労働基準法第91条に規定された「減給の限度額」とは?法律上の意味や計算方法 - ジンジャー(jinjer)| クラウド型人事労務システム

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労働基準法第91条に規定された「減給の限度額」とは?法律上の意味や計算方法

減給の限度額

従業員が規律に違反したときや従業員の重大なミスによって大きな損害が発生したときには、減給という形で懲戒処分をすることがあります。
減給という懲戒処分自体は法律上認められていますが、減給の金額には法的な制限があるので注意しましょう。

この記事では、労働基準法第91条に規定されている「減給の限度額」について解説いたします。

▼そもそも労働基準法とは?という方はこちらの記事をまずはご覧ください。
労働基準法とは?雇用者が押さえるべき6つのポイントを解説

 

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人事担当者など従業員を管理する役割に就いている場合、雇用に関する法律への理解は大変重要です。
例外や特例なども含めて法律の内容を理解しておくと、従業員に何かあったときに、人事担当者として適切な対応を取ることができます。

今回は、労働基準法の改正から基本的な内容までを解説した「労働基準法総まとめBOOK」をご用意しました。

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1. そもそも減給とは?

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減給とは、従業員の給与を減額する懲戒処分の一つです。多くの企業では、戒告・譴責・訓告、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などの懲戒処分が制度化されていますが、減給は戒告・譴責・訓告等の次に重い処分とされることが一般的です。

減給の懲戒処分については労働基準法によって限度額が定められており、公正性が求められます。なお、減給という用語は懲戒処分だけでなく、人事評価やその他の理由で給与を減額する場合にも使われることがあります。このように、多様な状況下で適用される減給について、後の章で詳しく説明します。

2. 労働基準法第91条に規定された「減給の限度額」とは?

限度額

労働基準法の第91条には、制裁規定の制限という項目があります。
この条文には「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない」と記載されています。具体的に説明します。

2-1. 減給は平均賃金の1日分の半額以下に留める

減給は1回の問題行為に対して平均賃金の1日分の半額以下にする必要があります。
例えば月給30万円の社員であれば、平均賃金の1日分は1万円ということになります。

労働基準法の取り決めに従えば、減給できるのはその半額である5,000円よりも少ない金額に留まるのです。

たとえ会社に数千万円という損害を生じさせたことに対する減給であっても、1つの事案に対してこれ以上の額の減給をおこなうことはできません。

2-2. 減給は賃金総額の10分の1を超えてはならない

多くの問題行動を起こした従業員に対しては、それぞれの問題行為に応じた複数の処分をおこなえます。
しかし、従業員に複数回の問題行為があった場合でも、減給の金額は1回の賃金の支払いにおける10分の1を超えてはならないと取り決められています。

例えば、問題を起こした従業員の月給が30万円だった場合には、賃金総額の10分の1である3万円が罰則の限度ということになるのです。

ただし減給の限度額は1事例ごとに平均賃金の1日分の半額以下と決められているため、実際に減給額が賃金総額の10分の1を超えることはほとんどありません。

2-3. 賞与も制裁規定の制限対象になる可能性もある

労働基準法において、賞与を付与するかどうかは企業に裁量が与えられています。しかし、算定期間や支給基準などを設定し、賞与制度を設けている場合は制裁規定の制限対象になる可能性があります。一方、賞与の支給額についての取り決めが事前に設定されていない場合は制裁規定の制限にならないと解釈できます。

なお、賞与が制裁規定の制限対象となる場合であっても以下のルールの遵守が必要です。

  • 減給は平均賃金の1日分の半額以下に留める
  • 減給は賃金総額の10分の1を超えてはならない

3. 労働基準法第91条による減給の対象となる行為

減給の対象

労働基準法第91条による減給の対象となる行為について説明します。この条文は、従業員が社内規則に違反した場合に懲戒処分としての減給処分を行う際に適用される重要な法律です。
なお、減給が従業員との合意に基づく場合や管理職の降格による減給については、この規定は適用されない点にも注意が必要です。従って、雇用者は適切に法律を理解し、労働基準法第91条の適用範囲を明確にしておくことが重要です。

3-1. 規律違反や問題行動に対する懲戒処分

従業員が就業規則に違反したときには、懲戒処分として減給がおこなわれることがあります。
例えば営業に出て実際に仕事をしていない場合やミスが多い場合などには従業員に問題があると判断されるため、減給が妥当と判断されてしまうことがあります。また、ハラスメントを繰り返す社員や、業務上の秘密を漏えいした社員に対して、コンプライアンス違反の罰則として減給処分をおこなうこともあります。

