ウェルビーイング経営とは?健康経営との違いや効果、企業事例を解説
更新日: 2025.5.1
公開日: 2025.2.13
jinjer Blog 編集部
ウェルビーイング経営とは、従業員をはじめとする全関係者の心身や社会的な健康を目的とする経営手法です。
企業視点で取り組む健康経営とは異なり、従業員視点により計画して実施されます。
本記事の内容は、ウェルビーイング経営の概要や推奨される背景、メリットやデメリット、健康経営との違いについての解説です。
そのほかに、ウェルビーイング経営の成功事例や成功させるためのポイントも解説しているため、ぜひ参考にしてください。
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1. ウェルビーイングとは
WHOが定めた世界保健機関憲章前文の中に以下のような一文があり、ウェルビーイング(well-being)に関してはこの定義が普及しています。
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。
ウェルビーイングとは、心身の健康だけでなく、社会的な健康を含む包括的な概念です。さらに、ウェルビーイングには主観的な評価と客観的な指標があります。
主観的ウェルビーイングは自己の感じ方や評価に基づき、個々の幸福度や人生の充実感といった要素に重点を置きます。一方で、客観的ウェルビーイングは、健康寿命や経済的指標などの外部的な基準で評価するものです。
1-1. ウェルビーイングを高めるPERMA理論の5つの要素
PERMA理論は、マーティン・セリグマン博士によって提唱された、ウェルビーイングを高めるための5つの要素を示したモデルです。この理論は、ポジティブ心理学の一環として、個人の幸福感や充実感を高めるための有効なフレームワークとされています。
- ポジティブな感情(Positive emotion):日常生活で素直に喜びや感謝の気持ちを表すことでストレス耐性が向上するほか、周囲との関係が良好になり、自己評価も向上する
- 関与(Engagement):何かに深く没頭することで自己成長を促進することで、より高い生活満足度を得る
- 他者との良好な関係(Relationship):友人や家族とのコミュニケーションを大切にすることや、新しい人との出会いを積極的に楽しむことで、精神的な安定感に寄与する
- 人生に意味や目的を見出すこと(Meaning):人生の目標が何かを意識することで、モチベーションが向上し、より充実した日々を送ることが可能になる
- 達成感(Accomplishment):目標を設定し、それを達成することで自己肯定感を育む
これら5つの要素を意識的に取り入れることで、個人や組織全体のウェルビーイングを向上させることが可能になります。
1-2. ギャラップ式ウェルビーイングの5つの要素
ギャラップ社は、ウェルビーイングを実現するために5つの要素が重要だと提唱しています。
- Career Well-Being(キャリアウェルビーイング):自身の仕事や日常の活動が価値あるものだと認識することで、モチベーションが高まり、全体的な充実感が得られる
- Social Well-Being(ソーシャルウェルビーイング):友人や家族、職場において良好な人間関係が構築されることで、孤独感が軽減され、精神的安定をもたらす
- Financial Well-Being(フィナンシャルウェルビーイング):経済的に安定することで、心の負担を軽減し、より自由な生活を提供する(※個人の価値観に応じて「豊かさ」の定義は異なるため、自分に合った経済的バランスを見つけることが求められる)
- Physical Well-Being(フィジカルウェルビーイング):身体的な健康は、精神的な健康とも深く結びついているため、運動や栄養、十分な睡眠によって健康でエネルギーに満ちた生活を確保する
- Community Well-Being(コミュニティウェルビーイング):地域社会に貢献したり、つながりを持つことで、自身が社会の一部であると実感し、満足感を得られる
これらの5つの要素は米国だけでなく、全世界の人々にとって重要であり、文化や宗教が異なっても普遍的な価値を持つとされています。ウェルビーイングを実現するためには、これら5つの要素をバランス良く考慮することが必要です。
参考:The Five Essential Elements of Well-Being|GALLUP
1-3. 世界幸福度ランキング
世界幸福度ランキングとは、国連のSDSN(持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)から毎年発表されている、国民の幸福感を測るためのひとつの指標です。このランキングは、ギャラップ社の調査データをもとにした各国の経済的な豊かさや健康状態、社会的な支援の充実度などを評価基準としています。
