労使協定とは?種類や労働協約・就業規則との違い、届出義務に違反した場合を解説
労使協定は、労働基準法の範囲内では働きにくい業種などが、労働基準法の制限を緩和し、柔軟に働けるようにするための取り決めです。ただし、使用者が一方的に規定できるのではなく、使用者と労働者の双方同意の上で成立します。
また、労使協定の中には、労働基準監督署に届出が必要になるケースもあります。ここからは労使協定の基礎知識に加え、届出の必要性、労使協定違反や罰則などを詳しくご紹介します。
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目次
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1. 労使協定とは
労使協定は使用者と労働者代表の間で取り交わす書面契約のことです。契約内容は仕事に関する約束事で、主に労働状況や労働環境に関する取り決めを交わします。
1-1. 労使協定の目的
労使協定の目的においては、労働状況の改善を求める目的よりは、労働基準法の枠では不都合な職業の働き方を、労働者と使用者の双方同意の上で変えることを目的としています。
例えば、法定時間外の労働や休日出勤の上限を同意の上で引き上げる36協定も、労使協定のひとつ。労働基準法では1日8時間、1週間で40時間の労働時間が定められていますが、36協定を締結すると、その上限を引き上げることができます。
ただし、無理な働き方を強いることはできません。上限がなくなるわけではなく、時間外労働は年720時間以内、時間外労働と休日労働は月100時間未満、2~6カ月平均で80時間以内と定められています。
仮に36協定を締結しないまま法定労働時間を超えて残業させたり、休日出勤させたりした場合は、労働基準法違反となり罰則が科せられます。
1-2. 労使協定の種類
また、36協定以外にも次のような労使協定があります。
▼労使協定の例
- 任意貯蓄金
- 賃金控除
- 1カ月単位の変形労働時間制
- 1年単位の変形労働時間制
- 1週間単位の非定型変形労働時間制
- フレックスタイム制
- 一斉休憩の適用除外
- 事業場外労働
- 専門業務型裁量労働制
- 計画年休
- 代替休暇
- 時間単位年休
- 育児休業・時間外免除・短時間勤務の適用除外
- 介護休業の適用除外
- 看護休暇・介護休暇の適用除外
以上の協定を締結すると、賃金から積立貯蓄を行えたり、労働時間を1カ月単位・1年単位などにして柔軟な働き方に対応したり、交代制の休憩を取り入れたり、育児休業や介護休業の適用除外を設けたり、使用者と労働者の合意の上で労働条件を定めることができます。
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関連記事:労使協定の種類・特徴や労働基準監督署に届出が不要なケースについて解説
関連記事:労使協定方式や同一労働同一賃金における派遣会社の責任について
1-3. 労使協定の有効期間
労使協定にはさまざまな種類がありますが、その中に有効期間を定めなければならないものが5つあります。有効期間を定めなければならない労使協定と有効期間は以下の表の通りです。
たとえば、36協定であれば有効期間は、1年~3年の間で定める必要があります。1年間が望ましいとしている理由は、36協定の対象期間が1年間と決められているためです。
以上の5つの労使協定を結ぶ際には、同時に有効期間も定めなければいけない点に注意しましょう。
関連記事:労使協定(36協定)の有効期間とは?必要なケースや理由を解説
2. 労使協定と「労働協約」「就業規則」との違い
労使協定、労働協約、就業規則は労働条件を定める重要な文書ですが、それぞれの目的や適用範囲が異なります。労使協定は個別の労働条件に関する取り決めであり、労働協約は労働組合と使用者が労働条件や労使関係を明確にするために結ぶ協定です。就業規則は企業が全従業員に適用する労働条件や勤務時間、休暇制度などを一律に定めた規則であり、法律によって定められた形式が必要です。それぞれの特徴を理解して運用することが求められます。
2-1. 労働協約との違い
労働協約とは、賃金、労働条件、団体交渉、組合活動などの労使関係におけるルールを、労働組合と使用者が取り決めたものを指します。一旦締結されると、協約の定めに沿った一定の労働条件が保障され、労働者は安心して働くことができます。また、使用者にとっても労使関係の安定を維持するために重要です。労使協定と労働協約では締結の相手や目的が異なり、労働協約は原則として労働組合員のみに適用される一方、労使協定は事業場の全労働者が対象となります。
2-2. 就業規則との違い
労使協定は、使用者と労働者が話し合い、合意した上で決定・作成されるものです。労使協定を結ぶことで、労働基準法の例外が認められます。
たとえば、労使協定の一種である36協定を結ぶと、使用者は労働基準法で定められた労働時間を上限の範囲内で延長することなどができます。ただし、労使協定は労働時間や休憩時間をはじめとした、労働に関する命令を下すものではありません。
一方の就業規則は、使用者が労働者に対して労働に関する命令権を確保するものです。労働条件を記載し、それを労働者に提示することで、記載された規則に則った命令を下す権利が発生します。
就業規則は労働基準法に則って作成する必要がありますが、労使協定とは異なり使用者のみで作成されます。
関連記事:労使協定の就業規則の義務や優先順位を解説
2-3. 36協定との違い
36協定は労使協定の一種で、「時間外・休日労働に関する協定届」のことを指します。労働基準法第36条に基づき、法定労働時間を超える労働を行うために必要なもので、労働者と使用者間の合意により締結されます。特に、労働基準法が定める1日8時間、1週間40時間を超える労働を命じる際や、休日に労働させる際には、36協定が必要となります。36協定が無いまま労働を命ずる場合は、法違反となり罰則の対象となります。
3. 労使協定には届出義務がある?
