年末調整で通勤手当や交通費は給与に含まれる?非課税限度額や処理方法を解説
更新日: 2025.11.21 公開日: 2021.9.30 jinjer Blog 編集部

企業が支給するさまざまな手当は、給与所得の一部として支給額に応じた所得税が発生するのが一般的です。
しかし、通勤手当はケースによって課税対象となるかどうかが変わるため、年末調整する際には注意が必要です。今回は年末調整で通勤手当や交通費が課税対象となるのか、非課税となるのか、その確認方法について解説します。
目次
令和7年度の税制改正によって、令和7年12月の年末調整から変更が生じます。また、令和7年11月20日に施行された通勤手当の非課税限度額の改正によって、新たに年末調整の対応が必要となるケースもあります。
- 「令和7年分の年末調整で提出する書類は?」
- 「年収の壁の引き上げで年末調整はどう変わった?」
- 「通勤手当の非課税限度額の改正で年末調整が必要になる従業員は?」
このような疑問をお持ちの方に向けて、令和7年分の年末調整に必要な書類から対象者、計算の流れまで、年末調整に関する基本的な業務を図解でわかりやすくまとめた資料を無料で配布しております。
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1. 年末調整時に交通費や通勤手当は給与収入に含まれる?

年末調整における通勤手当や交通費の取り扱いは、従業員によって変動します。
通勤手当や交通費の支給額や、利用する通勤手段などが判断基準になるため、一律で含まれる、含まれないを決めることはできません。また、非課税限度額も公共交通機関を使った場合と、マイカーを使った場合とで変動します。
まとめて処理がしにくく、ミスや勘違いも発生しやすい業務ですが専用システムやソフトを活用して正しく処理しなければなりません。
1-1. 交通費と通勤手当の違い
交通費と通勤手当は似ていますが、税法上は区別されています。交通費とは、業務上の外出や出張など、仕事を遂行するために必要な移動にかかる費用を指します。多くの場合、従業員が立て替えて後日実費を精算するか、会社が直接支払う方法が取られます。業務に必要な交通費は実費弁償であり、所得税法上は原則として非課税で、金額の上限はありません。
通勤手当とは、従業員が自宅から勤務地まで通勤する際の費用を指します。支給方法は会社によって異なり、通勤経路を基に実費相当額を支給する場合や、一定額を定額支給する場合があります。税法上は給与の一部とみなされますが、所得税法が定める通常必要であると認められる範囲に限り非課税とされています。
2. 年末調整における通勤手当の取り扱い

年末調整では従業員にさまざまな申告書類を作成・提出してもらったうえで、会社側が所得税の計算をおこないます。とくに通勤手当は「基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書」に関係してきます。ここでは、年末調整における通勤手当の取り扱いについて詳しく紹介します。
参考:A2-4 給与所得者の基礎控除、配偶者(特別)控除、特定親族特別控除及び所得金額調整控除の申告|国税庁
2-1. 「基礎控除申告書」に通勤手当は含めない
「基礎控除申告書」は、主に基礎控除が適用できるかどうか、その金額を判定するために用いられます。そのため、毎月受け取る給与や賞与など、給与所得に該当する収入金額の見積もりを記載する必要があります。この際、交通費や通勤手当は含めません。
2-2. 「配偶者控除等申告書」に通勤手当は含めない
「配偶者控除等申告書」は、主に配偶者控除(または配偶者特別控除)が適用できるかどうか、その金額を判定するために使用されます。配偶者控除を判定するには、従業員本人の給与収入の見積額に加えて、その配偶者の給与収入の見積額も把握しなければなりません。
配偶者についても、従業員本人と同様、給与収入に交通費や通勤手当を含めず計算をおこないます。そのほか、扶養控除等の所得見積りなどについても、原則として交通費や通勤手当は含めずに計算して問題ありません。
2-3. 非課税限度額を超えると給与所得に含める必要がある
先ほど、年末調整の書類を作成する際に、交通費や通勤手当は給与収入に含めないと述べました。しかし、通勤手当の非課税限度額(※詳しくは3章で説明)を超える部分については給与と同等に扱われるため含めなければなりません。
年末調整の書類に、非課税限度額を超えた通勤手当の金額を含めずに見積額が記載されていた場合、基礎控除や配偶者控除などが間違えて適用され、正しく所得税を計算できない可能性があるので注意が必要です。なお、令和7年度税制改正により、基礎控除の金額や扶養控除等の所得要件について見直しがおこなわれた点にも留意しましょう。
参考:令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について|国税庁
3. 通勤手当は交通手段ごとに非課税限度額が定められている