2025年に発表された「World Happiness Report(世界幸福度報告書)」では、日本の順位は55位でした。日本では、単身世帯の増加と高齢化によって、社会的に孤立している人の割合が突出しているとされています。
参考:World Happiness Report 2025
2. ウェルビーイング経営とは
ウェルビーイング経営とは、従業員や取引先、顧客や地域社会、株主など、自社にかかわる全関係者の以下の健康を目的とした経営手法です。
- 肉体的
- 精神的
- 社会的
なかには、従業員のみを対象として実施する企業もあります。
そもそもウェルビーイング(well-being)は、幸福や健康な状態を指す英語です。
ウェルビーイング経営における肉体的・精神的・社会的な健康に対する基礎的な考えは、世界保健機関(WHO)憲章における健康の定義に基づきます。
上記の憲章が示す健康とは、心身や社会的な状態がすべて満たされた状態にあることです。
ウェルビーイング経営が広がる背景には、少子高齢化による労働人口の減少や働き方改革による柔軟で多様な働き方への変化などがあります。
加えて、ダイバーシティの推進による多種多様な違いをもつ従業員の共存や国際目標であるSDGsへの意識の高まりなども背景の一つです。
2-1. ウェルビーイング経営と健康経営との違い
ウェルビーイング経営と健康経営との主な違いは、以下のとおりです。
ウェルビーイング経営 | 健康経営 | |
目的 | 全関係者の身体的・肉体的・社会的な健康 | 従業員の身体的・精神的な健康 |
視点 | 従業員視点 | 企業視点 |
方針や施策などの意思決定方式 | ボトムアップ型 | トップダウン型 |
一般的に健康経営の目的は、従業員の心身の健康ですが、近年は従業員だけでなく全関係者や社会全体を目的の対象とする企業も増えています。
企業視点で方針や実際の施策などを検討して、上層部の決定に下部組織が従う仕組みです。
一方、ウェルビーイング経営の目的には全関係者の心身の健康だけでなく、社会的な良好状態の維持もあります。
下部組織の意見を上層部が吸い上げて、従業員視点での方針や実際の施策が検討される仕組みです。
3. ウェルビーイング経営が推奨される背景
厚生労働省では、以下のような理由から就業面のウェルビーイングの向上を推奨しています。
ウェルビーイング経営を推奨する理由 |
|
ウェルビーイング経営での具体的な対応例 |
|
参考:人口減少・社会構造の変化の中で、ウェル・ビーイングの向上と生産性向上の好循環、多様な活躍に向けて|厚生労働省
従業員にとって健康な状態を目指せると、自然と生産性が向上し従業員の満足度も向上しやすいです。
また、主体的な選択がとれることで働きやすさにもつながり満足度が高まります。
こういった背景から、ウェルビーイング経営が推奨されています。
4. ウェルビーイング経営の取り組み方
ウェルビーイング経営を実現するためには、具体的に何をすればよいのでしょうか。まずは、従業員のメンタルヘルスや労働環境の改善が最優先です。例えば、過度な残業を削減するための労働時間の見直しや、有給休暇を気軽に取得できるような職場環境の整備、フレックスタイム制度の導入などが考えられます。
また、職場内での良好な人間関係を構築すれば、ストレスの低下や生産性の向上が期待できます。定期的なチームビルディング活動や、社内イベントの開催を通じて、異なる部署の従業員同士が顔を合わせる機会を増やすことで、コミュニケーションが活性化するでしょう。さらに、チャットツールや社内SNSを導入し、日常的な情報共有や感謝の気持ちを伝える文化を育てることも効果的です。
ほかにも、定期的にサーベイを実施し、従業員からフィードバックを受けることも重要です。従業員満足度調査(ES調査)の実施により、従業員が求める職場環境や課題を明確に把握できるでしょう。従業員の声をもとに改善を重ねることで、より良い職場環境を実現することが可能です。
これらの施策をスムーズに進めるには、システムの導入がおすすめです。例えば、従業員が自身の体調や気分を簡単に記録できるアプリや、改善施策の進捗を可視化するダッシュボードのようなツールがあります。こうしたシステムを活用することで、データに基づいた意思決定がおこないやすくなり、実効性のある改善を進められるでしょう。
すべての取り組みを継続的に評価し、改善を重ねることが重要です。定期的にフォローアップをおこない、必要に応じて施策を見直すことで、ウェルビーイング経営を実現し、従業員がより充実した職場環境で働くことができるようになります。
5. ウェルビーイング経営のメリット
ウェルビーイング経営の主なメリットは、以下の3つです。
- 従業員満足度の向上
- 生産性の向上
- 人材の確保
各メリットについて見ていきましょう。
5-1. 従業員満足度の向上
ウェルビーイング経営のメリットの一つは、従業員満足度の向上です。従業員が生き生きと働ける職場環境が整うため、従業員の会社に対する満足度が増すでしょう。
