試用期間とは?目的や通常の雇用期間との違い・本採用前の退職について解説
従業員を新たに雇い入れる際に、履歴書や面接だけ求職者の適性を判断するのはなかなか難しいものです。ですが、試用期間を設ければ、実際に働く様子をみながら適性を判断することが可能となります。
ただし、試用期間を設定するにあたっては、解雇事由などいくつか注意しなくてはいけないポイントがあります。
そこで今回は、試用期間の設定方法や注意点、メリットやデメリット、トラブル対処方法について解説します。
目次
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2024年4月に改正された「労働条件明示ルール」についても解説しており、変更点を確認したい方にもおすすめです。
1. 試用期間とは?
試用期間とは、採用した従業員が自社の社員として相応しい適性やスキルを備えているかを判断するために設けられている期間のことを指します。
会社として正社員を採用するときは、書類選考からはじまり面接を経て採用になることがほとんどです。
入社前の採用過程ではどうしても判断できない能力や適性などがあるでしょう。入社してから人となりと見極めて、本採用するかどうか決めるために設定する期間のことを試用期間としています。
法律上でいうと、試用期間中は「留保解約権付の雇用契約が成立している」と解釈されています。
ただし、社会通念上相当の合理的な理由がない限りは、留保解約権の行使は認められないため、本採用にならないケースはほとんどありません。
1-1. 会社が試用期間を設ける目的
試用期間の主な目的は、勤務してみてからでないとわからないことを確認するためです。
例えば勤怠状況の悪さや、履歴書に書いてあった職歴や経歴との剥離、著しく仕事ができない、やる気を感じないなど、仕事ができない事態が生じないかどうかを確認する目的があります。
まず重要なのが、勤怠状況です。
遅刻や欠勤などが目立ったり、リモートワークの場合は求めているリモートワークができているかどうかをチェックします。
次に重要なのが、仕事ぶりです。
試用期間中に期待通りの実績をあげることは、慣れないこともあり難しいかもしれません。しかし、与えられた仕事にきちんと向き合う姿勢が見られれば、よほどのことが無い限りは著しく仕事ができないと言えないでしょう。
1-2. 試用期間の一般的な長さ
試用期間は一般的には1カ月から3カ月程度、長くても6カ月以内とされるのが標準的です。この期間内で新入社員の適性や業務能力を十分に見極めることが求められます。ただし、長すぎる試用期間を設定すると、公序良俗違反(民法90条)として無効になる可能性があるため、慎重に設定する必要があります。
参考:民法に基づいて契約の効力を否定することができますか|法務省
1-3. 試用期間と研修期間の違い
試用期間と間違えられやすいのが研修期間です。研修期間と試用期間は全く別のものなので、混同しないように注意しましょう。
研修期間とは、従業員の訓練や教育をおこなうために設定されるものであり、従業員の適正をチェックして本採用の成否を判断する試用期間とはそもそも趣旨が異なります。
企業によっては試用期間と研修期間の両方を設定している場合もあるため、設定目的が違うことについてきちんと把握しておきましょう。
なお、新卒採用の場合は研修期間があっても、中途採用の場合には設けない企業も多いです。
2. 試用期間と通常の雇用期間の違い
正社員として採用している場合、試用期間中でも本採用と待遇は変わらない場合がほとんどです。企業によっては試用期間中の給与を低く設定している場合もありますが、この場合労働条件通知書や労働契約書などに明示する必要があります。
2-1. 解雇にする基準がやや緩やかになる
試用期間は、通常の雇用期間とは異なり、解雇の要件が緩やかである点が特徴です。
企業は、新入社員の試用期間中に労働契約を解約できる権利を持っています。このため、通常の解雇と比べて、試用期間中の解雇(本採用拒否)はやや緩やかです。しかし、試用期間中であっても無制限に解雇できるわけではありません。例えば、解雇には合理的な理由が求められ、その理由についても労働基準法や判例に従って慎重に判断される必要があります。