通勤手当は非課税限度額が決まっています。上限額は電車・バス、自家用車、自転車など交通手段によって異なります。
3-1. 公共交通機関で通勤する場合
電車やバスなど公共交通機関で通勤する場合、1ヵ月あたりの非課税限度額は15万円です。例えば、公共交通機関を利用する場合、月額16万円の定期代支給があった場合、15万円を超えた1万円が課税対象として扱われます。
ただし、どのような経路を使っても15万円以内であれば非課税というわけではありません。非課税となるのは、もっとも経済的・合理的な経路および方法で通勤した場合に限られます。
つまり、運賃、所要時間、距離、乗り換え回数など複数の要素を総合的に判断し、費用が安く効率的で無駄のない通勤に対する手当でなければ、通常の給与と同様に課税される可能性があります。例えば、新幹線を利用して通勤する場合、特急料金は非課税になりますが、グリーン車利用料金は課税対象となるので留意が必要です。
3-2. 車通勤の場合
マイカー通勤などの場合、片道の通勤距離によって非課税限度額が決まっています。
また、企業が月極駐車場代を支給する場合、その駐車場代は「給与」とされ課税対象です。一方、高速道路や有料道路を利用した際の通行料金は「通勤手当」として扱われ、通常の通勤費に合算した金額が非課税限度額を超えなければ所得税はかかりません。
| 通勤距離(片道) |
1ヵ月あたりの非課税限度額 (令和7年4月1日〜) |
1ヵ月あたりの非課税限度額 (〜令和7年3月31日) |
| 2㎞未満 | 全額非課税 | 全額非課税 |
| 2㎞~10㎞未満 | 4,200円 | 4,200円 |
| 10㎞~15㎞未満 | 7,300円 | 7,100円 |
| 15㎞~25㎞未満 | 13,500円 | 12,900円 |
| 25㎞~35㎞未満 | 19,700円 | 18,700円 |
| 35㎞~45㎞未満 | 25,900円 | 24,400円 |
| 45㎞~55㎞未満 | 32,300円 | 28,000円 |
| 55㎞以上 | 38,700円 | 31,600円 |
車通勤の通勤手当は主に次の2つの方法で算出されます。
- 「片道の通勤距離」×「距離単価」×「勤務日数」×2
- 「往復の通勤距離」×「勤務日数」×「ガソリン単価」÷「平均燃費」
通勤距離は従業員本人の申告、または、インターネット上の計測サイトを利用するケースがほとんどです。ガソリン単価は経済産業省が発表している小物物価統計調査(自動車ガソリン)、平均燃費は国土交通省の「自動車燃費一覧」などを参考に決めるとよいでしょう。
参考:No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当
参考:自動車燃費一覧(令和7年3月)|国土交通省
令和7年4月から通勤手当の非課税限度額が引き上げに
所得税法施行令の一部改正により、令和7年4月1日以降の通勤手当の非課税限度額が引き上げられました。
令和7年4月1日以降に支給した通勤手当が対象です。
この改正は令和7年11月19日に公布、令和7年11月20日に施行されましたが、令和7年4月1日に遡って適用されます。
そのため、4月1日~11月19日までに支給した通勤手当の中に「今回の改正で新たに非課税となる金額」が含まれる場合は年末調整で精算しましょう。
「今回の改正で新たに非課税となる金額」がない従業員については、年末調整の再計算は不要です。
このように、令和7年分の年末調整は変更点が多く、最新情報のキャッチアップに苦慮している担当者の方も多いでしょう。そのような方に向けて、今回の通勤手当の非課税限度額の引き上げが年末調整にどのような影響を与えるかを始め、直近の税制改正の内容も踏まえて令和7年分の年末調整のやり方を網羅的に解説したお役立ち資料を無料で配布中です。今年の年末調整の変更点を把握しきれているか不安な方は、ぜひこちらから資料をダウンロードして業務にお役立てください。
3-3. タクシーで通勤する場合
タクシーで通勤する場合、条件を満たした場合に限り1ヵ月あたり15万円まで非課税になります。
その条件は次の通りです。
- タクシー利用の通勤手当の支給額が実費相当額と認められる
- タクシーの利用がもっとも経済的で合理性が認められる
例えば、出勤・退勤が深夜・早朝であり、公共交通機関などが利用できないなど他の交通手段を持たない場合などは、タクシーで通勤しても非課税限度額(15万円)以内であれば通勤手当として認められます。
3-4. 自転車通勤の場合
自転車で通勤する場合も、車通勤と同様に距離に応じて非課税限度額が決まっています。非課税限度額は車通勤と同じです。
駐輪場代は企業が負担する場合、距離に応じた非課税限度額の範囲内であれば非課税です。
3-5. 徒歩通勤の場合
徒歩で通勤する場合の通勤手当は全額課税対象となります。
徒歩通勤の場合、移動距離に関係なく費用が発生しないので、通勤手当が支給されている場合は全額課税対象です。そのため、徒歩通勤は通勤手当の支給対象から除外している企業もあります。
しかし、中には勤務先から半径2km以内など近隣地区に居住する従業員に対して「近隣手当」「近距離手当」といった名称の手当を支給している企業もあるので、その場合は手当の取り扱いに注意しましょう。
3-6. 交通機関とマイカーを併用する場合はどうなる?
最寄り駅まではマイカー、その後は電車を利用して通勤している従業員もいるかもしれません。この場合、下記の1と2を合算した額が非課税限度額(1ヵ月につき15万円が上限)となります。
- 公共交通機関(電車やバスなど)を利用する際の1ヵ月分の通勤定期券などの金額
- 自家用車・自転車通勤の片道距離による1ヵ月あたりの非課税限度額
例えば、1ヵ月あたり公共交通機関の手当が14万円、マイカーの手当(片道35km以上45km未満)が2万円の場合を見てみましょう。
それぞれでみれば非課税限度額内に収まっています。しかし、合算すると、1ヵ月につき16万円となるので、1万円分が課税対象です。
4. 年末調整における通勤手当の注意点やポイント

