすい減給の半額ルール・10分の1ルールの考え方、計算手順、混同しやすいケースなどを整理します。
関連記事:労働基準法とは?法律の要点や人事が必ず押さえたい基本をわかりやすく解説
目次
人事担当者であれば、労働基準法の知識は必須です。しかし、その内容は多岐にわたり、複雑なため、全てを正確に把握するのは簡単ではありません。
◆労働基準法のポイント
- 労働時間:36協定で定める残業の上限時間は?
- 年次有給休暇:年5日の取得義務の対象者は?
- 賃金:守るべき「賃金支払いの5原則」とは?
- 就業規則:作成・変更時に必要な手続きは?
- 40年ぶりの大改正:人事担当者が押さえておきたい項目は?
これらの疑問に一つでも不安を感じた方へ。
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1. 労働基準法第91条とは?減給の対象となる行為


労働基準法第91条は、就業規則で「減給の制裁」を定める場合に適用される規定です。この規定が対象とするのは、規律違反などに対する懲戒処分としての減給です。具体的にどのようなことを指しているのか詳しく解説します。
1-1. 労働基準法第91条とは
労働基準法第91条は、会社が企業秩序を維持する目的でおこなう懲戒処分のうち「減給」にあたる制裁に対して、減給できる金額の上限を法律で定めた規定です。
(制裁規定の制限)
第九十一条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
上限は、①1回の減給額、②賃金支払期内の減給総額の2つで管理します。具体的なルールや計算方法は、2章・3章で説明します。
1-2. 適用対象は「就業規則で定めた減給の制裁」に限られる
第91条は「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合」を前提にしています。就業規則に減給の根拠規定がない状態で懲戒として賃金を差し引く運用は、無効を主張されやすくなります。懲戒として減給をおこなうには、少なくとも就業規則に懲戒事由と処分の種類・程度を定め、従業員に周知しておく必要があります。
労働基準法第91条の上限は、労務の提供により発生した賃金債権を無制限に減額できる運用を防ぎ、従業員の生活への著しい影響を回避する趣旨で設けられています。実務では、就業規則に懲戒の種類・程度、懲戒事由、手続きを明確に定め、周知したうえで運用することが重要です。
さらに、労働契約法第15条では、懲戒が客観的合理性と社会通念上の相当性を欠く場合、権利濫用として無効となる枠組みを定めています。合理性や相当性を担保するため、事実確認・弁明機会の付与・同種事案との均衡・記録化を徹底してください。
根拠や手続きがあいまいなまま処分をおこなうと、懲戒権濫用として従業員からの無効主張につながりやすくなります。判断に迷う場合は、社会保険労務士や弁護士に相談することをおすすめします。
2. 減給の上限はどう決まる?「半額ルール」と「10分の1ルール」


労働基準法第91条の上限は、①1回の減給額、②賃金支払期内の減給総額の上限が二重にかかる構造になっています。両方を同時に満たすように減給額を計算しなければなりません。
|
対象 |
ルール |
上限 |
|
①1回の減給額 |
半額ルール |
平均賃金の1日分の半額 |
|
②賃金支払期内の減給総額 |
10分の1ルール |
一賃金支払期の賃金総額の10分の1 |
ここでは、それぞれのルールの内容と、賞与への適用について解説します。
2-1. 減給は平均賃金の1日分の半額以下とする
減給は1回の制裁事案に対して平均賃金の1日分の半額以下にする必要があります。たとえ企業に多額の損害を生じさせたとしても、減給の制裁として懲戒処分する場合はひとつの事案に対して、これ以上の額の減給をおこなうことはできません。
平均賃金の計算方法は3章で詳しく解説します。
2-2. 減給は一賃金支払期の賃金総額の10分の1以下とする
複数の制裁事案を起こした従業員に対しては、それぞれの制裁事案に応じた複数の処分をおこなえます。
しかし、従業員に複数回の問題行為があった場合でも、一賃金支払期における減給の総額は、当該賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならないと定められています。もし、これを超える場合は、その超えた部分は次の一賃金支払期において減給する必要があります。
2-3. 賞与も制裁規定の制限対象になりえる
労働基準法において、賞与を付与するかどうかは企業に裁量が与えられています。しかし、算定期間や支給基準などを設定し、賞与制度を設けている場合は賞与も制裁規定の制限対象になる可能性があります。
賞与から減給の制裁をおこなう場合であっても「半額ルール」と「10分の1ルール」の遵守が必要です。
なお、賞与評価対象期間における個人業績の評価によって賞与の額を減額支給することは、その性格上、「減給の制裁」には該当しません。
3. 労働基準法違反にならない減給上限額の計算方法