企業の人事担当者は、この点を踏まえながら、試用期間の運用方法を適切に設定し、有効に活用することが重要です。一方、新入社員は、試用期間中に求められるパフォーマンス基準や評価項目を理解し、円滑な本採用に向けて努力することが求められます。
2-2. 賃金設定が異なる
試用期間中の賃金(給与)は通常の雇用期間とは異なる場合があります。企業によっては試用期間中は賃金を抑えるケースがあり、これにより企業は新入社員の業務適応能力を見極めることが可能です。一方で、通常の雇用期間と同じ賃金を設定する企業も存在します。
このように、賃金設定は労働契約に準じて異なりますが、試用期間中にも最低賃金は必ず適用されます。この点に注意して賃金設定を行うことで、ルールに遵じた適正な労働環境を整えることが可能です。
2-3. 試用期間中は平均賃金の算定対象外になる
試用期間中は、通常の雇用期間と異なり、平均賃金の算定対象外となることが多いです。
平均賃金とは、基準日以前3カ月間に支払われた賃金の総額をその期間の総日数で割ったもので、解雇予告手当や休業手当の計算に用いられます。しかし、試用期間中の賃金は一般的にこの平均賃金の算定に含まれません。これは労働基準法12条3項5号で規定されています。
ただし、試用期間中に解雇などの事由が発生した場合は、その期間の賃金も含めて平均賃金を計算する必要があります。例えば、試用期間から本採用に移行した後に解雇される場合は試用期間中の賃金は含まれませんが、試用期間満了時に解雇される場合にはその賃金を含めることになります。
企業の人事担当者や新入社員は、この違いを理解し、適切な対応をすることが重要です。
2-4. 社会保険に加入する必要がある
試用期間の労働者についても、社会保険の加入は通常の労働者と変わりありません。具体的には、試用期間中でもフルタイム労働者は厚生年金保険と健康保険に加入する義務があります。
また、短時間労働者についても、特定適用事業所や任意特定適用事業所と定義される事業所において、所定労働時間が週20時間以上、雇用期間が2ヶ月を超え、賃金が月額8.8万円以上であり、さらに学生でない場合は、同様に社会保険に加入する必要があります。
このように、試用期間でも労働者の待遇が異なることはなく、社会保険の加入に関する要件を満たす必要があるため、企業の人事担当者と新入社員はそのルールを理解しておくことが重要です。
2-5. 解雇予告手当の支払いルールが異なる
試用期間と通常の雇用期間の違いの一つとして、解雇予告手当の支払いルールが異なる点が挙げられます。
労働基準法によれば、使用者は労働者を解雇する際に30日以上前に解雇予告を行うか、または解雇予告手当を支払わなければなりません(労働基準法20条1項)。しかし、試用期間中の労働者に対しては、状況が異なります。
具体的には、雇入れ後14日以内の試用期間中の労働者の場合、解雇予告や解雇予告手当の支払い義務はありません(労働基準法21条4号)。
一方で、雇入れ後14日が経過した後の試用期間中の労働者に関しては、試用期間中もしくはその満了時に解雇を行う際には解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要となります。この違いは、企業の人事担当者にとって重要なポイントであり、新入社員に対しても正確なルールを理解してもらうことが肝要です。
3. 試用期間を設けるメリット
試用期間を設ける一番のメリットは、採用のミスマッチを回避できる点にあります。
企業側からすると求職者の適性を直接見た上で採用の可否を判断でき、求職者側からしても「思っていたのとは違う」といった認識のずれを防止することが可能です。
また、試用期間中に求職者のスキルや適正も把握できるため、試用期間終了後、スムーズに人材配置ができるのもメリットとして挙げられるでしょう。
4. 試用期間を設けるデメリット
一方で試用期間の設定には少なからずデメリットもあります。試用期間中は身分が不安定になることから、求職者から応募を敬遠されてしまう可能性があることです。
求職者に内定を出していたとしても、試用期間のない他社で内定が決まれば辞退される可能性もあります。