ただし、減給を罰則として機能させるためには、就業規則にあらかじめ減給の条件を記載しておく必要があります。

3-2. 無断欠勤や遅刻が理由の懲戒処分

さらに無断欠勤や、遅刻を繰り返すなどの勤務態度に問題がある場合も、懲戒処分による減給の対象になる場合があります。

この場合も就業規則への記載が必要になりますので、あらかじめ用意しておきましょう。

4. 労働基準法違反にならない減給限度額の計算方法

コストカット

大企業が不祥事を起こしたときには、役員の賃金を大きくカットするような処分がおこなわれることがあります。マスコミに報道されるような大きな不祥事では、給与の2分の1をカットしたり、賃金の3割を自主返納させたりするケースもあるものです。
しかし、一般企業の減給でこのような金額が言い渡されることはまずありません。労働基準法には減給の限度が明記されており、規定を超えて減給をおこなうことは違法となります。上記のような大きな減給は、大企業の役員などに適用される罰則です。役員待遇であれば労働基準法が適用とならないケースが多いため、このような大幅な減給処分がまかり通るのです。労働基準法が適用される従業員に対して減給をおこなうときには、違法にならないよう計算方法を確認しておきましょう。手順に沿って解説します。

4-1. 3か月間の賃金総額を算出

減給の計算方法について、まず直近3か月間の賃金総額を算出します。例えば、毎月末締めの翌月10日払いという給与体系の場合、5月10日に減給処分を行ったとします。この場合、減給処分の直前の賃金締切日は4月末日ですので、そこからさかのぼって3か月間、具体的には2月1日から4月30日の期間について計算します。算出する賃金総額には基本給だけでなく、各種手当や残業代も含まれますが、賞与など臨時に支払われる賃金は除外されます。また、ここでいう賃金の総額とは源泉所得税や社会保険料を控除する前の賃金の合計額です。このようにして減給の基準となる直近3か月間の賃金総額を明確に算出することが重要です。

4-2. 3ヵ月間の総日数を算出

次に、減給処分の基準となる賃金締切日から3か月間の総日数を算出します。この期間内の総日数を計算することで、労働基準法第91条に基づいた正確な平均賃金を求めることが可能です。

例えば、減給処分の基準日が2月1日と仮定した場合、対象期間は2月1日から4月30日までの3か月間となります。この期間の総日数を計算する手順は次の通りです。2月は28日(うるう年ではない前提)、3月は31日、4月は30日となり、これを合計すると総日数は89日となります。なお、この計算には休日や欠勤日も全て含まれる点を忘れずに考慮してください。

4-3. 賃金総額÷総日数を計算

減給の基準を計算するためには、まず①で計算した賃金総額を②で算出した総日数で割り、1日あたりの平均賃金を求める必要があります。具体的な手順としては、全ての賃金を合計して賃金総額を計算し、その総額を労働日数で割ります。

これにより、1日あたりの平均賃金が算出されます。

この計算手順は、労働基準法第91条に基づき、減給の基準が1日分の賃金の半額以下であることを確認するために不可欠です。適切な賃金管理と法令遵守を徹底するために、この計算方法を把握しておくことが重要です。

4-4. 最低賃金を下回っていないことを確認

最後に、減給後の賃金が最低賃金を下回っていないことを確認することが重要です。これは労働基準法第91条に基づく重要なステップで、法律違反を防ぐために必要です。具体的には、平均賃金の最低額が、Step1の計算による賃金の総額を減給処分の直前の賃金締切日から3か月間の出勤日数で割り、その結果に0.6を乗じた金額であることを確認します。

計算結果がこの平均賃金の最低額を下回らないか確認します。もし下回る場合は、減給限度額の計算においてこの金額を使用します。そして、平均賃金に1/2をかけることで、1回あたりの減給限度額が算出されます。この手順を守ることで、最低賃金を下回ることなく合法的な減給処分を行うことができます。

5. 労働基準法第91条に基づいて減給の対象とできる期間

減給の罰則
労働基準法第91条において、減給の対象とできる期間には重要なポイントがありますので以下で解説していきます。また労働基準法第91条に基づき、従業員に対する減給の適用範囲や期間には厳密な制限があり、その都度具体的な就業規則や懲戒規定を確認することが重要です。

5-1. 1回の違反行為に対して1回限りの減給処分とする

まず、減給処分は基本的に1回の違反行為に対して1回限り行うことが認められています。例えば、月給30万円の従業員に対して3月に5000円の減給処分を実施した場合、3月の給与は29万5000円となりますが、次の月には再び30万円の給与に戻ります。

5-2. 長期間にわたる減給は認められていない

長期間にわたる減給、例えば1年間や6か月間の減給を行うことは認められていません。これは取締役などの報酬に対する減給とは異なります。ニュースで「責任をとって1年間30パーセントの減給をする」と報道されることがありますが、これは取締役に関する措置であり、従業員には同様の減給処分は適用できません。

6. 労働基準法における減給と労働契約法における不利益変更の関係性

減給

労働基準法第16条には「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と規定されています。
なんらかの問題が起きたときに従業員から罰金や違約金を徴収することは労働基準法違反となるので注意しましょう。

6-1. 労働契約法における不利益変更とは

不利益変更とは、従業員の労働条件を現在よりも不利益な状態に変更することを指します。
従業員の給与は社員にとっての命綱になり得るため、企業が自由に減給をおこなうのは不適切です。

とはいえ、従業員との合意が取れているのであれば、就業規則を変更することが可能となります。
つまり、該当する従業員と話をした結果減給が妥当と思われる場合には、本人の合意のもと就業規則を変更し、減給をおこなえるのです。