ここでは、年末調整における通勤手当の注意点やポイントについて詳しく紹介します。
4-1. 非課税限度額を超えると所得控除(扶養控除等)にも影響する可能性がある
従業員のなかには税法上の扶養内で働いているため、年収を調整している従業員もいるかもしれません。主に学生バイトやパートとして働く主婦などが該当しますが、通勤手当が非課税限度額を超えると、超過分は課税対象(年収に加算される)となるため、意図せず配偶者控除や扶養控除などが受けられなくなる可能性があります。
とくに配偶者控除の場合、配偶者だけでなく、納税者本人の合計所得金額も条件に含まれます。納税者本人の合計所得金額が900万円以下なのか、900万円を超えるかで配偶者控除の上限額は変わってくるので、通勤手当の非課税限度額にも注意して年末調整をおこないましょう。
関連記事:年収201万の壁をわかりやすく!配偶者特別控除とは?配偶者控除との違いも解説
4-2. 社会保険料の計算には通勤手当を全額含める必要がある
社会保険料の計算対象に含まれるものは、名称問わず労働の対価として使用者が従業員に支給するすべてのものです。そのため、たとえ所得税上は非課税限度額内に収まっている通勤手当も、全額社会保険料の計算に含めなければなりません。ただし、出張旅費や宿泊費などのように、実費弁償と考えられるものは計算に含めないので注意しましょう。
参考:標準報酬月額の対象となる報酬とは何ですか。|日本年金機構
参考:雇用保険料の対象となる賃金|厚生労働省
関連記事:年末調整は結婚したら何が変わる?結婚後の書き方や結婚予定がある場合の対応を解説
5. 通勤手当を年末調整に含めるか否かは通勤手段によって異なる

年末調整において基本的に通勤手当や交通費は給与収入に含めません。しかし、通勤手当については通勤手段によって非課税限度額が定められており、それを超過した分は課税対象です。
車や自転車などは通勤距離によって非課税限度額が異なり、公共交通機関(電車・バスなど)はもっとも経済的かつ合理的な経路である場合のみ1ヵ月あたり15万円まで非課税となります。
タクシー通勤も利用時が早朝・深夜など他の交通機関が利用できない場合などの条件を満たしていれば1ヵ月あたり15万円まで非課税です。
徒歩通勤は全額課税対象となるため、通勤手当制度の対象外としている企業もあります。
通勤手当が非課税限度額を超えてしまうと希望通りの所得控除が受けられないケースもあるため注意が必要です。
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