職場の雰囲気がよくなる結果、従業員のストレスが軽減したり愛社精神が増したりする効果も期待できます。
5-2. 生産性の向上
生産性の向上が期待できる点も、ウェルビーイング経営のメリットです。心身の健康を維持しつつ集中・安心して働ける環境が整うことにより、従業員のモチベーションがアップして生産性の向上が見込まれるでしょう。
また、社内コミュニケーションの活発化や良好な人間関係につながるツールの導入や、休憩室の設置なども効果的です。結果として、コミュニケーションがさらに円滑になり、生産性の向上につながります。
5-3. 人材の確保
ウェルビーイング経営のメリットには、人材の確保もあります。ウェルビーイング経営の実施は企業イメージの向上につながるため、採用活動においても有利に働くでしょう。
また、既存の従業員の満足度アップも期待できるため、優秀人材の確保や定着率のアップも期待できます。
6. ウェルビーイング経営の成功事例
ウェルビーイング経営における以下の2社の成功事例を紹介します。
- A社|コミュニケーション改革や職場環境の整備に取り組んだ事例
- B社|法定外福利厚生を充実させた事例
各社の成功事例を見ていきましょう。
6-1. A社|コミュニケーション改革や職場環境の整備に取り組んだ事例
A社のウェルビーイングの成功事例では、良好な人間関係の維持につながるコミュニケーション改革や働きやすい職場環境の整備に取り組みました。
新たなツールの導入により、同僚間で気軽に感謝を伝えられる環境が整い、テレワークでも相手の顔を見ながらやり取りできます。
そのほかに、従業員の健康や柔軟な働き方に配慮した職場環境作りにも力を入れた成功事例です。
結果、社内コミュニケーションが活性化して組織内の関係性が深まり、職場環境の向上により従業員満足度も向上しました。
6-2. B社|法定外福利厚生を充実させた事例
B社では、全従業員が充実した不安のない人生を送れるように、法定外福利厚生を充実させて以下のような取り組みを実施しています。
- 80ヶ所以上の社員寮の整備
- 事業所内託児施設の整備
- 会社バス運行
さらに保育所利用サービスの実施や人材育成サポートの充実、世界中の拠点で働く多様な人材に応じた快適な職場環境作りなども実施しました。
結果、従業員の満足度や定着率のアップ、企業イメージの向上に繋がっています。
7. ウェルビーイング経営を成功させるポイント
ウェルビーイング経営を成功させるポイントは、最初にPERMAモデルの以下の5要素における全関係者の幸せについて検討することです。
要素 | 日本語の意味 | 検討内容 |
Positive emotion | ポジティブな感情 | 嬉しい・楽しい・感謝・感動などの明るく前向きで肯定的な感情をもつ事柄について |
Engagement | 何かに対する没頭 | 時間を忘れて熱中する事柄について |
Relationship | 他者との関係性 | 良好な人間関係を築くことについて |
Meaning | 生きる意味や意義 |
|
Accomplishment | 達成感 | 目標の達成や資格の取得、昇進や昇給など達成感につながる事柄について |
PERMAモデルは、ポジティブ心理学において持続的な幸福を向上させるためのフレームワークとして知られています。
つまり、上記の5要素についての検討内容を実現したり向上したりすることで、自社が目指すウェルビーイング経営の成功の可能性が高まるでしょう。
8. ウェルビーイング経営について理解し働きやすい職場を目指そう
ウェルビーイング経営とは、全関係者の心身や社会的な健康を目的とする経営手法です。
全関係者の社会的な健康が目的に含まれる点や、従業員視点によるボトムアップ型の意思決定方式である点が、健康経営とは異なります。
また、従業員満足度・生産性・人材確保の向上が期待できる点が実施のメリットです。
本記事で紹介した成功事例や成功のポイントなども参考にしながら、ウェルビーイング経営について理解し働きやすい職場を目指してください。
企業価値を持続的に向上させるため、いま経営者はじめ多くの企業から注目されている「人的資本経営」。
今後より一層、人的資本への投資が必要になることが想定される一方で、人事担当者の皆さんの中には「そもそもなぜ人的資本経営が注目されているのか、その背景が知りたい」「人的資本投資でどんな効果が得られるのか知りたい」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向けて、当サイトでは「人的資本経営はなぜ経営者から注目を集めるのか?」というテーマで、人的資本経営が注目を集める理由を解説した資料を無料配布しています。
資料では、欧州欧米の動向や企業価値を高める観点から、人的資本経営が注目される理由を簡単に解説しています。
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