自社が採用に前向きな姿勢を示していたとしても、試用期間が与える心理的な作用よって採用活動が不利になる恐れもあるため、試用期間の設定は慎重に判断しなくてはいけないでしょう。
5. 試用期間を設定する際の注意点
試用期間について説明しましたが、次に設定方法や注意点について説明します。
先述と重なる点も一部ありますが、詳しく説明するので参考にしてください。
5-1. 妥当な範囲で試用期間を設ける
試用期間の長さについては法律上の決まりがないため、独自に設定していることがほとんどです。正社員の場合は、大体が6カ月未満に設定されていることが一般的のようです。
試用期間中の従業員は身分が不安定な立場にあるため、1年を超える期間を設定するのは従業員のエンゲージメント低下を招く恐れがあるでしょう。
法律上の決まりが無いとは言え、設定期間が長すぎる場合、民法90条の公序良俗違反などに該当するとみなされる場合もあります。
正社員だけでなく、契約社員やパート、アルバイトなどにも試用期間を設けることは可能ですが、性質から考えても正社員より短いケースが多いです。
5-2. 試用期間について契約書に記載する
労働者を雇用すると、企業は労働者に対して雇用条件を記載した「労働条件通知書」を作成・交付しなければならない旨が、労働基準法第15条で定められています。
つまり試用期間を設けるのであれば、期間や賃金などの処遇について通知書もしくは契約書といった書面へ記載し、本人へ説明をおこなう必要があります。本人の納得を得られなければ、試用期間を設けることはできません。
また、就業規則にも試用期間の有無や労働条件などについて明記しておく必要があります。
5-3. 待遇は法律の範囲内で設定する
試用期間中の従業員の待遇は、原則として企業が任意で定めることができます。
日本には最低賃金法がありますので、試用期間中であっても最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません。
5-4. 試用期間中でも各種保険の加入や残業代の支払いは必要
試用期間中であっても、雇用保険や社会保険の被保険者となる要件を満たしている場合は、それぞれ手続きをおこなわなくてはいけません。
また、残業や休日出勤を命じた場合にも、労働基準法で定められた割増率を乗じた時間外手当や深夜手当、休日手当を支払う必要があります。
「まだ本採用ではないため、各種保険の手続きや残業代の支払いは不要」と思われている方もいるようですが、いずれも手続きや支払いを怠ると法律違反とされ、処罰の対象となるので注意しましょう。
5-5. 試用期間に関する就業規則の条文例
試用期間を設定する企業は、労働契約や就業規則においてそのルールを明確に定めることが一般的です。
厚生労働省が提供するモデル就業規則によれば、試用期間について以下のような条文が用意されています。
(試用期間)
第6条 労働者として新たに採用した者については、採用した日から か月間を試用期間とする。
2 前項について、会社が特に認めたときは、試用期間を短縮し、又は設けないことがある。
3 試用期間中に労働者として不適格と認めた者は、解雇することがある。ただし、入社後14日を経過した者については、第53条第2項に定める手続によって行う。
4 試用期間は、勤続年数に通算する。(解雇)
第53条 略
2 前項の規定により労働者を解雇する場合は、少なくとも30日前に予告をする。予告しないときは、平均賃金の30日分以上の手当を解雇予告手当として支払う。ただし、予告の日数については、解雇予告手当を支払った日数だけ短縮することができる。 3・4 略
企業の人事担当者は、この条文例を参考にして、自社の就業規則に試用期間に関する条文を導入することができます。
これにより、試用期間中のトラブル対応も円滑に進められるでしょう。一方、新入社員にとっても、このような規則が明確化されていれば、試用期間中の自身の立ち位置や期待される行動が明確になります。全ての労働者につき原則として試用期間を設ける場合には就業規則で、労働者ごとに設定内容を変えたい場合には労働契約で試用期間を定めるのが適切です。
6. 本採用前の試用期間中に解雇(退職)することは可能?