労使協定には、その内容によって労働基準監督署への届出義務が生じる場合があります。例えば、法定労働時間を超えて労働者を働かせる際には、36協定を締結し、労働基準監督署へ提出する必要があります。その他にも、裁量労働制やフレックスタイム制を導入する場合など、労働基準法の例外として労働時間や働き方を柔軟に設定する際は、労使協定の締結が求められます。未届け出の状態でこのような働かせ方をすると法令違反となり、罰則が科される恐れがあります。
4. 労働基準監督署長への届出が必要なケース
労使協定の中には、管轄の労働基準監督署に届出が必要になるものもあります。
先ほどご紹介した36協定も、双方の合意を得て書類を作成したら、36協定届と呼ばれる書類を労働基準監督署長に提出します。労働基準監督署長に提出して認められてはじめて効力を持つので、届出に不備があった場合や、そもそも届出を行わなかった場合、協定は無効です。
本章では、労使協定の中で労働基準監督署長に届出が必要なケースをご紹介します。
関連記事:労使協定の種類・特徴や労働基準監督署に届出が不要なケースについて解説
4-1. 労働基準監督署に届出が必要な労使協定一覧
労働基準監督署に届出が必要な労使協定は次のとおりです。
- 任意貯蓄
- 1カ月単位の変形労働時間制
- 1年単位の変形労働時間制
- 1週間単位の非定型変形労働時間制
- フレックスタイム制(清算期間が1ヶ月以内のときは不要)
- 時間外・休日労働(36協定)
- 事業場外労働(労働時間が法定労働時間を超えていなければ不要)
- 専門業務型裁量労働
以上の労使協定は、労働者と使用者の双方で話し合った後、必ず労働基準監督署に届け出を行いましょう。
また、企画業務型裁量労働制の場合は労使委員会の決議届を提出します。こちらも届け先は労働基準監督署です。
4-2. 労使協定の届出の例
労使協定の届出として、任意貯蓄と時間外・休日労働の2つを例としてご紹介します。
貯蓄金管理は労働基準法第18条第2項に基づき、労使協定の締結と届け出を行います。事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があればその労働組合が、なければ同じく事業場の労働者の過半数を代表する者が書面で協定を締結します。
協定内容は、「貯蓄金管理に関する協定」です。協定を締結したら、所轄労働基準監督署長に届け出ることで、締結から届出の流れは完了です。
一方、36協定の場合も締結までは貯蓄金管理とほとんど同じです。ただし、36協定は「36協定届」と呼ばれる用紙を用いて申請を行います。2021年4月より新様式として、代表者が適任であるかのチェックボックスが増設されました。不備があると受理してもらえませんので、注意して記入し、届け出ます。
なお、新様式への変更に伴い、e-GOVによる電子申請も可能です。
5. 労働基準監督署長への届出が不要になるケース
続いて、労働基準監督署長への届出が不要になるケースについて紹介します。
5-1. 労働基準監督署に届出が不要な労使協定一覧
労働基準監督署に届出が不要な労使協定には以下のようなものがあります。
- フレックスタイム制に関する労使協定(清算期間が1ヶ月を超えない場合)
- 年次有給休暇の計画的付与に関する協定
- 時間単位での有給休暇の付与に関する協定
- 年次有給休暇の賃金を標準報酬日額で支払う場合の協定
- 育児休業、看護休暇及び介護休業が出来ない者の範囲に関する協定
- 休憩の一斉付与の例外に関する協定
- 賃金から法定控除以外の控除を行う場合の協定
このようなものが届出が不要です。これらの協定は労働者と使用者間の合意があれば実施可能であり、社内での合意形成と周知が重要となります。
6. 労使協定の締結方法と流れ
労使協定は適切な方法で締結しなければ、無効となってしまう可能性もあります。そのため、労使協定を締結する流れをしっかりと把握しておきましょう。
6-1. 労働組合と内容を交渉し内容を作成する
まずは、使用者側で締結する労使協定の内容を作成します。どのような労使協定を結ぶかによって、労使協定に含むべき項目が異なるため、厚生労働省が発行しているガイドブックなどを確認し、抜け漏れがないようにましょう。特に、後述する届出が必要となる労使協定は、必要項目を満たしていなければ無効となる場合があるため、注意が必要です。
6-2. 労使協定を締結する