▼あわせて読みたい「労働契約法」の9条と10条に関する記事はこちら
労働契約法9条が定める就業規則の変更の原則を詳しく紹介
労働契約法10条の規定による就業規則の変更の条件や方法

関連記事:労働基準法第16条の賠償予定の禁止とは?違反の罰則や例外

7. 減給限度額に関係なく懲戒処分以外で減給になるケース

計算する人
懲戒処分としての減給処分に対する法律的な限度額についてご理解いただけたでしょうか。しかし、懲戒処分以外でも減給が行われるケースが存在します。例えば、労働契約や就業規則に明示されている特定の条件下での勤務成績不良や労働時間の削減が該当します。この場合、一般的な減給限度額の制約を受けません。労働契約や就業規則に基づく減給は事前に従業員の同意を得ることが重要であり、その具体的な計算方法については契約内容を細部まで確認する必要があります。実際の例をみていきましょう。

7-1. 従業員との合意により減給する場合

例えば、「給与に比べて能力が低いから」や「会社の経営が悪化したから」という理由で減給を検討することがあります。このような状況では、従業員と減給について合意を得ることで、実際に減給を行うことができます。重要なのは、この減給に際して労働基準法に定められた減給限度額に縛られない点です。具体的には、減給が最低賃金法に定められた最低賃金を下回らない限り、減給が法的に認められます。したがって、従業員との話し合いと合意を十分に行い、法的制約内で減給を適用する必要があります。

7-2. 人事評価で降格し減給する場合

人事異動によって降格人事がおこなわれ、結果的に減給に至るケースもあります。
降格処分による減給の大きな理由は能力不足です。

大きな問題行動やルール違反をしていない従業員であっても、人事評価によって降格処分になり、減給される可能性は十分に考えられます。
中には、マネジメント業務のプレッシャーや業務のミスマッチを理由として、本人側から降格を申し出るケースもあります。

7-3. 給与規定が改訂された減給する場合

給与規定の改訂による減給は、懲戒処分とは異なる減給のケースとして挙げられます。この場合、原則として全従業員から事前に個別の同意を得る必要があります。しかし、労働契約法第10条は、給与規定の改訂に合理性があり、変更手続が適正に行われた場合には、従業員からの事前同意がなくても減給を適用できるとしています。具体的には、会社の経営状況の悪化や業績の改革が必要な場合、合理的な理由があれば、給与規定の改訂が適用される可能性があります。このため、従業員は給与規定の変更が自身の給与にどのような影響を及ぼすかを理解するために、詳細な情報を事前に確認することが重要です。雇用主は改訂にあたり、可能な限り透明性を持ち、従業員とのコミュニケーションを図ることが求められます。

7-4. 会社都合による減給する場合

会社の業績や売上が悪化してしまったことから、人件費を削減する目的で減給が行われる可能性があります。このような会社都合による減給の場合、労働基準法上の制約があり、従業員の権利を守るために厳格な手続きを踏む必要があります。具体的には、減給の前に会社は従業員に対して財務資料や経営状況の詳細を共有し、その減給の必要性と方法について丁寧に説明することが求められます。さらに、従業員の同意を得ることも法律上重要です。これにより、透明性を確保し、双方の信頼関係を維持することができます。労働基準法の遵守は、会社と従業員双方の利益を守るための重要な要素です。

7-5. 欠勤が理由で減給となるケースもある

従業員が出社せず労働をおこなわなかったときには、欠勤控除をおこなうことができます。
労働基準法第24条には、労務を提供しない労働者に対して賃金を支払う義務がないというノーワーク・ノーペイの原則が規定されています。

欠勤控除は厳密には減給の罰則ではないのですが、結果的に給与額が大きく下がることになります。

関連記事:労働基準法第24条における賃金支払いのルールを詳しく紹介

8. 労働基準法第91条に応じて減給限度額の正しい計算を!

減給額の処分

企業が円滑に業務を進めていくためには、問題を起こした社員に対して減給の罰則を課す必要性が生じることもあるものです。
ただし、減給の処分には労働基準法第91条における限度額が設定されているので十分に注意しましょう。

また、あらかじめ就業規則に減給などの処分について記載しておくことも重要なポイントです。

減給はときに従業員との深刻なトラブルに発展することもあるので、慎重な判断をおこないましょう。

法改正から基本的な内容まで分かりやすく解説!
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人事担当者など従業員を管理する役割に就いている場合、雇用に関する法律への理解は大変重要です。
例外や特例なども含めて法律の内容を理解しておくと、従業員に何かあったときに、人事担当者として適切な対応を取ることができます。

今回は、労働基準法の改正から基本的な内容までを解説した「労働基準法総まとめBOOK」をご用意しました。

労働基準法の改正から基本的な内容まで、分かりやすく解説しています。
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OHSUGI

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クラウド型勤怠管理システムジンジャーの営業、人事向けに採用ノウハウを発信するWebメディアの運営を経て、jinjerBlog編集部に参加。営業時代にお客様から伺った勤怠管理のお悩みや身につけた労務知識をもとに、勤怠・人事管理や給与計算業務に役立つ情報を発信しています。

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