労働基準法に定められた賃金とその支払い方法を分かりやすく解説
更新日: 2023.9.1
公開日: 2021.10.4
MEGURO
企業は従業員に労働の対価として賃金を支払いますが、その支払方法はさまざまですが、労働基準法では賃金についての定義や支払方法などについて定められています。
そこで、今回は労働基準法に定められた賃金とその支払い方法について解説します。
▼そもそも労働基準法とは?という方はこちらの記事をまずはご覧ください。
労働基準法とは?雇用者が押さえるべき6つのポイントを解説
目次
1.労働基準法では「賃金とは労働の対償として使用者が労働者に支払う全てのもの」と定義されている
第十一条 この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。
引用:e-Gov「労働基準法」
人々は働いたことの対価として雇用主から報酬を受け取ります。それは賃金であったり、給料・手当・賞与などさまざまな呼び方がされています。
労働基準法における賃金とは、わかりやすく言うと、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものと定義されています。つまり、基本給・能力給・資格給など給与明細に「給与」として記載されている金銭全てが賃金であり、月給制や年俸制など支給の方法は問われません。
1-1.賃金・給料・給与・報酬の違い
賃金と意味を混同しがちな単語として、給料・給与・報酬があります。賃金の意味合いを正しく理解するために、違いを把握しておきましょう。
まずは理解しやすい給料と給与の違いから説明します。
給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。
引用:e-Gov「所得税法第28条1項」
所得税法第28条1項に記載があるように、給料は基本給のことをさし、給与は歳費や賞与などを含むため、給料よりも範囲が広く考えられています。
次に賃金と給与の違いについてです。
この2つの大まかな違いは、「金銭」に限定しているか否かになります。賃金は基本的には金銭に限定していますが、労使間での協定を結ぶことで現物支給が可能になります。それに対して給与は、特に労使協定も必要なく現物支給は可能なので覚えておきましょう。
最後に賃金と報酬の違いについてです。
違いは2点あり、1点目は報酬や賃金の支払いが発生する際に、お互いの関係地が労使関係であるか否かということです。賃金は労働契約があることを前提に労働の対償として、使用者から労働者に与えられるもののことをいいますが、報酬はその関係に限りません。
また2点目の違いは、それぞれの言葉の使用シーンが異なる点です。賃金は基本的には労働法の分野で使われ、報酬は社会保険の分野で使われます。
1-2.企業から支払われる金銭でも賃金に該当しないものもある
労働の対価として雇用主から支払われるものであっても、労働基準法で賃金として認められないものもあります。
賃金に該当しないものをまとめてみました。
任意的恩恵的給付
- 結婚祝い金
- 病気見舞金
- 弔意金
- 賞与などの一時金
- 退職金 など
企業設備・業務費
- 作業服・制服
- 作業用品代
- 出張旅費
- 社用交際費 など
福利厚生給付
- 資金貸付
- 金銭給付
- 住宅貸与
- 運動施設・レクリエーション施設 など
退職金は長年の勤務に対する恩恵的なものであり、労働条件として労使間で支給条件がはっきり定められていて、使用者の義務であるとされている場合に限り賃金として認められます。それ以外は賃金には該当しません。
また、従業員が客から直接受け取るチップや、使用者から受け取る慶弔見舞金なども賃金には該当しません。
他にも福利厚生か賃金であるかわかりにくいケースもあります。
例えば、住宅や食事・制服の貸与・供与に対して、そのために賃金の減額が伴われていなかったり、支給が就業規則などに規定されていない場合は賃金ではなく福利厚生とみなされます。
使用者が代わって負担する所得税・社会保険料の本人負担分や住宅貸与を受けない人に対して支払われる定額の手当などは賃金として認められます。
2.労働基準法に定められている「賃金支払いの5原則」
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
② 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
引用:e-Gove「労働基準法」
労働基準法第24条は、使用者が労働者に賃金を支払ううえでのルールとして、「賃金支払いの5原則」を規定しています。具体的には以下の5つになります。
2-1.通貨払いの原則
賃金は通貨で支払わなければならず、実物給与は禁止されています。
ただし、預貯金口座へ賃金を振り込むケースは労働者の同意を得た場合に限り可能となります。この「同意」とは、個々の労働者に対して必要なもので、労使協定などで一括して認めることはできません。
2-1-1.外貨や手形での支払い
外国人労働者に対して支払う賃金であっても、日本国内で働いている以上、日本の労働基準法が適用されるため、日本国内で強制通用力のない外貨での支払いは、認められません。また、小切手による支払いおよび手形支払いも換価が不便であり労働者に危険を与えることから、通貨払いの原則に違反するので許されません。
なお、ビットコイン等、仮想通貨も通貨の定義に当てはまらないため、賃金の支払には使えません。ただし、後述のように労働協約を結び、賃金の支払いに仮想通貨を当てることを可能にするケースも増加傾向にあります。
2-1-2.現物支給が認められるケース
労働基準法第24条1項にて、下記の3つの場合に賃金の代わりとして現物を支給することが認められています。
- 法令で認められているもの
- 労働協約で定めた場合
- 厚生労働省令で定める場合
2-2.全額払いの原則