労使協定の内容が完成したら、労働者代表と契約締結をおこないます。労使協定は協定内容が記載された書面に締結日を記載し、両者の記名捺印をもって締結とすることが一般的です。
なお、労働者代表は、パート・アルバイトを含む労働者の過半数で組織されている労働組合がある場合はその代表、ない場合は投票などによって決められた労働者の過半数を代表する従業員をさします。管理監督者や会社からの指名など使用者の意向で選出された従業員は労働者代表となることはできないため、注意が必要です。
6-3. 就業規則を変更する
労使協定に関わる労働条件は、いずれも就業規則の記載事項とされています。したがって、各事業場において常時10人以上の労働者を使用する使用者は、労使協定の内容を就業規則に反映しなければなりません。取締役会などの機関決定を経て、労使協定の効力発生日に合わせて就業規則の変更を行いましょう。就業規則への反映は法的責任を持ち、正確に行うべき重要な手続きです。
6-4. 周知義務に基づき労働者への周知をおこなう
労使協定を締結した後は、従業員に周知のうえ、全従業員が労使協定の内容を確認できるよう掲示板に貼り出したり、社内ポータルや社内の共有ファイルなどに格納したりしましょう。
6-5. 労働基準監督署へ届け出る
また、届出が必要な場合は、速やかに労働基準監督署長へ提出をおこないます。届出が受理されてはじめて、効力を発揮することに注意しましょう。
7. 労使協定の規則に違反した場合の罰則
労使協定違反の罰則には2種類あります。一つは、労使協定を締結せずに労働基準法に記載のある項目を違反した場合。もう一つは、労使協定に定められた上限や規制を超えた場合です。
労働基準法違反はケースによっては罰則が重いので注意が必要です。
7-1. 労使協定を締結していない場合
労使協定違反の1つ目は、労使協定を結ばずに労働基準法違反となる労働をさせて締まった場合です。例えば、36協定が締結されていないにもかかわらず、1日10時間の労働をさせたり、貯蓄金管理の協定を締結する前に賃金の一部を貯蓄に回してしまったりなどが挙げられます。
この場合、どちらも労働基準法第119条第1号違反として、「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が罰則として科せられる可能性があります。
7-2. 労使協定に定められた上限や規制を超えた場合
また、労使協定を結んだ場合でも、上限や一定の制限を超える無理強いはできません。例え36協定を結んでいても、上限時間を超えて時間外労働をさせることはできないので注意が必要です。この場合も、労働基準法違反として「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」となります。ただし、労働基準法36条違反ではなく、労働時間を定める労働基準法第32条、休日を定める労働基準法第35条違反となるので、注意が必要です。
以上のように、労使協定の定めを超えてしまった場合は、労働基準監督署の判断で是正勧告が行われる可能性があります。また、処分内容も労働基準監督署によって異なります。もし、労使協定や労働基準法に違反していると発覚した場合は、事態をすぐに把握し、改善に向けての取り組みが必要です。
関連記事:労使協定と労働協約の違い・位置付けと違反時の罰則とは
8. 労使協定に関わるルールを正しく理解しておこう
労使協定は、労働基準法では不都合な箇所に関して、労働者と使用者、両者合意の上で新たな枠組みを定める協定です。書面上に証拠が残る形で協定を締結し、内容によっては労働基準監督署に届け出ます。
ただし、上限が撤廃されるわけではなく、例外として労働基準法以外の条件を適用するだけなので、誤認しないようにしましょう。
届出が必要な労使協定は、届出が受理されてから初めて労使協定としての効力が認められるので、届出を忘れずに行いましょう。労使協定が成立していない状態だと、労働基準法違反となり、罰金刑や懲役刑が科される可能性があるので注意が必要です。
社会保険料の支払いは従業員の給与から控除するため、従業員が入退社した際の社会保険の手続きはミスなく対応しなければなりませんが、対象者や申請期限、必要書類など大変複雑で漏れやミスが発生しやすい業務です。
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