試用期間中の契約関係に関しては、解約権留保付の労働契約が成立しているとみなされます。
解約権留保付とは、企業が労働契約の解約権を留保している状態のことです。
企業は一定の範囲でその解約権を行使することにより、労働契約を解約、つまり解雇することが可能とされています。
6-1. 本採用拒否の要件
本採用拒否の要件には、いくつか具体的な条件が存在します。まず、労働契約や就業規則に本採用拒否に関する規定が明示されていることが前提となります。
この規定に基づき、労働者の勤務態度や業務遂行能力が本採用に至らないと判断される場合があります。また、業務評価が一定基準に達しないことや、指導や研修にもかかわらず改善が見られない状況も要件に含まれます。次に、拒否の理由が客観的かつ合理的であり、企業側の一方的な判断ではないことが重要です。そして、本採用拒否の決定については、詳細に説明し、当該労働者に納得してもらうための手続きを取ることが求められます。
解約権の行使に関しては通常の解雇より広い範囲における解雇の自由が認められますが、大前提として、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められるものでなくてはなりません。
たとえば、採用当初に知ることができなかった事実が試用期間中に判明し、引き続き雇用するのは適当でないと判断した場合は、解約権の行使が認められます。
逆に、会社の都合による一方的な解雇は認められませんので注意しましょう。
なお、このルールは雇用形態によらないため、正社員だけでなく、パートやアルバイトにも適用されます。
6-2. 不当解雇にあたらないために企業側が注意すべきこと
不当解雇にあたらないためには、解雇事由が客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められるかどうかをしっかり見極める必要があります。
単純に「思ったより能力がなかった」「スキルが足りなかった」といった理由では、今後適切な指導・教育をおこなうことで改善する可能性が否めないため、解雇に相当する要因とはみなされません。
一方、「欠勤や遅刻を繰り返すなど勤務態度が悪い」「病気やケガなどで働き続けることが困難になった」「労働者が経歴を詐称していた」などの理由は解雇事由に該当するとみなされる可能性があります。
ただ、勤務態度が悪い場合はまず本人に注意・指導をおこなう必要があり、病気やケガについても医師から「復職は困難」という診断がなければ容易に解雇することはできません。
解雇に足る理由がある場合でも、企業として必要最低限の取り組みや対策を講じることが大切です。
以上の点を踏まえて、解約権を行使する際は必要な措置を講じた上で、慎重におこなうようにしましょう。
6-3. 本採用拒否をする際の手続き
本採用拒否を行う際には、慎重かつ適切な手続きが求められます。まず、法令や判例を参考にして、本採用拒否の理由が正当であるかを検討しましょう。もし認められない場合は、退職勧奨を行い、合意退職を目指すことが望ましいです。
次に、解雇予告について対応します。原則として解雇日の30日前に予告する必要がありますが、予告期間を短縮する場合、その日数に相当する解雇予告手当を支払う義務があります。ただし、雇入れ後14日以内の試用期間中の労働者はこの限りではありません。
最後に、退職手続きを進めます。貸与品を返却させ、必要な書類を適切に交付します。これには、源泉徴収票、雇用保険被保険者票、退職証明書(請求された場合)、離職票、健康保険資格喪失証明書などが含まれます。スムーズな手続きを行うことで、トラブルを未然に防ぎましょう。
7. 試用期間中のトラブル対処法
細心の注意をはらっていても、「話しが違う」「扱いが不当」などのトラブルに発展してしまうこともあります。試用期間中におこりやすいトラブルと対処方法を紹介します。
7-1. 試用期間の延長を相談したい場合
試用期間を延長したうえで本採用の可否を判断したいと考える場合があります。
例えば期間中に病気やケガなど諸事情によって長期間会社を休んだ場合などです。長期間会社を休むと、業務への適性を判断するという会社側の目的が達成されないことになります。
また、勤務態度に問題があり、もう少し様子を見たい場合などもあるでしょう。
このように試用期間の延長を望む場合は、合理的で客観的な理由があり本人の合意を得れば延長可能です。
就業規則等で延長規定が定められていて、その中の理由に該当していれば期間延長ができます。
延長を検討する場合は就業規則を確認し、本人と話し合いした上で決定するようにしましょう。
7-2. 試用期間中に労働者が退職したいと言って突然出社しなくなった場合
試用期間中であっても、退職に関しては他の従業員と同様の扱いとなります。
就業規則に退職の申し出に関する規定がある場合はその指定期日に、無い場合は民法第627条の規定に倣い「原則退職希望日の2週間前」までに申し出なくてはいけません。
そのため「申し出の翌日から出社しないことは原則認められない」ことを伝えておくことが必要でしょう。
これは試用期間開始時に「退職したい場合の手続き方法」など書面などで伝えておくことである程度は防げます。
8. 就職・転職後には6ヵ月以内の試用期間で仕事への適正を見極めよう
試用期間は企業にとっても労働者にとってもメリットのある制度です。しかし法令を守らないとトラブルの原因になりかねません。試用期間に関してのルールは複雑で間違っている方も多いのが現状です。この機会に正しい知識を身につけて、トラブルを事前に防ぐようにしましょう。
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