賃金はその全額を支払わなければなりません。
ただし、所得税・社会保険料など他の法令で賃金控除が認められているもの、積立金や社宅料を控除することが労使協定であらかじめ取り決められている場合はその限りではありません。
全額払いの原則に反しない賃金控除は2つあります。
まず1つ目は「法令に基づく控除」になります。
使用者が、賃金から税金や健康保険料、厚生年金保険料等、社会保険料を控除して、労働者に代わり、控除した分を行政官庁等に支払うことは認められています。いわゆる天引きです。
続いて2つ目が「労使協定に基づく控除」になります。
労働者と使用者間で、書面によって、一定の項目の価額を賃金から控除することを認める労使協定を締結した場合、賃金から当該項目の価額を控除しても、全額払いの原則に違反しません。なお、社内の物品の購買費用、社宅(寮)やその他福利厚生施設の費用、労働に必要な物資の費用等、事理明白なものについてのみ、労使協定に基づく控除が認められます。
2-3.直接支払いの原則
賃金は労働者に直接支払わなければなりません。
労働者の家族や法定代理人であっても認められません。
ただし、労働者本人が病気で、代わりの人が使者として受け取る場合は認められます。
2-4.毎月払いの原則
賃金は毎月1回は必ず支払うものとされています。
賃金締切期間については暦月のしばりはなく、「前月の25日から当月の24日まで」といった1つの期間として支払うこともできます。
2-5.一定期日払いの原則
賃金は「毎月○日」のように期日を特定して支払わなければなりません。
一定であれば月給で毎月末、週給で土曜日と特定するのは可能ですが、月給制で毎月第3金曜日のように1週間の範囲で変動するようなものは認められていません。
ただし、賞与のように臨時に支払われるものは例外として認められています。
関連記事:労働基準法第24条における賃金支払いのルールを詳しく紹介
3.賃金の未払いなどルール違反した場合は罰則が適用される
労働基準法で定められた賃金支払いの5原則に違反した場合、使用者には罰則が適用されます。
労働基準法第120条により30万円以下の罰金刑が課されます。
また、違法性が認められた場合は、送検されて刑事裁判を経て処罰を受ける可能性もあります。
賃金支払いの5原則に沿って、各違反例をご紹介します。
3-1.通貨払いの原則の違反例
- 小切手や商品券、外貨で支払う
原則の名にある通り、賃金の支払いは必ず日本円で行わなければなりません。なので当然基礎通貨であっても外貨で支払うのは違反ですし、金券や商品券で賃金を支払うのは違反に該当してしまします。
3-2.全額払いの原則の違反例
- 天引き
社内預金、親睦会費、社内旅行積立金、罰金など、いかなる名目であっても給与からの天引きは認められません。しかし例外として、法令の定めや労使協定がある場合はその限りではありません。
3-3.直接払いの原則の違反例
- 代理人に支払う
今までのケースだと、未成年者がアルバイトを行うときなどに、銀行口座を持っていない関係で親の口座を給与の振込先にしているケースがありましたが、そのようなことを行えば違反になりますのでご注意ください。
3-4.毎月払いの原則
- 一括払いの年俸制
年俸制で賃金を決めること自体は、プロのスポーツ選手なども行っている通り可能です。ただしその金額を12回以上の分割をして、支払いを毎月1回は行えるようにしなければなりません。
3-5.一定期日払いの原則
- 曜日で支払日を決める
「毎月第4木曜日支払い」のように、月ごとに支払日がぶれるような支払日の設定は違法です。ただし、月末払いでの場合のみ、各月によって末日の日数が異なるため、合法的に一定期日ではない支払日として認められています。
4.賃金計算で端数が出たときの処理も定められている
労働基準法では、賃金計算の際にでた端数の処理についても細かく定められています。
4-1.時間外労働・休日労働・深夜労働の割増賃金総額の端数処理
時間外労働・休日労働・深夜労働など割増賃金を支払う必要があるケースでは、1カ月ごとの賃金支払額を計算する際に端数が出てしまうこともあるでしょう。
1カ月における賃金計算で100円未満の端数があった場合は、50円未満の端数を切り捨て、それ以上は100円に切り上げても構いません。1円未満の端数は50銭以上あれば1円に切り上げ・50銭未満なら端数切り捨てが可能です。
また、1,000円未満の端数を翌月に繰り越しても問題ありません。
時間数の合計で1時間未満の端数が出た場合は、30分以上であれば1時間に切り上げても構いませんし、30分未満であれば端数の切り捨てが認められています。
1時間あたりの賃金額や割増賃金額に1円未満の端数があった場合は、50銭以上は1円に、50銭未満は端数切り捨てが可能です。
4-2.遅刻・早退・欠勤などで発生した時間の端数処理
遅刻・早退・欠勤などで勤務時間の端数が発生した場合には注意が必要です。
例えば、7分遅刻した場合に30分の遅刻として賃金をカットするのは賃金の全額支払いの原則に反するため違法になります。
実際に勤務した23分に対する賃金は計算に入れた後に端数が生じた場合、割増賃金の端数と同様に処理する必要があります。
5.労働基準法に定めれられた賃金支払い5原則に違反すると罰金や処罰の対象になる
労働基準法において賃金とは給与や賞与・手当など従業員の労働の対償として使用者(企業など)が支払う金銭は一部例外を除いて全て賃金とみなされます。
労働基準法では賃金の支払いについて賃金支払い5原則を定めています。
賃金は通貨で労働者本人に全額・あらかじめ決められた日に支払われる必要があります。
実物支給や労働者本人以外に支払ったり、支払日が定まっていないと違法となり、罰金刑や刑事裁判を経て処罰の対象となる可能性もあるため注意が必要です。
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