減給上限の計算は、「平均賃金」を基礎にする部分と、「賃金支払期の賃金総額」を基礎にする部分に分かれます。どちらも基礎となる賃金の範囲を誤ると、上限の判定を誤ります。
ここでは、3つのステップで計算手順を解説します。
3-1. 賃金の総額に含めるもの・含めないものを確認する
平均賃金の算定に用いる「賃金の総額」は、算定期間中に支払われる賃金は原則すべて含み、通勤手当・精皆勤手当・割増賃金なども含めます。ただし、これら3つは「賃金の総額」に含めません。
- 臨時に支払われた賃金
- 3ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金
- 労働協約で定められていない通貨以外の現物給与
6ヵ月通勤定期など、各月の賃金の前払いと認められるものは「1ヵ月ごとに支払われたもの」とみなし、賃金の総額に含めます。また、あらかじめ年俸額が確定している場合の賞与部分は、すでに支給額が確定しているので平均賃金の計算に含めます。
関連記事:労働基準法の平均賃金とは?必要になるケースや計算方法を解説
3-2. 平均賃金の1日分の半額を算定する
半額ルールで減給の制裁の限度額に用いる平均賃金は、原則として次の計算式で求めます。


算出された平均賃金の半額が1回の減給額の上限です。
なお、減給の制裁の場合、算定事由発生日は「処分通知の到達日」です。違反行為をおこなった日や処分決定でなく、従業員に処分を通知した日が基準となります。
日給・時給・出来高払制などでは、平均賃金が著しく低額にならないよう最低保障額(賃金の総額÷実労働日数×60%)が定められており、原則式と比較して高い方を用います。
3-3. 一賃金支払期の賃金総額の10分の1を算出する
10分の1ルールで用いるのは、「賃金支払期における賃金の総額」です。
例えば、賃金支払期における賃金の総額が300,000円だった場合、10分の1である30,000円が上限です。同時に複数の減給がある場合でも、合計がこの金額を超えてはなりません。
4. 労働基準法第91条の対象外になる場合


減給に似た処理でも、法的には第91条の「減給の制裁」に該当しない場合があります。ここでは、実務でとくに混同されやすい5つのケースについて整理します。
4-1. 遅刻・早退・欠勤控除の場合(ノーワーク・ノーペイ)
遅刻や早退、欠勤をした時間については賃金の支払義務が生じないため、その時間分に対応する賃金を控除することは労働基準法第91条の制限を受けません。
ただし、遅刻・早退・欠勤など不就労時間分に対応する賃金額を超える減額は制裁とみなされ、第91条が適用されます。たとえば「遅刻を○回したら1日分控除」などの方法で、実際の不就労時間を上回る控除をしている場合は、減給の制裁に該当し得ます。
関連記事:労働基準法第24条における賃金支払いのルールを詳しく紹介
4-2. 従業員との合意により減給する場合
例えば、経営状況の悪化などで減給を検討することがあります。従業員との合意により労働条件(賃金を含む)を変更することは、労働契約法第8条が定めています。
(労働契約の内容の変更)
第八条 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
この場合は、懲戒としての減給ではないため、労働基準法第91条の枠組みではなく、合意の有効性が中心的な論点になります。詳しくはリンク先の記事も参考にしてください。
関連記事:労働契約法8条に規定された労働契約の内容の変更方法
4-3. 人事評価で降格し減給する場合
人事評価により降格した結果として賃金が下がる場合は、減給の制裁ではなく職務・等級変更の結果として生じる賃金の変更と整理されます。この場合は労働基準法第91条ではなく、人事権の行使の合理性、評価制度の透明性などが争点になります。
関連記事:降格人事とは?実施するときのポイントや注意点を詳しく解説
4-4. 就業規則の不利益変更で減給する場合
就業規則の改定による減給は、懲戒処分による減給とは判断されません。
原則として、従業員の合意なく就業規則の変更だけで労働条件を不利益に変更することはできません。例外的に、労働契約法第10条では、不利益の程度・変更の必要性・内容の相当性・労働組合等との交渉状況などより合理性がある場合には、同意なく不利益変更できるとしています。
関連記事:労働契約法9条が定める就業規則の変更の原則を詳しく紹介
関連記事:労働契約法10条の規定による就業規則の変更の条件や方法
4-5. 会社法上の役員の報酬を減額する場合
会社法上の取締役の報酬は、原則として株主総会決議によって定めます。このため、取締役など「会社法上の役員」の報酬の減額は、労働基準法第91条ではなく、会社法上の手続(定款・決議)が前提となります。
ただし、会社法上の役員ではない「執行役員」などは、労働基準法第91条の論点が生じえます。また、役員的地位にあっても、指揮命令下での労務提供と対価性から労働者性が認められることもあります。役職名だけで労働基準法第91条の対象外と判断せず、実態で判断してください。
5. 労働基準法第91条の正しい運用で労務リスクを防ごう


労働基準法第91条の減給の上限は、「半額ルール」と「10分の1ルール」の2つで構成されています。どちらか一方でも超過すると、超過分は未払賃金となります。まずは就業規則の整備と正確な計算方法を確認することが、労務リスクを防ぐ第一歩です。
また、遅刻・早退・欠勤控除、降格、合意による減給などは労働基準法第91条の対象外になる場合が多いですが、実態に応じた判断が必要です。
減給はときに従業員との深刻なトラブルに発展することもあるので、慎重な判断をおこないましょう。



人事担当者であれば、労働基準法の知識は必須です。しかし、その内容は多岐にわたり、複雑なため、全てを正確に把握するのは簡単ではありません。
◆労働基準法のポイント
- 労働時間:36協定で定める残業の上限時間は?
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- 就業規則:作成・変更時に必要な手続きは?
- 40年ぶりの大改正:人事担当者が押さえておきたい項目は?
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